常性疣贅,扁平疣贅,尖圭コンジローマや疣贅状表皮発育異常症などの古典的HPV感染症以外にも,HPVは様々の皮膚・粘膜腫瘍に検出され,ミルメシアや色素性疣贅などの封入体疣贅,足底表皮様嚢腫,ボーエン様丘疹症,外陰部や指のボーエン病などが新たに皮膚のHPV感染症と考えられるようになっている.HPV関連疾患の多様性が明らかになり,このウイルスの重要な細胞生物学的特性が分かって来た.その一つは,尋常性疣贅がHPV2/27/57,扁平疣贅がHPV3/10/28,尖圭コンジローマがHPV6/11を主な原因ウイルスとするなど,HPVに多様な遺伝子型があり,型と良性・悪性を含む臨床病型とが特異相関することである.これを意味する「HPV型特異的細胞変性あるいは細胞病原性効果」は,HPV感染症を考える時の中心概念となっている.他の一つはHPV型特異的部位親和性であるが,そのメカニズムの問題は未解決のままである.最近の知見からすると,HPVの感染標的とされる上皮幹細胞面からの検討が,解明の糸口を与えてくれそうである.疣贅状表皮発育異常症の責任遺伝子の発見も最近のトピックである.感染症の責任遺伝子が同定された意義は大きい.
HPV各型相互の関連は,構成塩基配列の相同性に基づき分子系統樹に描き表されるが,型と疾患の相関は系統樹の位置関係と極めてよく一致しており,臨床症状が系統樹の各枝に担われた遺伝情報の皮膚・粘膜表現であることが分る.
本稿では,E4遺伝子機能解析モデルとしての封入対疣贅,HPV4/60/65に特異的に起こるメラニン産生の亢進,同一細胞におけるHPV1とHPV63のdouble infectionが示唆するウイルス間相互作用,指紋上に初発する疣贅が指し示す表皮幹細胞の局在部位,新疾患概念としてのHPV関連嚢腫など,皮膚HPV感染症に観察される諸現象とその意義について纏めた.
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