健康なビーグル犬(6~40カ月齢,体重7.0-12.0kg)100頭を用い,無麻酔下の右側横臥位にて肢誘導による心電図記録を行い,イヌにおけるT波の形状やQT間隔の変化およびQT間隔とRR間隔との相間について検討した。
1.イヌ心電図におけるT波には,陽性,陰性,二峰性,二相性あるいはほとんど平坦なT波など様々な形状のものがみられた。また,T波の形状が短時間に陽性T波から二相性T波に変化し,再度陽性T波にもどる個体もみられた。
2.96頭のイヌの心電図で,比較的高振幅のT波がみられたのは,II,IIIおよびaVF誘導であった。T波の極性については,陽性T波は主としてII,IIIおよびaVF誘導で,陰性T波はI,aVRおよびaVL誘導で観察された。
3.4頭のイヌについて,2~4分間の連続的な心電図記録を2日間行い,記録開始からのRR間隔およびQT間隔の経時的推移を調べた。RR間隔は,これら4頭の中で2頭が,記録開始から徐々に延長し,他の2頭では記録開始から終了まで,ほとんど変わらなかった。QT間隔は,4頭とも徐々に延長する傾向にあった。
4.4頭のイヌについて,1日2~4分間,5~7日間にわたり繰り返し心電図記録を行い,個体別に約1000個のQT間隔とRR間隔の相関を検討した結果,相関係数の高い個体と,きわめて低い個体がみられた。これら個体別の心電図の4~8秒間のQT間隔とRR間隔の平均値を算出し,この平均値について相関を調べたところ,その相関係数は個々のQT間隔およびRR間隔の場合より明らかに高くなった。
本試験においてT波は個々のイヌで種々の形状を示し,記録中にも変化する個体がみられた。さらに,QT間隔についても,短時間の記録中に変化することから,イヌでT波やQT間隔を問題にする場合には,それらの特性に関する詳細な検討が必要であると考えられた。
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