ウイルス
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58 巻 , 2 号
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総説
  • 呉 成旭, 米山 光俊, 藤田 尚志
    2008 年 58 巻 2 号 p. 97-104
    発行日: 2008/12/24
    公開日: 2009/08/13
    ジャーナル フリー
     ウイルス感染の初期段階において,生体内では迅速な防御反応として自然免疫系が発動される.細胞はウイルス感染を複数の方法で検知して自然免疫系を誘導するが,ウイルス感染細胞内ではRIG-Iがそのセンサーとして機能し,免疫応答に寄与している.RIG-Iは様々なウイルス由来のRNAを非自己RNAとして認識し,抗ウイルス性サイトカインであるIFNの発現を誘導することでウイルス感染に対処する.最近,RIG-Iが認識する基質RNAについて詳細が調べられ,さらにRIG-IのRNA認識ドメインとその立体構造の解析が行われた.本稿では,細胞内ウイルスRNAセンサーRIG-IのRNA認識機構ならびに認識ドメインの立体構造に加えて,RIG-Iファミリーの自然免疫系における機能について最新の知見を交えながら概説したい.
  • 齋藤 剛, Michael Gale Jr.
    2008 年 58 巻 2 号 p. 105-116
    発行日: 2008/12/24
    公開日: 2009/08/13
    ジャーナル フリー
     C型肝炎ウイルス(HCV)感染症は急性肝炎を発症した後,慢性化することにより,肝硬変,肝不全,肝細胞癌を引き起こす.HCVは慢性感染性を成立させるために,さまざまな方法で宿主の自然免疫,獲得免疫システムから逃避することが知られている.宿主ウイルス感染細胞は,病原体特有の病原体関連分子パターン(pathogen-associated microbial patterns; PAMPs)を,細胞膜上または細胞質内のパターン認識受容体(pattern recognition receptor ; PRR)を介して認識し,種々の炎症性サイトカイン,1型インターフェロン(IFN)の産生を誘導 することによりウイルス増殖の抑制,排除を行う.HCVはこの宿主の自然免疫系のシグナル伝達を阻害することや免疫細胞の機能低下を引き起こすことにより,効率的に慢性感染化する.さらに慢性C型肝炎に対する現在の標準的治療である1型IFN療法は,肝細胞膜上にある1型IFNレセプターを介して約300種類のIFN誘導遺伝子(ISG) と呼ばれる遺伝子群の発現を誘導することにより抗ウイルス効果を発揮するが,HCVは細胞内自然免疫シグナル伝達を阻害することにより,本来ならばそれによって活性化されるエフェクター経路(IFNシグナル伝達)やエフェクター分子(ISG)を不活化することでIFN療法にたいしても抵抗性を示す.このため現在の標準的IFN療法では著効例はC 型肝炎患者の約5 割にのみとどまる.本稿ではHCVに対する自然免疫シグナル伝達とウイルスのその逃避機構のメカニズムを中心に我々の結果も含めた最新の知見について解説する.
  • 川口 寧
    2008 年 58 巻 2 号 p. 117-124
    発行日: 2008/12/24
    公開日: 2009/08/13
    ジャーナル フリー
     ウイルスの定義の1つとして,「ウイルス粒子は極めて微小である.よって,光学顕微鏡で観察することができない.」という記述がウイルス学の教科書にはあった.しかし,近年の光学顕微鏡の技術的進歩,また,様々な蛍光蛋白質および蛍光物質の開発は,生きた細胞内のウイルス粒子を光学顕微鏡で観察することを可能とした.これらの新しいテクノロジーを利用して,ウイルス粒子成熟過程の時空間的な解析が可能となり,ダイナミックなウイルス増殖過程の実体が次第に明らかにされつつある.本稿では,単純ヘルペスウイルス1型のウイルス粒子可視化技術およびそれを利用したウイルス粒子成熟過程の解明について,我々の研究で得られた知見を含め解説する.
  • 義江 修
    2008 年 58 巻 2 号 p. 125-140
    発行日: 2008/12/24
    公開日: 2009/08/13
    ジャーナル フリー
     HTLV-1は成人T細胞白血病(ATL)やHTLV-1関連脊髄症(HTLV-1-associated myelopathy/HAM)などの重篤な疾患の原因ウイルスである.HTLV-1は通常のウイルスと異なり,HTLV-1感染T細胞と標的T細胞との間の細胞接着を介して「細胞依存性」に伝達される.我々は成人T細胞白血病(ATL)のほとんどの症例(>90%)で白血病細胞はCCR4陽性であることを初めて報告した.CCR4はTARC/CCL17とMDC/CCL22のふたつのリガンドを持つケモカイン受容体であり,抗体産生やアレルギー反応に関与するTh2細胞,制御性T細胞,皮膚指向性メモリー/エフェクターT細胞などでの選択的発現が知られる.そのためATLでのCCR4発現はATLがこれらのT細胞サブセットに由来することを示唆し,またATLでの高頻度皮膚浸潤も説明する.さらに我々はHTLV-1がCCR4陽性T細胞に選択的に感染するメカニズムのひとつを明らかにした.すなわち,HTLV-1感染T細胞はTaxの作用でMDC/CCL22を大量に産生し,そのためCCR4陽性T細胞が選択的に誘引されてHTLV-1感染T細胞に接着し,それによってHTLV-1はCCR4陽性T細胞に選択的に伝播されるのである.さらに,我々はATLでのCCR4発現に関わる転写因子を解析し,AP-1ファミリーのFra-2とJunDがATL細胞で強く発現していることを見いだした.そしてFra-2/JunDヘテロダイマーはCCR4の発現だけでなく,ATL細胞の増殖も促進し,さらにc-Myb,MDM2,Bcl-6などの重要な原がん遺伝子をその下流遺伝子として発現誘導することを明らかにした.Fra-2はATLでこれまでその発現の知られていなかった発がん遺伝子であり,それによって発現が増強されるCCR4はATLの腫瘍マーカーのひとつであるとも言える.
特集1:パピローマウイルス
  • 温川 恭至, 清野 透
    2008 年 58 巻 2 号 p. 141-154
    発行日: 2008/12/24
    公開日: 2009/08/13
    ジャーナル フリー
     今から25年前Harald zur Hausen博士らによって子宮頸がんから16型ならびに18型ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus: HPV)のDNAが発見され,その因果関係が初めて示唆された.その後の疫学的・分子生物学的研究から,子宮頸がんはHPV感染によって発症することに疑いの余地はなくなり,HPVは子宮頸がんの原因ウイルスとして確定している.90%以上の子宮頸がんでは16型を始めとする一群のHPVがコードするE6とE7が必ず発現しており,それぞれp53,pRBがん抑制遺伝子産物を不活化することが明らかになっている.E6はテロメラーゼを活性化する機能も有しており,E6とE7は共同してヒト初代上皮細胞を高率に不死化することができる.これらの機能は本来,分裂能を失い最終分化に向かう細胞をウイルス増殖に利用するために備わっていると考えられる.E6とE7の発現のみでは細胞はがん化しないが,E6,E7は細胞の不死化からがん化に至る多くの過程に関与していることが明らかになってきた.実際,実験的にはE6E7の発現に加えH-rasの変異さえあれば正常子宮頸部角化細胞に造腫瘍性が付与されることも示された.HPV感染と子宮頸がん発生との因果関係が確定的なものであることから,HPV感染予防ワクチンが対がん戦略として有効なものであることが推測される.しかしながら,HPV感染は性交渉開始後の大多数の女性で見られるほど蔓延しており,第一世代HPVワクチンの現プロトコールでの長期間に渡る有効性やHPV型特異性について課題を残している.また,既感染者には無効である.従って,HPV感染の自然史やウイルス蛋白の機能に関する分子基盤を解明していくことは,HPVワクチンを用いた感染予防のみならず新たな治療法の開発にとって不可欠である.本稿では,最近明らかになったE6,E7の機能を紹介するとともに,HPV感染から子宮頸がんへ至る機構について概説したい.
  • 井上 正樹
    2008 年 58 巻 2 号 p. 155-164
    発行日: 2008/12/24
    公開日: 2009/08/13
    ジャーナル フリー
     20世紀後半からの腫瘍ウイルス学研究はHPVが子宮頚癌の原因ウイルスであることを明白にした.HPVは性行為にて感染することが疫学的にも明らかとなり,HPV感染を予防することで子宮頸癌を撲滅する戦略が見えてきた.その基軸をなすものはHPVワクチンの開発である.現在実用化されているワクチンはHPVの外郭蛋白をつくるL1遺伝子を酵母菌や昆虫細胞で発現させる遺伝子組換え型ワクチンである.HPV-DNA 16/18型に対する2価ワクチンとHPV16 /18型に尖圭コンジローマの原因ウイルスである6/11型を加えた4価ワクチンの2種類が実用化されている.ワクチンには重篤な副作用は無く「前癌病変」や「コンジローマ」をほぼ100%防御する.既に世界の多くの国で承認され,若年女性を中心に接種が開始されている.
  • 佐塚 文乃, 酒井 博幸
    2008 年 58 巻 2 号 p. 165-172
    発行日: 2008/12/24
    公開日: 2009/08/13
    ジャーナル フリー
     パピローマウイルスは上皮組織に感染し腫瘍を形成する病原ウイルスであり,動物モデルを用いて「ウイルス発がん」を再現した最初のウイルスである.ヒトを宿主とするHPVに関してはzur Hausenによって子宮頚癌発症との関連が示されて以来,多くの上皮系悪性腫瘍に関与していることが示されている.このような病原性を持つHPVは性交渉感染症として広く蔓延しており,近年では子宮頚癌発症時期の若年齢化が問題となっている.これまでのHPV研究は主にその発癌との関連に注目して進められており,その成果はp53やpRbなどの機能,ユビキチン-プロテアソーム経路の解明に大きく寄与してきた.それに対してHPVのウイルスとしての性状は,その臨床的な重要性にも関わらず,パピローマウイルスの発見から80年近くたった現在もほとんど解明されていない.このようなHPV研究の進展に対する障りは,ウイルスの生活環が感染標的である上皮系細胞の分化プログラムと密接に結びついているという特徴が故である.この特徴のため通常の単層培養条件下ではHPVの複製を観察することができず,得られる知見も限られてくる.そこで,問題解決にあたり現在様々な手法を用いたHPVの生活環や遺伝子機能の解析が行われている.ここではHPVの遺伝子機能や,その発現調節メカニズム,さらにウイルスの複製様式について概説できたらと思う.
  • 江川 清文
    2008 年 58 巻 2 号 p. 173-182
    発行日: 2008/12/24
    公開日: 2009/08/13
    ジャーナル フリー
     常性疣贅,扁平疣贅,尖圭コンジローマや疣贅状表皮発育異常症などの古典的HPV感染症以外にも,HPVは様々の皮膚・粘膜腫瘍に検出され,ミルメシアや色素性疣贅などの封入体疣贅,足底表皮様嚢腫,ボーエン様丘疹症,外陰部や指のボーエン病などが新たに皮膚のHPV感染症と考えられるようになっている.HPV関連疾患の多様性が明らかになり,このウイルスの重要な細胞生物学的特性が分かって来た.その一つは,尋常性疣贅がHPV2/27/57,扁平疣贅がHPV3/10/28,尖圭コンジローマがHPV6/11を主な原因ウイルスとするなど,HPVに多様な遺伝子型があり,型と良性・悪性を含む臨床病型とが特異相関することである.これを意味する「HPV型特異的細胞変性あるいは細胞病原性効果」は,HPV感染症を考える時の中心概念となっている.他の一つはHPV型特異的部位親和性であるが,そのメカニズムの問題は未解決のままである.最近の知見からすると,HPVの感染標的とされる上皮幹細胞面からの検討が,解明の糸口を与えてくれそうである.疣贅状表皮発育異常症の責任遺伝子の発見も最近のトピックである.感染症の責任遺伝子が同定された意義は大きい.
    HPV各型相互の関連は,構成塩基配列の相同性に基づき分子系統樹に描き表されるが,型と疾患の相関は系統樹の位置関係と極めてよく一致しており,臨床症状が系統樹の各枝に担われた遺伝情報の皮膚・粘膜表現であることが分る.
     本稿では,E4遺伝子機能解析モデルとしての封入対疣贅,HPV4/60/65に特異的に起こるメラニン産生の亢進,同一細胞におけるHPV1とHPV63のdouble infectionが示唆するウイルス間相互作用,指紋上に初発する疣贅が指し示す表皮幹細胞の局在部位,新疾患概念としてのHPV関連嚢腫など,皮膚HPV感染症に観察される諸現象とその意義について纏めた.
特集2:C型肝炎ウイルスによる発癌機構とその治療
  • 森石 恆司, 森 嘉生, 松浦 善治
    2008 年 58 巻 2 号 p. 183-190
    発行日: 2008/12/24
    公開日: 2009/08/13
    ジャーナル フリー
     C型肝炎ウイルス(HCV)は血液や血液製剤を介して感染し,その多くは10~30年の長期に渡って持続感染し,脂肪肝や肝硬変を経て肝細胞癌に至る.HCV感染は肝病変だけではなく,クリオグロブリン血症や2型糖尿病などの肝外病変との関連性も知られている.HCVの病原性発現は,ウイルス感染による炎症反応だけでなく,ウイルス因子の直接的な生物活性も関与する.HCV蛋白質の中で,特にコア蛋白質の発現によって酸化ストレスや細胞増殖が誘導されることが多数報告されている.
  • 加藤 宣之
    2008 年 58 巻 2 号 p. 191-198
    発行日: 2008/12/24
    公開日: 2009/08/13
    ジャーナル フリー
     培養細胞を用いたC型肝炎ウイルス(HCV)レプリコンシステムや全長HCV RNA複製システムの開発によりHCVの複製機構についての研究が大いに進展した.さらに,これらのRNA複製システムはルシフェラーゼのようなレポーター遺伝子の導入により抗HCV剤のスクリーニングに適したシステムに改良された.HCVレプリコンや全長HCV RNAを有する細胞の年単位における長期培養により得られたHCVの遺伝子解析からHCVの遺伝的変異の蓄積や遺伝的多様性の増大が培養期間に依存して起こることが示された.HCVレプリコンや全長HCV RNAにおける適応変異の出現はHCV RNAの複製システムにおいて特徴的な現象である.ほとんどのHCV RNA複製システムではヒト肝癌HuH-7細胞株が使用されているが,適応変異の特殊な組み合わせによりHuH-7細胞以外の新しいヒト肝癌細胞株を用いたHCV RNA複製システムが開発された.
  • 鈴木 哲朗, 政木 隆博, 相崎 英樹
    2008 年 58 巻 2 号 p. 199-206
    発行日: 2008/12/24
    公開日: 2009/08/13
    ジャーナル フリー
     効率のよいウイルス産生細胞系が確立されていなかったため,C型肝炎ウイルス(HCV)の生活環研究の中で感染粒子の形成機構に関する解析は最も遅れていた.JFH-1株の出現により,感染から分泌までウイルス生活環全体に亘る解析が可能となり,粒子形成の分子機構研究が大きな展開を見せている.細胞内の脂肪滴及びその周辺の膜構造が粒子形成の場として働くことが示された.我々は,ゲノム複製調節に関与することが知られていたHCV非構造蛋白NS5Aが粒子形成にも関与することを示し,粒子形成の初期過程において,新たに作られたウイルスRNAがNS5A蛋白によって捕捉され,更にこのNS5A-HCV RNA複合体がCore蛋白と会合することがRNAパッケージングの引き金になるというモデルを提唱した.また,感染性粒子表面のコレステロール,スフィンゴ脂質が粒子構造の維持,感染性に重要であることを示す知見を得た.ウイルス非構造蛋白,脂質,脂質結合因子がHCV粒子のアセンブリー,輸送などにどのように関与しているかを明らかにすることが粒子形成機構研究の鍵になるものと思われる.
  • 平田 雄一, 須藤 正幸, 小原 道法
    2008 年 58 巻 2 号 p. 207-214
    発行日: 2008/12/24
    公開日: 2009/08/13
    ジャーナル フリー
     C型肝炎ウイルスは,高率に持続感染を引き起こし,やがて肝硬変・肝細胞癌へと至る.PEG-IFN及びリバビリンの登場により治療成績は向上したが,本邦で多いとされるgenotype 1b高ウイルス量の患者は依然として治療抵抗性であり,およそ50%の奏効率である.現状を改善するためウイルス側の因子を標的とした薬剤の開発などの多くの試みがなされている.我々は,ウイルスが生活環で利用する宿主因子に着目し,これらを標的とした阻害剤の検討を行ってきた.その中で,セラミド・スフィンゴ脂質合成の最上流酵素であるセリンパルミトイルトランスフェラーゼに対する阻害剤(SPT阻害剤)が,HCVの複製を抑制することを見出した.SPT阻害剤は,HCV感染動物モデルであるヒト肝臓型キメラマウスを使用したin vivoの実験において,現在最も効果が高いとされているPEG-IFNの20倍量投与とほぼ同等の効果を示し,両者を併用することで相乗効果を示した.その作用機序を解析するため,SPT阻害剤が脂質ラフトに与える影響を界面活性剤不溶性分画(DRM分画)を抽出し検討した.するとDRM上でRNA dependent RNA polymeraseであるNS5BがSPT阻害剤の投与により減少した.さらにBiacoreを使用しスフィンゴミエリンとNS5Bが結合することを見出した.以上の実験結果から,SPT阻害剤はHCVが複製している脂質ラフトにおいてスフィンゴミエリンを減少させ,脂質ラフトにNS5Bが留まれなくなり複製ができなくなるというモデルが考えられた.
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