日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
17 巻, 6 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
巻頭言
原著
  • 江口 昭治, 齊藤 寛文, 神作 麗, 丸山 行夫
    2008 年 17 巻 6 号 p. 611-614
    発行日: 2008/10/25
    公開日: 2008/11/19
    ジャーナル オープンアクセス
    当院では心臓血管手術症例には,2000年 4 月から手術部位感染 (SSI)対策として術前 3 日間にわたる消毒という独自の対応をとってきた.すなわち,術野にイソジン液を塗布,乾燥させたのち,イソジンスクラブを使用して薬液シャワーを 3 日間行った.術当日は早朝,同様の薬液シャワー後,術野にイソジン液を塗布,乾燥させ,手術室へ行く.麻酔導入後イソジンソープでスクラブ後,イソジンで 3 回消毒を行った.2000年 4 月から2007年12月まで心臓血管手術を378例施行したが,特殊例の 1 例を除きSSIは全く発生しなかった.一般に行われている SSI対策には向上の余地があると考えられる.一方今後自施設の方法を簡略化し,術前消毒期間を 3 日より短縮する予定である.
症例
  • 松前 大
    2008 年 17 巻 6 号 p. 615-620
    発行日: 2008/10/25
    公開日: 2008/11/19
    ジャーナル オープンアクセス
    高位腹部大動脈閉塞はY型人工血管バイパス術あるいは腋窩–大腿動脈バイパス術などの方法で治療されており,術後死亡率,合併症の発生率は比較的高い.今回本疾患の 3 例に対して,血管内治療を試み成功し,良好な結果を得た.1 例は重症の間欠性跛行,2 例は切迫壊疽を伴っていた.高位腹部大動脈閉塞でも血管内治療が可能な症例がある.血管内治療は侵襲が少なく,解剖学的な血行再建を行うことができ,とくにハイリスク症例では有用な治療であり,全身麻酔下の人工血管を用いるバイパス手術を行う前にまず試みるべきと考える.
  • 軽部 義久, 南 智行, 坂本 哲
    2008 年 17 巻 6 号 p. 621-625
    発行日: 2008/10/25
    公開日: 2008/11/19
    ジャーナル オープンアクセス
    Methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)感染性浅大腿動脈瘤に対して総大腿動脈–前脛骨動脈バイパス術,動脈瘤切除とvacuum-assisted closure(VAC)療法を行い良好な結果を得たので報告する.症例は81歳,男性.MRSA肺炎で抗菌薬投与,人工呼吸管理,経管栄養療法を施行され,肺炎は軽快していた.3 カ月後,発熱と左大腿部腫瘤形成がみられ,感染性左浅大腿動脈瘤と診断された.手術はまず動脈瘤を避けて大腿外側皮下を経由する大伏在静脈による総大腿動脈–前脛骨動脈バイパス術を行った.次いで動脈瘤を切除,周囲組織を可及的にdebridementし,創は開放としてVAC療法を行った.瘤壁よりMRSAが検出された.術後炎症反応は改善し,VAC療法により創部の肉芽形成が良好なため,術後24日目に軽快退院した.
  • 田中 常雄, 松本 興治, 山本 淳史, 玉置 基継
    2008 年 17 巻 6 号 p. 627-630
    発行日: 2008/10/25
    公開日: 2008/11/19
    ジャーナル オープンアクセス
    59歳,男性.三枝病変および最大径 7cmの腹部大動脈瘤に対し,冠動脈バイパス術を行い,待機的にYグラフト人工血管(Gelsoft Plus®)を用い腹部大動脈瘤置換術を行った.術後の経過は良好であったが,約 2 カ月後の腹部CTにより,人工血管周囲に直径約 9cmの液体貯留がみられたため再入院となった.最大径が 9cmであり再手術を行うこととした.瘤壁を切開すると淡黄色の液体貯留がみられた.中枢側,末梢側ともに人工血管吻合部に異常はみられなかった.瘤壁を可及的に切除しドレナージを行った.人工血管の組織治癒を期待し,また人工血管と腸管との癒着を防止するため人工血管全体を有茎大網組織で被覆した.現在術後 8 カ月を経過し,再発はみられず経過良好である.この方法は比較的簡便であり,低侵襲で有効な方法であると考えられた.
  • 大堀 俊介, 伊藤 寿朗, 稲岡 正己
    2008 年 17 巻 6 号 p. 631-634
    発行日: 2008/10/25
    公開日: 2008/11/19
    ジャーナル オープンアクセス
    症例は73歳男性で左下肢腫脹を主訴に来院.左膝窩部にthrill,拍動性腫瘤を触知した.造影CT検査,下肢動脈造影検査で,動静脈が大動脈分岐部から左膝窩部まで広範囲にわたり拡張,蛇行し,膝下部で動静脈瘻が認められた.膝窩動静脈瘻の診断のもとに瘻閉鎖術を施行した.手術は腹臥位で,膝下部を切開.動静脈を瘻の中枢,末梢でそれぞれ遮断後,拡張した静脈を縦切開し,約 5mmの瘻孔を 5-0 polypropylene糸で単純閉鎖した.本症例の原因は,20歳時に木刀で左膝窩部を強打され,著明に腫脹し入院したという既往があり,他に同部位に手術歴,外傷歴がないことから,このときの膝窩動脈の損傷が原因で近接している静脈と瘻孔を形成し,長い経過でこのような動静脈の変化をきたしたものと考えられた.文献上調べ得る限りでは,受傷後50年を経過してこのような形態の動静脈瘻を形成した症例はなかった.
  • 西村 修, 近藤 慎浩, 内藤 和寛, 高橋 賢二
    2008 年 17 巻 6 号 p. 635-638
    発行日: 2008/10/25
    公開日: 2008/11/19
    ジャーナル オープンアクセス
    腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術施行 3 年後に,十二指腸穿孔をきたしグラフト感染が疑われた症例に対し,大網充填術を施行した.術後,感染の再燃なく,第65病日に軽快退院となった.人工血管置換術に伴うグラフト感染は,最も重篤な合併症のひとつであり治療に難渋するケースが多いが,局所の洗浄と自己組織充填術にて治癒せしめた報告が散見される.本症例は人工血管による圧迫が十二指腸穿孔の原因となり,グラフト感染を起こしたと考えられた.自己組織充填法は低侵襲であり,移植された人工血管を温存しつつ感染に対する良好な結果が得られ,症例によっては有用な方法である.
  • 島田 晃治, 林 純一
    2008 年 17 巻 6 号 p. 639-642
    発行日: 2008/10/25
    公開日: 2008/11/19
    ジャーナル オープンアクセス
    発生期に存在する坐骨動脈が退化消失せず残存した遺残坐骨動脈は動脈瘤化し坐骨神経痛や破裂をきたすことや,閉塞・血栓症による下肢虚血をもたらすことがあり,その解剖学的特徴のため血行再建の方法・経路や動脈瘤の切除には症例に応じた検討を要する.今回われわれは稀な症例である遺残坐骨動脈瘤の 1 症例に対して瘤空置・バイパス手術により良好な結果を得たので報告する.症例は75歳の女性.安静時の右臀部痛を主訴に当院整形外科を受診.CTで右遺残坐骨動脈瘤を指摘され当科紹介となった.術前精査で右下肢の動脈の走行は,右内腸骨動脈から遺残坐骨動脈を経て膝窩動脈に連続していた.総大腿動脈・浅大腿動脈は低形成で膝窩動脈との連続は認めなかった.遺残坐骨動脈は臀部で 2cm大に瘤化していた.手術は右内腸骨動脈を骨盤深部で結紮し遺残坐骨動脈を大腿末梢部で結紮し,右内腸骨動脈–膝窩動脈バイパス術をePTFEグラフトを用いて行い動脈瘤は空置した.術後経過は良好で術後のCTでは動脈瘤は完全に血栓化し臀部痛は消失した.
  • 松前 大
    2008 年 17 巻 6 号 p. 643-646
    発行日: 2008/10/25
    公開日: 2008/11/19
    ジャーナル オープンアクセス
    限局性腹部大動脈解離は比較的稀な疾患であり,従来全身麻酔下のグラフト置換が行われてきたが,今回われわれは局所麻酔下に血管内治療を行い治療に成功したので報告する.症例は81歳,男性で,間欠性跛行が主訴であったが,画像診断で腹部大動脈限局性解離と診断された.解離が腸骨動脈に及んでいたため,下肢虚血を伴っていた.大動脈にステントを留置することで,偽腔が閉鎖され,腸骨動脈への血流も回復し,間欠性跛行は消失した.
  • 西島 功, 池村 綾, 宮城 和史, 伊波 潔
    2008 年 17 巻 6 号 p. 647-650
    発行日: 2008/10/25
    公開日: 2008/11/19
    ジャーナル オープンアクセス
    今回われわれは,非常にまれな疾患である仮性浅側頭動脈瘤に対し,超音波ガイド下トロンビン注入療法(US-guided thrombin injection; UGTI)を行い,治癒した症例を経験した.症例は85歳の女性.来院 3 週間前に前頭部を打撲し,同部に拍動性の腫瘤が出現した.拍動性の痛みを伴うため,加療目的に当院紹介となった.エコー検査と造影CT検査にて,仮性浅側頭動脈瘤と診断し,UGTIを施行した.トロンビン1200uを注入したところで,動脈瘤は血栓閉塞した.合併症および副作用の発現はなく,外来通院のみにて治癒した.文献的考察を加えて報告する.
  • 長岡 英気, 藤原 等, 小林 直紀
    2008 年 17 巻 6 号 p. 651-654
    発行日: 2008/10/25
    公開日: 2008/11/19
    ジャーナル オープンアクセス
    【背景】ヘパリン起因性血小板減少症(heparin induced thrombocytopenia; HIT)はtype I とtype II に分類され,type II では血小板数の減少と同時に重篤な血栓症を繰り返す.HITの病態に関しては十分な臨床像がつかめているとはいえない.【症例】68歳,女性.透析導入期にHIT type II を発症し内シャント閉塞,透析回路の全凝固,透析用血管内留置カテーテル周囲の血栓といった多発する血栓症と血小板数の減少を認めた.HITの診断がつき次第,アルガトロバン投与を開始し,最終ヘパリン使用から 2 週間の待機を経て内シャント再造設を行い良好な結果を得ることができた.若干の文献的考察を加えて報告する.
地方会記事
feedback
Top