日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
21 巻, 1 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
巻頭言
原著
  • 安 健太, 五十嵐 仁, 楠原 隆義, 中塚 大介, 廣瀬 圭一, 岩倉 篤, 山中 一朗
    2012 年 21 巻 1 号 p. 1-4
    発行日: 2012/02/25
    公開日: 2012/02/24
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】心臓大血管手術におけるアプロチニンの使用禁止に伴い,それに替わるものとしてトラネキサム酸(TA)を使用してきた.われわれは胸部大動脈手術におけるTA術中持続投与の有用性について比較検討した.【方法】2008年8月~2009年10月にかけて施行した胸部大動脈手術54例を対象とした(弁・冠動脈との合併症例,左開胸症例,stentgraft症例は除く).年齢71.1±9.9歳で男性24名.TAを術中に持続投与した19症例をT群(年齢70.8±9.7歳,男性11名),投与しなかった35症例をN群(年齢71.3±10.1歳,男性13名)とし比較検討を行った.内訳は解離性動脈瘤がT群10例・N群25例で真性瘤がT群9例・N群10例であった.緊急症例はT群9例・N群22例で,術前の疾患や緊急手術の頻度に有意差はなかった.【結果】術前検査でのHtや血小板,手術時間,ポンプ時間には両群間で有意差を認めなかった.術中・術後の平均の輸血量の比較を行うとMAPはT群7.2±5.5単位・N群14.7±12.1単位,FFPはT群6.9±6.2単位・N群14.9±12.5単位,血小板輸血はT群13.2±9.5単位・N群26.9±16.3単位と,いずれもT群で有意に(P<0.05)輸血量の減少を認めた.死亡例はT群0例・N群2例で,主要合併症はT群4/19例(脳梗塞1例,脳出血1例,人工血管感染1例,縦隔炎1例)・N群16/35例(脳梗塞8例,縦隔炎2例,再開胸4例,低酸素脳症1例,吻合部破裂1例)であった.【結語】胸部大動脈手術において術中にTAの持続投与を行うことで有意に輸血量を軽減できた.
  • 岡田 昌彦, 亀崎 真, 三上 学, 大倉 淑寛, 山川 潤, 杉山 和宏, 濱邊 祐一
    2012 年 21 巻 1 号 p. 5-9
    発行日: 2012/02/25
    公開日: 2012/02/24
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】外傷性胸部大動脈損傷は,迅速な治療が必要な致死的外傷であり,われわれが救命救急センターで経験した26例の患者因子と生命予後との関連を検討した.【方法】1999年から2009年までに墨東病院救命救急センターに搬送され,TTARと診断した26例を対象として患者因子や合併損傷からinjury severity score(ISS)やprobability of survival(Ps)などの外傷パラメーターと実際のoutcomeとを照らし合わせて後方視的に検討した.【結果】自験例26例のうち多発外傷治療を完遂し得たものは13例で,そのうち大動脈修復手術は,緊急で7例,待機で5例に行い10例が生存退院しており,大動脈修復術まで行うことのできた症例の予後は比較的良好であった.一方,来院後に心肺停止となり治療を完遂できなかったものが13例で全例死亡したが,そのうち受傷から2時間以内の早期のものが11例と大半を占めた.解剖学的重症度のISSは有意に死亡例で高値(P=0.007)を示しており,四肢・脊椎・骨盤損傷例のISSは,有意差はなかった(P=0.077)が,骨盤骨折合併に死亡例も多く予後を悪化させる傾向にあった.このため,当科では,重症骨盤骨折合併例に対して,始めに短時間で骨盤創外固定を行い,その後,連続してTTAR修復を行うストラテジーで治療を行い有効であった.TRISS法で算出されるPsは,予後との強い相関(P=0.007)が認められ,TTARにおける侵襲の評価においても非常に有用であった.【結論】TTARは,受傷後早期に出血死するリスクが高いため,ISSやPsにより外傷侵襲を評価したうえで,合併損傷とともに可及的速やかな修復を行うことが予後を改善するために有用であると思われた.
  • 牧野 裕, 佐藤 公治, 杉木 孝司, 村上 達哉
    2012 年 21 巻 1 号 p. 11-13
    発行日: 2012/02/25
    公開日: 2012/02/24
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】偽腔閉塞型Stanford A型解離の治療方針は手術すべきか,保存療法か,未だ統一されていない.今回われわれは,当院で経験した偽腔閉塞型Stanford A型解離の経過から治療方針を検討した.【対象・方法】2002年2月から2010年10月までに加療したStanford A型偽腔閉塞型急性大動脈解離20例を対象とした.発症時および経過中手術適応となった群と,遠隔期まで手術適応とならなかった群を比較検討した.【結果】発症時上行大動脈径は手術適応(-)群42.5±5.6(35–48)mm,手術適応(+)群49.3±4.8(40–60)mmで手術適応(+)群が有意に大きかった.エントリーやulcer-like projection(ULP)が上行弓部大動脈に存在するものは手術適応(+)群で有意に多かった.一方,偽腔の厚さは両郡間に有意差は認められなかった.【考察】再解離した症例の手術成績は不良のため,ハイリスク症例は積極的に手術する必要がある.とくに,上行大動脈径50 mm以上,エントリーが上行弓部に存在するものは準緊急的に手術する必要がある.
  • 佐伯 悟三, 井田 英臣, 河合 奈津子
    2012 年 21 巻 1 号 p. 15-19
    発行日: 2012/02/25
    公開日: 2012/02/24
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】当科では2002年10月より腹部大動脈瘤破裂手術後の多臓器不全の原因となるabdominal compartment syndrome(ACS)を回避するため,重症例に対し積極的にOpen managementを行っている.症例の臨床経過を検討しOpen managementの有用性につき検討した.【方法】2002年10月~2011年1月までに手術を完遂した腹部大動脈瘤破裂連続20例について,通常に閉腹を行った10例(閉腹群)とOpen managementを行った10例(開放群)につき,術前術中因子,術後経過について検討した.Open managementの適応は,(1)閉腹時に明らかに術後腹腔内圧の上昇が予想される場合,(2)術後重篤な合併症が生じる危険性が高いと判断した場合とした.【結果】術前術中因子は(閉腹群):(開放群)で術前ショック例1/10 : 5/10,術前心停止例0/10 : 3/10,平均手術時間211分: 251分,平均出血量2433 g : 8228 g,と開放群でより重篤な症例が多かった.術後経過は(通常群):(開放群)で術後ショック遷延例0/10 : 4/10,重篤な臓器不全が生じた例2/10 : 7/10,死亡例0/10 : 2/10であった.死亡原因は手術中からのショック1例,広範な腸管壊死1例でともに1日以内に死亡した.生存例のなかで開放群に生じた重篤な合併症は,ショック3例,腎不全2例,腸管壊死1例,呼吸不全2例(重複あり)であったが,十分な輸液,呼吸管理のしやすさなど術後の回復にOpen managementが有用であったと思われた.【結論】重篤な腹部大動脈瘤破裂症例に対するOpen managementはACSを回避し救命率を上げるために有用であることが示唆された.
症例
  • 内山 英俊, 菅野 範英, 岸野 充浩, 長岡 秀郎, 加藤 奨一, 井上 芳徳
    2012 年 21 巻 1 号 p. 21-24
    発行日: 2012/02/25
    公開日: 2012/02/24
    ジャーナル オープンアクセス
    頭蓋外頸動脈瘤は非常にまれな疾患ではあるが,塞栓症や破裂など重篤な合併症がおこりうる.その治療に関しては外科手術や血管内治療でさまざまな方法が報告されている.しかし,瘤が大きく,また頭蓋底に達するような症例では治療に難渋することがある.症例は50歳,女性.右頸部に拍動性腫瘤を自覚していた.瘤は内頸動脈起始部から始まり最大で径3.1 cmの紡錘状で細い交通を介して3個連なっていた.瘤の末梢側は頭蓋底に達し,外科手術では末梢側の血管確保が困難と判断した.頸動脈遮断試験にて対側からの十分な側副血行があり,遮断中神経症状を認めなかったこと,および瘤内血栓も認めなかったことから,血管内操作も可能と判断し,末梢側のコイル塞栓術と,中枢側の結紮術および可及的な瘤切除術を施行し良好な結果を得た.頭蓋外頸動脈瘤の治療の基本は切除術と再建術ではあるが,切除困難な症例もあり,瘤の大きさ,部位,形状によって治療法を選択していく必要がある.
  • 中島 正彌, 小林 英昭, 小林 昌義
    2012 年 21 巻 1 号 p. 25-28
    発行日: 2012/02/25
    公開日: 2012/02/24
    ジャーナル オープンアクセス
    症例は75歳,男性.2010年6月から300 m程度の歩行で左下肢痛がみられたため当院外来を受診された.8月下旬,左下腿安静時痛が出現したため入院,加療となった.超音波検査にて左右総腸骨動脈に狭窄病変を有する,閉塞性動脈硬化症と診断された.血液生化学検査は血清Cre 2.8 mg/dl,24時間クレアチン・クリアランスは24.6 ml/分と低値を示した.慢性腎不全を呈しており,われわれは炭酸ガスを用いての血管内治療を選択した.動脈病変の画像診断,治療において,腎不全やアレルギー患者ではヨード造影剤の使用は限定される.それに対応して,慢性腎不全患者に対する医療用炭酸ガス造影による血管内治療が近年報告されるようになってきた.ヨード造影剤使用に制限のある症例に対して,炭酸ガス造影,IVUSを用いることにより,下腿動脈においても血管内治療により良好な結果を得た1例を経験した.
  • 松島 峻介, 福隅 正臣, 本多 祐, 中桐 啓太郎, 吉田 正人, 向原 伸彦
    2012 年 21 巻 1 号 p. 29-31
    発行日: 2012/02/25
    公開日: 2012/02/24
    ジャーナル オープンアクセス
    大腿動脈-膝上膝窩動脈バイパスのMRSA人工血管感染に対して,自家静脈グラフトを用いて外腸骨動脈から膝下膝窩動脈への閉鎖孔バイパスを施行した症例を経験した.症例は67歳男性,人工血管による右大腿動脈-膝上膝窩動脈バイパスを施行後に鼠径創部の発赤ならびに腫脹を主訴に来院した.人工血管感染と診断し,中枢側吻合部にまで感染が及んでいることから,人工血管抜去ならびに閉鎖孔バイパスによる血行再建を一期的に行った.感染は膝上膝窩動脈を含む人工血管全長に及んでいたため人工血管を全抜去し,末梢側吻合部を膝下膝窩動脈とする閉鎖孔バイパスを大伏在静脈にて施行した.術後は感染の再燃を認めず,下肢虚血症状なく軽快退院した.大腿動脈から膝上膝窩動脈まで感染が及んだ人工血管感染に対し,自家静脈を用いた膝下膝窩動脈への閉鎖孔バイパスは経路が長くなるものの,感染治癒に優れており有用であった.
  • 瀬尾 浩之, 平居 秀和, 佐々木 康之, 末廣 茂文
    2012 年 21 巻 1 号 p. 33-36
    発行日: 2012/02/25
    公開日: 2012/02/24
    ジャーナル オープンアクセス
    30歳,女性.16歳時にSystemic lupus erythematosus(SLE)と診断され,以後ステロイド加療をされていた.突然の前胸部痛を主訴に当院を受診したが,2度の心膜炎の既往を有しており,心膜炎再発と診断され経過観察となった.しかし,その後も症状が持続したため8日後に造影CT検査を施行したところ,Stanford A型急性大動脈解離と判明し緊急手術となった.手術は選択的脳灌流下に上行弓部大動脈人工血管置換術を行い,将来の残存解離腔拡大による二期的手術を考慮しelephant trunk法を同時に施行した.術後は著変なく経過し,術後30日目に退院となった.病理組織所見では大動脈壁に動脈硬化所見はみられず,血管炎の所見を認めた.若年SLE患者に発症した大動脈解離は稀であり,とくに血管炎の関与例はこれまで2例の報告があるのみで,極めて稀と考えられた.
  • 納庄 弘基, 戸部 智, 松尾 辰朗, 三里 卓也, 林 太郎, 谷村 信宏
    2012 年 21 巻 1 号 p. 37-42
    発行日: 2012/02/25
    公開日: 2012/02/24
    ジャーナル オープンアクセス
    自験例は41歳男性.上腸間膜動脈(SMA)解離の診断にて転院搬送.造影CTにてSMA真腔閉塞認めず空腸動脈分枝の血流も保たれており,その他腸管虚血を疑う所見を認めなかったため,抗凝固・抗血小板療法は行わず厳重な血圧管理のみで良好な経過を得た.加えて2008年8月から2011年4月までに本邦で報告された保存的加療例のうち自験例を含め治療内容,転帰が明らかな33例を検討した.保存的加療中に真腔閉塞を来し血行再建を要した症例はなかった.また非抗凝固療法群では偽腔の再開通を認めなかったのに対し,抗凝固療法群では初診時偽腔開存例のうち5例で偽腔閉鎖を得られず,初診時偽腔閉塞例のうち2例で偽腔再開通を認めた.抗血小板療法のみ施行された群では偽腔の再開通を認めなかった.特発性孤立性SMA解離に対して造影CTにて経時的に経過観察を行い,抗凝固・抗血小板療法を行わず保存的に軽快した症例を経験したため文献的考察を加え報告する.
  • 牧野 裕, 佐藤 公治, 杉木 孝司, 村上 達哉
    2012 年 21 巻 1 号 p. 43-45
    発行日: 2012/02/25
    公開日: 2012/02/24
    ジャーナル オープンアクセス
    Stanford A型解離は予後不良の疾患である.さらに分枝虚血を伴った場合,早期死亡30~50%と報告されている.今回われわれは腕頭動脈の虚血を伴うA型解離に対し弓部置換術を行ったが術後脳ヘルニアを発症し救命できなかった症例を経験した.症例は63歳女性.当初脳梗塞の診断で入院したが第二病日に意識消失,左共同偏視を認めCTで大動脈解離の診断となった.CTでは腕頭動脈が解離腔により圧排されていた.意識の改善傾向を認めたため緊急で弓部置換術を行った.術後一時意識は回復したものの,徐々に意識レベル低下.CTで広範な脳浮腫,脳ヘルニアを認め術後9日目に死亡した.広範な脳梗塞を伴った場合,浮腫改善まで待ち待機的に手術を行うか,待機できない場合は,頭蓋内外減圧や,総頸動脈を結紮するといった工夫が必要と考えられた.
  • 滝内 宏樹, 石田 敦久, 近沢 元太, 西川 幸作, 飯田 淳義, 杭ノ瀬 昌彦
    2012 年 21 巻 1 号 p. 47-50
    発行日: 2012/02/25
    公開日: 2012/02/24
    ジャーナル オープンアクセス
    腫瘍塞栓とは血管内に進展,転移した腫瘍が遊離することで肺塞栓,脳梗塞,末梢動脈閉塞などを引き起こす病態である.今回われわれは両下肢の腫瘍塞栓による急性動脈閉塞を契機に食道腫瘍性病変の発見に至った症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.症例は68歳男性.左下肢痛が次第に増強するため当院受診.両側膝窩動脈以下の拍動は触知せず,冷感および安静時痛を認めた.造影CT検査では両側膝窩動脈の閉塞を認め,同日緊急手術を施行した.血栓除去および自家静脈によるパッチ形成を行い,腫瘍塞栓を疑い病理に提出した.病理結果は上皮系悪性腫瘍を疑うものであった.術後2日目に腹痛,血圧低下,貧血進行のため上部消化管出血を疑い,緊急内視鏡検査を施行した.胸部食道および食道胃接合部に腫瘍性病変を認め,生検を行った.下肢腫瘍塞栓と病理結果は完全に一致しなかったが,原発巣検索ならびに食道腫瘍精査加療目的に転院となった.
feedback
Top