ウイルス
Online ISSN : 1884-3433
Print ISSN : 0042-6857
ISSN-L : 0042-6857
63 巻, 1 号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
総説
  • 水谷 哲也
    2013 年 63 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2013/06/25
    公開日: 2014/04/26
    ジャーナル フリー
     2012年にサウジアラビア・カタールで発生した重症呼吸器症患者の原因病原体は,新型のコロナウイルスであった.このウイルスはMiddle East Respiratory Syndrome Coronavirus (MERS-CoV) と呼ばれ,2002年に発生した重症呼吸器症候群(SARS)以来のコロナウイルスによる重症例として注目されている.発生後1年しか経過していないので不明な点は多いものの,MERS-CoVはベータコロナウイルスの2Cグループに属するタケコウモリコロナのウイルス(Bat-CoV HKU4)やアブラコウモリのウイルス(Bat-CoV HKU5)と近縁であることが明らかとなった.このようにコウモリが自然宿主であることが推測されているが,まだ特定に至っていない.最近,ヒトからヒトへの感染が強く疑われるケースが報告され,感染の拡大が懸念されている.
  • 下島 昌幸, 福士 秀悦, 谷 英樹, 吉河 智城, 森川 茂, 西條 政幸
    2013 年 63 巻 1 号 p. 7-12
    発行日: 2013/06/25
    公開日: 2014/04/26
    ジャーナル フリー
     重症熱性血小板減少症候群は新種のブニヤウイルス(重症熱性血小板減少症候群ウイルス)による感染症で,致死率は約12%,主にマダニによって媒介される.これまで中国でのみ報告があったが,国内で昨年秋に亡くなられた方が本疾患に罹患していたことが判明した.後方視的調査の結果,これまでに計8名の方が罹患し内5名の方が亡くなられていたことが明らかとなった.いずれも国内で感染しており,病原体は以前から国内に存在していたと考えられる.
  • 鈴木 亮介, 小西 英二
    2013 年 63 巻 1 号 p. 13-22
    発行日: 2013/06/25
    公開日: 2014/04/26
    ジャーナル フリー
     フラビウイルスは日本脳炎ウイルス,ウエストナイルウイルス,黄熱ウイルス,デングウイルス,ダニ媒介性脳炎ウイルスなどに代表されるフラビウイルス科フラビウイルス属に分類されるウイルスの総称であり,節足動物に媒介されて出血熱や脳炎等の重篤な症状を引き起こす公衆衛生上重要なウイルスが多く含まれている.フラビウイルスの最初の感染性クローンは1980年代後半に報告されたが,ウイルスゲノムのcDNAが大腸菌で不安定な為に,その構築は容易ではなかった.この問題を克服する為に様々な方法が用いられ,現在では多くの感染性クローンを安定的に用いる事が可能となり,ウイルスの基礎研究だけでなく,ワクチンや抗ウイルス薬の開発にも不可欠な基盤技術となっている.本総説では,フラビウイルスのリバースジェネティクス系の開発の経緯とそれらを用いた応用例について概説する.
  • 飯島 沙幸, 田中 靖人
    2013 年 63 巻 1 号 p. 23-32
    発行日: 2013/06/25
    公開日: 2014/04/26
    ジャーナル フリー
     B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus; HBV)は現在も世界的な感染拡大が続いており,依然として大きな問題となっている.Australia抗原が発見されて以来,臨床医学・疫学など様々な方法で研究が続けられてきたが,HBVは感染宿主域が狭く,in vitro, in vivo共に簡便で効率の良い感染実験系が現在に至るまで確立されていない.そのため逆遺伝学:リバースジェネティクスの手法が果たしてきた役割も大きい.我々はB型慢性肝疾患患者から様々な遺伝子型のHBVクローンを樹立し,リバースジェネティクス手法を用いて解析を行ってきた.それらの結果からHBVの病態と遺伝子型の関連性がどのようなものか徐々に明らかになってきた.本稿では我々がHBVについてリバースジェネティクスを用いて解析してきた研究内容について紹介したい.
特集
  • 永井 美之
    2013 年 63 巻 1 号 p. 33-36
    発行日: 2013/06/25
    公開日: 2014/04/26
    ジャーナル フリー
  • 松田 善衛
    2013 年 63 巻 1 号 p. 37-44
    発行日: 2013/06/25
    公開日: 2014/04/26
    ジャーナル フリー
     近年アジアやアフリカでは発展途上国の急速な発展により,今まで見られなかった人と自然界の接触の機会が増すとともに,世界の交通の進歩により人や物資の国際交流が盛んになっている.これらの状況は異種間の病原体の伝播による新興感染症の発生の可能性を高めると共に,ある地域で生じた感染症が短期間の間に世界各地に広がる危険性をもたらしている.中国はその広大な国土と多民族からなる巨大な人口をかかえるうえに,近年急速な経済発展を遂げており上記のような新興感染症の発生地となる条件を持っている.特に2003年のSARSはわれわれの記憶にも新しい.新興・再興感染症対策のためには中国と密接な連携を取ることが重要であると考えられる.ここでは東京大学医科学研究所と中国との間の感染症における共同研究について概説する.
  • 押谷 仁, 齊藤 麻理子, 岡本 道子, 玉記 雷太, 神垣 太郎, 鈴木 陽
    2013 年 63 巻 1 号 p. 45-50
    発行日: 2013/06/25
    公開日: 2014/04/26
    ジャーナル フリー
     東北大学医学系研究科は,感染症研究国際ネットワーク推進プログラム(J-GRID)による感染症研究の拠点を,フィリピン・熱帯医学研究所(Research Institute for Tropical Medicine: RITM)に2008年より設置している.フィリピンの拠点では公衆衛生学的見地からフィリピンにおいて重要な感染症を対象とし,感染症対策に貢献できるような研究を目指すことを基本方針としている.このため研究プロジェクトの多くはフィリピン各地でのフィールドでの研究となっている.これまでに主に取り組んできた研究プロジェクトとしては,小児重症急性呼吸器感染症に関する研究,インフルエンザの疾病負荷に関する研究,狂犬病の分子疫学,小児下痢症患者でのウイルス検索などがある.このうちレイテ島での小児重症呼吸器感染症に関する研究では,重症肺炎で入院した小児のウイルスを中心とした病因の検討を行ってきている.この間,Enerovirus 68が小児重症急性呼吸器感染症の重要な原因であることを見いだした他,Respiratory Syncytial Virus(RSV)の分子疫学的解析,Human Rhinovirus(HRV)の病態の検討などを行ってきた.これらの研究の結果を基盤として,地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)での小児肺炎に関する包括的研究をフィリピンにおいて2010年より行っている.
  • 亀岡 正典, 佐々木 正大
    2013 年 63 巻 1 号 p. 51-58
    発行日: 2013/06/25
    公開日: 2014/04/26
    ジャーナル フリー
     大阪大学微生物病研究所(阪大微研)とタイ保健省医科学局との共同研究拠点として,2005年に日本・タイ感染症共同研究センター(RCC-ERI)が設立された.また,マヒドン大学熱帯医学部との共同研究拠点として,2010年にマヒドン-大阪感染症センター(MOCID)が設立された.RCC-ERIおよびMOCIDにおいて,タイに蔓延する各種ヒト病原性ウイルスについての分子疫学や基礎的研究が実施されている.今回,これらの海外共同研究拠点における研究活動の概要と共に,RCC-ERIにおいて実施したタイ型HIV-1外被蛋白質の性状解析について紹介する.また,JSTとJICAが共同で実施している地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)として,阪大微研はタイ保健省医科学局及びマヒドン大学熱帯医学部を中心としたグループにより2008年より国際連携型共同研究を行っている.本事業では,感染症に対して有効なヒト単クローン中和抗体産生細胞の作製を目的とし,得られた候補について抗体医薬としての応用を目指している.本稿では,本事業の概要と共に本事業にて得られた知見のうち,抗デングウイルスヒト単クローン抗体を中心に紹介する.
  • 内海 孝子, 林祥 剛, 堀田 博
    2013 年 63 巻 1 号 p. 59-68
    発行日: 2013/06/25
    公開日: 2014/04/26
    ジャーナル フリー
     神戸大学では平成19年から文部科学省の「新興・再興感染症研究拠点形成プログラム」(平成22年から「感染症研究国際ネットワーク推進プログラム(J-GRID)」により,インドネシア共和国(以下インドネシア)アイルランガ大学熱帯病研究所に海外研究拠点を設置し,日本人教員が常駐してインフルエンザ,ウイルス肝炎,デング熱等に関する共同研究を実施している.また,平成21年から科学技術振興機構(JST)/国際協力機構(JICA)の「地球規模課題対応国際科学技術協力事業(SATREPS)」により,インドネシア大学医学部に日本人教員が常駐し,同大学及びアイルランガ大学と抗C型肝炎ウイルス(HCV)物質の同定及びHCVならびにデングワクチンに関する共同研究を実施している.本稿では,神戸大学インドネシア拠点形成に至る経緯を振り返り,J-GRID及びSATREPSの各研究課題について,その取り組みと主な成果について紹介する.
  • 山城 哲
    2013 年 63 巻 1 号 p. 69-74
    発行日: 2013/06/25
    公開日: 2014/04/26
    ジャーナル フリー
     長崎大学ベトナムプロジェクト拠点は,2006年に新興・再興感染症研究拠点形成プログラムによってベトナム国立衛生疫学研究所内に設立され,2010年から始まった感染症研究国際ネットワーク推進プログラム(J-GRID)に引き継がれている.日越併せて15人のスタッフが拠点を基盤に活動し,年間約60人程度の研究者が来訪して15の研究課題を実施している.研究だけでなく教育関連施設としても活用され双方で成果を上げつつある.ベトナムプロジェクト拠点では様々なウイルスが研究の対象となっているが,その中で,コウモリにおけるニパウイルス感染の疫学的調査,ナムディンウイルスの発見とその特徴の解析,ベトナムカンホア省におけるデング熱発生リスクに与える影響調査の概説を記した.今後,若手研究者が積極的に拠点を活用できるような永続的な仕組みを作る事が大切である.ベトナムプロジェクト拠点が感染症や熱帯医学分野のキャリアパスの一つとなるような登竜門的な施設になれば良いと思っている.
  • 一瀬 休生
    2013 年 63 巻 1 号 p. 75-78
    発行日: 2013/06/25
    公開日: 2014/04/26
    ジャーナル フリー
     長崎大学熱帯医学研究所ケニア拠点は2005年に文部科学省特別経費によって設立され,現在は「熱帯病・新興感染症臨床・疫学研究プログラム-アフリカと日本を結ぶ教育研究体制の構築-」のため,引き続き活動を継続している.本プロジェクトは日本人スタッフ約20名とケニア人スタッフ85名によって支援され,現在,10分野の研究グループとJICA草の根技協プロジェクト(2012年開始)が拠点を活用しながら,公募研究者と協力して熱帯病・新興感染症の予防治療に資する研究を行っている.2010年4月,長崎大学はケニアに長崎大学アフリカ拠点を併設し,学内他学部の参入を可能にした.現在,歯学部が歯科保健調査をビタ地区で開始する一方,水産学部,工学部,医学部保健学科はビクトリア湖周辺地域で新たなジョイントプロジェクトを計画している.熱帯感染症対策だけではなく,種々の研究分野から研究者が結集して,地域住民の健康増進と生活向上に資するような研究活動が展開できるような基盤つくりに努めていきたい.
  • 井戸 栄治
    2013 年 63 巻 1 号 p. 79-86
    発行日: 2013/06/25
    公開日: 2014/04/26
    ジャーナル フリー
     東京医科歯科大学のガーナ大学・野口記念医学研究所共同研究センターは,文部科学省が2005年に開始した「新興・再興感染症拠点形成プログラム」(第I期)の後半に追加小規模海外拠点として東北大学・フィリピン拠点と共に採択されたことに基づき2008年に設置されている.同プログラムは2010年4月より第II期に入り,名称も「感染症研究国際ネットワーク推進プログラム(J-GRID)」と変え,私たちの共同研究センター(以下ガーナ拠点と呼ぶ)も引き続きその一翼を担うことになって今日に至っている.この野口記念医学研究所で行われている感染症研究は,J-GRIDの他にもう一つあり,それは国際協力事業機構(JICA)と科学技術振興機構(JST)の合同事業である地球規模課題対応国際科学技術協力事業(SATREPS)である.本稿ではこれら2つのプロジェクトを紹介する.
トピックス
平成24年杉浦賞論文
  • 有田 峰太郎
    2013 年 63 巻 1 号 p. 93-102
    発行日: 2013/06/25
    公開日: 2014/04/26
    ジャーナル フリー
     ポリオウイルス(PV)は,1988年からWHOによる全世界的根絶計画が進められている.根絶の終盤で抗ウイルス剤は重要な役割を果たすことが期待されている.PVの複製過程を阻害する細胞毒性の低い化合物を同定するために,我々は化合物ライブラリーから抗PV化合物を同定してきた.興味深いことに,同定された化合物の多くは,既知の抗ピコルナウイルス化合物enviroximeと同じ耐性変異を誘導した(enviroxime様化合物と名付けた).近年,宿主のホスファチジルイノシトール4-キナーゼPI4KBの阻害剤PIK93が抗エンテロウイルス活性を持つことが報告され(Hsu et al., Cell 141:799-811),またPIK93がenviroxime様化合物であることが明らかにされた.我々は新たに同定したenviroxime様化合物T-00127-HEV1が特異的なPI4KB阻害剤であり,PI4KBがエンテロウイルスの複製に特異的な宿主因子であることを明らかにした.抗エンテロウイルス化合物の解析により,感染の予防および治療に有効なターゲットとなりうる新たな宿主因子が同定されることが期待される.
  • 河本 聡志
    2013 年 63 巻 1 号 p. 103-112
    発行日: 2013/06/25
    公開日: 2014/04/26
    ジャーナル フリー
     ロタウイルスは,冬季乳幼児嘔吐下痢症の病因ウイルスである.ロタウイルス胃腸炎により,開発途上国を中心に毎年約45万人の乳幼児が死亡している.先進国においても,ほぼすべての乳幼児が感染し,発症する.これまでに,多くのRNAウイルスにおいて遺伝子操作系(リバースジェネティクス系)が開発され,ウイルスゲノムを任意に改変することでウイルス増殖過程や病原性に関する多くの重要な知見が得られてきた.しかしながら,11本もの多分節2本鎖RNAをゲノムとするロタウイルスでは,過去10余年もの間,精力的な開発の試みが行われたにもかかわらず,如何なる成功も報告されていなかった.我々は,ロタウイルス増殖過程および病原性発現機構の研究を分子レベルで展開させることを目的として,ロタウイルスにおけるリバースジェネティクス系の開発を行ってきた.2006年にヘルパーウイルスを用いた系ではあるが,cDNAに由来するゲノム分節を有する組換えロタウイルスを作製することを可能にするリバースジェネティクス系の開発に世界に先駆けて成功した.このシステムを外殻スパイク蛋白質VP4に応用することで,異なる血清型由来の交差反応性中和エピトープをキメラに発現する組換えロタウイルスおよび,ロタウイルス感染性の獲得に重要な役割を果たすVP4上のトリプシン切断領域にフューリン様プロテアーゼ認識配列を導入した組換えロタウイルスの作製にも成功している.本稿では,これらロタウイルスにおけるリバースジェネティクス系の開発とその応用例,そして今後の展望を紹介したい.
feedback
Top