ウイルス
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59 巻, 1 号
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総説
  • 内藤 忠相, 川口 敦史, 永田 恭介
    2009 年 59 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2009/06/25
    公開日: 2010/02/01
    ジャーナル フリー
     インフルエンザウイルスの増殖の根幹であるゲノムの複製・転写の分子機構については,無細胞系やリバースジェネティクス系を用いた解析を通して,理解が進んできている.宿主域の決定にもゲノムの複製・転写機構が関わっている可能性が議論されてきている.一方,抗インフルエンザウイルス薬については,耐性株の出現に鑑みて,新たな分子標的の設定と合理的な探索方法による創薬が必要とされている.これらの諸点について,ゲノムの複製・転写に関与するウイルス因子の立体構造の解明はブレークスルーとなることは明らかである.本稿では,最近になり急速に蓄積しつつあるゲノムの複製・転写に関与するウイルス因子の立体構造解析に関する知見を整理し,構造基盤に立脚してこれらのウイルス因子の機能について議論する.
  • 一戸 猛志, 岩崎 明子
    2009 年 59 巻 1 号 p. 13-22
    発行日: 2009/06/25
    公開日: 2010/02/01
    ジャーナル フリー
     NOD受容体(NOD-like receptors)は,微生物モチーフと危険シグナルを認識し,自然免疫応答に関わる細胞内パターン認識受容体ファミリーである.インフラマゾームは,NLRs,アダプタータンパク質とpro-caspase-1からなる巨大タンパク質複合体で,caspase-1を活性化して,炎症誘発性サイトカイン(IL-1β, IL-18, IL-33)のプロセシングと分泌,細菌によって誘導される細胞死(pyroptosis)を制御する.さまざまなNLRsからなるインフラマゾームの中でも,特にNLRP3インフラマゾームは多くの刺激によって活性化される.最近の研究から,ある特定のウイルスもNLRP3インフラマゾームを活性化することが明らかとなってきた.そこで本稿では,さまざまな刺激によるNLRP3インフラマゾーム活性化メカニズムを最新の知見を中心に概説する.さらに我々の研究で得られた知見を含め,インフルエンザウイルスに対する獲得免疫誘導におけるインフラマゾームの役割について考察する.
  • 藤山 幹子, 橋本 公二
    2009 年 59 巻 1 号 p. 23-30
    発行日: 2009/06/25
    公開日: 2010/02/01
    ジャーナル フリー
     薬剤性過敏症症候群は,発熱と多臓器障害を伴い遷延する薬疹である.抗けいれん薬,アロプリノール,サラゾスルファピリジン,ジアフェニルスルフォン,メキシレチン,ミノサイクリンが原因となる.その大きな特徴は,発症後10日から30日の間のある時期に,HHV-6の再活性化を伴うことにある.HHV-6の再活性化は,血液,血清中のHHV-6 DNAの検出と著明なIgG抗体価の上昇で確認される.HHV-6の再活性化に際して,発熱と肝障害を認めることが多い.薬剤性過敏症症候群は,薬剤アレルギーとHHV-6感染症の複合した病態である.
  • 長崎 慶三, 外丸 裕司
    2009 年 59 巻 1 号 p. 31-36
    発行日: 2009/06/25
    公開日: 2010/02/01
    ジャーナル フリー
     海水1mlの中には105~108個,また全海洋中には1031個のウイルスが浮遊しているといわれている.その多くは海洋細菌や藍藻類などの原核生物を宿主とするファージ群であり,次いで真核性微生物(原生生物)を宿主とするさまざまなウイルスが優占していると考えられる.筆者らのグループでは,海産真核性藻類を宿主とするウイルスの研究を継続しているが,その過程で出会った種々のウイルスは,これまでに知られているあらゆるウイルスと大きく異なっていることが明らかとなった.それらの生態・生理,ならびに遺伝学的性状を解析することで,これまでのウイルス学分野に登場してこなかった幾つもの新たな知見が蓄積されつつある.本稿では,最近の原生生物ウイルス研究から発信された知見として,赤潮原因藻とRNAウイルス間の株特異的な感染性を支持するメカニズム,ガラスの殻を纏う珪藻類に感染するDNAウイルスおよびRNAウイルスの発見,ならびに原生生物ウイルス研究がもたらした新しいRNAウイルス進化ストーリー仮説,の3項目についてその概要を紹介する.動物ウイルスや植物ウイルスに馴染み深い読者の皆様に,一風変わったウイルスたちに関する読み物としてご笑覧いただければ幸いである.
  • 中村 智之, 片野 晴隆
    2009 年 59 巻 1 号 p. 37-42
    発行日: 2009/06/25
    公開日: 2010/02/01
    ジャーナル フリー
     メルケル細胞癌から新たなポリオーマウイルスであるメルケル細胞ポリオーマウイルス(MCV)が発見された.メルケル細胞癌は皮膚の神経内分泌系の細胞であるメルケル細胞を由来とするまれな皮膚癌で,白人の顔面,頭部などに発症する.全長5.4kbpのウイルスDNAゲノムには他のポリオーマウイルスと同様にVP1, VP2, VP3, およびsmall T, large T (LT)抗原がコードされている.メルケル細胞癌ではMCVは高頻度に検出されているが,陽性率には地域差がある.他の疾患からはほとんど検出されていない.メルケル細胞癌ではMCV遺伝子が宿主細胞のゲノムにインテグレーションしていることが確認されている.LTは環状のMCVの複製に重要であるが,メルケル細胞癌ではLTの中間部分に休止コドンを伴う変異があり,C末端のヘリケースドメインが機能せず,Rb結合ドメインなどの働きにより発癌が促進される.ヒトポリオーマウイルスとしては初めての癌ウイルスに分類すべきものであり,今後,感染様式や発癌メカニズムの解明が期待される.
  • 清水 博之
    2009 年 59 巻 1 号 p. 43-52
    発行日: 2009/06/25
    公開日: 2010/02/01
    ジャーナル フリー
     国立感染症研究所ウイルス第二部第二室は,WHOから指定されたWHO Collaborating Center for Virus Reference and Research(Enterovirus)として機能しており,ポリオをはじめとするエンテロウイルス感染症の実験室診断のためのウイルス分離同定,新たな実験室診断法の開発・評価・精度管理,技術者・専門家への研修,標準試薬・参照品の調整・維持・供給等の活動を実施している.ポリオウイルス病原体サーベイランスは,世界ポリオ根絶計画において不可欠な機能のひとつであり,非ポリオエンテロウイルス実験室診断は,エンテロウイルス71による近年の手足口病流行においても重要である.世界的および地域レベルにおけるポリオ実験室ネットワークを基盤とした人的資源および継続的な国際協力は,西太平洋地域における非ポリオエンテロウイルス感染症サーベイランスにおいても重要な役割を果たしている.
特集
  • 伊藤 壽啓
    2009 年 59 巻 1 号 p. 53-58
    発行日: 2009/06/25
    公開日: 2010/02/01
    ジャーナル フリー
     H5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスが世界規模の大流行を引き起こし、今尚、各国の養鶏産業界に甚大な被害を与え続けている.またインフルエンザウイルスは鳥類に由来する最も重要な人獣共感染症の病原体の一つであり,本ウイルスの人への直接感染事例もまた増え続けている.本ウイルスは鶏やアヒルなどの家禽以外にも多くの鳥類が感受性を有することから,とくに野生鳥類が本ウイルスの伝播,流行拡大に重要な役割を果たしている可能性が示唆されている.しかしながら,自然界における本ウイルスのレゼルボアとしての野鳥の役割は未だ完全には理解されていない.そこで高病原性鳥インフルエンザウイルスの生態に果たす野鳥の役割を明らかにする目的で,渡り鳥を含む国内野鳥を対象としたウイルス保有状況調査が環境省,山階鳥類研究所および鳥取大学で実施された.これまで3株のH5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスが分離されている.その一つは2007年1月に熊本県相良村において衰弱して発見されたクマタカから分離された.他の2株は2008年4月と5月に青森県十和田湖において斃死したオオハクチョウから分離された.
     渡り鳥は季節性に地球規模で移動することから,同様の問題は他の国々においても常に起こり得る.野鳥を対象とした広範囲な共同疫学調査が高病原性鳥インフルエンザの国際防疫に重要であると考えられている.
  • 森島 恒雄
    2009 年 59 巻 1 号 p. 59-66
    発行日: 2009/06/25
    公開日: 2010/02/01
    ジャーナル フリー
     小児の急性脳炎・脳症は,毎年約1,000例と多数の報告がある.その一方,詳細な病因別頻度,予後,病態など不明な点が多く,単純ヘルペス脳炎やインフルエンザ脳症など一部の疾患を除いては治療法も確立していない.ここでは,厚生労働省「インフルエンザ脳症研究班」および文部科学省基盤A研究班のデーターを中心にこの領域における最近の知見をまとめてみたい.
  • 野間口 雅子, 足立 昭夫
    2009 年 59 巻 1 号 p. 67-74
    発行日: 2009/06/25
    公開日: 2010/02/01
    ジャーナル フリー
     ヒト免疫不全ウイルス(HIV)ゲノムは,他のレトロウイルスには存在しないアクセサリー蛋白質と総称されるユニークな蛋白質をコードしている.これらの蛋白質を欠損させたウイルスであっても,多くの細胞で増殖が可能であるというアクセサリー性などのために,その本来のウイルス学的機能は長い間謎であった.しかしながら,近年の研究により,アクセサリー蛋白質のウイルス複製における重要な役割が明らかになってきた.HIV-1とHIV-2には合計5種類のアクセサリー蛋白質(Vif,Vpr,Vpx,VpuおよびNef)が存在するが,それぞれ,宿主の防御機構を抑制・制御することなどによりウイルスの複製を最適化し,その存続・伝播・病原性発現に大きな役割を果たしている.本稿では,アクセサリー蛋白質の機能,抗HIV細胞因子(Vif/APOBEC3蛋白質群,Vpx/マクロファージ因子,Vpu/tetherin)に対する作用機序,および生物学的意義について概説する.
  • 牛島 廣治
    2009 年 59 巻 1 号 p. 75-90
    発行日: 2009/06/25
    公開日: 2010/02/01
    ジャーナル フリー
     ウイルス性胃腸炎の研究の流れ,概要,診断法,分子疫学について述べた.ロタウイルス,アデノウイルス,ノロウイルス,サポウイルス,アストロウイルス,ヒトパレコウイルス,アイチウイルス,ヒトボカウイルスを取り上げた.それぞれに遺伝子群(genogroup),遺伝子型(genotype),亜型(subgenotype)/クラスター(cluster)/リニージ(lineage)などがあり,地域・年によって変異が起きていることがわかった.これらの変異には点変異のみならず,ヒト-ヒトおよびヒト-動物ウイルス間の組み換えもみられた.ウイルス性胃腸炎は食物だけではなく,ヒト-ヒト感染が重要であり,また環境との関係も注目される.研究の進歩で少しずつ自然生態系の中での各ウイルスの有り様がわかってきた.すでに究明されたウイルスに対しては免疫学的方法あるいは遺伝子学的方法で検査が可能となった.しかし更なる検査法の開発および未知のウイルスの発見が今後期待される.疫学は長く行ってはじめて現象が理解されることが多く地道な努力が必要である.新しい技術を用いながら研究を進めるとともに,流行時など社会の要求に対処する必要がある.
  • 谷口 孝喜, 河本 聡志, 佐々木 潤, 釘田 雅則
    2009 年 59 巻 1 号 p. 91-98
    発行日: 2009/06/25
    公開日: 2010/02/01
    ジャーナル フリー
     ロタウイルスは,ヒトを含めた多くの哺乳動物と鳥類の下痢便から検出される急性胃腸炎の病原ウイルスである.多くのウイルスでは,リバースジェネティクスが盛んに活用されているが,ロタウイルスにおいてはその開発が困難をきわめていた.最近,我々の研究室で,ヘルパーウイルスを利用する系ではあるが,その開発を行うことができた.それを利用して,VP4抗原解析の一歩として,サルロタウイルスSA11株のスパイク蛋白質であるVP4の一つの中和エピトープを異なる抗原特異性を有するヒトロタウイルスDS-1株由来のVP4中和エピトープに置換し,抗原モザイクとなるVP4を有する感染性のロタウイルスを調製した.レオウイルス科の他のウイルスも含めて,ロタウイルスのリバースジェネティクスとその展望をまとめた.
平成20年杉浦賞論文
  • 野田 岳志
    2009 年 59 巻 1 号 p. 99-106
    発行日: 2009/06/25
    公開日: 2010/02/01
    ジャーナル フリー
     ウイルスゲノムやタンパク質がシステマチックに集合しウイルス粒子が形成される際には,ウイルス因子や感染細胞の構造に劇的な変化が生じる.そのメカニズムを理解するためには,電子顕微鏡を用いた微細構造解析が欠かせない.私たちはこれまで,エボラウイルスおよびインフルエンザウイルスの粒子形成機構に関する電子顕微鏡解析を行ってきた.エボラウイルスに関してはウイルス粒子形成過程における個々のウイルスタンパク質の役割を,インフルエンザウイルスに関しては分節化ゲノムのパッケージング機構の一端を明らかにした.
  • 大岡 静衣
    2009 年 59 巻 1 号 p. 107-114
    発行日: 2009/06/25
    公開日: 2010/02/01
    ジャーナル フリー
     ポリオウイルス(PV)は急性灰白髄炎(小児まひ)の病因ウイルスである.ヒトにおいて経口→消化管→ウイルス血症→血液脳関門→中枢神経系(CNS)と伝播し,運動神経細胞を脱落させ四肢に麻痺を生じさせる経路と,PVが運動神経を介して骨格筋から直接CNSへ侵入する神経経路が存在する.目的組織でPVが効率よく複製するためには,(1)目的組織に到達,(2)細胞に侵入,(3)細胞内の複製場所に到達,(4)そこで効率よく複製,の段階が重要である.我々は,胃の低pHによりPVが失活すること,および1型インターフェロン自然免疫系がPV経口感染防御に寄与することを明らかにし,マウスを用いたPV経口感染系を確立した.また,PVの神経経路を解析し,ヒトPV受容体(hPVR/CD155)依存的PV逆行性輸送系では,PVが完全な感染性粒子のまま運動神経シナプスからhPVRによってエンドサイトーシスされ,細胞質ダイニンにより逆行性軸索輸送されることを証明した.さらに,hPVR非依存的なPV逆行性輸送系の存在も示した.
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