日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
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19 巻, 3 号
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巻頭言
原著
  • 高橋 直子, 布川 雅雄, 今村 健太郎, 細井 温, 須藤 憲一, 増田 裕, 森永 圭吾, 藤岡 保範
    2010 年 19 巻 3 号 p. 487-493
    発行日: 2010/04/25
    公開日: 2010/04/26
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】腹部内臓動脈瘤は稀な疾患であるが,破裂した際には死に至ることも多い極めて重篤な疾患である.そのため早期発見と確実な診断が必要であり,今回われわれは,当該病変に対する治療方針を検討した.【対象・方法】2005年3月から2008年10月に当院で内臓動脈瘤と診断された30例(男性21例,女性9例)30瘤を対象とし,発生部位や治療方法,経過についてまとめた.【結果】内訳は脾動脈瘤13例,膵十二指腸動脈瘤5例,腹腔動脈瘤5例,上腸間膜動脈瘤4例,肝動脈瘤3例であった.治療は経過観察17例,塞栓術10例,開腹手術3例であった.当科での侵襲的治療の適応基準は瘤径が2 cm以上,破裂,仮性瘤,拡大傾向,腹痛等の有症状,膵十二指腸動脈瘤,胃十二指腸動脈瘤,上腸間膜動脈分枝の瘤とし,末梢の動脈瘤では血管内治療を第一選択とした.経過観察症例では観察期間は約2カ月から3年9カ月であったが,経過不明1例,他疾患での死亡1例を認めたが,その他15例では瘤の拡大を認めることなく経過した.塞栓術,開腹手術症例では術後観察期間は約1カ月から4年で,破裂症例の2例で一過性の十二指腸狭窄を認めたが,その他では重篤な合併症や手術死は認められなかった.【結論】低侵襲な血管内治療を第一選択とし,瘤の占拠部位や大きさ,再建の必要性に応じて開腹手術を考慮すべきである.われわれの治療成績は緊急症例も含め良好であり,経過観察症例でも治療に移行した症例はなく,当科の腹部内臓動脈瘤に対する侵襲的治療の適応基準は妥当と考えられた.
  • 岩崎 弘登, 渋谷 卓, 石坂 透, 新谷 隆, 佐藤 尚司
    2010 年 19 巻 3 号 p. 495-503
    発行日: 2010/04/25
    公開日: 2010/04/26
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】医療の進歩により非破裂性腹部大動脈瘤(AAA)に対する手術成績は安定したものとなっているが,破裂症例の治療成績は依然不良であり,とくに超高齢者における治療戦略は確立されていない.当院における80歳以上の破裂性腹部大動脈瘤(RAAA)(腸骨動脈瘤を含む)に対する臨床経過と治療成績を検討した.【対象・方法】2001年6月から2008年11月までに当院に搬送されたRAAAは56症例で,手術前死亡14例を除く42手術例を対象とし,80歳以上をE群,79歳以下をY群とした.手術は人工血管置換術を行い,両群間で(術前因子)併存疾患,動脈瘤径,Hardman Factor(HF),発症から病院到着までの時間,到着から手術までの時間,(術中因子)手術時間,大動脈遮断までの時間,遮断時間,出血量,輸血量,Szilagyi分類,手術方法,(術後因子)入院期間,合併症,死亡率を比較検討した.【結果】E群20例/Y群22例の平均年齢84歳/64歳であった.術後成績は術中死0/0例,術直後死4/3例,手術症例の在院死亡5/5例であった.手術前死亡の9/5例を加えた着院後死亡は14/10例であった.E群/Y群の検討では死亡率,入院期間などに差を認めず,どの群においても,生存/死亡例との間で有意差を認めた因子は出血に関連するものであった.しかし輸液によってショック状態を回避できた症例は良好な成績を得ることができた.【考察】RAAAに対する当院での手術成績は概ね満足できる結果であり,高齢者においても若年層と同等の術成績が期待できると考えられた.
症例
  • 中尾 守次, 前田 晃央, 衣笠 陽一, 應儀 成二
    2010 年 19 巻 3 号 p. 505-508
    発行日: 2010/04/25
    公開日: 2010/04/26
    ジャーナル オープンアクセス
    大動脈腸管瘻で一次性大動脈腸管瘻はまれな病態である.今回胃がん全摘手術後に発生した一次性大動脈腸管瘻で,しかも人工血管を被覆する自己組織の欠如した症例を経験した.症例は74歳の男性で,大量下血による一時ショック状態となり紹介される.造影CTで大動脈腸管瘻を疑い,緊急開腹手術を行った.十二指腸と大動脈の交通を有する大動脈腸管瘻を確認し感染が明白でないことから,十二指腸と大動脈瘤壁を一塊として切除し,十二指腸再吻合・人工血管移植術を施行した.術後早期に,軽快退院した.造影CTによる診断と血行動態が安定している早期に手術に踏み切ることが大切である.また胃がんの手術等で大網の欠如した症例に生物学的組織を使用した症例を経験し,良好な結果を得た.
  • 吉田 周平, 野田 征宏, 西田 聡, 山本 信一郎
    2010 年 19 巻 3 号 p. 509-512
    発行日: 2010/04/25
    公開日: 2010/04/26
    ジャーナル オープンアクセス
    感染性腹部大動脈瘤は術後感染のコントロールに難渋することも多い.われわれは感染性腹部大動脈瘤破裂に対する緊急手術(解剖学的血行再建)後に,後腹膜膿瘍および膿胸を合併するも救命に成功した症例を経験したので報告する.症例は59歳男性,腰背部痛を主訴に紹介医受診し腹部造影CTにて腹部大動脈瘤破裂と診断,同日緊急手術を施行した.瘤を切開すると,左後方へ穿破しており腸腰筋膿瘍の形成を認めた.感染組織と思われる部位を可及的に除去しwoven Dacron graftによる人工血管置換術を施行した.術中検体よりPeptostreptococcusが検出された.第24病日に後腹膜膿瘍の遷延,第32病日に膿胸を認めそれぞれドレナージを必要としたが第98病日に退院となった.起炎菌としては,われわれが検索し得る限りPeptostreptococcusによる感染性腹部大動脈瘤の報告は認められなかった.術式としては十分なデブリードマンと解剖学的再建のみにて救命が可能であった.
  • 武内 克憲, 山下 昭雄, 横川 雅康, 三崎 拓郎
    2010 年 19 巻 3 号 p. 513-517
    発行日: 2010/04/25
    公開日: 2010/04/26
    ジャーナル オープンアクセス
    われわれは,腹部人工血管感染に対し自家大腿静脈をグラフトとしin-situ血行再建を施行し良好な経過を得た.症例は59歳男性,閉塞性動脈硬化症に対し11年前に大動脈-両側大腿動脈間バイパス術,2年前に右大腿動脈吻合部瘤にて人工血管置換術の既往がある.右鼠径部の創部感染で当科に紹介となった.CTで右外腸骨動脈位人工血管から創部に連続した液体の貯留を認めた.創部培養よりMethicillin sensitive Staphylococcus aureus(MSSA)が検出されグラフト感染と診断した.術中所見で,グラフト周囲の膿は中枢吻合部まで達していたが,感染は限局的であった.感染グラフトを全抜去し,洗浄を行った後に自家大腿静脈を用い大動脈-左外腸骨動脈間バイパス,大伏在静脈にて左外腸骨動脈-右大腿動脈間バイパスを施行した.大動脈吻合部には大網充填を行った.術後引き続き抗生剤を投与し感染の再発はなく良好に経過した.
  • 岡野 高久, 小野 眞, 春藤 啓介, 北浦 一弘
    2010 年 19 巻 3 号 p. 519-522
    発行日: 2010/04/25
    公開日: 2010/04/26
    ジャーナル オープンアクセス
    症例は72歳,女性.突然の激しい胸背部痛をきたしショック状態で救急搬入された.上行大動脈瘤破裂,心タンポナーデと診断し緊急手術を行った.手術所見でsino-tubular junctionから約3 cm末梢側に径3 cm大の嚢状仮性動脈瘤を認め,瘤下縁で動脈瘤が穿破し血腫を形成していた.穿破部位の右面頭側に膿瘍腔形成を認め,この時点で感染性動脈瘤と判明した.上行大動脈を遮断し,限局した仮性動脈瘤壁を可能な限り含む形で上行大動脈を約3 cm幅で輪状に切除し直接吻合を行った.大量の弱酸性水とゲンタシン生食で洗浄し手術を終了した.術中提出した膿瘍,大動脈壁,右房前面血腫から肺炎球菌が検出された.術後3週間で軽快退院した.抗生物質投与を術後12週間継続した.
  • 平岡 有努, 石田 敦久, 近沢 元太, 吉鷹 秀範, 杭ノ瀬 昌彦, 片山 桂次郎
    2010 年 19 巻 3 号 p. 523-527
    発行日: 2010/04/25
    公開日: 2010/04/26
    ジャーナル オープンアクセス
    閉塞性動脈硬化症の外科的治療において,人工血管感染は最も重大な合併症の一つであり,感染コントロール・血行再建に困難を極める例は稀ではない.今回われわれは,冠動脈バイパス術後で両側の大伏在静脈を使用できない透析患者の大腿部人工血管感染に対し,腸骨貫通経由での再バイパスを行い,血行再建・創部閉鎖をし得た1例を経験した.症例は79歳,男性.左第4・5趾の潰瘍を認め,2008年5月左大腿-膝上部膝窩動脈人工血管バイパス+人工血管-後脛骨動脈自家静脈バイパス術施行.2008年12月,左大腿部人工血管感染を認め,大腿部人工血管抜去,腸骨に孔をあけ,人工血管を貫通させた経路で左外腸骨膝上グラフトバイパス術施行した.一期的に開放状態のまま持続陰圧吸引法(VAC)導入後,縫工筋皮弁を用いて創部の閉鎖を認めた.血行再建経路の選択において,腸骨貫通経路は有用な経路と考えられる.
  • 岡崎 仁
    2010 年 19 巻 3 号 p. 529-532
    発行日: 2010/04/25
    公開日: 2010/04/26
    ジャーナル オープンアクセス
    症例は76歳男性.71歳時に両側膝窩動脈瘤(最大径右4.5 cm,左5.5 cm)による末梢動脈塞栓症により血栓除去および空置バイパス術を行った.経過観察中,空置瘤の縮小はみられず,術後約5年で両側膝窩動脈瘤周囲に血腫と仮性動脈瘤形成を認めた.神経圧迫症状なども認めたため,空置動脈瘤切除術を行った.膝窩動脈瘤の空置バイパス術は広く行われている術式であるが,瘤径の拡大が約30%にみられると報告されており,可能であれば瘤切除・置換手術の方が望ましい.空置した場合も入念な経過観察と拡大傾向を認めた場合はタイミングを失うことなく二期的切除に踏み切るべきと考えられる.
  • 上山 圭史, 大滝 憲二, 小山 信, 真名瀬 博人, 平 康二, 大島 收
    2010 年 19 巻 3 号 p. 533-536
    発行日: 2010/04/25
    公開日: 2010/04/26
    ジャーナル オープンアクセス
    症例は66歳男性で,1995年に食道癌に対し食道全摘,胃管による再建,永久気管瘻造設術を受けていた.2007年に気管瘻からの食物残渣の喀出,および吐血を認め入院.同日深夜に大量吐血を認め緊急手術となった.手術は気管胃管瘻縫合閉鎖,出血性胃管潰瘍縫合止血を行った.手術中に腕頭動脈を損傷,フェルトプレジェットを使用し止血したが,9日後より再出血を認め再手術となった.再手術は大腿-腋窩動脈間にGore-Tex®グラフトを使用し非解剖学的バイパスをおき,腕頭動脈を起始部と分岐部で閉鎖止血した.術後頸部創の感染が遷延化し長期入院となっているが,グラフトの開存性も良好で,腕頭動脈の再出血は認めておらず,脳合併症も認めていない.食道癌術後の出血性合併症に非解剖学的バイパス術を行った症例の報告はみられず初めての試みと思われる.
  • 湯川 拓郎, 正木 久男, 柚木 靖弘, 田淵 篤, 久保 裕司, 種本 和雄
    2010 年 19 巻 3 号 p. 537-540
    発行日: 2010/04/25
    公開日: 2010/04/26
    ジャーナル オープンアクセス
    von Recklinghausen病に合併した浅側頭動脈瘤の非常に稀な1例を経験した.症例は75歳の女性.以前よりvon Recklinghausen病の診断を受けていた.褐色細胞腫に対し右腎摘出,脾動脈瘤に対し瘤切除・脾臓摘出の既往がある.2007年1月から右側頭部の拍動性腫瘤を自覚し,徐々に増大するため同年7月当院受診.四肢体幹にcafé au lait斑と神経線維腫の多発を認めた.右側頭部に4×3 cmの拍動性腫瘤を認め,エコー,CTにて浅側頭動脈瘤と診断した.瘤切除術を施行し,術後経過は良好であった.瘤壁は非常に脆弱であり,病理所見にて動脈壁の外膜への紡錘状細胞の浸潤,中膜の菲薄化,弾性繊維の断裂,内膜の肥厚を認めた.紡錘状細胞はS-100蛋白陽性であり,Schwann細胞などの神経原性と考えられた.
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