ウイルス
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57 巻, 2 号
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総説
  • 山本 浩之, 俣野 哲朗
    2007 年 57 巻 2 号 p. 133-139
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/06/05
    ジャーナル フリー
     予防HIV-1ワクチン開発における最も本質的な問題は,ウイルス抗原の易変異性への対処ではなく,宿主防御免疫系の働きによる自然寛解を許容せず慢性持続感染を成立させるウイルスをそもそもどのように制御するかという点である.この考え方は,自然寛解が得られる急性ウイルス感染症に対する予防ワクチン開発戦略とは本質的に異なるアプローチである.ヒトHIV-1感染症及びサル免疫不全ウイルス(SIV)感染サルモデルの解析により,宿主適応免疫系はエイズウイルス複製の抑制においても中心的な役割を果たしていることが明らかになってきたが,自然寛解が一般に得られないことからもわかるとおり,その機能の発揮は自然感染においては完全でない.したがって,何が障壁となるのかを明らかにしその条件を取り除くアプローチ,あるいはウイルス複製制御に元来寄与しうる条件を強化するアプローチが,HIV-1ワクチン開発には求められる.それはすなわち,エイズウイルス慢性持続感染が成立する過程が,どの段階で,どのような機序で,どの程度可逆であり,可逆性を得るためにどのような宿主防御免疫を誘導すればよいのかを理解することと一体である.
     本稿では,サルエイズモデルについて言及したうえで,宿主レベルでのエイズウイルス感染防御免疫について概説する.特にin vivoでのエイズウイルス複製抑制に中心的な役割を果たしていることが知られているウイルス特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL),および持続感染成立阻止への寄与が明らかになりつつあるウイルス特異的中和抗体について,我々の研究で得られた知見を含め,重点的に解説する.同時にそれらに基づく予防HIV-1ワクチン開発の進展を概観し,今後解決すべき問題点を考察する.
  • 森石 恆司, 松浦 善治
    2007 年 57 巻 2 号 p. 141-149
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/06/05
    ジャーナル フリー
     C型肝炎ウイルス(HCV)の感染者は,日本で200万人,全世界で2億人と推定されている.インターフェロンとリバビリンの併用療法により,これまで治療が困難であった1型でウイルス量が高いC型肝炎患者の約5割で著効が期待できるようになってきた.現在,新規の抗ウイルス剤との併用効果が検討されているが,耐性株の出現や副作用等の問題が指摘されている.HCVは慢性持続感染に移行する確率が高く,肝脂肪化から肝線維化を経て高率に肝細胞癌へと進行する.ウイルス感染による炎症反応とウイルス蛋白質の生物活性により病原性を発揮するものと考えられているが,その分子機能は明らかにされていない.HCVのヌクレオキャプシドの構成因子であるコア蛋白質を発現するトランスジェニックマウスでは,脂肪肝や肝細胞癌を発症することが報告されている.本稿では,HCV感染による脂肪肝および肝癌の発症機構を,我々の成績を中心に検証する.
  • 森 康子
    2007 年 57 巻 2 号 p. 151-158
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/06/05
    ジャーナル フリー
     ヘルペスウイルスは,ウイルスエンベロープにある糖タンパク質が特異的な宿主レセプターを認識することにより,細胞内へ侵入する.その後,核内で形成されたヌクレオカプシドは,細胞質へ放出され,細胞質においてテグメントを獲得し,ウイルス感染によって形成された小胞膜に出芽する(secondary envelopment).Secondary envelopmentには,数種のウイルスエンベロープ糖タンパク質やテグメントタンパク質が関与し,それらの相互作用が重要であることが示されている.しかし,詳細なヘルペスウイルスの粒子成熟機構は未だ解明されていない.本稿では,最近の知見を中心にヘルペスウイルスの宿主細胞への侵入および粒子成熟機構に関して述べる.
  • 前田 直良, 吉開 泰信
    2007 年 57 巻 2 号 p. 159-170
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/06/05
    ジャーナル フリー
     レトロウイルスの中でも,宿主に腫瘍を引き起こすRNA腫瘍ウイルスは,1908年の最初の報告以来この100年の間に,トリ,マウス,ラット,あるいはヒトなどから分離,同定されている.その歴史上からRNA腫瘍ウイルスは,急性発癌型と慢性発癌型とに分類されてきた.急性発癌型RNA腫瘍ウイルスは,基本的に自己複製欠損性であるが,細胞染色体由来の癌遺伝子を持ち,その発現によって短期間で宿主に腫瘍を引き起こす.最初に同定された癌遺伝子は,Rous sarcoma virusより分離されたsrcと呼ばれる非受容体型チロシンキナーゼで,シグナル伝達において重要な役割を担っていることが知られている.一方,慢性発癌型RNA腫瘍ウイルスは,gag,pro,pol,env領域のみで構成され,細胞由来の癌遺伝子を持たないが,自己複製可能であることから,宿主染色体への組込み後,ウイルスlong terminal repeatによってその近傍の原癌遺伝子を活性化することにより,長期間かけて腫瘍を引き起こす,いわゆるpromoter insertionである.これまでの研究により,これらがRNA腫瘍ウイルス発癌の分子機構として考えられてきていた.しかし非常に最近になって,ウイルス由来構造タンパク質であるエンベロープが直接宿主に腫瘍を引き起こす,あるいは培養細胞をトランスフォームすることが報告されてきている.これらは,エンベロープが細胞をトランスフォームする極めて稀な例である.本稿では,RNA腫瘍ウイルスによる発癌分子機構の研究の歴史を振り返るとともに,レトロウイルスエンベロープタンパク質を介した細胞トランスフォーメーションの分子機構に関する最近の研究展開について論述する.
特集:最近話題のウイルス
  • 岡部 信彦
    2007 年 57 巻 2 号 p. 171-179
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/06/05
    ジャーナル フリー
     2007年前半我が国では麻疹の流行があり,大学や高校の休校や,海外への持ち出しなど,社会的にも大きな話題になった.
     麻疹ワクチンの導入以来,「皆が罹る重い病気,はしか」は順調にその発生数が減少してきたが,近年では2001年20-30万人の患者発生を見た.この時の流行は圧倒的に幼児に多く,ワクチン接種率50-60%と低い1歳児を対象に「1歳のお誕生日には麻疹ワクチンのプレゼントを」というキャンペーンが全国的に展開された.ほどなく1歳児の麻疹ワクチン接種率は80-90%となり2006年までに麻疹の発生数は1万人を切るとこところにまでなったが,2007年,20歳前後の若者を中心に麻疹の流行が発生した.小児の麻疹は2001年をはるかに下回るものであったが,15歳以上で届けられる成人麻疹の報告数は2001年の流行を上回ったものである.
     今回の麻疹流行をきっかけに,国内での麻疹対策はすすみ,2006年6月から導入された麻疹(および風疹)ワクチンの2回接種法(1歳児,小学校入学前1年間)に加えて,中学1年,高校3年年齢も対象とした補足的接種を5年間行なう方針となった.また麻疹はこれまでは小児科定点および基幹病院からの成人麻疹の報告であったが,トレンドの把握ではなく,きちんとした発生の把握とそれに基づいた対策実施のために,全数報告のサーベイランスに変更する方針となり,我が国において麻疹の排除(elimination)を大きい目標とすることが決定された.
     本稿では,我が国における,最近の麻疹の疫学状況,WHOの示す麻疹排除(elimination),そして我が国が今後取るべき方向などについてまとめたものである.
  • 白土(堀越) 東子, 武田 直和
    2007 年 57 巻 2 号 p. 181-189
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/06/05
    ジャーナル フリー
     ノロウイルス(NoV)は世界各地で発生しているウイルス性下痢症の主たる原因ウイルスである.少なくとも33遺伝子型を有し,極めて多様性を持った集団として存在する.近年,NoVのプロトタイプであるNorwalk/68(NV/68)株が血液型抗原であるH(O),A,Leb型抗原に吸着することが明らかになった.血液型抗原とは抗原構造をもった糖鎖の総称であり,ヒトの赤血球表面だけでなく,NoVが標的とするであろう腸管上皮細胞にも発現されている.血液型抗原の合成に関与するフコース転位酵素の一つであるFUT2(Se)酵素をコードするFUT2遺伝子が活性型のヒトでは血液型抗原が腸管上皮細胞に発現されている(分泌型個体).これに対しSe遺伝子が変異により不活化すると,血液型抗原は上皮細胞に発現されなくなる(非分泌型個体).NV/68株をボランティアに感染させると分泌型個体で感染が成立し非分泌型個体では成立しない.さらに血液型間で感染率を比較検討すると,O型のヒトでの感染率が高くB型では感染率が低いことが報告されている.しかし,その一方でNoVに属するすべてのウイルス株がNV/68と同じ血液型抗原を認識するわけではないことが明らかになってきた.GII/4遺伝子型は他の遺伝子型に比べ結合できる血液型抗原の種類が多く,またそれぞれの血液型抗原への結合力も強いことがin vitro binding assay,疫学研究の両面から証明されている.この遺伝子型は,日本も含め世界中で流行している株であるが,その伝播力についても答えが出ていない.直接的な証明はまだなされていないものの,GII/4遺伝子型株の血液型抗原への結合力の強さが伝播力の強さに結びついている可能性が大きい.血液型抗原への吸着をスタートとしたNoVの感染が,その後,どの様なメカニズムによって下痢症発症にまで結びつくのか,解明が待たれる.
  • 伊藤 直人, 杉山 誠
    2007 年 57 巻 2 号 p. 191-198
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/06/05
    ジャーナル フリー
     狂犬病ウイルスは,人および動物に致死的な神経症状を主徴とする狂犬病を引き起こす.ワクチンによって効果的に予防できるにもかかわらず,本病の世界的な流行状況は好転していない.安価で安全な弱毒生ワクチンの開発ならびに治療法の確立が本病の制圧の鍵である.この目標を達成するためには,狂犬病ウイルスの病原性発現機序を解明することが重要となる.本稿では,狂犬病ウイルスの病原性に関する現在までの研究について紹介し,これをどのように狂犬病の制御に応用するのかについて考察する.
  • 高崎 智彦
    2007 年 57 巻 2 号 p. 199-206
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/06/05
    ジャーナル フリー
     ウエストナイルウイルスはフラビウイルス科フラビウイルス属のウイルスで,蚊によって媒介される.1937年にアフリカ・ウガンダで発熱患者から発見され,1999年には米国で初めて患者が報告された.ヒトにおける病態は,非致死性の急性熱性疾患であるウエストナイル熱と脳炎,髄膜炎,脊髄炎などの中枢神経系の症状を呈するウエストナイル脳炎がある.北米での主たる媒介蚊は,アカイエカ(Culex. pallens),ネッタイイエカ(Cx. quiquefasciatus),Cx. restuans, Cx salnarius, Cx. talsalisなどイエカ属のカであるが,媒介可能なカは60種以上である.米国での患者数は,1999年以降2007年までに27000人以上であり,カナダでの患者数も2002年以降,4600人以上の患者が報告されている.日本においても2005年9月に米国渡航者によるWN熱の輸入症例が初めて確認された.北米のウエストナイルウイルスは,依然として強い病原性を示しているが,2003年のテキサスとメキシコでの分離株の中には,弱毒株が存在することが報告されている.ウエストナイルワクチンの開発状況はヒト用のワクチンは開発中でまだ実用段階にはない.ウマ用のワクチンは,不活化ワクチンが2001年から使用され,DNAワクチン,キメラ生ワクチン,レコンビナントワクチンも認可されている.
トピックス
  • 岡本 仁子, 永井 美之
    2007 年 57 巻 2 号 p. 207-215
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/06/05
    ジャーナル フリー
     文部科学省(文科省)「新興・再興感染症研究拠点形成プログラム」(以下,プログラム)のもとに,わが国の大学,研究機関が,それぞれに二国間(bilateral)協力という形で,相手国の研究機関に,わが国の研究者と事務職が常駐し,長期にわたり共同研究を実施するための研究拠点を設置することを骨子とするプロジェクトが2005年に始まった.これまでに,6大学,2研究機関の参加のもとに,6か国に計10の共同研究拠点が発足した.全く新しいコンセプトの国際連携で,その意義も大きい.しかし,簡単には中止することはできず,かつ,すでに,様々な困難を経験してみると,実にエネルギーの要る「壮大な実験」を始めたものだ,とつくづく感じる.ここでは,本学会員皆様からのご教示をいただくことを願って,「プログラム」の進捗状況と当面の課題を紹介したい.
  • 水谷 哲也
    2007 年 57 巻 2 号 p. 217-226
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/06/05
    ジャーナル フリー
     新興ウイルス感染症のアウトブレイクに備えて,RNAウイルスの網羅的検出法を開発した.ゲノム核酸を均一に増幅する技術(Whole genome amplification)と核酸のライブラリーを2度作成することによる感度上昇,さらに新しく開発したダイレクトシークエンス法を組み合わせることにより,血清や培養上清を対象とした新しい検出方法を構築できた.この方法をRapid Determination System of Viral RNA Sequences(略してRDV法)と名付けた.RDV法はわずか2日間でRNAウイルスゲノムの塩基配列の一部を決定することが可能であり,バイオテロなどにも有用かもしれない.RDV法はSARSコロナウイルスや西ナイルウイルスなどの新興ウイルスを感染培養上清から効率良く検出することができた.また,ヒトの臨床検体や蚊媒介性ウイルスの同定にも応用可能であることを示した.RDV法はRNAウイルスだけはなく,DNAウイルスにも適用でき,RDV法を用いてコウモリの新しいアデノウイルスやヘルペスウイルスを同定することにも成功した.このトピックスでは,RDV法の工程を説明し,基礎的データや応用例を示すと共に,本法の将来的な展望についても言及したい.
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