ウイルス
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68 巻, 1 号
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総説
  • 林 昌宏
    2018 年 68 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/05/18
    ジャーナル オープンアクセス
    ジカウイルスは1947年にウガンダのジカの森で囮動物であるアカゲザルから分離されたフラビウイルス科フラビウイルス属のウイルスであり,主にネッタイシマカやヒトスジシマカ等のシマカ属の蚊によって媒介される.主な症状は発熱,発疹,間接痛であり,その流行域および症状からデング熱およびチクングニア熱の重要な鑑別疾患である.ジカ熱はこれまでにアフリカから東南アジアにかけて散発していたがヒトの症例報告はわずかであった.しかしながら2007年にミクロネシアで再興しその流行は南太平洋諸島から米州に拡大した.近年のジカウイルス感染症の流行ではギラン・バレー症候群との関連および経胎盤感染による先天性ジカウイルス感染症が問題となっており,国内外でジカワクチンの開発が進められている.我が国では2013年末から輸入症例が報告されており,媒介蚊であるヒトスジシマカが本州以南に生息するため,その浸淫の可能性は否定できない.ジカウイルス感染症は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」で4類感染症に指定されており,当該患者を診断した医師はただちに保健所を経由して都道府県知事に届け出ることが求められる.
  • 石橋 和大, 石川 雅之
    2018 年 68 巻 1 号 p. 13-20
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/05/18
    ジャーナル オープンアクセス
    植物はウイルスに対する多重の防御機構を備えており,ウイルスが植物にとって生存上の脅威であったことが推察できる.農作物の栽培では遺伝的に均質な植物の集団を密植するため,ウイルス病は壊滅的な被害をもたらす場合がある.一方,作物の近縁野生種等の遺伝的多様性に富んだ集団からは,一遺伝子でウイルス抵抗性を付与する「ウイルス抵抗性遺伝子」が見つかることがあり,これらの抵抗性遺伝子は耐病性農作物品種の育種に利用されてきた.これまでに20以上のウイルス抵抗性遺伝子がクローニングされたが,その半数以上が類似の一次構造を有しており,植物の自然免疫機構における受容体として働くことが示唆されている.一方,近年これとは異なる配列をもつ抵抗性遺伝子が相次いで同定されている.これらの遺伝子は配列も機能も多様であり,各植物種が比較的最近独自に獲得したものと考えられる.本稿では,これらの植物ウイルス抵抗性遺伝子が担う抗ウイルス防御機構の多様性について話題提供したい.
特集:ウイルス感染症ワクチンの最前線
  • 渡辺 大輔
    2018 年 68 巻 1 号 p. 21-30
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/05/18
    ジャーナル オープンアクセス
    帯状疱疹はヘルペスウイルス属に属する水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus : VZV)の再活性化による病態であり,片側の支配神経領域に一致した疼痛と小水疱の帯状の集簇を特徴とする.帯状疱疹は皮膚だけの疾患ではなく頭頸部領域に発症すると眼科合併症やHunt症候群を,また稀ではあるが脳炎や,髄膜炎をおこすこともある.皮疹治癒後も痛みが長期にわたって続く帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia: PHN)は患者のQOLを著しく低下させる.米国では10年以上前から帯状疱疹生ワクチンの接種が始まり,ヨーロッパやオーストラリアでも使用可能になっているが,2016年3月から我が国でも水痘ワクチンの帯状疱疹予防目的での使用が可能となった.一方,水痘帯状疱疹ウイルス糖タンパクEとAS01B アジュバントを含む新規帯状疱疹サブユニット候補ワクチン(shinglix)は,2つの大規模国際共同試験(ZOE-50 及び ZOE-70)で帯状疱疹およびPHNの発症を 90% 以上減少させることが報告された. 本項では帯状疱疹の疫学,病態や合併症について述べるとともに,生ワクチンの現状の問題点,さらに最近わが国でも認可された新規サブユニットワクチンについて解説したいと思う.
  • 染谷 雄一, 清水 博之
    2018 年 68 巻 1 号 p. 31-40
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/05/18
    ジャーナル オープンアクセス
    経口弱毒生ポリオワクチンに用いられるセービン株ポリオウイルスから製造された不活化ポリオワクチンは,世界に先駆け,わが国で初めて定期接種ワクチンとして実用化された.セービン株は弱毒化されたウイルスであることから,野生株から不活化ワクチンを製造するよりも比較的安全であるという考えのもとにセービン株由来不活化ワクチンの開発が進められてきた.また,品質管理試験のひとつ(ラット免疫原性試験)においてもセービン株を用いてワクチンの有効性を評価する方が安全性が高い.しかしながら,世界ポリオ根絶が目前に迫ってきた現在においては,野生株,ワクチン株に関わらず,ポリオワクチン製造や品質管理試験を行う施設では,ポリオ根絶最終段階戦略計画2013-2018に基づいて,WHOにより求められているバイオリスク管理規準に準拠したポリオウイルスの取扱いが必要とされる.現時点では,ワクチン株を含むすべての2型ポリオウイルスが封じ込め対象である.2型ポリオウイルス感染性材料を取扱い,保有する施設では,作業従事者ばかりでなく,環境・地域社会へのウイルス伝播のリスク評価に基づいたリスク管理対策の整備が必要とされる.その後,2型ポリオウイルス取扱い施設は,WHOにより示された施設認証計画に従い,施設認証を受ける必要がある.
トピックス
  • 西條 政幸
    2018 年 68 巻 1 号 p. 41-50
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/05/18
    ジャーナル オープンアクセス
     新規フレボウイルスによる感染症,重症熱性血小板減少症候群[severe fever with thrombocytopenia syndrome(SFTS)]が中国で発見され学術論文に発表されてから約7年が, SFTSが日本でも流行していることが発見されてから約6年が経過した.現在,SFTSが流行している地域は東アジア(中国,韓国,そして,日本)である.SFTSはマダニが媒介する感染症であり,原因ウイルス(SFTSウイルス,SFTSV)は自然界においてはシカなどの哺乳動物とマダニ(フタトゲチマダニ等)との間で維持されている.SFTSVを有するマダニに咬まれた人の一部でSFTSVに感染が成立し,SFTSを発症する.SFTSVは動物とマダニのサイクルの中で存在し続けることから,私たちはSFTSVに感染するリスクから逃れることはできない.症状(致命率を含む),病態,感染経路,病原体の特徴を鑑みると,SFTSはクリミア・コンゴ出血熱[Crimean-Congo hemorrhagic fever,(CCHF)]に類似し,その意味ではSFTSはCCHFがウイルス性出血熱に含まれるのと同様にウイルス性出血熱に分類されるべき疾患である.中国,韓国,日本の研究者をはじめ,多くの研究者によりSFTSの疫学,臨床的特徴,発症病理,検査,抗ウイルス薬(特にファビピラビル)による治療および抗ウイルス薬やワクチンによる予防法の開発,ウイルス学,SFTSVと自然免疫に関する研究成績が発表されている.日本ではファビピラビルのSFTSに対する治療効果を調べる臨床研究が開始された.SFTSやSFTSVに関する研究が進むことで治療や予防が可能になることが期待される.
  • 谷 英樹, 浦田 秀造
    2018 年 68 巻 1 号 p. 51-62
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/05/18
    ジャーナル オープンアクセス
     アレナウイルスはアレナウイルス科に属するウイルスの総称で,ほぼヒトに病原性を示さないリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)から,ヒトに高い病原性を示すラッサウイルス,フニンウイルス,マチュポウイルス,チャパレウイルス,ルジョウイルス,サビアウイルス,グアナリトウイルスまで数多く存在する.上記のうちLCMV以外は,世界保健機関(WHO)の定めるリスクグループ4の病原体であり,これに基づき日本でも一種病原体に指定されている.日本ではこれまでにラッサ熱患者の一輸入例を除き,患者の発生は認められていないものの,2014-16年に起こった西アフリカ地域でのエボラウイルス病アウトブレイクのように,いつ我が国で輸入症例が発生しても不思議ではない状況にある.病状や重篤性を考えると,流行地域でのワクチンや治療薬の整備は喫緊の課題であり,流行地域以外の国においてもこれらを整備しておくことは重要である.しかしながら,高病原性アレナウイルス感染症に対する基礎研究や治療薬の開発は,病原体の性質上,高度安全研究施設での取り扱いが必須となり,なかなか進んでいない.本稿では,最近のアレナウイルス全般の基礎研究と抗ウイルス薬の開発状況について概説する.
平成29年杉浦賞論文
  • 福原 崇介
    2018 年 68 巻 1 号 p. 63-70
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/05/18
    ジャーナル オープンアクセス
     C型肝炎ウイルス(HCV)は狭い宿主域と高い臓器親和性を示す.一方,HCV感染は肝障害のみならず,種々の肝外病変を発症することが知られており,HCVの組織指向性を決定する機構に関しても不明な点が多い.これまでに我々は,HCVゲノムの複製を亢進する肝臓特異的なmicroRNAであるmiR-122がHCVの効率的な複製に重要であること,HCVの感染性粒子形成に肝臓に高発現するアポリポ蛋白質が関与することから,これらの因子がHCV感染の肝臓指向性の決定因子であることを明らかにした.さらに,非肝臓組織でも僅かにHCVが増殖していることが知られていたが,非肝臓細胞では肝細胞とは異なる宿主因子を用いて,ウイルスの増殖を可能にしていることが明らかになった.これらの結果からHCVが個体内の様々な組織で巧みに宿主因子を利用するように進化したことが予想される.
  • 山吉 誠也
    2018 年 68 巻 1 号 p. 71-78
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/05/18
    ジャーナル オープンアクセス
     RNAウイルスのゲノムには限られた数のウイルス蛋白質のみがコードされているため,RNAウイルスは増殖過程の多くを宿主細胞の機能に依存している.RNAウイルスの増殖に寄与する宿主蛋白質を解明することは,基礎的なウイルス学研究のみならず,抗ウイルス薬の開発などの応用的研究にも貢献し得る.  筆者らは,マイナス鎖RNAウイルスであるエボラウイルスの膜蛋白質VP40の細胞質内輸送に宿主のCOPII輸送が関与すること,プラス鎖RNAウイルスのエンテロウイルスA71の感染受容体がSCARB2であること,分節型RNAウイルスであるインフルエンザウイルスのゲノムRNAの核内での輸送に宿主蛋白質CLUHが寄与することを明らかにした.本稿では,それらの知見について紹介したい.
  • 好井 健太朗
    2018 年 68 巻 1 号 p. 78-88
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/05/18
    ジャーナル オープンアクセス
     人や動物に病原性を示すダニ媒介性フラビウイルスの多くは,媒介節足動物であるマダニの吸血後に末梢組織で増殖し,中枢神経系に侵入して脳炎による重篤な症状を示す.しかしこれらのウイルスがどのようにして中枢神経系で病原性を発現していくのか,その機序は殆ど不明である.本稿では,ダニ媒介性フラビウイルスの神経細胞での特徴的なウイルス複製のメカニズムとそれによる神経病態の発現についての知見を,我々の研究成果を中心に概説する.
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