ウイルス
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60 巻 , 2 号
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総説
  • 堀江 真行, 朝長 啓造
    2010 年 60 巻 2 号 p. 143-154
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2011/09/01
    ジャーナル フリー
     私たちのゲノムの8%は内在性レトロウイルスによって占められている.内在性レトロウイルスは過去におけるレトロウイルス感染の痕跡であり,現存する唯一の「ウイルス化石」として,ウイルスと宿主との共進化に様々な知見を提供してきた.一方で,複製の際に宿主ゲノムへの組み込み(インテグレーション)を必要としないウイルスの生物系統的な内在化はこれまでは知られていなかった.最近,私たちはヒトをはじめとする多くの哺乳動物のゲノムにマイナス鎖RNAウイルスであるボルナウイルスの遺伝子断片が内在化していることを発見した.これは,生物ゲノムに見つかった初めてのRNAウイルス化石である.さらに,自らは逆転写酵素を有していないボルナウイルスが宿主由来のレトロトランスポゾンを介して宿主DNAへとインテグレーションされる可能性も示された.この発見は,RNAウイルスと宿主との新たな相互作用を示すとともに,遺伝学や細胞生物学をはじめとする多岐にわたる分野に大きな影響を与えた.本稿では,内在性ボルナウイルス因子の発見について概説するとともに,現在次々と発見されているレトロウイルス以外の内在性ウイルス断片についての最新知見を紹介する.
  • 山岸 紀子, 吉川 信幸
    2010 年 60 巻 2 号 p. 155-162
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2011/09/01
    ジャーナル フリー
     植物ウイルスベクターを利用したウイルス誘導ジーンサイレンシング(VIGS)は,ウイルス感染によって誘導されるRNAサイレンシング機構を利用した植物の逆遺伝学的解析ツールである.標的遺伝子配列の一部をVIGS用ウイルスベクターに連結し,植物に感染させることで簡便かつ迅速に標的遺伝子の発現をノックダウンすることができる.ベンサミアーナタバコなどの実験植物で主に利用されてきたが,最近では主要農作物を含む各種植物種の遺伝子機能解析に利用できるVIGS用ウイルスベクターが報告されている.本稿ではVIGSウイルスベクターの種類とその利用について解説する.
  • 千葉 壮太郎, 近藤 秀樹, 兼松 聡子, 鈴木 信弘
    2010 年 60 巻 2 号 p. 163-176
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2011/09/01
    ジャーナル フリー
     マイコウイルス(菌類ウイルス)は菌類の主要な分類群から広く報告されている.特に近年のウイルス探索の結果,新しいマイコウイルスが次々と報告され,新規のウイルスゲノム構造,遺伝子発現様式,粒子構造の発見を齎した.また,同時にウイルスの多様性,進化の理解へと繋がった.マイコウイルスの多くは2本鎖RNAをゲノムにもつ球形ウイルスであるが,粒子化されない1本鎖RNAウイルスも多く見つかっている.自然界では,マイコウイルスは宿主菌の細胞分裂,細胞融合,胞子形成により水平・垂直伝搬するが,細胞外からの伝搬・侵入経路は知られていない.マイコウイルスの多くは無病徴感染をするが,一部のウイルスは宿主菌に病徴を惹起し,巨視的表現型の変化を齎す.マイコウイルスが植物病原菌の病原力を低下させる場合は,ウイルスを利用した生物防除(ヴァイロコントロールと提唱)が試みられている.ヨーロッパではクリ胴枯病菌のヴァイロコントロールの成功例があり,一方,日本でも果樹の白紋羽病菌を標的としたヴァイロコントロールが試みられている.本稿では,マイコウイルスの一般的性状を概説し,ヴァイロコントロール,さらにはそれに関係するウイルスについて紹介する.
  • 佐野 輝男
    2010 年 60 巻 2 号 p. 177-186
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2011/09/01
    ジャーナル フリー
     ウイロイドは小さな環状1本鎖RNA病原体で,宿主植物の転写系に依存して自律複製し,宿主の細胞内因子と干渉して病気を引き起こす.ユニークな分子構造を有するノンコーディングなウイロイドRNAは,病原性に関与する分子構造,細胞間或いは組織間のRNA輸送,分子進化と宿主適応など,様々なRNA機能を解析する魅力的な研究対象となっている.本稿では,新しいウイロイド病の流行,分子進化と宿主適応,そしてウイロイド感染で誘導されるRNAサイレンシングと病原性などに関する最新の研究を紹介する.
特集 ヘルペスウイルス(HHV1-8)のウイルス学
  • 川口 寧
    2010 年 60 巻 2 号 p. 187-196
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2011/09/01
    ジャーナル フリー
     単純ヘルペスウイルス(HSV: herpes simplex virus)は,ヘルペスウイルスのプロトタイプであり,ヒトに様々な疾患を引き起こす.本総説では,最新の知見を含め,HSV感染の分子機構に関して概説する.
  • 金井 亨輔, 山田 壮一, 井上 直樹
    2010 年 60 巻 2 号 p. 197-208
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2011/09/01
    ジャーナル フリー
     初感染により水痘,再活性化により帯状疱疹の原因となる水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)は,単純ヘルペスウイルス(HSV)と同じアルファヘルペス亜科に分類される.遺伝子レベルではHSVと高い相同性を有する一方,病態と関連した生物学的な挙動という観点からみると,HSVとの様々な違いが容易に指摘できる.本稿では,1)感染動物モデルなどの研究のアプローチ,2)上気道粘膜への感染からT細胞を介して皮膚での発疹形成に至る過程,3)VZVの受容体,4)個体での増殖や潜伏感染成立に関与する遺伝子群の機能,5)宿主免疫反応とVZVの回避機構,6)水痘ワクチンと抗ウイルス薬について,最近の知見を概説する.
  • 小杉 伊三夫
    2010 年 60 巻 2 号 p. 209-220
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2011/09/01
    ジャーナル フリー
     ヒトサイトメガロウイルス(human cytomegalovirus:HCMV,HHV-5)はヘルペスウイルス科のサイトメガロウイルス属を代表する2本鎖DNAウイルスである.ゲノムサイズは235 kbで,予想されるORFは250に上りヒトヘルペスウイルス中で最大である.幼小児期に不顕性感染し,その後,潜伏・持続感染によって人体に終生寄生する.免疫が脆弱な胎児や臓器移植・AIDS患者などではウイルス増殖による細胞・臓器傷害で生命を脅かし,胎内感染では小頭症,難聴,精神発達遅滞を生ずる.ゲノムには多数のアクセサリー遺伝子が存在し,この多くが免疫回避や細胞死抑制作用に関り,ウイルスはこれらの遺伝子産物を用いて宿主と共生する.潜伏感染が確認されている細胞は骨髄球系前駆細胞である.潜伏感染と再活性化の機構は解明されつつあるが,その分子メカニズムの全貌は未だ明らかではない.本邦では母体の抗体保有率の低下による母子感染の増加が危惧され,経胎盤感染に対する予防策の確立が急務となっている.最近HCMV臨床株特有の血管内皮・上皮細胞への侵入機構が明らかとなり,これを阻止する中和抗体やワクチンの開発が期待されている.さらに,加齢に伴ったHCMV反応性T細胞の増大が,免疫の老化を進行させる最も大きな要因と考えられている.
  • 湯 華民, 定岡 知彦, 森 康子
    2010 年 60 巻 2 号 p. 221-236
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2011/09/01
    ジャーナル フリー
     ヒトヘルペスウイルス6(human herpesvirus 6 : HHV-6)は,小児期のポピュラーな疾患のひとつである突発性発疹の原因ウイルスであり,90%以上の成人の体内に潜伏感染している.近年は,移植後患者におけるHHV-6再活性化による脳炎が問題となっている.また,HHV-6と薬剤過敏症症候群との関連性も示唆されている.
     ヒトヘルペスウイルス7(human herpesvirus 7 : HHV-7)は,健康成人の末梢血単核球から分離されたウイルスであり,HHV-6感染後の突発性発疹を引き起こすことが知られている.両者は,βヘルペスウイルス亜科に属する近縁なウイルスであり,主にT細胞において感染増殖し,子孫ウイルスを形成する.
  • 片野 晴隆
    2010 年 60 巻 2 号 p. 237-246
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2011/09/01
    ジャーナル フリー
     エプスタイン・バーウイルス(Epstein-Barr virus,EBV)とカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(Kaposi's sarcoma-associated herpesvirus, KSHV, human herpesvirus 8, HHV-8)はガンマヘルペスウイルスのメンバーであり,ともにリンパ球に感染し,リンパ腫などの悪性腫瘍の原因となる.8つのヒトヘルペスウイルスの中で発癌と関連する唯2つのウイルスであり,長らく発癌との関連を中心に研究が進んできた点は,他のヒトヘルペスウイルスと大きく異なる.EBVが発見されたのが1964年,KSHVは1994年に発見されたが,KSHVの解析がEBVを参考に急速に進んだ結果,現在,この2つのウイルスに関する知見を比べても30年の差は感じない.近年の2つのウイルスの研究に共通する大きな進歩は,ウイルスの発現するsmall RNAに関する知見が広がったことであろう.EBVとKSHVは他のウイルスに先駆けて,その遺伝子上にマイクロRNAをコードされていることが明らかになった.一方で,腫瘍化との関連についてはいまだに明らかでない部分が多い.本稿ではこれらのウイルスの基本的な知識を要約した上で,近年に明らかになった主なウイルス学的知見を概観する.
トピックス
  • 明石 博臣
    2010 年 60 巻 2 号 p. 249-246
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2011/09/01
    ジャーナル フリー
     口蹄疫は,口蹄疫ウイルス感染による偶蹄類における水疱形成を主徴とする感染症である.口蹄疫ウイルスは,その伝播力の強さと発症率の高さから,国際的な家畜衛生にとって最も重要なウイルスとされている.2010年,宮崎県において2000年以来,10年ぶりに口蹄疫が発生した.2000年の発生と異なり,豚での発生が認められたためもあり,終息までに292例の発生農家において牛37,412頭,水牛42頭,豚174,132頭,山羊14頭,めん羊8頭が殺処分された.流行地域と殺処分を要する動物頭数の拡大のため,緊急のワクチン接種が決定された.ワクチン接種動物も殺処分の対象となり,計76,756頭が殺処分・埋却された.流行は約2.5ヶ月続き,発生から3ヶ月後に全ての移動制限が解除された.流行拡大の要因は幾つか挙げられているが,今後の対策も含めて考えてみたい.
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