僧帽弁弁膜症(MVE)罹患犬における心筋組織形態の変化を明らかにする目的で,悪性腫瘍その他の原因で死亡した犬の心臓23例を,MVE病変の程度によって非MVE犬群(MVE病変の認められない犬5例),軽度MVE犬群(6例),中等度MVE犬群(8例),重度MVE犬群(4例)に分類し,心臓重量・体重比(g/100 g),左心室重量・体重比(g/100 g),左心室重量・心臓重量比,左心室壁面積・体重比(cm
2/100 g),左心室内腔面積・体重比(cm
2/100 g),左心室内腔面積・左心室壁面積比,左心室壁厚・体重比(cm/100 g),左心室心筋細胞断面積について計測/算出した。また,生前の臨床データならびに左心房心内膜の噴流病変と僧帽弁の腱索断裂の有無に基づいて僧帽弁逆流(MR)の有無を判別し,21例の心臓を非MR若齢犬群(MRの認められない若齢犬5例;5.0±2.5歳),非MR高齢犬群(MRの認められない高齢犬6例;12.5±2.2歳),MR犬群(10例;12.3±4.6歳)に分類し,左心室心筋組織におけるコラーゲン容積% を計測した。その結果,心臓重量・体重比,左心室重量・体重比は弁膜病変が重度になるに従って漸次高値を示したが,左心室重量・心臓重量比は変化しなかった。左心室内腔面積・体重比は重度MVE犬群においてのみ有意に高い値を示した。左心室壁面積・体重比,左心室壁厚・体重比は弁膜病変の進行に伴って漸次高値を示した。左心室内腔面積・左心室壁面積比は非MVE犬群,軽度MVE犬群,中等度MVE犬群と漸次低値を示したが,重度MVE犬群では中等度MVE犬群に比べて有意に高い値を示した。左心室心筋細胞断面積は,軽度MVE犬群と中等度MVE犬群が非MVE犬群に比べて有意に大きかったが,重度MVE犬群は非MVE犬群と同レベルの値を示した。コラーゲン容積% については,MR犬群は非MR若齢犬群よりも大きい傾向を示したが,非MR高齢犬群より有意に小さかった。以上の結果から,MVE罹患犬の心臓では,左右両心室がおおむね均等に肥大すること;MVE病変の進行に伴って左心室壁厚の増加と左心室内腔の相対的狭小化がみられるが,MVE病変が重度となり代償不全に陥った心臓では左心室内腔が著しく拡張すること;左心室心筋細胞の断面積はMVE病変の進行に伴って増加するが,非代償性遠心性肥大の段階では減少に転じること;左心室心筋組織のコラーゲン容積% はMRに伴う容量負荷の増大により減少することが明らかになった。
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