日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
21 巻, 4 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
巻頭言
原著
  • 広川 雅之, 栗原 伸久
    2012 年 21 巻 4 号 p. 583-588
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2012/06/26
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】2011年より本邦にて保険適用となった波長980 nmレーザーによる血管内レーザー治療(EVLA)を行った症例を検討し,その初期成績を報告する.【対象と方法】2011年1月より4月までに当院でEVLAを行った大伏在静脈(GSV)に弁不全を有する1次性下肢静脈瘤症例319例354肢を対象とした.レーザー装置は波長980 nmの半導体レーザー(ELVeSTM レーザー)を用い,超音波観察下経皮アプローチでレーザーファイバーを静脈内に挿入,TLA(tumescent local anesthesia)麻酔下に浅腹壁静脈合流部直下よりレーザーファイバーを用手的に牽引しながらレーザー出力8–10 Wで静脈を焼灼した.術後48時間以内,1週間後,1カ月後および4カ月後に合併症および超音波検査でGSVの閉塞の有無を観察した.【結果】平均手術時間は34.9分,照射GSV長は36.3 cm,平均照射エネルギーは86.3 J/cmであった.DVTや皮膚熱傷などの重大な合併症は認められなかった.大腿部疼痛は136肢(38.4%),皮下出血は230肢(65.0%)に認められたが,すべて術後1カ月目には消失した.EHIT(endovenous heat-induced thrombus)は55肢(15.5%)に認められた.Kaplan-Meier法による累積閉塞率は術後7カ月で98.1%であった.【結論】波長980 nmレーザーによるEVLAは安全で日帰り手術に適した治療であり,健康保険に収載されたことにより血管外科医が身につけるべき標準的術式となると考えられる.
  • 猪狩 公宏, 工藤 敏文, 豊福 崇浩, 西澤 真人, 内山 英俊, 小泉 伸也, 米倉 孝治, 地引 政利, 菅野 範英, 井上 芳徳
    2012 年 21 巻 4 号 p. 589-593
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2012/06/26
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】当科では多発分節的下肢閉塞性動脈病変に対し鼠径靱帯上の血管内治療と鼠径靱帯以下の手術治療を併用したハイブリッド治療を行っており,当科で経験したハイブリッド治療症例について検討した.【対象と方法】対象は2008年4月より2011年3月までに一期的にハイブリッド治療を施行した16例17肢である.男性13例,女性3例で,平均年齢は73歳であった.Fontaine分類はII度:11肢,III度:1肢,IV度:5肢であった.検討項目として,手術因子や術後合併症,開存率や肢切断の有無について検討した.【結果】血管内治療では大動脈病変3例に,総腸骨動脈病変11肢および外腸骨動脈病変6肢にステントを留置した.鼠径靱帯以下の血行再建術は大腿動脈に対する内膜摘除術(thromboendarterectomy; TEA)を11肢に,バイパス術は9肢に対し施行し,そのうち6肢では膝下動脈へのバイパス術を施行した.足関節上腕血圧比は治療前後で0.47±0.21から0.76±0.25と有意に上昇を認めた(P<0.05).術後合併症は1例で呼吸不全を認めたが軽快し,術後30日以内の死亡例は認めなかった.1例に術後9カ月で膝下切断を要した.Fontaine III,IV度における救肢率は2年で83%であった.【結論】多発分節的下肢閉塞性動脈病変に対し,大動脈腸骨動脈病変への血管内治療と鼠径靱帯以下の末梢動脈病変の手術治療を組み合わせることにより,安全かつ満足のいく治療成績が得られており有用な治療法といえる.
  • 秦 光賢, 秋山 謙次, 和久井 真司, 高坂 彩子, 瀬在 明, 吉武 勇, 木村 玄, 高橋 佳奈, 畑 博明, 塩野 元美
    2012 年 21 巻 4 号 p. 595-598
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2012/06/26
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】スタンフォードA型急性大動脈解離に対する緊急手術の低侵襲化の実現のため考案した,中等度低体温循環停止,急速冷却・復温法を用いたless invasive quick replacement(LIQR)の早期および遠隔成績について検討する.【方法】過去5年半のA型解離手術156例中LIQRを88例(56.4%)に施行した.平均年齢65.8±14.2歳(35~88),男性47例,血栓閉塞型48例(54.5%)で,18例(20.5%)は臓器虚血や術前心肺停止など手術死亡の危険因子を有していた.手術は右房脱血,大腿動脈送血で体外循環を開始.28°Cまで急速に冷却し循環停止.脳への送血は行わず,末梢側断端形成の後open distal吻合を行う.この間人工心肺回路内血液を最大限に加熱するとともに患者体部を加温マットで加熱する.末梢側吻合後人工血管側枝より順行性体外循環を開始.加熱した回路内血液を送血することにより急速に復温しつつ中枢側吻合を完了する.【結果】平均循環停止時間19.1±5.2分,体外循環83.6±14.7分,手術時間147.3±22.3分,術後人工呼吸10.5±8.4時間,在院9.7±2.0日であった.術後出血再開胸5例(5.7%),脳合併症4例(4.5%),呼吸不全気管切開3例(3.4%),手術死亡3例(3.4%)であった.医療経済的には,包括医療点数が出来高算定を有意に上回った(P=0.0073).5年間の再手術回避率89.7%,手術死亡を含む累積生存率は83.1%であった.【結語】LIQRは,これまでの脳保護法,冷却・復温法の常識とは全く異なる手法であるが,手術成績,遠隔成績ともに良好で,高齢者をはじめ臓器虚血や術前心肺停止例など,これまで救命困難であった症例に対しても効果的であった.
症例
  • 田中 恒有, 吉鷹 秀範, 杭ノ瀬 昌彦, 都津川 敏範, 石田 敦久, 近沢 元太, 津島 義正
    2012 年 21 巻 4 号 p. 599-602
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2012/06/26
    ジャーナル オープンアクセス
    腹部ステントグラフト内挿術(endovascular aneurysm repair; EVAR)後の瘤拡大に対して開腹手術を行った1例を経験したので報告する.症例は77歳男性.2007年9月に腹部大動脈瘤に対してEVARを施行された.術後Type IIエンドリークを認め,外来でフォローアップしていた.2011年4月瘤拡大を認めるようになり,手術目的で入院した.手術は経腹膜経路で到達し,腰動脈を外側からクリッピングして瘤を切開し縫縮した.ステントグラフトは抜去しなかった.EVAR後の晩期エンドリーク治療には,経動脈的塞栓術や経腰的塞栓術などがあるが,本邦で開腹手術を要した報告は少ない.本術式は,腰動脈を処理することでエンドリークを止め,新たに人工血管置換術をする必要がなく,低侵襲であると思われた.
  • 古川 博史
    2012 年 21 巻 4 号 p. 603-606
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2012/06/26
    ジャーナル オープンアクセス
    高齢者四肢高度拘縮内シャント造設困難症例に対して,4~6 mm tapered graftを使用した腋窩動脈-腋窩静脈前胸部交叉シャント(ネックレスシャント,arteriovenous axillary crossover grafts; AVACG)を作成した2例を経験した.症例1:91歳,女性.約6カ月前に左前腕内シャント閉塞で左上腕レベル尺側皮静脈転位内シャントを造設したが,四肢高度拘縮でシャント血流不全を繰り返すためPTFE 4~6 mm tapered graftを使用しAVACGを作成.術後14日目に穿刺にて透析可能,術後40日目に退院.症例2:84歳,女性.約3カ月前に右前腕内シャント閉塞で再度右前腕に内シャント再建したが,シャント静脈発達不良にて再閉塞.四肢高度拘縮で四肢への作成困難にて4~6 mm tapered graftでAVACGを作成.術後8日目に穿刺可能となったが,誤嚥性肺炎の悪化で術後31日目に呼吸不全にて死亡した.四肢が高度に拘縮した内シャント造設困難症例に対して4~6 mm tapered graftを使用したAVACGは,長期留置型カテーテルを念頭に置きつつ検討されるバスキュラーアクセスのオプションと考えられた.
  • 向原 公介, 松本 和久, 上野 隆幸, 四元 剛一, 豊平 均, 山下 正文
    2012 年 21 巻 4 号 p. 607-610
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2012/06/26
    ジャーナル オープンアクセス
    急性大動脈解離によるMalperfusionのなかで腸管虚血が生じた際の死亡率は高い.今回われわれは急性大動脈解離による腸管虚血に対して腸骨動脈-上腸間膜動脈バイパス術を施行し救命し得た2例を経験したので報告する.症例1は30歳男性でCTにてB型急性大動脈解離による左総腸骨動脈閉塞を認めた.上腸間膜動脈(SMA)は解離が及んでいたが閉塞は認めなかった.大腿-大腿動脈バイパス術後3日目に腹膜刺激症状が出現しCTでSMA閉塞を認め緊急開腹した.小腸全体が色調不良で大伏在静脈を用いた右総腸骨動脈-SMAバイパス術を施行し,二期的に壊死小腸切除を行い軽快した.症例2は63歳男性でCTにて心タンポナーデを伴うA型急性大動脈解離を認め,SMA根部は解離が及んでいたが閉塞は認めなかった.緊急上行置換術を施行後15日目に腹痛が出現し,CTでSMAの真腔狭小化を認め,その後症状が増悪し左外腸骨動脈-SMAバイパス術を施行し軽快した.
  • 上田 翔, 谷村 信宏, 三里 卓也, 納庄 弘基, 戸部 智
    2012 年 21 巻 4 号 p. 611-614
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2012/06/26
    ジャーナル オープンアクセス
    人工血管バイパス術後の鼠径部難治性リンパ瘻は治療に難渋することも多いが,今回われわれは有茎大網充填が有効であった症例を経験した.症例は69歳女性,両側のFontaine分類IV度,Rutherford分類V度の重症下肢虚血に対し,両側総大腿動脈内膜摘除,右腋窩動脈-両側総大腿動脈バイパス術,右総大腿動 脈-膝下膝窩動脈バイパス術を施行した.術後,鼠径部難治性リンパ瘻となり,再縫合閉鎖,癒着術,局所圧迫など施行したが再発した.鼠径部の充填でよく利用される薄筋ではそれまでの処置でさらに拡大した鼠径部創に対しては不十分と判断し,人工血管感染や一部のリンパ浮腫で用いられる有茎大網充填術を施行したところリンパ瘻が治癒し,その後再発も認めなかった.難治性リンパ瘻に対する有茎大網充填の報告はわれわれの検索する限り認めなかったため,若干の文献的考察を含めて報告する.
  • 菊地 信介, 稲葉 雅史, 小久保 拓, 吉田 有里, 内田 大貴, 笹嶋 唯博
    2012 年 21 巻 4 号 p. 615-618
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2012/06/26
    ジャーナル オープンアクセス
    89歳男性.脳梗塞の既往があり,肺炎を契機とした腎不全により透析導入となった.透析用カテーテルを挿入の既往のある右鼠径部に拍動性腫瘤の触知,皮膚の発赤を認め,感染性動脈瘤と診断した.手術は人工血管による閉鎖孔バイパス後,瘤の中枢,末梢側を縫合閉鎖し,鼠径部開放創は局所療法継続にて治癒した.血腫培養よりMRSAが検出された.術後7カ月目に右大腿中央部が突然腫張し,CTにて右浅大腿動脈瘤破裂と診断した.手術所見では浅大腿動脈の一部石灰化が軽度な部位が穿孔していた.閉鎖孔バイパスグラフトを膝上部で遮断し,瘤の中枢,末梢側を結紮,縫合閉鎖した.血腫から再度MRSAが検出された.本症例では感染性動脈瘤が異時性に発症し,内因性要因との関連が推察された.閉鎖孔経路によりグラフトは感染部位から十分に隔離され,本法のとくに重症鼠径部感染に対する有用性が示された.
  • 針谷 明房, 恵木 康壮, 高澤 賢次, 三澤 吉雄
    2012 年 21 巻 4 号 p. 619-622
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2012/06/26
    ジャーナル オープンアクセス
    慢性に経過する腹部大動脈瘤破裂は発症時期が不明で動脈瘤破裂の典型的な症状を欠くことがあり,確定診断に時間を要する.われわれは泌尿器科・整形外科・内科と複数の科で精査した後,右下肢運動障害を呈したchronic contained ruptureと診断に至った症例を経験したので報告する.症例は63歳,男性.右下肢運動障害による歩行困難のため,近医の整形外科に入院.腰椎MRI・CT検査で腹部大動脈瘤の切迫破裂と診断され,当院へ緊急搬送された.数日前より腰痛が悪化,右下肢の運動障害を呈し,左下腹部に小手拳大の無痛性拍動性腫瘤を触知しているため,緊急手術を行った.動脈瘤は多結節状で炎症性動脈瘤を疑わせた.
  • 阪 哲彰, 相澤 啓, 大木 伸一, 三澤 吉雄
    2012 年 21 巻 4 号 p. 623-625
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2012/06/26
    ジャーナル オープンアクセス
    腹部大動脈瘤が異所性左腎静脈に穿破した症例を救命した.症例は80歳男性.左側腹部痛にて近医を受診し,単純腹部CTで腹部大動脈瘤を認めたため当科に救急搬送された.血液生化学検査では炎症所見と腎機能障害を認めるのみであった.造影CTにて腹部大動脈瘤から異所性左腎静脈への穿破を認めたため穿孔部閉鎖とY字型人工血管による置換術を施行した.術後経過は良好であった.腹部大動脈瘤の穿破は下大静脈や消化管などにしばしばみられるものであるが,稀に異所性左腎静脈に穿破する症例が存在し,その診断には造影CTが有用であった.
  • 吉住 朋, 碓氷 章彦, 江田 匡仁, 桑原 史明, 大島 英揮, 上田 裕一
    2012 年 21 巻 4 号 p. 627-631
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2012/06/26
    ジャーナル オープンアクセス
    症例は42歳男性,Marfan症候群.大動脈基部拡大および大動脈弁逆流を伴う急性大動脈解離を発症したため緊急でBentall手術および上行置換術を施行し,術後経過は順調であった.術後CTで腹部大動脈瘤があり,術後3カ月に他院で腹部大動脈人工血管置換術施行した.周術期に中心静脈カテーテル感染からMSSAを起因菌とする大動脈基部吻合部感染性仮性動脈瘤を合併した.また感染性脳動脈瘤破裂を起こし,くも膜下出血を合併した.2週間の抗生剤治療後,仮性瘤に対して手術を行った.再胸骨正中切開で低体温循環停止を併用しながらrifampicin含浸人工血管を使用して再Bentall手術を行った.また術後2日目に大網充填術を施行した.術後6週間の抗生剤投与を行い感染再燃は認めず,術前からの神経症状はリハビリにて改善した.術前脳出血を合併した人工血管感染は治療戦略が重要となる.集学的治療を行い救命できたため報告する.
  • 廣岡 茂樹, 外田 洋孝, 折田 博之
    2012 年 21 巻 4 号 p. 633-635
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2012/06/26
    ジャーナル オープンアクセス
    傍腎動脈腹部大動脈瘤(JR-AAA)破裂の手術は到達経路,遮断部位,臓器保護の方法などの手技が複雑となり,手術死亡率が高率となる.今回われわれはJR-AAA破裂と診断された83歳,男性に対し大動脈瘤中枢側断端を形成することで,吻合部径を50 mmから22 mmに縮小し,吻合部を強化することに成功したので具体的方法および問題点について考察し報告する.
  • 徳井 俊也, 小暮 周平, 山本 直樹, 藤井 太郎, 渡邉 文亮, 湯浅 右人
    2012 年 21 巻 4 号 p. 637-640
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2012/06/26
    ジャーナル オープンアクセス
    症例は73歳女性.71歳時に直腸癌に対して骨盤内臓全摘および人工肛門・回腸導管造設術を施行されており,その後化学療法と放射線療法を受けていた.腎盂腎炎から敗血症となり,抗生剤治療にて炎症反応の改善傾向を認めていたが,胸水・心嚢水貯留が出現した.造影CTの結果から感染性胸部大動脈瘤破裂と診断し,自作ステントによる緊急ステントグラフト内挿術を行った.ステントグラフト内挿後9日目に動脈瘤周囲膿瘍に対して全身麻酔・分離換気下に左小開胸で膿瘍腔郭清・膿瘍腔ドレナージを行った.その後も感受性のある抗生剤を使用しドレーンを挿入したままで膿瘍腔郭清術後60日目に退院.郭清術後8カ月でドレーンを抜去したが,ステントグラフト内挿術施行後2年経過した時点で感染の再燃を認めていない.造影CTでは膿瘍腔・動脈瘤の消失を認め,endleakは認めなかった.感染性胸部大動脈瘤破裂症例に対して,二期的にドレナージを加えることでステントグラフト内挿術も良好な長期成績を期待できる.
feedback
Top