ウイルス
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55 巻, 1 号
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総説
  • 横田 隆徳
    2005 年 55 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    ジャーナル フリー
     RNA interference(RNAi)は2本鎖RNAiによって誘導される配列特異的な遺伝子発現抑制である.その中間産物であるShort interfering RNA(siRNA)は哺乳動物細胞においても,インターフェロン反応などの副反応なく目的の遺伝子を切断でき,治験段階に入っているアンチセンス核酸やライボザイムより,有効性,配列特異性いずれもはるかに優れている.その核酸医薬として臨床応用は特にウイルス性疾患において進行している.OFF-Target効果やデリバリー方法などまだまだ解決すべき問題点も多いが,siRNAの高い可能性から種々の方面において医療分野への応用が急速に進展していくことは間違いないものと思われる.
  • 近藤 一博
    2005 年 55 巻 1 号 p. 9-17
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    ジャーナル フリー
     疲労は,痛みや眠気と並んで非常に重要な生体シグナルであるが,疲労の原因や疲労を感じる機序は,全くと言っていいほど不明である.また,疲労・ストレスによるヘルペスウイルスの再活性化は,良く知られた現象であるが,これまでは短期的なストレスと再活性化の関係が研究されているだけであった.今回我々は,過労死などの原因もなる中・長期的疲労がhuman herpesvirus 6(HHV-6)の再活性化を誘導することを見出した.これは,HHV-6の再活性化誘導因子の解明に役立つだけでなく,疲労の客観的な定量や疲労の機序の研究にも役立つものと考えられた.
     また,HHV-6の潜伏感染特異的遺伝子の研究によって,HHV-6には潜伏感染と再活性化の間に,潜伏感染に特異的遺伝子および蛋白の発現亢進が見られるにもかかわらず,ウイルス産生の見られない中間状態が存在することを見出した.この中間状態に発現する潜伏感染蛋白に対する血清抗体は,病的な疲労状態である慢性疲労症候群患者の約4割で検出された.これらの結果は,HHV-6が疲労という生物学的現象に深く関わるウイルスであることを示していると考えられる.
  • 野村 隆士
    2005 年 55 巻 1 号 p. 19-26
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    ジャーナル フリー
     カベオラがエンドサイトーシスを行う膜ドメインであるかどうかは,未だに議論されている問題である.しかし,Simian virus 40(SV40)の細胞内侵入のリアルタイムイメージング解析により,ウイルス侵入に利用されるカベオラエンドサイトーシスの詳細が明らかになってきた.SV40を内包したカベオラは,ダイナミン依存的に細胞膜からbuddingする.その後,SV40はカベオソームへ移動し,やがてERへと運ばれる.これに加えて,ヒトコロナウイルス-229Eも細胞内侵入にカベオラを利用することがわかってきた.本稿では,現在明らかにつつあるカベオラエンドサイトーシスを紹介し,ウイルス侵入との関わり合いを論じたいと思う.
  • 宮沢 孝幸
    2005 年 55 巻 1 号 p. 27-34
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    ジャーナル フリー
     レンチウイルス属には霊長類レンチウイルス,有蹄類レンチウイルスおよびネコ免疫不全ウイルス(FIV)がある.霊長類レンチウイルスは,CD4分子をプライマリーレセプターに,CXCR4などのケモカインレセプターをコレセプターに使用している.近年,FIVのレセプター分子がクローニングされ,プライマリーレセプターにCD134分子を,コレセプターにCXCR4分子を使用することがわかった.CD134は,活性化CD4陽性細胞に発現する副刺激分子であり,FIVはHIVの標的細胞とほぼ同様の細胞に感染し,免疫不全を誘導することがわかった.またFIVの野外分離株は,ヒトCXCR4を使用できたが,ヒトCD134は使用できず,FIVの宿主特異性をレセプターレベルで規定しているのは,プライマリーレセプターであることがわかった.さらに,FIVの一部の実験室株は,CXCR4のみを介してCD134非依存的にヒト細胞に感染することが可能であった.霊長類レンチウイルスも一部の株はCD4非依存的にケモカインレセプターのみを介して感染することから,自然界では宿主の壁を飛び越えて感染する場合,プライマリーレセプター非依存の変異株が主役である可能性が考えられる.本総説ではレンチウイルスの進化とレセプター特異性について概説する.
特集1
  • 高島 郁夫, 早坂 大輔, 後藤 明子, 好井 健太朗, 苅和 宏明
    2005 年 55 巻 1 号 p. 35-44
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    ジャーナル フリー
     北海道と極東ロシアのダニ媒介性脳炎ウイルスの系統解析の結果,北海道株は極東地区において数百年前に出現したと推定された.イルクーツク地区のダニ媒介性脳炎ウイルスはシベリア亜型と同定された.ダニ媒介性脳炎ウイルスのBHK細胞適応変異株はマウスにおける神経侵襲性毒力が低下していた.変異株はエンベロープ蛋白に1ヶ所のアミノ酸置換があり,荷電が陽性に変化する変異であった.変異株はウイルス血症と脾臓でのウイルス価が親株に比べ低下していた.ダニ媒介性脳炎ウイルスの感染性cDNAクローンの作製に成功し,神経毒力の解析を行った.エンベロープ蛋白の1ヶ所とNs5の2ケ所のアミノ酸変異が相乗的に神経毒力の低下に関与していた.
  • 堀内 基広
    2005 年 55 巻 1 号 p. 45-53
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    ジャーナル フリー
     1996年に変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の存在が報告されてから,プリオン病は人獣共通感染症と認識されるようになった.2001年には我が国でもBSE感染牛が見つかり,大きな社会問題となった.欧州におけるBSE発生は減少傾向にあり,英国におけるvCJDの発生も減少傾向が認められるが,欧州以外の国でのBSEの発生,輸血によるvCJDの伝播,日本におけるvCJD患者の発生など,危惧していたことが次々に現実となった.BSEの感染拡大防止と撲滅には,BSEスクリーニング/サーベイランス,特定危険部位の除去,飼料規制の継続が必要である.また,輸血用血液,医薬品原料などのプリオン汚染を摘発して排除するためには,高感度プリオン検出技術の開発が望まれる.さらに,人プリオン病の治療法確立も重要な課題である.
  • 八田 正人, 河岡 義裕
    2005 年 55 巻 1 号 p. 55-61
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    ジャーナル フリー
     2003年12月以来,高病原性鳥H5N1インフルエンザウイルスがアジア各国で流行し,2005年3月現在,カンボジア,ベトナムおよびタイで,合わせて74名もの感染が確認され,そのうち49名が亡くなった.我々は,この流行を引き起こしている高病原性鳥H5N1インフルエンザウイルスについて,マウス,カモおよびフェレットを用いて病原性を解析した.ヒトから分離されたウイルスはマウスに対して強毒で,致死的な全身感染を引き起こした.また,ヒト由来株の中にはフェレットに対しても強毒で,全身感染をひき起こすウイルスが存在した.一方,鳥由来株は,カモに対して強い病原性を示す株もあったがマウスやフェレットに対しては,弱毒であった.また,PB2タンパク質の627番目のアミノ酸にLysを持つヒト由来株は,Gluを持つヒト由来株よりもマウスおよびフェッレトに対して強毒であった.このことから,PB2タンパク質の627番目のアミノ酸がLysであることは,哺乳動物で効率よく増殖するために重要な働きをしていることが示唆された.
  • 倉根 一郎
    2005 年 55 巻 1 号 p. 63-68
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    ジャーナル フリー
     ウエストナイルウイルスは自然宿主であるトリと蚊の間で感染環が形成され維持されている.米国においては約200種のトリがウエストナイルウイルスに感染し,さらに,40種以上の蚊からウイルスが分離されている.このように,多種の蚊からウイルスが検出されることは,他のフラビウイルスに比し,ウエストナイルウイルスがより多くの種類の蚊によって媒介され,さらに多種類の動物に感染しうる性質を有したウイルスであること示唆する.ヒトにおいてはウエストナイルウイルス感染者の約20%が症状を示すと考えられている.急性熱性疾患であるウエストナイル熱が多数を占めるが,髄膜炎,脳炎(髄膜脳炎),さらに近年脊髄,末梢神経症状として弛緩性麻痺,多発性神経炎の報告もなされている.このようにウエストナイルウイルスは,ヒトにおいては多様な症状を引き起こす性質を有するウイルスであるといえる.近年,アメリカ大陸やロシアにおいて侵淫地域が拡大している.日本への侵入も危惧されており,今後一層注目すべきウイルスといえる.
特集2
  • 馬場 昌範
    2005 年 55 巻 1 号 p. 69-75
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    ジャーナル フリー
     抗ウイルス薬の研究は,常にウイルス学の発展とともに歩んできた.初期の抗ウイルス薬はウイルスの増殖を抑えるとともに,宿主細胞に対しても大きな影響を与える「ウイルス非特異的阻害薬」であったが,抗ヘルペス薬アシクロビルの発見は,宿主細胞にほとんど影響を与えることのない「ウイルス特異的阻害薬」の開発が可能であることを証明した.また,AIDSの世界的な蔓延は,抗ウイルス薬の開発を加速させ,逆転写酵素阻害薬の発見を契機として,現在では作用機序の異なる複数の抗HIV-1薬を用いた併用療法が確立され,AIDSは不治の病から制御可能な病へと大きな変貌を遂げた.また,インフルエンザなど,従来はワクチンでのみ制御可能と考えられた急性ウイルス感染症に対しても,有効な薬剤が開発されるに至っている.一方,抗ウイルス薬開発の中では,ソリブジン事件のような重大な薬害も生じてしまった.このように,抗ウイルス薬の現状と将来を議論するためには,抗ウイルス化学療法がこれまで歩んできた道をもう一度振り返る必要があると思われる.
  • 堤 裕幸
    2005 年 55 巻 1 号 p. 77-84
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    ジャーナル フリー
     RSウイルス(RSV)は,6ヶ月未満の乳児の下気道感染症の最も頻度の高い,普遍的な病原ウイルスとして知られる.その予防のためのワクチン開発は,副反応などのために成功していない.抗ウイルス薬としては,リバビリンが吸入で使用され,ある程度の抗ウイルス効果が認められたが,対症療法の必要性や,入院日数などへの効果は不明であった.そのため,RSV下気道炎に対しては対症療法が主に行われてきた.近年,抗RSVヒト化モノクローナル抗体が開発され,未熟児や心肺に基礎疾患を有するハイリスク乳幼児に予防的に投与され,入院率の減少という効果が確認された.欧米に続いて本邦でも臨床使用が開始された.抗ウイルス薬については,その後も様々な物資の開発が進められているが,未だ臨床使用されたものは無い.
  • 杉浦 亙
    2005 年 55 巻 1 号 p. 85-94
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    ジャーナル フリー
     HIV-1感染症は1980年代初頭に男性同性愛者の間で広がり,その後急速に感染が拡大し,今日世界には4000万人の感染者がいると推測されている.HIV/AIDSの薬剤治療の歴史は1985年のzidovudineの登場に始まる.以降今日まで抗HIV-1薬剤開発は積極的に行われており,平成17年現在3クラス17種類の抗HIV-1薬剤が認可され使用されている.ここでは抗HIV-1薬剤の開発史,治療薬の現状と問題点,そして今後の展望について簡単にまとめてみた.
  • 栄鶴 義人
    2005 年 55 巻 1 号 p. 95-104
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    ジャーナル フリー
     現在使用されている抗ヘルペスウイルス薬は,最終的な標的がウイルスDNA polymeraseであり,長期に渡って使用すると必然的に薬剤耐性ウイルスを生じ,しかも,しばしば交差耐性を示す.更に,現在の抗ヘルペスウイルス薬は,経口投与による吸収が悪く,何らかの副作用がある場合が多い.従って,作用機序を異にする新たな薬剤が求められている.このような新たな薬剤として,helicase/primase複合体,terminase複合体,portal protein,さらに,サイトメガロウイルス(HCMV)のUL97 protein kinaseなどを標的とする抗ヘルペスウイルス化合物が見出されている.このような化合物が臨床応用できるようになると,多剤併用療法などヘルペスウイルス感染症の治療は全く新しい局面を迎えることになる.
  • 渡士 幸一, 下遠野 邦忠
    2005 年 55 巻 1 号 p. 105-110
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    ジャーナル フリー
     現在C型肝炎ウイルスに対する治療としては主にインターフェロン(IFN)の単独投与あるいはIFNとリバビリンの併用療法が適用されている.しかしこれらによる著効率は平均して3-6割というのが実状であり,これらに代わる抗HCV療法の開発が求められている.近年HCVが培養細胞内で自律的に複製増殖するHCVサブゲノムレプリコンシステムが確立され,培養細胞で抗HCV剤候補をスクリーニングすることが可能となった.我々はこの系を用いてさまざまな化合物のHCVゲノム複製への影響を調べることにより,免疫抑制剤シクロスポリン(CsA)が少なくとも培養細胞の系においてHCV複製を抑制することを見い出した.このCsAの抗HCV効果には免疫抑制作用は必要ないことがわかった.さらにCsAの抗HCV作用のメカニズムを解析することによって,CsAの細胞性標的因子の一つであるシクロフィリン(CyP)BがHCVのゲノム複製に重要な役割を果たすことが示唆された.このように抗HCV剤候補の探索は未知のHCV複製機構を解明する手がかりとなるかもしれない.
  • 菅谷 憲夫
    2005 年 55 巻 1 号 p. 111-114
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    ジャーナル フリー
     最近の数年間で,インフルエンザは,外来やベッドサイドで迅速診断を実施し,抗ウイルス剤で治療する疾患となった.日本では,現在,ノイラミニダーゼ阻害薬のオセルタミビル(商品名タミフル),ザナミビル(商品名リレンザ),およびアマンタジン(商品名シンメトレル)が,インフルエンザ治療に使用されている.世界的に見ると,これだけ広くノイラミニダーゼ阻害薬による治療が普及している国はないが,それだけに,今後は,ノイラミニダーゼ阻害薬の副作用と耐性発現の注意深い監視が肝要である.
Special Issue 3
  • 中島 員洋, 栗田 潤
    2005 年 55 巻 1 号 p. 115-125
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    ジャーナル フリー
     マダイイリドウイルス病は,1990年に四国のマダイ養殖場で最初に報告された.1991年以降も西日本の養殖場でマダイのみならず多くの海産養殖魚に被害を及ぼしている.病魚は運動が不活発となり,極度の貧血症状,鰓の点状出血及び脾臓の肥大を呈する.原因ウイルスはイリドウイルス科に属し,red sea bream iridovirus(RSIV)と命名されている.RSIVのゲノムは,直鎖状2本鎖DNAであるが,他のイリドウイルスと同様,円環的置換が許され,末端が重複していると考えられる.円環状となる遺伝子地図の長さは112,415bpである.RSIV感染魚の迅速診断法として,単クローン抗体を用いた間接蛍光抗体法及びPCR法が広く使用されている.また,本病の防除法として,ホルマリン不活化ワクチンが開発され,実用化されるに至っている.
  • 長崎 慶三, 高尾 祥丈, 白井 葉子, 水本 祐之, 外丸 裕司
    2005 年 55 巻 1 号 p. 127-132
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    ジャーナル フリー
     海洋・湖沼等の天然水圏環境中には夥しい量のウイルス粒子が存在する.それらは個々に異なる生態学的機能を持ち,水圏生態系の維持・変動に関与していると考えられる.筆者らの研究グループでは,微細藻類を中心とした微小プランクトンに感染するウイルスを対象とした研究を推進している.水塊の色相の変化を伴う赤潮という巨視的な生物学的イベントは,プランクトンの大量増殖により引き起こされる.筆者らは,現場調査および分子解析により,赤潮個体群の挙動および赤潮の終息を左右する要因としてウイルスが重要な役割を果たしていることを解明した.また,ウイルスとプランクトンの関係はきわめて複雑であり(すなわち,捕食者と被食者のように「出会えば必ず片方が勝つ」という関係ではなく),あるウイルスにおいてはカプシドタンパク質の局所的な分子構造の差異がエコタイプ間での異なる宿主特異性を決定している可能性を示した.さらに,各ウイルスの性状を詳細に解析する過程で,水圏ウイルスが遺伝資源としても高い価値をもつ可能性を抽出した.水圏生態系の仕組みに関する理解をさらに深化する上で,水圏環境中に存在するウイルスに関する研究の強化が望まれる.
  • 大嶋 俊一郎, 今城 雅之, 平山 健史
    2005 年 55 巻 1 号 p. 133-144
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    ジャーナル フリー
     マリンビルナウイルス(MABV)は,直径約60nmのエンベロープを持たない2分節2本鎖のRNAウイルスである.本ウイルスの分節AにコードされているNH2-preVP2-NS-VP3-COOH前駆体ポリプロテインは,NSプロテアーゼ活性により切断されVP2およびVP3になることが知られている.
     我々は,感染後MABV粒子を産生する感受性のCHSE-214細胞,RSBK-2細胞と粒子を産生しない非感受性のFHM細胞,EPC細胞を用いてMABVの感染機構と細胞内動態について検討している.
     MABVは細胞表面の250kDaのレセプターを介してエンドサイトーシスにより細胞内に侵入することが明らかになった.感染4時間後にはVP2,NSならびにVP3は細胞質画分に検出され,さらに,VP3はCHSE-214ならびにRSBK-2細胞内でプロセシングを受け3つに分断されることを明らかにした.このVP3のN末端側のタンパク質は,ウイルス粒子構築時に重要な役割を果たしている可能性が示唆された.今後,この4つの魚類細胞を用いた感染実験系により,さらに詳細なMABVの感染機構と細胞内動態が明らかになるものと期待される.
  • 飯田 貴次, 佐野 元彦
    2005 年 55 巻 1 号 p. 145-151
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    ジャーナル フリー
     コイヘルペスウイルス(KHV)病は1990年代後半にその存在が知られるようになってまたたく間に世界に拡大した.日本では2003年10月に初めて発生し,その後,養殖コイだけではなく天然河川・湖沼のコイにも大きな被害を出し,5月20日現在42都道府県でKHV病の発生が報告されている.KHVはコイだけに感染し,近縁のキンギョでさえも感染しない.感染したコイは元気なく泳ぎ,外観症状としては目が落ち込み,鰓の肥厚・壊死が特徴的で,内臓には顕著な病変はみられない.KHV病の発生好適水温は18~23℃で,水温が13℃以下あるいは28℃を超えると死亡はみられなくなる.30℃以上での飼育で治癒するものの,キャリヤーとなる可能性がある.低水温では免疫を獲得することができず,水温が上昇すると再発する.ウイルスの分離が困難であることから,診断は疫学情報,症状に加え,PCR法によってKHV遺伝子を検出することで行われている.KHVに汚染されている地域での養殖の再開にはワクチンの開発が必須であり,現在研究が進められている.
平成15年杉浦賞論文
  • 櫻木 淳一
    2005 年 55 巻 1 号 p. 153-160
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    ジャーナル フリー
     霊長類レンチウイルスを含むレトロウイルスのゲノムRNAは成熟ウイルス粒子内で常に二量体化していることは古くから知られていた.このことはウイルスゲノム複製時の補償や,相同組換えによる遺伝的多様性の獲得を通じてウイルスの生残に有利に働くと解釈されてきた.しかしこれらのことは,ウイルス粒子が自己の小ささを犠牲にしてまで同一情報を複数持っていなければならないことの十分な回答とはなり得ていない.筆者は自ら構築した実験系を用いて簡潔かつ明瞭にヒト免疫不全ウイルスゲノム上の二量体化シグナルのマッピングを行い,ゲノムパッケージングシグナルとの機能相関を解析した.その結果はゲノム二量体化がゲノムパッケージングという複数段階からなる反応の必須の一ステップであることを強く示唆するものであった.
トピックス
  • 清水 博之, 吉田 弘, 宮村 達男
    2005 年 55 巻 1 号 p. 161-178
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    ジャーナル フリー
     本稿は,WHO global action plan for laboratory containment of wild polioviruses (Second edition) の全訳である.天然痘やSARSコロナウイルスの例を挙げるまでもなく,実験室に由来する感染症流行の社会的リスクは,きわめて現実的な問題である.野生株ポリオウイルス根絶が間近となり,ポリオワクチン接種停止について議論されている現在,野生株ポリオウイルスの実験室封じ込めについても具体的な行動が求められている.日本語訳作成の主たる目的のひとつは,必ずしも周知されていないポリオウイルス野生株の定義や実験室封じ込めの基準に関する現時点におけるWHO指針を明確にすることにある.同時にまた,感染症以外の広範な施設がポリオウイルスを保有する可能性について,担当者に理解していただくための基本的資料を提供することを目的としている.
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