ウイルス
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56 巻, 2 号
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総説
  • 佐藤 昌直, 渡辺 雄一郎
    2006 年 56 巻 2 号 p. 155-163
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/04/20
    ジャーナル フリー
     植物ウイルスの感染は,複製あるいは細胞間移行の際にウイルスタンパク質が利用する宿主因子との相互作用が可能か否かでまず決定される.たとえウイルス感染が成立しても,その後に宿主が防御応答を起こすと感染の継続あるいは拡大は阻止される.ウイルス増殖を巡って植物がどのようにしてウイルス感染と関わりあっているか,宿主因子からゲノムまで発展させて考えたい.また,防御応答において機能する宿主因子解析から,植物の病原体応答機構と動物の自然免疫機構との類似性も示唆されており,今後,領域をこえた研究交流を期待したい.
  • 田口 文広
    2006 年 56 巻 2 号 p. 165-171
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/04/20
    ジャーナル フリー
     コロナウイルスにはヒト,家畜,実験動物など様々な動物に感染するウイルスが知られている.その中で,マウス肝炎ウイルス(MHV)はマウスに急性致死性肝炎,脱随性脳脊髄炎などを引き起こし,ヒトの疾患モデルとして研究が進んでいる.一方,SARSコロナウイルス(SARS-CoV)は重症急性呼吸器症候群(SARS)の病原体であり,2003年に発見された新しいウイルスだが,医学的インパクトの強さから発見以来精力的に研究が進められ,現在最も解析が進んでいるコロナウイルスの一つである.両ウイルスの受容体は同定され,ウイルスの受容体結合や細胞侵入機構について研究が進められている.最近の研究から,これらのウイルスは異なる経路で細胞内に侵入することが分かってきた.本稿では,両ウイルスの細胞侵入機構について概説し,細胞侵入機構のウイルスの病原性発現への関与について紹介する.
  • 菊田 英明
    2006 年 56 巻 2 号 p. 173-181
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/04/20
    ジャーナル フリー
     ヒト・メタニューモウイルス(human metapneumovirus: hMPV)は,2001年に発見されたウイルスで,パラミクソウイルス科,ニューモウイルス亜科,メタニューモウイルス属に分類された.hMPVの遺伝子は,8個の遺伝子を持ち,N-P-M-F-M2-SH-G-Lの遺伝子配列を示す.hMPVのアミノ酸配列は,トリに感染するトリ・ニューモウイルスに最も類似している.ヒトのウイルスの中で遺伝子が一番類似しているウイルスは,臨床症状も似ているRSウイルスである.hMPVは,2つのグループ,さらにそれぞれ2つのサブグループに分れる.ウイルス表面には,F, G, SH蛋白が存在する.血清中に存在するhMPVに対する主な抗体は,F蛋白に対する抗体で,中和活性を持ち,2つのグループ間に交差反応性がある.ウイルス性の呼吸器感染症の中で小児では5~10%,成人では2~4%は,hMPVが原因と推測されている.乳幼児で喘鳴をきたす急性呼吸器感染症の原因ウイルスであることが多く,乳幼児,高齢者,免疫不全状態の患者では重症化の危険がある.本邦における流行のピークは,春である.再感染を防ぐための十分な終生免疫が一回の感染では得られず,幼小児期においても何度も再感染を受け症状を呈する.診断は,現在RT-PCRによるhMPV RNAの検出が最も感度が高い検査法である.
  • 河本 聡志, 谷口 孝喜
    2006 年 56 巻 2 号 p. 183-192
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/04/20
    ジャーナル フリー
     ロタウイルスは,11本の2本鎖RNA(dsRNA)分節をゲノムとして保有するウイルスであり,最も主要な下痢症ウイルスである.リバースジェネティクス系はウイルスゲノムへ任意の変異を導入することで,ウイルスを自由に設計し作製することができ,遺伝子の機能や病原性を理解する上で最も強力な手法である.しかしながら,ロタウイルスを含む10~12本のdsRNA分節をゲノムとするレオウイルス科では,そのゲノム構造の複雑さから開発は長い間,困難を極めていた.しかし,ごく最近,我々は効率がまだ不十分ではあるが,ロタウイルスにおけるリバースジェネティクス系の開発に成功した.ここでは,前半部分で,開発の基礎となったロタウイルスの増殖様式に関する最近の知見をまとめ,後半部分では,分節dsRNAウイルスにおけるリバースジェネティクス系開発の背景と経緯について,ロタウイルスの系も含めてまとめてみたい.
  • 日野 茂男
    2006 年 56 巻 2 号 p. 193-199
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/04/20
    ジャーナル フリー
     バイオハザード対策の要は,機械や設備ではなく,作業者の教育と,作業者が規則を遵守する態度である.これがなければ,器具や機械,設備をどんなに備えても意味がない.器具や機械を導入するときには,効果のあるものを選択し,適切な管理・維持する必要がある.バイオハザード対策用クラスIIキャビネットは安全機器である.使用期間を通じて安全性を保証なければ意味がない.機械である以上,正常に動いていることを確認する作業は,是非とも必要である.正しい計器を,正しく使って,作業室の安全を確保するよう勤めたいものである.組換えDNA実験に対して最近公布された法律は,適当な変更を加えて後,病原体等の取扱いに対しても適用すべきである.
特集
  • 岩切 大, Mrinal Samanta, 高田 賢蔵
    2006 年 56 巻 2 号 p. 201-208
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/04/20
    ジャーナル フリー
     EBウイルス(EBV)は様々な癌との関連が知られているDNA腫瘍ウイルスである.癌細胞内においてEBVは潜伏感染を維持しており,発現するウイルス遺伝子の種類により潜伏感染様式は1型から3型に分けられる.EBVはBリンパ球をトランスフォーム(不死化)し,すべての潜伏感染遺伝子が発現する3型感染のリンパ芽球様細胞株(LCL)とする活性をもつが,その機構は免疫不全状態での日和見リンパ腫などの発生のモデルとも考えられている.一方1型や2型の癌では遺伝子発現が限定されるが,これまでの研究により核抗原EBNA1,膜蛋白質LMP1やLMP2Aなどの発癌に関わる機能が明らかとされ,また我々は小RNAであるEBERが発癌において重要な役割を果たしていることを明らかにした.本稿では最近までに明らかにされているEBVによる発癌の分子機構について概観する.
  • 藤室 雅弘
    2006 年 56 巻 2 号 p. 209-218
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/04/20
    ジャーナル フリー
     カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)は,AIDS関連のカポジ肉腫や原発性体腔液性リンパ腫,キャッスルマン病において高頻度に検出される.さらに,KSHV遺伝子がコードする遺伝子産物は細胞増殖亢進,抗アポトーシス,トランスフォーム活性を有するものが多く,KSHVと発がんとの深い関連が明らかにされている.細胞内シグナル伝達は,正常の細胞にとって細胞増殖,分化,発生に必須の機構である.KSHVは宿主のシグナル伝達をうまく利用し,ウイルスにとっての好環境を細胞内で構築する.本稿ではKSHVにより標的とされるWntシグナルやNotchシグナルに焦点を当て,ウイルス蛋白質による細胞性シグナル伝達の模倣(mimicry)や操作(manipulation)とそのアウトプット(発がんに関わる機能やウイルスのライフサイクルの制御)について解説する.
  • 神田 忠仁, 柊元 巌
    2006 年 56 巻 2 号 p. 219-230
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/04/20
    ジャーナル フリー
     HPVは8000塩基対の環状2本鎖DNAをゲノムとする小型のウイルスで,エンヴェロープは無い.表皮基底細胞に侵入し,核内エピゾームとして潜伏持続感染する.感染細胞が表皮形成の分化を始めると,HPVゲノムの複製に利用するため,E6蛋白質がp53を分解し,E7蛋白質がpRbの機能を阻害して細胞のDNA合成系を再活性化する.通常ウイルス増殖後に感染細胞は死滅する.ごく稀に細胞DNAにE6,E7遺伝子が組み込まれ,ウイルス増殖ができないにもかかわらずE6及びE7蛋白質が継続的に高発現することがある.このような細胞は不死化し,さらに変異が蓄積して癌化する.100以上の遺伝子型のうち,このような機構で子宮頚癌に関わるものは16型や18型等の13の型(高リスク型)である.主要キャプシド蛋白質のみを細胞で高発現させると,自律的に集合してウイルス様粒子ができる.6,11,16,18型のウイルス様粒子を抗原とするワクチンの臨床試験が行われ,これまでの成績は型特異的な感染予防効果を示している.
  • 土方 誠
    2006 年 56 巻 2 号 p. 231-239
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/04/20
    ジャーナル フリー
     C型肝炎ウイルス(HCV)は肝細胞癌(HCC)の主要な原因因子のひとつとして知られている.HCV感染による慢性肝炎がこのHCVが関連したHCCの発症に大きな要因である可能性が考えられているが,このHCCの発症機序はまだ完全に解明されてはいない.いくつかのHCV遺伝子産物には培養細胞を形質転換する活性があることが示されており,それらのタンパク質を外来性に培養細胞に発現させることにより,発癌に関連した細胞内のシグナル経路に変化が生じるという結果が得られている.また.これらのHCVタンパク質の中でコアタンパク質(コア)を発現するトランスジェニックマウスの中からは,比較的長い飼育の後,明確な肝炎症状なしに脂肪肝とHCCを発症するマウスが出てくることも報告されている.そこで細胞内の様々な事象の変化に対するコアの機能について広範囲に研究されている.ここではそうしたHCVに関連したHCCの発症機構に関する研究の進展状況について概説したい.
  • 安永 純一朗, 松岡 雅雄
    2006 年 56 巻 2 号 p. 241-249
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/04/20
    ジャーナル フリー
     成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia: ATL)はヒトT細胞性白血病ウイルスI型(human T-cell leukemia virus type I: HTLV-I)により惹起されるCD4陽性T細胞の悪性腫瘍である.HTLV-Iは生体内において,ウイルスの複製よりもむしろ感染細胞のクローナルな増殖によりそのコピー数を増やし,その副産物としてATLを発症すると考えられる.HTLV-IのpX領域にコードされるTaxはその多彩な機能からHTLV-I感染細胞の不死化に中心的な役割を果たすと考えられてきたが,患者由来の新鮮ATL細胞では,しばしば発現できなくなっておりATLの発症機序における意義は不明であった.近年,HTLV-Iのマイナス鎖にコードされるHBZが発見され,白血化に重要であることが示唆されている.また,ATLの発症には長い潜伏期間を伴うことから,ウイルス遺伝子,宿主ゲノム変化,宿主の免疫能などが関与する多段階の発がん機序が存在すると考えられる.
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