日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
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19 巻, 6 号
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巻頭言
原著
  • 相澤 啓, 坂野 康人, 大木 伸一, 齊藤 力, 三澤 吉雄
    2010 年 19 巻 6 号 p. 657-663
    発行日: 2010/10/25
    公開日: 2010/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】腹部大動脈瘤破裂手術の際,閉腹後に腸管の高度浮腫や,血腫などによって腹腔内圧が上昇し発症するabdominal compartment syndrome(腹部コンパートメント症候群,以下ACS)は致命的な合併症として知られている.ACSの予防のため腹壁の2期的閉腹やACSを発症した際の対策として再開腹減圧が有効と言われており当院での症例に対し検討を行った.【方法】腹部大動脈瘤破裂手術の際に腸管の浮腫が強く閉腹困難と判断した症例は切り開いた点滴パックを腹壁に縫着し仮閉腹とした.また初回手術時に閉腹可能であっても術後にACSを発症したと判断した症例は前述と同様の仮閉腹法を用い減圧を行った.【結果】2006年1月~2008年11月の間に手術を行った36例の破裂性腹部大動脈瘤(内腸骨動脈瘤破裂2例を含む)を対象とした.初回手術時に閉腹せず仮閉腹とした症例は36例中7例で,3例を失ったが,4例は閉腹が可能でACSの再発は認められなかった.36例中29例は1期的に閉腹を行った.このうち26例は再開腹を必要とせず,3例を失ったがACSとの関連は否定的であった.1期的に閉腹を行った29例中3例は閉腹後にACSを発症したと判断し再開腹減圧を行った.1例は人工血管感染のため死亡したが,2例は再閉腹を行い軽快退院となった.多変量Logistic回帰にてショック症例(収縮期血圧90 mmHg以下),術中最低base excess(以下BE)<-13の症例,Cr>2.0 mg/dlは開腹処置の危険因子であった.【結論】当施設での症例でACSのため死亡した症例は認められず,ACS予防のための2期的閉腹やACSを発症した際の開腹減圧は有効な治療であると考えられた.
  • 小此木 修一, 大林 民幸, 小谷野 哲也, 安原 清光
    2010 年 19 巻 6 号 p. 665-669
    発行日: 2010/10/25
    公開日: 2010/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】当科では遠位弓部大動脈瘤に対しオープンステントグラフト(以下OSG)法を積極的に行ってきた.当初OSG単独のinclusion法を行ってきたが,2004年より弓部全置換を併施するようになった.Inclusion法および弓部全置換併施のOSG法の比較を行い,弓部全置換併施の妥当性につき検討した.【方法】2000年10月~2008年9月までにOSG法を行った遠位弓部大動脈瘤30例を対象とした.15例にinclusion法を行い(以下I群),15例に弓部全置換を併施した(以下T群).2群間で術前・術中・術後因子につき比較検討を行った.【結果】両群の平均年齢・性別ともに有意差は認められなかった.術後ICU滞在日数や挿管時間などの術後経過に有意差は認めなかった.術後合併症はI群7例(46.7%),T群3例(20.0%)に認めた.合併症の詳細はI群でエンドリーク3例,対麻痺・ステント脱落・縦隔炎・痙攣を各1例ずつ,T群は対麻痺2例,脳梗塞1例を認めた.I群の1例(6.7%)を敗血症で失ったが,T群では死亡0例(0%)であった.術後中期にI群2例,B群1例にエンドリークを認め,再手術を行った.またI群でステント屈曲1例を認めたほか,エンドリークによると思われる大動脈瘤破裂で1例を失った.【結論】術直後の合併症の発生頻度はI群で高い傾向にあった.また中期成績において統計学的有意差はないもののI群でステントグラフト関連のイベント発生頻度が高い傾向にあった.OSG法は弓部全置換術を併施する方が好ましいと考えられた.
症例
  • 深田 睦, 小西 敏雄, 古川 浩
    2010 年 19 巻 6 号 p. 671-677
    発行日: 2010/10/25
    公開日: 2010/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
    Stanford B型急性大動脈解離の早期病院死亡率は8.8~15%と依然高く,原因として破裂があげられ,その救命率は50%以下とされる.今回2例のB型急性大動脈解離破裂をTominagaらのL-incision法により救命し得えたので報告する.症例1は60歳男性,発症3日目に再CT検査で破裂と診断,L-incision法下に超低体温循環停止と選択的順行性脳灌流併用し弓部置換を施行,術後左下肢不全麻痺合併も改善独歩退院した.症例2は43歳男性,背部痛発症しCT検査で破裂と診断,検査中準ショック状態となり胸骨上部左側部分切開で上行大動脈送血の体外循環確立後左前側方開胸を加え,同様に弓部置換を施行,術後合併症なく退院した.L-incision法は胸骨正中切開と左開胸の利点を持ち,迅速な順行性体外循環確立と脳や心臓の各種合併症予防策選択が可能であり,B型急性大動脈解離破裂の救命率向上に寄与すると考えられる.
  • 新谷 卓司
    2010 年 19 巻 6 号 p. 679-682
    発行日: 2010/10/25
    公開日: 2010/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
    膝関節周囲の鈍的外傷に伴う膝窩動脈損傷は稀であるが,下肢切断に至る例が多いと報告されている.われわれは膝関節の鈍的外傷後に膝窩動脈閉塞を来したが早期の診断と治療により軽快した1例を経験したので報告する.症例は37歳,女性.運動中に右膝関節を過伸展し当院へ搬送された.右下腿に冷感と軽度腫脹を認め,右膝窩動脈の拍動は触知できたが足関節レベルでの下腿動脈の拍動は触知できなかった.下肢血管造影CT検査にて右脛骨近位端骨折と右膝窩動脈の閉塞を認めたため,同日,緊急血行再建と骨接合術を施行した.術中,約2 cm長の膝窩動脈の挫滅部を認め,これを切除し,端端吻合にて血行再建を終了した.阻血時間は約6時間で,術後経過は良好であった.膝関節周囲の鈍的外傷症例においては膝窩動脈損傷の合併も念頭に置き速やかな処置が要求されると考えられた.
  • 大沢 肇, 藤松 利浩, 鈴木 博之
    2010 年 19 巻 6 号 p. 683-687
    発行日: 2010/10/25
    公開日: 2010/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
    心外型バルサルバ洞動脈瘤に冠動脈狭窄と大動脈弁閉鎖不全を伴った1例を経験した.症例は73歳,女性.労作時の息切れを訴え,大動脈造影にて右冠動脈洞の心外型バルサルバ洞動脈瘤とSellers III度の大動脈弁閉鎖不全,動脈瘤拡大による右冠動脈入口部の高度狭窄を認め手術適応となった.手術は,Freestyle弁(Medtronic, Inc, Minneapolis, MN)を使用したfull root法で大動脈基部再建と,大伏在静脈を使用した右冠動脈への冠動脈バイパス術を行った.瘤壁の組織所見は大動脈壁の内膜肥厚と中膜壊死を認めた.本症は右冠洞に発症したバルサルバ洞動脈瘤で,microfibrillar diseaseとの関連が示唆された.
  • 高橋 章之, 西木 菜苗, 井上 知也, 渡辺 太治, 坂井 修, 中島 昌道
    2010 年 19 巻 6 号 p. 689-694
    発行日: 2010/10/25
    公開日: 2010/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
    症例は29歳女性.不妊の相談のために訪れた婦人科にて行った超音波検査で右卵巣の横に拍動性の嚢状腫瘤が認められたために当科紹介となった.超音波検査では外腸骨静脈に壁在血栓を伴った3×4 cmの嚢状拡張を認めた.下肢静脈造影では腸骨静脈および下大静脈領域に有意な狭窄や閉塞は認めず,骨盤内および大腿・膝窩動脈領域の動脈造影でも異常な動静脈交通は認めなかったため,右外腸骨静脈のprimary venous aneurysmと診断し手術を行った.外腸骨静脈を縦切開し,静脈瘤内にある壁在血栓を摘除して嚢状瘤の部分のみを切除し,外腸骨静脈欠損部は大伏在静脈でパッチ閉鎖した.摘出した静脈瘤壁は健常組織に比べて菲薄化していた.術後半年はワーファリン,その後1年はアスピリンによる抗凝固療法を行い,術後2年半以上が経過しているが瘤再発や外腸骨静脈の血栓形成・狭窄は認めていない.腸骨静脈領域のprimary venous aneurysmは稀な疾患であり,破裂や塞栓症の危険性があることから手術適応と判断される.
  • 寺本 慎男, 藤井 毅郎, 塩野 則次, 益原 大志, 小山 信彌, 渡邉 善則
    2010 年 19 巻 6 号 p. 695-699
    発行日: 2010/10/25
    公開日: 2010/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
    心大血管手術周術期の大動脈解離は,急性発症や手術操作に関与するさまざまな因子が原因で発症する.症例は59歳女性,突然の心窩部痛を自覚して当院救急搬送,胸腹部CTにて血栓閉塞型の急性大動脈解離(DeBakey II,Stanford A)と診断し同日緊急手術となった.右大腿動脈送血,左右上大静脈および下大静脈脱血で人工心肺確立し,大動脈を腕頭動脈直下健常部で遮断,上行大動脈の内膜亀裂を切除した.吻合部は中枢・末梢ともに外膜側にフェルトストリップを用いて24 mm人工血管で上行置換術を施行した.術中,循環動態は安定しており,送血圧の上昇や末梢動脈圧低下等は認めず,血液生化学検査異常もなく,尿量も確保されていた.術後ICUに入室し肝腎機能障害の経時的な増悪を認め,画像所見にてIII型解離と診断した.II型急性解離上行置換術周術期にIII型解離を発症した稀な1例を経験し,保存的加療にて軽快したので報告する.
  • 伊藤 雄二郎, 中村 喜次, 清家 愛幹, 道本 智, 田鎖 治, 渋谷 祐子
    2010 年 19 巻 6 号 p. 701-705
    発行日: 2010/10/25
    公開日: 2010/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
    今回消化器症状で発症した腹部大動脈瘤左総腸骨静脈瘻を造影CTにて診断し緊急人工血管置換術を施行,良好な術後経過を得た症例を経験した.症例は78歳男性.突然の嘔吐,下痢,左下肢痛にて内科を受診し,血液生化学検査では,腎機能障害,肝機能障害,クレアチニンキナーゼの上昇を認めた.単純CTで腹部大動脈瘤を認めたが,腹部大動脈瘤に破裂所見はなかったため全身状態の改善を優先し内科的治療を行った.その後,全身状態が増悪したため造影CTを施行,腹部大動脈瘤から左総腸骨静脈への短絡を認めたため,腹部大動脈瘤左総腸骨静脈瘻と診断し,緊急分岐型人工血管置換術を施行した.術後経過は良好であった.腹部大動脈瘤左総腸骨静脈瘻は頻度の高いものではないが,発症すれば急速に病態の悪化がみられるため常に可能性を念頭において検査を行う必要があると考えられた.
  • 大村 典子, 谷村 信宏
    2010 年 19 巻 6 号 p. 707-710
    発行日: 2010/10/25
    公開日: 2010/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
    心不全にて発症し,救命し得た腹部大動脈瘤-下大静脈瘻の1例を経験したので報告する.症例は63歳男性.腰痛を認め,鎮痛剤にて軽減したが,その後も鈍痛が持続し,4日後より咳嗽,血痰,全身倦怠感が出現したため,当院救急外来を受診.急性心不全の診断で緊急入院となった.腹部に拍動性腫瘤を触知し,造影CTにて腹部大動脈瘤を認め,動脈相にて右腸骨静脈から下大静脈が造影された.腹部大動脈瘤の下大静脈穿通と診断し,緊急手術を行った.大動脈分岐部直上の右側壁に示指頭大の下大静脈との交通口を認め,同部を用手的に圧迫しながら閉鎖し,Y-graft置換を行った.術後経過は良好で,術後16日目退院となった.大動脈瘤-下大静脈瘻は非常に稀な疾患で術前診断率は50~70%と低い.動脈瘤に心不全症状を認めた場合,動静脈瘻の存在を念頭において検査をすすめ,速やかに手術を行うことが重要である.
  • 平岡 有努, 都津川 敏範, 片山 桂次郎, 近沢 元太, 吉鷹 秀範, 杭ノ瀬 昌彦, 石田 敦久
    2010 年 19 巻 6 号 p. 711-714
    発行日: 2010/10/25
    公開日: 2010/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
    感染性大動脈瘤は,いまだ術後感染コントロールに難渋し得る予後の悪い疾患である.われわれは,Citrobacterによる感染性大動脈瘤に対し,瘤のen-bloc摘出と解剖学的再建を施行し良好な経過を得た.症例は73歳男性.腹痛を主訴に来院,腹部造影CTにて感染性腹部大動脈瘤切迫破裂を疑い緊急手術施行した.瘤を切開することなく,瘤・周囲組織をen-blocに摘出,ならびにリファンピシン浸漬人工血管による解剖学的血行再建・大網充填を一期的に行った.術後感染兆候を認めず,術後第25病日に軽快退院となった.また,術前血液培養・術中検体培養にて感染性大動脈瘤の起因菌として非常に稀なCitrobacter freundiiが検出された.
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