妊娠経過を異にする6例の乳牛および1例の妊娠馬についてそれぞれ外科的手術の目的で抱クロを静脈内注射した。これらのうち一部は抱クロ投与後の妊娠経過,分娩および新生仔について臨床的観察を試み,一部は抱クロ投与中の母体と胎児の心電図学的観察を行ない,その後の妊娠経過等の観察を行なって抱クロの影響をしらべた。成績の概要は次の如くである。
1)妊娠60日,131日,210日および270日のホルスタイン種乳牛4例に5%抱水クロラールリンゲル液としてそれぞれ抱クロ実量60g,70g,50gおよび35gの静脈内注射を行なった。1例の骨折殺処分例を除きいづれも妊期を全うし正規分娩により正常犢の娩出をみた。殺処分例は分娩予定日2週間前まで正常の妊娠経過であった。
妊娠150日のサラブレッド種妊馬に,腱断裂手術のため,抱クロ45gの静注を行なった。本例は妊娠経過の異常はなく正規分娩による正常駒の娩出をみた。
2)妊娠176日および192日のホルスタイン種乳牛に外科的手術のためそれぞれ65gの抱クロ静脈内注射を行ないその前後の母体および胎児心電図を観察した。母体の心拍数は注射開始とともに急速に増数し覚醒後も持続した。胎児心拍数は軽度の増数をみたのみで覚醒起立後は注射前の値にもどった。母体心電図では心拍増数に伴うTP間隔の短縮,T波振幅の増加および1例に軽度のST変化がみられた。母体および胎児心拍リズムはとくに重度の不整や徐脈等は示さなかった。なお両例とも妊期を全うし正常犢の娩出をみた。
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