ウマの臨床において時折遭遇するカルシウム剤静注後のショック様症状もしくは突然死の実態を明らかにする目的で,心電図所見を中心にカルシウム剤静注による心臓機能の影響について検索した。
供試馬5頭を用い,3種の実験を行なった。すなわち,1)対照実験:生理食塩水200mlだけを静注する実験。2)カルシウム投与実験:2%,5%ならびに10%塩化カルシウムを静注する実験。3)強心配糖体+カルシウム投与実験:カルシウムの心臓に対する作用を増強させるために強心配糖体(万年青から抽出したロデアリン
)20mlとカルシウムを併用静注する実験である。供試馬は馬房内に無拘束の状態で,薬物投与前から投与後60分までの心電図をテレメータにより連続的に記録した。
カルシウム投与実験において,Q-T時間の短縮,第2度房室ブロック,心室性期外収縮および上室性頻拍の出現などがみられたが,その程度はカルシウム塩濃度の高い場合に重篤であった。さらに強心配糖体とカルシウムの併用投与では,洞房ブロック,房室ブロック,洞性頻脈,上室性頻拍が出現し,シヨック様症状の発現をみた。
以上の成績から,ウマにおいてカルシウム剤静注後にみられるシヨック症状もしくは突然死は,心臓機能異常(急性心不全)によるものであろうと推論した。
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