日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
18 巻, 7 号
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巻頭言
原著
  • 辻 義彦, 北野 育郎, 辻 依子, 寺師 浩人, 杉本 幸司
    2009 年 18 巻 7 号 p. 659-665
    発行日: 2009/11/25
    公開日: 2009/12/25
    ジャーナル オープンアクセス
    【背景】重症虚血肢に対する下腿・足部動脈バイパス術の流入動脈を膝窩動脈とする妥当性につき,われわれの経験を中心に検討した.【対象と方法】2003年より2008年に経験した膝窩-下腿・足部動脈バイパス術10例を対象とした.症例の内訳は男性 7 例,女性 3 例,平均年齢は72.7歳で,全例Fontaine IV度,8 例(80%)が糖尿病を合併,1 例(10%)が慢性血液透析例であった.全例に大伏在静脈を用いたバイパス術が施行され,流入動脈は膝上膝窩動脈が 7 例,膝下膝窩動脈が 3 例,末梢側吻合部は後脛骨動脈が 6 例,足背動脈が 4 例であった.また10例中 2 例に同時期に浅大腿動脈に対してバルーン血管拡張術が追加施行されたが,いずれも浅大腿動脈中央部に存在する各々が 2cm長の多発性狭窄病変であった.【結果】全例にバイパスグラフトの初期開存が得られ,術前20.5 ± 9.3mmHgであった皮膚灌流圧(SPP)は,術後67.5 ± 23.9mmHgにまで上昇した.6 例で小切断が施行されたが,全例で大切断が回避できた.平均15.9カ月のフォローアップで全例に二次開存が得られ,術後 9 カ月目に脳出血にて死亡した 1 例を除いて健在である.なお,フォローアップ中に浅大腿動脈における新病変出現や血管内治療部位の再狭窄は認めなかった.【結論】浅大腿動脈病変を適切に評価,治療すれば,膝窩-下腿・足部動脈バイパス術は重症虚血肢に対する血行再建術の有効な選択肢の一つになりうる可能性が示唆された.
症例
  • 佐藤 俊充, 宮内 正之
    2009 年 18 巻 7 号 p. 667-671
    発行日: 2009/11/25
    公開日: 2009/12/25
    ジャーナル オープンアクセス
    【背景】大動脈-腸骨動脈領域の感染性動脈瘤および人工血管感染症例に対して,従来は腋窩-大腿動脈バイパスといった非解剖学的血行再建が主であったが,その長期にわたる開存度が低いことや,大動脈の断端の破綻といった問題があり,近年では解剖学的な血行再建が普及してきている.そのグラフトの材料としては自家静脈もしくはePTFEまたはリファンピシン浸漬の人工血管がおもに使用されている.【症例】当施設ではこれまでに浅大腿静脈を用いた解剖学的血行再建を 2 例に対して施行した.1 例は感染性動脈瘤症例で,もう 1 例は人工血管感染症例であった.【結果】剥離に伴う手術時間延長,術後の十二指腸穿孔合併による再手術などで術後管理にやや難渋したが,その後の経過は2 例ともにおおむね良好であった.【結論】人工血管感染や感染性動脈瘤に対する,静脈グラフトを用いたin-situの血行再建は今後さらに発展する可能性がある.
  • 間野 洋平, 福永 亮大, 伊東 啓行, 本間 健一, 井口 博之, 前原 喜彦
    2009 年 18 巻 7 号 p. 673-676
    発行日: 2009/11/25
    公開日: 2009/12/25
    ジャーナル オープンアクセス
    動脈外膜嚢腫はまれな疾患であり,そのほとんどが膝窩動脈に生じる.今回,極めてまれな大腿動脈に生じた外膜嚢腫の 1 例を経験した.症例は73歳男性,腹部大動脈瘤の精査中に右鼠径部に拍動性腫瘤を指摘された.超音波検査にて右大腿動脈周囲に血流を伴わない多房性の低エコー域として描出され,造影CT検査の所見と併せて大腿動脈外膜嚢腫と診断した.手術にて大腿動脈を嚢腫ごと切除し,人工血管にて再建を行った.
  • 福岡 正人
    2009 年 18 巻 7 号 p. 677-681
    発行日: 2009/11/25
    公開日: 2009/12/25
    ジャーナル オープンアクセス
    今回われわれは,血液透析患者のブラッドアクセス作成困難症例に対し,前胸部に人工血管を移植するarterio-arterial prosthetic loop(AAPL)を 4 例経験したので報告 する.【症例 1】80歳女性.左上腕表在化動脈が閉塞.僧帽弁閉鎖不全症(MR-IV度). 【症例 2】50歳男性.糖尿病性腎症により透析歴12年.表在静脈なく,右内シャント側の手背に虚血性潰瘍あり.【症例 3】72歳女性.透析歴 7 年.計16回の再作成やPTAを施行後.中心静脈が狭小化し,ダブルルーメンカテーテル挿入困難例.【症例 4】77歳女性.糖尿病性腎症により透析歴 5 年.ダブルルーメンカテーテル挿入困難例.全例局所麻酔下,ポリウレタン製人工血管を用いAAPLを作成した.AAPLはブラッドアクセス作成困難症例に対し,有用な手技の一つと考えられた.
  • 深田 睦, 小西 敏雄, 古川 浩
    2009 年 18 巻 7 号 p. 683-689
    発行日: 2009/11/25
    公開日: 2009/12/25
    ジャーナル オープンアクセス
    急性下肢動脈閉塞症を治療する際に,緊急時ゆえカテーテル血栓除去のみで寛解が得られたい.しかし病態により一期的にバイパス術なども追加する必要に迷う場合もあり得る.その指針をマルチスライスCT(MDCT)検査に求めて治療方針の選択を試みてきた.このたび自験例中の 2 例を報告する.第 1 例では浅大腿動脈の塞栓症と診断し,カテーテル血栓除去術のみで改善可能と判断した.第 2 例では腸骨動脈の閉塞性動脈硬化症とその部の血栓による膝窩動脈への塞栓閉塞と診断し,同時に両大腿動脈間バイパス術も必要と判断した.両例ともに,MDCTにより確定できた術式を施行し,全治となった.MDCTは低侵襲かつ短時間に施行でき,血管壁性状の評価やその他の多発病変を把握できる.急性動脈閉塞症の成因を鑑別し,至適な血流改善術を選択することにより,救肢率や予後のさらなる改善に貢献し得ると考えられた.
  • 木村 知恵里, 安達 秀雄, 山口 敦司, 井野 隆史
    2009 年 18 巻 7 号 p. 691-694
    発行日: 2009/11/25
    公開日: 2009/12/25
    ジャーナル オープンアクセス
    今回われわれは腹腔動脈閉塞と上腸間膜動脈狭窄を伴った未破裂下膵十二指腸動脈瘤の手術例を経験したので報告する.症例は42歳の男性.前医で撮影した腹部CTで腹部内臓動脈瘤を指摘され当院で精査したところ,直径20mmの下膵十二指腸動脈瘤と判明した.加えて腹腔動脈閉塞と上腸間膜動脈起始部の高度狭窄を認め,画像所見からは正中弓状靭帯圧迫症候群が疑われた.開腹下に瘤切除および大伏在静脈を用いた腹部大動脈-脾動脈バイパス術を施行した.瘤周囲を中心に癒着が高度で正中弓状靭帯は確認不可能であった.瘤壁の病理組織学的所見は内弾性板や中膜平滑筋の菲薄化であり,炎症細胞の浸潤や動脈硬化性変化はなかった.経過は良好で術後14日目に退院となった.上腸間膜動脈狭窄は残存しているものの,特記すべき症状はなく外来で経過観察中である.
  • 泉 聡, 宗像 宏, 松森 正術, 北川 敦士, 岡田 健次, 大北 裕
    2009 年 18 巻 7 号 p. 695-700
    発行日: 2009/11/25
    公開日: 2009/12/25
    ジャーナル オープンアクセス
    症例は69歳,女性.3 カ月前に胸背部痛あり,急性A型解離および胸部大動脈から腹部大動脈にかけての動脈瘤(Mega aorta)を指摘された.二期的手術を行うこととなり,1 カ月前にelephant trunkを伴う弓部全置換術および腹部大動脈人工血管置換術を施行された.今回残存する胸腹部大動脈瘤(最大短径62mm)に対して人工血管置換術を行った.術後脊髄障害のリスクが高いと考えられたため術中は運動誘発電位(MEP)のモニターを行うなど,脊髄保護に留意して手術を行った.大動脈遮断中にMEPが消失し,脊髄虚血を示したため,末梢側灌流圧を高く維持することや迅速に肋間動脈再建することで,脊髄虚血障害の軽減を図った.術後脊髄障害をきたすことなく術後20日で退院した.
  • 藤井 弘通, 笹子 佳門, 青山 孝信, 奥田 紘子
    2009 年 18 巻 7 号 p. 701-705
    発行日: 2009/11/25
    公開日: 2009/12/25
    ジャーナル オープンアクセス
    腹部大動脈人工血管感染は予後の悪い合併症である.胃癌術後のMRSA腹部人工血管感染に対して,ドレナージ術および洗浄を行い,二期的に人工血管除去,e-PTFE人工血管による解剖学的再建を施行し右腹直筋弁充填術を行い良好な結果が得られたので報告する.症例は66歳,男性.胃癌術後の腹部大動脈瘤に対して人工血管置換術が行われ,約 3 カ月してMRSA人工血管感染を発症した.ドレナージ術および強酸性水にて洗浄を 2 カ月間施行したが,無菌化することができず人工血管除去,e-PTFE人工血管による解剖学的再建を行った.胃癌術後のため有茎大網充填が不可能で,さらに左腹直筋が離断されていたので,右有茎腹直筋弁充填術を施行した.術後経過は良好で,術後 1 年11カ月を経過したが感染の再燃は認めていない.大網が使用できない場合は腹直筋がそれに代わる充填物として有用であると思われた.
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