ウイルス
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65 巻, 2 号
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総説
  • 徳永 研三
    2015 年 65 巻 2 号 p. 173-178
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/10/19
    ジャーナル フリー
     MARCH8は,最近発見されたRINGフィンガー型E3ユビキチンリガーゼのMARCHファミリーに属する11メンバーのうちの1つである.MARCH8は種々の宿主膜貫通タンパク質の発現を低下させるが,その生理的役割は不明である.今回筆者らはMARCH8を新規抗ウイルス因子として同定した.ウイルス産生細胞におけるMARCH8の過剰発現は,レンチウイルスの産生レベルには影響しなかったが,ウイルスの感染性を著しく低下させた.MARCH8はHIV-1エンベロープ糖タンパク質のウイルス粒子への取り込みを,相互作用を介して細胞膜から発現低下させることによって阻害し,結果としてウイルスエントリー効率の大幅な低下を生じさせた.水胞性口炎ウイルスGタンパク質へのMARCH8の阻害効果はさらに顕著であったことから,MARCH8によるエンベロープウイルスの感染阻害が広範囲に渡る可能性が示唆された.MARCH8の内因性発現は単球由来マクロファージおよび樹状細胞で高く,MARCH8を枯渇させたマクロファージから産生されたウイルス粒子の感染性を有意に増加させた.今回の筆者らの知見は,MARCH8が最終分化型のミエロイド系細胞に高発現しており,それがウイルスエンベロープ糖タンパク質のウイルス粒子への取り込みを低下させる強力な抗ウイルス宿主膜貫通タンパク質であることを示すものである.
  • 田鍬 修平, フリードマン ジュディス
    2015 年 65 巻 2 号 p. 179-186
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/10/19
    ジャーナル フリー
     細胞内寄生体であるウイルスにとって,宿主細胞の生体機能を如何に効率よく盗用し自己増殖を成し遂げるかは生存戦略の要である.細胞が備えるタンパク質品質管理機構(Protein Quality control: QC)は,翻訳されたタンパク質を正確に折り畳み(フォールディング),機能的構造の安定化を向上するだけでなく,本来の折り畳みの型から懸け離れ機能不全に陥った異常タンパク質を速やかに排除することで細胞内外のタンパク質恒常性維持に寄与しているが,実に多岐にわたるウイルス種がその生活環の様々なステージにおいてQCを流用している.最近,我々はデングウイルス(DENV)がその生活環において,少なくとも3つの異なるステップでQCの主要分子の一つ,Heat shock protein 70 (Hsp70) を利用すること,そしてその特異性はシャペロンを支えるコシャペロンが規定することを明らかにした.本稿ではDENV生活環における多様なQCの意義について解説する.
  • 渡邊 洋平, 大道寺 寺智, 中屋 隆明
    2015 年 65 巻 2 号 p. 187-198
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/10/19
    ジャーナル フリー
     H5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスのヒト感染例は,1997年に初めて報告されて以来,現在まで世界各地で増え続けている.H5N1ウイルスは,アジアや北東アフリカなど地理的に異なる地域で鳥類における感染流行域を形成し,その継続的なウイルス伝播によって遺伝子的多様性を獲得している.これまでに報告された鳥-ヒト感染例は散発的であるものの,実験動物を用いた感染試験では変異したH5N1が哺乳動物において飛沫感染する可能性が指摘されている.今後,繰り返される鳥-ヒト間伝播によってヒト適応性を獲得した変異ウイルスが選択される可能性があるが,H5N1ウイルスのヒト適応化機構の詳細は,感染患者体内におけるウイルスの適応動態を含めて未だ不明な点が多い.
     本稿では,ウイルス粒子を構成する糖タンパク質であるヘマグルチニン(HA)に焦点を当て,筆者らの成果を含めた最近の解析によって明らかにされつつあるH5N1ウイルスHAの宿主適応性の分子メカニズムを紹介する.
  • 宮下 脩平, 高橋 英樹
    2015 年 65 巻 2 号 p. 199-208
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/10/19
    ジャーナル フリー
     植物は獲得免疫をもたない.その代替として,多数のNB-LRR型免疫レセプターによりそれぞれの病原体を特異的に認識し,抵抗性反応を誘導する機構を持っている.NB-LRR型免疫レセプターをコードする遺伝子は,これまでに植物で報告された優性抵抗性遺伝子(R遺伝子)の大半を占める.本稿では植物ウイルスの認識に関わるNB-LRR型R遺伝子について,抵抗性メカニズム・進化・農業上の利用の観点から概説するとともに,近年明らかになったmiRNAやイントロンによるNB-LRR型R遺伝子の発現調節機構について紹介する.また,NB-LRR型R遺伝子が引き起こす興味深い現象の一つにウイルス感染開始点周辺のプログラム細胞死があるが,それが植物の生存戦略にもたらす意義については明らかでない.これについて,筆者らの実験結果や生態学的見地からの推論をもとに議論する.
  • 福原 敏行
    2015 年 65 巻 2 号 p. 209-218
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/10/19
    ジャーナル フリー
     健全な(病徴のない)イネやピーマンなどの植物(作物)から約15 kbp(千塩基対)の直鎖状2本鎖RNAが頻繁に検出される.これらの2本鎖RNAは,宿主植物のゲノムDNAからの転写物ではなく,巨大な単一のオープンリーディングフレーム(ORF)をコードし,プラス鎖に切れ目(ニック)を有するユニークな2本鎖RNAウイルスであることが塩基配列および分子系統解析により判明し,新たなウイルスとしてEndornaviridae科Endornavirus属に分類された.これらのエンドルナウイルスは,一般的な1本鎖RNAウイルスとは異なり,全ての組織で一定の低コピー数(細胞あたり約100コピー)で検出され,宿主に明確な病徴を与えない.また,日本晴品種などの栽培イネから検出されるエンドルナウイルスでは,花粉や卵から95%以上の高率で次世代に伝播する.すなわち,一般的なウイルスが爆発的に増殖し宿主に病気を引き起こし水平感染するのに対し,エンドルナウイルスは,宿主植物と共生関係を保ち,宿主に病徴を与えず,花粉や卵から効率よく次世代に垂直伝播する究極の共生ウイルスといえる.
  • 森山 裕充, 浦山 俊一, 小松 健
    2015 年 65 巻 2 号 p. 219-228
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/10/19
    ジャーナル フリー
     イネいもち病菌に感染するマイコウイルスのうち,著者らはMoCV1というウイルスを見出した.MoCV1は5本の2本鎖RNAをゲノムとするウイルスで,クリソウイルス属に分類される.スピンカラム精製,RT-PCR,LAMP法などマイコウイルス由来の2本鎖RNAを迅速に検出する方法を駆使する事により,MoCV1関連ウイルスは日本国内にも多数存在することが判明した.本稿ではMoCV1の生化学的な特性やウイルスタンパク質成分が宿主細胞に及ぼす影響,MoCV1を利用した微生物防除資材としての展望や,出芽酵母異種発現系を利用した宿主細胞に対する生育阻害の作用について解説する.MoCV1に感染したイネいもち病菌は,生育不良となり,病原力の低下をもたらすが,それだけではなく病原性の変化を生じさせる要因になることも明らかになりつつあり,この事についても考察する.
  • 大島 一里
    2015 年 65 巻 2 号 p. 229-238
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/10/19
    ジャーナル フリー
     ベイズ法に基づいた分岐年代推定ソフトウェアーを用いて,ウイルスの年代推定が最近盛んに行われている.筆者は世界中から3種の代表的な植物ウイルスを独自に採集し,それらのゲノム塩基配列情報を決定後,ウイルスの拡散経路が農業史や人類移動にどのように関連しているのか,時間軸(タイムスケール)について解析した.農業が開始する以前の世界では雑草などにウイルスが潜んでいたと思われるが,現在は食用作物,特用作物,牧草・芝草,草花,果樹そして野菜と様々な農作物に感染し,現代の人類生存に大きな影響を及ぼしている.野菜は食料として重要であるが,中でも大きな割合を占めるのがアブラナ科の野菜である.多くのアブラナ科植物の起源は地中海沿岸地方を含んだヨーロッパ南部や小・中央アジアと言われている.アブラナ科の野菜に大きな被害を与えている代表的な3種のウイルス,ポティウイルス科ポティウイルス属のカブモザイクウイルス,カリモウイルス科カリモウイルス属のカリフラワーモザイクウイルスそしてブロモウイルス科ククモウイルス属のキュウリモザイクウイルスを取り上げ,植物ウイルス分子進化に纏わる時間軸に関連した新しい知見を解説する.
特集:C型肝炎ウイルス
  • 鈴木 哲朗, 中島 謙治, 千田 剛士, 伊藤 昌彦
    2015 年 65 巻 2 号 p. 239-244
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/10/19
    ジャーナル フリー
     C型肝炎ウイルス(HCV)は肝疾患の主要な原因因子で持続感染しやすく,そのキャリアは我が国だけで約200万人とされている.C型慢性肝炎は進行して肝細胞がん発症に至ることから,早期に診断しHCVを除去するための抗ウイルス治療が求められる.1992年より基軸であったインターフェロン(IFN)療法には不耐容例,難治例などの問題があり治療上制約があった.90年代,培養細胞での強制発現系また精製タンパク質を用いて個々のHCVタンパク質の性状,機能解析が行われ,プロテアーゼ,ポリメラーゼといった創薬標的も見出された.2000年以降,レプリコンシステム及びJFH-1株による複製,感染増殖細胞系の確立に伴いHCV阻害剤スクリーニングが容易になり創薬研究は加速した.2011年,HCVに対する初めてのdirect-acting antivirals (DAA)であるNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤がIFN/リバビリンとの三剤併用療法として認可された.その後,第二世代のプロテアーゼ阻害剤またNS5A阻害剤が登場しIFNフリー,DAAのみによる治療法も開始された.さらにNS5Bポリメラーゼ阻害剤が承認され,IFNフリー療法の選択肢も増えた.C型肝炎は「免疫応答での排除は難しいにもかかわらず,効果的な抗ウイルス薬によって排除・治癒が期待できるようになった歴史的に初めての感染症」の局面に入ったと言える.
  • 深澤 征義
    2015 年 65 巻 2 号 p. 245-254
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/10/19
    ジャーナル フリー
     抗C型肝炎ウイルス(HCV)戦略として,近年,ウイルス因子を標的とした薬剤(Direct-acting antiviral agents; DAA剤)による治療法が大きな成功を収めつつある.しかし,耐性ウイルス等の問題も考えられ,宿主因子を含めた新たな標的に対する薬剤開発も推進すべきと思われる.宿主肝細胞内へのHCVの侵入には,CD81,SRBI,Claudin-1,Occludin等の宿主分子が関与することがわかってきている.本稿では,これまで我々が取り組んできたClaudin-1を標的とした抗HCV戦略について紹介したい.また,HCV侵入過程に関わる宿主因子を標的とした薬剤開発研究についても概括する.宿主侵入因子を標的とする抗HCV戦略は,特に,移植時の感染阻止やDAA剤との併用において有用であると考えられる.
  • 小原 恭子, 小原 道法
    2015 年 65 巻 2 号 p. 255-262
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/10/19
    ジャーナル フリー
     C型肝炎ウイルス(HCV)感染者は全世界で1億7千万人以上に上り,慢性肝炎から肝硬変,肝癌へと進展する脅威にさらされている.近年ウイルスのプロテアーゼやRNAポリメラーゼを標的としたdirect acting antivirals (DAA)が開発され,治癒が可能となってきた.しかしながら,変異株出現の問題や,HCVをDAAで排除しても肝癌が発生する事,さらにはDAAが非常に高価である事等から,依然として新薬の開発やワクチン開発は急務である.そのためには,有効なHCV感染動物モデルが必須である.そこで本稿では,これまで行われてきたHCV感染動物モデルを用いた研究と今後の展開について紹介する.
  • 勝二 郁夫, 鄧 琳, 松井 千絵子, 堀田 博
    2015 年 65 巻 2 号 p. 263-268
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/10/19
    ジャーナル フリー
     C型肝炎ウイルス (HCV) 感染は慢性肝炎,肝硬変,肝細胞癌などの肝内病変だけでなく,甲状腺炎,糖脂質代謝異常,鉄代謝異常などの多彩な肝外病変を引き起こす.その中でもHCV感染は2型糖尿病との合併が有意に多く,肝線維化や慢性肝疾患の予後と密接な関係がある.また,HCV感染において2型糖尿病の合併は肝癌のリスクを増大する.我々はHCV感染による糖代謝異常の分子機序を解析する中で,1) HCV感染が細胞内の転写因子forkhead box O1 (FoxO1) を介して糖新生を亢進させること, 2) HCV感染がglucose transporter 2 (GLUT2)の発現を抑制させ,糖の取り込み抑制を引き起こすことを報告してきた.また,この2つの経路において,HCV NS5A蛋白質が重要な役割を担うことを見いだした.本稿ではHCV感染に伴う糖代謝異常の分子機序とHCV NS5A蛋白質の役割について解説する.
  • 福原 崇介, 松浦 善治
    2015 年 65 巻 2 号 p. 269-276
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/10/19
    ジャーナル フリー
     C型肝炎ウイルス(HCV)の慢性感染は脂質代謝異常を惹起するが,HCVが効率よく感染し増殖するために,脂質代謝系を様々な局面で利用していることが明らかになってきている.血清中のHCV粒子は中性脂肪やコレステロールを多く含み,様々なリポ蛋白質と結合して,Lipoviroparticlesと呼ばれている.ウイルス粒子に結合したリポ蛋白質は,それらの受容体であるSR-B1やLDLRを利用して,HCVの細胞への侵入にも関与している.さらに,ヌクレオキャプシド形成の足場として細胞質内の脂肪滴を利用することが報告されており,小胞体内腔に出芽したウイルス粒子は,両親媒性のヘリックス構造を持つアポリポ蛋白質(Exchangeable Apolipoproteins)を纏って,細胞外へ放出されることが明らかになっている.このように,HCVは感染環の様々なステップで,脂質代謝系,特にリポ蛋白質の輸送系をハイジャックしながら持続感染していると考えられる.本稿では,我々の成績を中心にして,HCV感染における脂質代謝系の役割を検証し,感染指向性や創薬標的の可能性について考察する.
  • 政木 隆博, Stanley M. Lemon
    2015 年 65 巻 2 号 p. 277-286
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/10/19
    ジャーナル フリー
     microRNA-122(miR-122)は肝臓に高発現している小分子非翻訳RNAで,通常は,他のmiRNAと同様にArgonaute-2(AGO2)タンパク質などとともに複合体を形成後,標的mRNAの3'非翻訳領域(untranslated region: UTR)に結合し,翻訳を抑制あるいはmRNA分解を促進することにより遺伝子発現を負に制御する.一方,HCVはゲノムRNAの5’ UTRに2カ所のmiR-122結合部位を有し,この部位へのmiR-122/AGO2複合体の結合は,典型的なmiRNA機能とは異なりウイルスRNAを安定化し,その分解を阻害することが示されている.最近我々は,HCV RNA分解に関与する主たる宿主細胞性因子として5’-エキソヌクレアーゼであるXRN1を同定し,miR-122/AGO2複合体はXRN1のエキソヌクレアーゼ活性に拮抗することでウイルスRNAを安定化することを明らかにした.さらに,miR-122にはHCV RNAの安定化作用以外にも,ウイルスゲノムRNAの可用性を翻訳からRNA合成過程に移行することでウイルスRNA合成を直接増強する作用があることを見出した.本稿では,我々の最近の知見を交えmiR-122によるHCVゲノム複製の制御機構について解説する.
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