ウイルス
Online ISSN : 1884-3433
Print ISSN : 0042-6857
ISSN-L : 0042-6857
66 巻, 2 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
総説
  • 武村 政春
    2016 年 66 巻 2 号 p. 135-146
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
     ミミウイルスは,その粒子径やゲノムサイズが巨大なだけでなく,複数の翻訳関連遺伝子が発見されたこと,細菌がもつファージ耐性機構であるCRISPER Cas システムと同様のシステムをヴァイロファージ耐性機構として保有することで注目された.ミミウイルスは,ファゴサイトーシスによりアカントアメーバ細胞内に侵入すると,スターゲート構造を開け,ゲノムDNA をアカントアメーバ細胞質中に放出し,巨大なウイルス工場を形成する.ウイルス工場ではミミウイルスDNA が複製され,その周辺部に集積したカプシドタンパク質,小胞体に由来する脂質二重膜成分をウイルス粒子として取り込みながら,大量に増殖する.マルセイユウイルスは巨大ウイルスの中では小型で,ファゴサイトーシスあるいはエンドサイトーシスによってアカントアメーバ細胞内に入ると,ミミウイルスよりも大きなウイルス工場をアカントアメーバ細胞質に形成し,大量に増殖する.飛びぬけて大きな粒子径,ゲノムサイズを持つパンドラウイルスは,ファゴサイトーシスによりアカントアメーバ細胞内に侵入し,ゲノムDNA を開口部を通じてアカントアメーバ細胞質中に放出する.そして細胞核を壊し,核膜成分を自身の脂質二重膜として取り込みながら,細胞核の“跡地”周辺で増殖する.
  • 古谷 哲也, 森川 茂, 宮沢 孝幸
    2016 年 66 巻 2 号 p. 147-154
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
     ネコモルビリウイルス(feline morbillivirus : FeMV)は2012年に香港で初めて発見され,ネコの慢性腎不全(尿細管間質性腎炎)との関連が示唆された.FeMVはモルビリウイルス属に分類されているが,他のモルビリウイルスのグループから遺伝的に離れており,感染標的組織や病原性にも違いがある.FeMVは世界各地で検出されており,遺伝的多様性に富んでいる.その一方で,遺伝的に極めて近縁な株が遠く離れた場所でみつかっており,伝播経路については不明である.FeMV発見後の研究でも,疫学的にFeMVと腎疾患や下部尿路疾患との関係が示唆されているが,感染実験で疾病が再現されておらず,FeMVの病原性については不明な点も多い.FeMVの診断には,核酸検査と抗体検査が用いられているが,検査法は統一されておらず,感度や特異性についての検討もなされていない.FeMVの疫学調査や病態解明のためには,簡便で特異性が高い核酸検査法や抗体検査法の開発が望まれる.FeMVは慢性疾患を引き起こすモルビリウイルスとしてウイルス学的見地からも興味深いが,慢性腎疾患というネコにとってもっとも重要な疾病の一つに関わるため,獣医学的にも重要であり,今後の研究が期待される.
特集1 新学術領域「ネオウイルス学」の紹介
  • 〜ウイルスのレゾンデートルを探る!〜
    渡辺 登喜子, 河岡 義裕
    2016 年 66 巻 2 号 p. 155-162
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
     地球上には膨大な数のウイルスが存在しており,多くのウイルスが宿主において病気を起こすことなく共存している.これまで宿主にとって「害」であると見なされてきたウイルスの感染が,宿主のゲノム進化や生体機能に有利に働くことを示唆する最近の研究結果は,ウイルス学の既成概念を大きく覆そうとしている.これまでのウイルス学では,病原微生物であるウイルスを対象とした研究に偏重しており,自然界でのウイルスの存在意義を解明する自然科学的な研究はあまり行われてこなかった.新学術領域「ネオウイルス学」では,ウイルスを地球生態系の構成要素の一つとして捉え,生態系におけるウイルスのレゾンデーテル(存在意義)を探ることを目指す.
特集2 現代社会の環境とウイルス
  • 片山 浩之
    2016 年 66 巻 2 号 p. 163-170
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
     水環境中のウイルスに関する研究は,PCR法の発達に伴い大いに進展がみられた.現在では,ノロウイルスをはじめ,様々なウイルスが河川,海水,下水処理や浄水処理において測定可能になってきており,河川水中にノロウイルスが1000copy/L程度は存在しうることがわかってきている.一方で,定量性のさらなる向上については課題が残っている.また,水浴における感染リスクについては規制が遅れており,科学的知見に基づく管理体制を構築していく必要がある.
  • 源 利文
    2016 年 66 巻 2 号 p. 171-178
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
     環境中のDNA情報から微生物だけでなくマクロ生物の生態を読み解こうとする「環境DNA分析」と呼ばれる技術が急速に発展している.環境DNAとは水や土などの環境媒体に含まれるDNAの総称であり,生物体そのものに含まれるDNAや,糞や体表粘液などを介して放出されたマクロ生物の生体外DNAを含む.環境DNAの分析には大きく分けて,種特異的検出とメタバーコーディングの2種類の手法があり,目的によって使い分けられる.適用可能な対象は微生物から脊椎動物まで,遺伝子としてDNAをもつあらゆる生物(ここではウイルスを含む)であり,川や池などの陸水域だけでなく海域への適用も報告されている.本稿ではマクロ生物の環境DNA分析の現状を紹介するとともに,ウイルス学をはじめとする感染症の研究分野への応用可能性,およびそのために解決すべき課題について述べる.
  • 佐野 大輔
    2016 年 66 巻 2 号 p. 179-186
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
     ノロウイルスやロタウイルスに代表される胃腸炎ウイルスは,ヒト-ヒト間の感染に加えて,水や食品,もしくはドアノブなどの環境表面を介して感染するため,感染制御のためには感染者との接触を避けるだけでなく,胃腸炎ウイルスに汚染された水,食品及び環境表面の適切な消毒が求められる.本稿の著者らは,これまでの研究において,胃腸炎ウイルスの消毒剤感受性や水環境中動態に影響を与えうる存在として,血液型決定抗原(Histo-blood group antigen: HBGA)陽性細菌に着目してきた.本稿では,HBGA陽性細菌に関わる研究事例をまとめ,胃腸炎ウイルスの生活環に与える影響について,これまでに報告されている内容を紹介する.
feedback
Top