日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
17 巻, 5 号
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原著
  • 正木 久男, 田淵 篤, 柚木 靖弘, 稲垣 英一郎, 久保 裕司, 湯川 拓郎, 種本 和雄
    2008 年 17 巻 5 号 p. 539-544
    発行日: 2008/08/25
    公開日: 2008/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    2000年 7 月から2005年12月までに当科で末梢側がカフ形状したリング付ePTFEグラフト(DistafloTM)を使用した下肢閉塞性動脈硬化症の98例125本を対象とし,治療成績を検討した.年齢は53~83歳,平均71歳,男性87例,女性11例で,症状は間歇性跛行95肢,安静時疼痛18肢,潰瘍12肢で,その中で急性動脈閉塞症は 6 例(6.1%)であった.バイパスの内訳は,大腿—膝上部膝窩動脈バイパス105本,大腿—膝下部膝窩動脈バイパス11本,その他 9 本(閉鎖孔バイパス 2 本,対側大腿—膝上部膝窩動脈バイパス 2 本,大腿—前脛骨動脈バイパス 1 本,大腿—後脛骨動脈バイパス 2 本,腋窩—大腿動脈バイパス 1 本,大腿—大腿交叉バイパス 1 本)で,人工血管のサイズは,7mm 102本,6mm 23本であった.術後早期合併症は,吻合部出血 1 例,グラフト感染 2 例,myonephropathic metabolic syndrome(MNMS)2 例であった.病院死亡は 2 例で,すべてMNMSで死亡した.一次開存率では,末梢側吻合が膝上部で,3 年88%,5 年88%,末梢側吻合が膝下部で 3 年64%,5 年64%であった.累積開存率は従来の人工血管より良好であるが,その要因として抗血栓性に優れている点や吻合部内膜肥厚が発生してもカフ状になっているため有意な狭窄とはならずに経過している点が挙げられた.今後は他のグラフトとのprospective studyで検討する必要がある.
  • 進藤 俊哉, 本田 義博, 本橋 慎也, 葛 仁猛, 加賀 重亜喜, 井上 秀範, 緒方 孝治, 松本 雅彦
    2008 年 17 巻 5 号 p. 545-550
    発行日: 2008/08/25
    公開日: 2008/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    【背景】他科で行う手術において血管処理が困難であったり,切除や再建が必要になったりする場合は,血管外科医と協同で手術を行うことがある.自験例を検討し,どのような状況で必要であったかを分析し検討を加えた.【方法】1992年から現在までに他科の手術患者で血管外科手術手技を必要とするため協同で手術を行った患者28例につき検討した.産婦人科 6 例,泌尿器科 3 例,小児外科 1 例,耳鼻科 1 例,整形外科 1 例,消化器外科16例であった.これらの患者に対し,術中血管損傷例は損傷血管の修復を,動注ポートトラブル例にはポート抜去と血管修復またはバイパスを,悪性腫瘍の血管浸潤に対しては血管合併切除と血行再建を行った.【結果】血管損傷は全例修復し得たが,静脈損傷による出血のコントロールが動脈より困難であった.感染したポート留置患者の死亡率は40%と高かったが,感染のない患者では死亡例はなかった.悪性腫瘍の血管合併切除例は,拡大切除による合併症や死亡率の増加はなかったが,QOLの改善は得られたものの,腎癌以外は遠隔期成績の改善は困難であった.【結語】他科に必要とされる血管外科手術手技は,1)術中の血管損傷,2)カテーテル留置に伴う血管関連合併症,3)悪性腫瘍切除に伴う血管切除・再建,に分類される.感染を伴う血管関連合併症の予後は不良である.悪性腫瘍の血管合併切除は安全に行えるが,生命予後の改善は現時点で明確なのは腎癌のみと思われた.
  • 波多野 稔, 新見 正則, 堀口 定昭, 小池 洋介, 河原 真理, 河野 道貴, 白土 裕之, 白杉 望, 宮澤 幸久
    2008 年 17 巻 5 号 p. 551-556
    発行日: 2008/08/25
    公開日: 2008/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    【はじめに】これまでの大伏在静脈のストリッピングは鼠径部および下腿の 2 カ所の創を必要とした.今回われわれは鼠径部 1 カ所の創で膝下までの大伏在静脈のストリッピングが可能なストリッパー:InvisiGrip(LeMaitre Vascular, Inc., Germany)を使用する機会を得たので,その使用経験を報告する.InvisiGripは内翻式ストリッパーの一種で,その特徴は,鼠径部 1 カ所の創で膝下までの大伏在静脈を抜去することができる.また,ストリッピング後の血腫が少ないとされている.【対象と方法】今回このInvisiGripを使用した症例34人44肢を対象とし検討を行った.男性 6 人 7 肢,女性28人37肢,平均年齢は58歳,また,左下肢24肢,右下肢20肢という内容であった.また,CEAP分類ではC2:39肢(88%),C3:2 肢(5%),C4:2 肢(5%),C5:1 肢(2%)であった.【手術手技】鼠径部に皮膚切開をおき大伏在静脈を露出,大腿静脈までの合流部まで剥離を行い大伏在静脈の高位結紮を行った後,InvisiGripを同部より挿入し膝下までの大伏在静脈のストリッピングを行った.適宜,局所静脈瘤の切除を追加した.【結果】術前の抗凝固剤の内服は心疾患のためワーファリン内服中のものが 1 名であった.InvisiGripを用いて膝下までの大伏在静脈の抜去は全例可能であった.大伏在静脈の抜去の様式は内翻型31肢・通常型13肢であり,回数は 1 回で抜去できたもの29肢・2 回行ったもの10肢・3 回行ったもの 5 肢であった.また,手術手技に関してはBMIとの相関は認めなかった.大伏在静脈抜去後の出血はほとんどみられなかった.術後 1 週間目での血腫の形成を 8 肢に認めたがいずれも 1 カ月後には消退していた.また,その他の合併症の発生はみていない.【結語】InvisiGripを用いたストリッピングは膝下までの大伏在静脈抜去に関しては問題なく行うことができた.また,術後の重篤な合併症の発生も認めなかった.(日血外会誌 17:551–556,2008)
  • 畠山 卓弥, 氏家 一知, 古川 猛, 野中 達也, 星野 正信
    2008 年 17 巻 5 号 p. 557-564
    発行日: 2008/08/25
    公開日: 2008/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    内シャントの術式別長期成績をまとめ,最適な術式選択について検討した.1984年12月より23年間のシャント手術例のうち追跡データのある1895例を対象として,術式別に開存率(1,3,5 年)を算出するとともに,閉塞の経時的なパターンも検討した.自己血管によるシャント手術は1560例(82.3%),人工血管移植術114例(6.0%),PTAは221例(11.7%)に行われた.動静脈瘻形成術の 1,3,5 年 2 次開存率は部位別にそれぞれタバチエール:61,53,44%;前腕遠位部橈側:70,59,54%;前腕尺側:57,43,35%;前腕中央部橈側:78,69,58%;肘部:87,72,55%であった.また 3 年 2 次開存率が最も良好だったのは上腕部静脈表在化 + 肘部動静脈瘻(87.6%)であった.人工血管移植術の 1,3,5 年 2 次開存率はそれぞれ,前腕ループ:59,39,24%;上腕ループ:63,36,27%であった.その他のシャント再建術ではパッチ形成術,PTAが良好な開存率を示した.シャント閉塞の発生率は術後 2 年間がもっとも高くその後漸減し,術後10年目以降に再び上昇する傾向がみられた.深部静脈を含めた自己血管によるシャント手術の開存率は良好であり,できる限りこの術式を選択すべきと考えられた.また閉塞のピークは術後 2 年以内と10年目以降にあるため,この時期のサーベイランスがとくに重要と考えられた.
症例
  • 繁本 憲文, 中尾 達也, 望月 慎吾
    2008 年 17 巻 5 号 p. 565-568
    発行日: 2008/08/25
    公開日: 2008/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    高齢者のStanford A型急性大動脈解離に対し上行大動脈人工血管置換術を施行し救命し得た 1 例を経験したので報告する.症例は95歳の女性.日常生活は自立していた.夕食時,突然の意識障害にて発症し,胸部レントゲン写真にて異常を指摘され当院に搬送された.CTにて大動脈解離,心タンポナーデと診断し,救命のため緊急手術を施行した.術後経過は順調とは言い難いが,77病日に軽快,リハビリのため転院となった.Stanford A型急性大動脈解離は緊急度,重症度ともに高く,保存的治療では予後不良であり,手術適応とされる.しかし,手術手技が安定した現在においても手術侵襲が大きいことに変わりなく,高齢者への手術適応にはさまざまな意見が述べられている.近年エントリー閉鎖を目標として,拡大手術を避け手術の低侵襲化をはかる試みがみられ,とくに高齢者の救命手術として有用と考えられる.
  • 羽森 貫, 西本 昌義, 福本 仁志
    2008 年 17 巻 5 号 p. 569-573
    発行日: 2008/08/25
    公開日: 2008/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    症例は70歳,男性.69歳時,感染性腹部大動脈瘤に対し腹部大動脈人工血管置換術を施行された.退院後 8 カ月目に貧血と意識消失発作を認め,緊急入院となった.消化管内視鏡検査では異常を認めず,入院後 5 日目に突然の下血を認めた.緊急CT検査で人工血管末梢側吻合部仮性瘤と瘤内ガス像を認めたため,当センターへ救急搬送された.人工血管—腸管瘻と診断し,緊急手術を施行した.ショック状態であったため,まず左腋窩動脈を露出し下行大動脈内へ大動脈閉塞用バルーンカテーテルを挿入した.開腹すると,末梢側吻合部は離開し仮性瘤形成を認め,また十二指腸との瘻孔を認めた.左腋窩動脈—両大腿動脈バイパス術を施行した後に人工血管の除去,同部への大網充填術を施行した.最後に瘻孔切除と十二指腸—空腸吻合術を施行した.術後,人工血管周囲膿と血液培養からMRSAを検出し,塩酸バンコマイシンを投与した.その後経過良好で約 1 カ月後に独歩退院となった.本症例はショック状態であり,大動脈閉塞用バルーンカテーテルを用いて出血のコントロールを行ったことと,非解剖学的バイパス術に加え大網充填術を施行したこと,術後抗生剤が奏功したことで感染制御を得られ救命した.
  • 上原 彰史, 山本 和男, 三島 健人, 榊原 賢士, 杉本 努, 吉井 新平
    2008 年 17 巻 5 号 p. 575-580
    発行日: 2008/08/25
    公開日: 2008/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    仙骨と腸骨動脈とで圧迫されて生じた左総腸骨静脈閉塞と,同側の内腸骨動静脈瘻を合併した稀な症例に対し血行再建術で良好な結果を得た.症例は83歳女性.主訴は左下肢腫脹,痛み.左総腸骨静脈閉塞を合併した左内腸骨動静脈瘻と診断された.低侵襲治療を選択し,左内腸骨動脈瘻孔部にcovered stentを留置したが,1 カ月後左下肢腫脹が著明に増悪,心不全症状も生じ再入院した.開腹下に左内腸骨動脈離断,左内腸骨動静脈瘻結紮,10mmリング付きePTFE人工血管で左外腸骨静脈—下大静脈バイパス術を施行.左下肢腫脹は著明に改善し,術後 7 カ月で増悪を認めていない.本症例は非常に稀な病態である.内腸骨動静脈瘻は多発性に存在しており,外傷性,医原性,内腸骨動脈瘤も否定できることから,動静脈瘻のetiologyは先天性の可能性が高い.総腸骨静脈閉塞が進行したために動静脈瘻の所見がより顕著に現れたと考えられた.
  • 鈴木 拓, 林 忍, 清水 正幸, 長島 敦
    2008 年 17 巻 5 号 p. 581-585
    発行日: 2008/08/25
    公開日: 2008/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    症例は70代,男性.両下肢閉塞性動脈硬化症に対して,両側大腿—膝窩動脈バイパス術(膝上)を施行した.経過は良好であったが,外来経過観察中(術後約 2 カ月)に左膝窩部の違和感を訴えたため,CT検査を施行したところ,末梢側吻合部近傍に嚢腫状の液体貯留を認めた.同部位に対し,直接穿刺を施行し,粘稠度の高い淡黄色の液体が吸引されたため,ベーカー嚢腫と診断した.一般にベーカー嚢腫は,変形性膝関節症,関節リウマチ,半月板断裂などの膝関節病変が基礎疾患として存在するといわれており,これまでに大腿—膝窩動脈バイパス術後のベーカー嚢腫の発症についての報告例はない.自験例では膝関節疾患の既往がなかったが,発症機序として末梢側吻合部の露出の際に膝窩動脈に近接する関節包を損傷し,ベーカー嚢腫が形成された可能性が考えられた.本術式で膝関節付近まで手術操作が及ぶ場合には,より愛護的に行う必要があることが示唆された.
  • 江口 大彦, 川崎 勝己
    2008 年 17 巻 5 号 p. 587-592
    発行日: 2008/08/25
    公開日: 2008/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    待期的腹部大動脈瘤術後に脊髄虚血による対麻痺を発症した 1 例を経験した.患者は81歳の男性.最大径 6cmの腎動脈下腹部大動脈瘤と左総腸骨動脈瘤,左外腸骨動脈閉塞に対し待期的に手術を行った.両側腎動脈下で大動脈を遮断しY型ダクロン人工血管を用いて再建を行った.中枢側は腎動脈下腹部大動脈と端々吻合,グラフト右脚は総腸骨動脈に端々吻合し,グラフト左脚は左内腸骨動脈に端々吻合した.グラフト左脚にグラフトを端側吻合し左総大腿動脈にバイパスした.下腸間膜動脈の再建も行った.手術時間は 4 時間26分,出血量は1141g,中枢遮断時間は40分で,循環動態は安定していた.術後 1 日目より両下肢の運動麻痺と温痛覚麻痺を認め,術後 6 日目にMRIにてTh11-L1レベルの脊髄梗塞を確認し,前脊髄動脈症候群と診断した.機能回復訓練にもかかわらず術後約 6 カ月の転院時まで下肢運動機能はほとんど改善しなかった.
  • 柴田 講, 幕内 晴朗, 小林 俊也, 村上 浩, 鈴木 敬麿, 永田 徳一郎
    2008 年 17 巻 5 号 p. 593-596
    発行日: 2008/08/25
    公開日: 2008/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    症例は86歳男性.7 年前に腎動脈下腹部大動脈瘤に対してY型人工血管置換術を施行されている.突然の左下腹部痛を主訴に近医受診し,左内腸骨動脈瘤破裂の診断で当院へ搬送され,緊急手術を施行した.左後腹膜アプローチで内腸骨動脈瘤のendoaneurysmorraphyと外腸骨動脈再建を施行し,術後経過は良好であった.腹部大動脈瘤術後の内腸骨動脈瘤破裂は迅速な手術治療が必要であり,術式としては後腹膜アプローチによるendoaneurysmorraphyが有用と考えられた.超高齢者に発症した腹部大動脈瘤術後の左内腸骨動脈瘤破裂に対して緊急手術を施行し,良好な結果であったので報告する.
  • Noriyoshi Kutsukata, Yuichiro Sakamoto, Hisashi Matsumoto, Kunihiro Ma ...
    2008 年 17 巻 5 号 p. 597-599
    発行日: 2008/08/25
    公開日: 2008/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    We report a case with superior mesenteric arterial thrombosis, for which revascularization using a pedicled in-situ right gastroepiploic arterial graft was performed. The patient was a 65-year-old man with sudden onset of abdominal pain. The urgent operation was performed 16 hours after onset since atherosclerosis of the abdominal aorta was noted. The right gastroepiploic artery was harvested, and end-to-side anastomosed to the distal superior mesenteric artery. The postoperative course was uneventful and he had a good clinical course. Revascularization using the right gastroepiploic artery is possible in cases of superior mesenteric arterial thrombosis, and this procedure should be considered as one choice.
  • 飯田 泰功, 小櫃 由樹生, 佐藤 正宏, 佐藤 和弘, 佐伯 直純, 槇村 進, 高江 久仁, 小泉 信達, 重松 宏
    2008 年 17 巻 5 号 p. 601-604
    発行日: 2008/08/25
    公開日: 2008/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    症例は59歳男性.2006年 9 月,慢性腎不全にて他院にてCAPD導入.精査中にCTにて最大短径58mmの腎動脈下腹部大動脈瘤を指摘され,手術目的に当院紹介入院.術前より血液透析に切り替え,右後腹膜アプローチにて分岐型人工血管置換術を施行した.術後 3 週間はCAPDに加え血液透析を併施し,徐々に腹膜透析に移行し第34病日に退院となった.術式の選択と術後管理につき文献的考察を加え報告する.
  • 内藤 和寛, 安達 秀雄, 田中 正史, 由利 康一, 川口 聡, 横井 良彦
    2008 年 17 巻 5 号 p. 605-610
    発行日: 2008/08/25
    公開日: 2008/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    症例は67歳,男性.胸部に径93mm,腹部に径72mmの重複大動脈瘤と診断され,当センターに紹介入院となった.虚血性心疾患と慢性腎不全を合併しており,一期的オープン手術は手術侵襲が過大であると判断し,TAAに対するステントグラフト内挿術と,AAAに対するYグラフト置換術を同時に施行した.術後に脊髄ドレナージの閉塞,血圧低下,貧血の進行を認めた.脊髄根動脈を温存したにもかかわらず,手術終了13時間後より遅発性対麻痺が発生し,前脊髄動脈症候群と診断された.輸血,昇圧,脊髄ドレナージの再施行と副腎皮質ステロイド大量投与により症状は改善し,退院時には歩行も可能となった.術後の造影CT検査で,ステントグラフトおよびYグラフトに問題はなかった.術後対麻痺を回避するには,脊髄ドレナージの確実な実施と周術期の貧血,血圧低下を防ぐことが重要であることが示唆された.
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