日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
30 巻, 2 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
講座
  • 児玉 章朗, 佐藤 誠洋, 池田 脩太, 川井 陽平, 鶴岡 琢也, 飯井 克明, 杉本 昌之, 新美 清章, 坂野 比呂志, 古森 公浩
    2021 年 30 巻 2 号 p. 79-83
    発行日: 2021/03/17
    公開日: 2021/03/17
    ジャーナル オープンアクセス

    今回,内臓動脈瘤につき,簡潔に病因,治療適応,治療法について述べた.内臓動脈瘤は腹部大動脈から分岐する腹腔動脈,上腸間膜動脈,腎動脈,下腸間膜動脈およびその分枝に形成された動脈瘤を指す.比較的稀な疾患であるためエビデンスが乏しい一方,近年の画像診断の進歩とともに,日常臨床で遭遇する機会もしばしばある.最近海外からもガイドラインが提唱されており,われわれ血管外科医は理解を深めておく必要がある.

  • 保科 克行
    2021 年 30 巻 2 号 p. 95-99
    発行日: 2021/04/06
    公開日: 2021/04/06
    ジャーナル オープンアクセス

    内臓動脈の疾患は瘤,解離,狭窄および閉塞などがある.それらの疾患に対して,開腹下での手術が必要なことは多い.内臓動脈へのアプローチは,それらの隣接臓器や破格の多さに応じて難易度が変わる.中でも膵臓周囲の剝離を要する内臓動脈は,注意深く膵損傷を行さないようにアプローチすることが重要である.手術解剖を理解すること,また疾患の成因を追求することが,手術方法の選択と安全な手技のために重要である.

  • 石橋 宏之
    2021 年 30 巻 2 号 p. 101-107
    発行日: 2021/04/06
    公開日: 2021/04/06
    ジャーナル オープンアクセス

    上腸間膜動脈(SMA)は大動脈弓部分枝以遠において最も重要な動脈であり,急性虚血に対しては迅速に診断し,的確に治療を行う必要がある.SMA虚血に属する,あるいは関連する病態には,急性SMA塞栓症,慢性SMA虚血,大動脈解離に伴うSMA灌流障害,孤立性SMA解離,SAM,非閉塞性腸管虚血,腸間膜静脈血栓症などがある.2017年ESVSから腸間膜動静脈疾患に関するガイドラインが発表され,2019年日本血管外科学会から翻訳版が出たので,この内容を紹介しつつ,解説する.大動脈解離に関しては,ESVS下行胸部大動脈疾患ガイドラインを参考にして記述する.

原著
症例
  • 野中 利通, 小坂井 基史, 櫻井 寛久, 中山 雅人, 櫻井 一
    2021 年 30 巻 2 号 p. 63-67
    発行日: 2021/03/17
    公開日: 2021/03/17
    ジャーナル オープンアクセス

    11歳男児.機能性単心室および体心室流出路障害に対して乳児期のノーウッド手術を経て,2歳で心外導管型TCPCフォンタン手術に到達.11歳時のカテーテル検査で遺残大動脈縮窄を認めていたため手術適応となった.造影CT検査では腕頭動脈分岐後より低形成弓部となり,左鎖骨下動脈分岐後に最小径5 mmとなり,狭窄後拡張を認めていた.手術は胸骨正中切開,部分体外循環,心拍動下に傍右房経路で上行–下行大動脈バイパス手術を施行した.術後は合併症なく,順調に経過した.遺残大動脈縮窄症に対する上行–下行大動脈バイパス手術のメリットは反回神経傷害回避,呼吸器合併症の軽減,超低体温循環停止などの高侵襲な補助循環の回避がある.しかし食道損傷,横隔神経損傷,脳血流・冠血流の盗血現象など特有なデメリットがある.また患児の成長に伴う人工血管のサイズミスマッチの問題点が考慮され,遠隔期フォローが必要である.

  • 古山 和憲, 池田 真浩
    2021 年 30 巻 2 号 p. 75-78
    発行日: 2021/03/17
    公開日: 2021/03/17
    ジャーナル オープンアクセス

    腹部大動脈瘤による上腸間膜動脈症候群(SMAS)の報告は散見されるが,Yグラフト置換術(Y-GR)後にSMASを来した報告は稀である.今回,Y-GR後にSMASを発症した2例を経験したので文献的考察を踏まえて報告する.症例1: 70歳男性.傍腎腹部大動脈瘤に対してY-GRを施行.術後10日目に嘔吐あり,CT検査と上部消化管造影検査にてSMASと診断した.一時は消化管バイパス術も検討したが,保存療法で改善し,術後39日目に退院した.症例2: 80歳男性.傍腎腹部大動脈瘤に対してY-GRを施行.術後8日目に嘔吐あり,CT検査と上部消化管造影検査にてSMASと診断した.保存療法で改善し,術後49日目に退院した.SMASは腎動脈上での腹部操作と関連している可能性があり,傍腎腹部大動脈瘤のY-GR術後に合併する場合があるが保存的に経過を見ることが可能である.

  • 仲澤 順二, 井上 聡巳, 大川 陽史, 保坂 到, 水野 天仁
    2021 年 30 巻 2 号 p. 85-88
    発行日: 2021/03/24
    公開日: 2021/03/24
    ジャーナル オープンアクセス

    内臓動脈瘤の治療法としては,開腹人工血管置換術,塞栓術,ステントグラフト内挿術などが報告されているが,稀な疾患であるため,現在でも治療法は定まっていない.今回,巨大肝動脈瘤を,バスキュラープラグとコイルを用いた塞栓術で治療した症例を経験したため報告する.症例は70代女性.CT検査で最大径80 mmの巨大肝動脈瘤を指摘され,当科紹介となった.壊死性胆囊炎と腹壁瘢痕ヘルニアの既往があり,開腹人工血管置換術はハイリスクと判断され,塞栓術の方針となった.塞栓術に際しては,肝動脈瘤へ流入する総肝動脈径が太く,かつ留置できる範囲が短かったため,コイル塞栓の場合,術後にコイルが瘤内へ脱落する可能性があった.そのため肝動脈瘤中枢側にはAmplatzer vascular plug IIを留置し,末梢側にはコイル塞栓を行った.2回にわたる塞栓術を行い,肝動脈瘤内への血液流入を途絶させることができた.

  • 岸田 賢治, 野村 幸哉, 三重野 繁敏
    2021 年 30 巻 2 号 p. 89-93
    発行日: 2021/03/24
    公開日: 2021/03/24
    ジャーナル オープンアクセス

    総大腿動脈(CFA)から太径シースを用いて行う血管内治療では大小さまざまなアクセスルートの合併症が起こり得る.われわれはCFA経由で胸部大動脈ステントグラフト内挿術(TEVAR)を行い,太径シース抜去後に外腸骨動脈の脱落内膜が塞栓子となり,急性下肢動脈閉塞を合併した症例を経験した.症例は79歳,女性.胸部下行大動脈瘤に対して,左CFAから22 Frシースを腹部大動脈まで挿入し,TEVARを行った.シース抜去前のアクセスルート造影で左総腸骨動脈に限局解離を認めた.シース抜去後,CFA遮断下に脱落内膜の摘出,血管形成を行い,下肢再灌流を行った.術後の超音波,造影CT検査で左浅大腿動脈の完全閉塞所見を認めた.緊急塞栓除去後,下肢動脈血流は回復した.塞栓子は6 cm長の脱落内膜だった.本症例を通して血管内治療後のアクセスルートである腸骨動脈領域の内膜脱落のメカニズム,対処法について考察した.

  • 田内 祐也, 三井 秀也, 三浦 拓也
    2021 年 30 巻 2 号 p. 109-112
    発行日: 2021/04/06
    公開日: 2021/04/06
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は52歳,男性.3日前からの右上肢冷感,痺れを主訴に当院受診した.右橈骨動脈は拍動触知せず,上肢血圧の左右差を認めた.右上肢急性動脈閉塞症を疑い,造影CTを施行したところ,右鎖骨下動脈血栓閉塞像およびその原因と思われる上行弓部大動脈内血栓を認め,右上肢急性動脈閉塞症治療を先行させる方針とした.血栓は右椎骨動脈分枝直下から位置しており,上腕動脈アプローチでのバルーンカテーテルによる血栓除去は椎骨動脈塞栓症のリスクがあると考え,右鎖骨上切開による鎖骨下動脈アプローチを選択した.鎖骨上切開では,椎骨動脈およびその分枝中枢の鎖骨下動脈の剝離が可能であり,椎骨動脈を直接遮断した上で血栓除去を行った.術後経過は問題なく,脳梗塞の合併は認めなかった.手術手技による椎骨動脈塞栓のリスクがあると考えられる上肢急性動脈閉塞症に対して,鎖骨上切開アプローチが有用と考えられたため報告する.

  • 鈴木 正人, 伊藤 寿朗, 大川 洋平, 横山 秀雄, 森本 清貴, 大堀 俊介
    2021 年 30 巻 2 号 p. 113-116
    発行日: 2021/04/06
    公開日: 2021/04/06
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は67歳の女性,腹部大動脈瘤破裂に対してEndurant IIを用いた緊急EVARが施行された.術後経過は良好であったが,術後4カ月目の外来受診時に施行したCTにて,腹部大動脈瘤前壁に高さ25 mmの囊状の突出を認めた.造影CTにて明らかなエンドリークは認めなかったが,開腹による人工血管置換術の方針とした.手術にて大動脈瘤を剝離し大動脈を遮断せずに瘤を切開すると,黄色の液体が流出した.瘤内には血腫は認めず,エンドリークも認めなかった.中枢はステントグラフトごと腎動脈下で大動脈を遮断し,ステントグラフトを可及的に切除し人工血管置換術を施行した.術後経過は良好で合併症は認めなかった.腹部大動脈瘤破裂に対して緊急EVARを施行した4カ月後に,エンドリークがないにもかかわらず瘤拡大を認め,開腹手術を行った症例を経験したので報告する.

  • 桑野 彰人, 吉戒 勝, 佐藤 久, 林 奈宜, 高尾 貴史, 馬場 活嘉
    2021 年 30 巻 2 号 p. 119-123
    発行日: 2021/04/22
    公開日: 2021/04/22
    ジャーナル オープンアクセス

    孤立性上腸間膜動脈(SMA)解離の経過観察中に動脈瘤を形成し,持続する腹部症状と急速な瘤拡大を認め緊急手術を行った症例を経験した.症例はType B慢性大動脈解離で経過観察中の55歳男性.とくに症状なくCTにて孤立性SMA解離を認め,SMAの径は14 mmであった.1年5カ月後には26 mmと拡大し解離性動脈瘤を形成した.その1カ月後に心窩部痛が出現し瘤径が32 mmとさらに拡大したため,破裂予防目的で緊急手術を行った.動脈瘤は周囲組織と強固に癒着し,瘤壁は著明に肥厚しており炎症性動脈瘤が疑われた.動脈瘤を開放し大伏在静脈を用いてSMAと空腸動脈を再建した.術後は腸管虚血の症状を認めず経過し軽快退院した.

  • 月岡 祐介, 立石 烈, 大西 遼, 塩屋 雅人, 中原 嘉則, 金村 賦之
    2021 年 30 巻 2 号 p. 125-129
    発行日: 2021/04/22
    公開日: 2021/04/22
    ジャーナル オープンアクセス

    上行結腸憩室炎に続発した上腸間膜静脈血栓症(Superior Mesenteric Vein Thrombosis: SMVT)に対し保存的加療を行った1例を報告する.症例は78歳の男性.右下腹部痛と発熱を発症し前医に搬送され上行結腸憩室炎の診断で前医に入院となった.点滴抗生剤加療で改善しないため造影CTが施行されSMVTと診断され当院に搬送.当院では腹部症状は消失しており保存的加療の方針とした.未分画ヘパリン持続静注から開始しワーファリン内服に切り替え入院5日後のCTで血栓縮小を確認したため7日目に退院した.退院2カ月後のCTで血栓の消失を確認した.文献検索では,腸間膜静脈血栓症に先行する大腸憩室炎の部位としては上行結腸が多く,SMVTはIMVT(Inferior Mesenteric Vein Thrombosis: 下腸間膜静脈血栓症)よりも発生頻度が高かった.

  • 松山 正和, 赤須 晃治, 白崎 幸枝, 川越 勝也
    2021 年 30 巻 2 号 p. 131-135
    発行日: 2021/04/24
    公開日: 2021/04/24
    ジャーナル オープンアクセス

    右鎖骨下動脈起始異常(aRSA)を伴うKommerell憩室(KD)に対する胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR)と左鎖骨下動脈(LSA)へのステント留置(いわゆるChimney法)を行った症例を報告する.症例は61歳男性で,嚥下障害を主訴に近医受診し,CTでaRSAとKDを認め当科紹介となった.aRSAは食道背側を走行し,憩室の基部径は43.5 mm, 憩室頂部から対側大動脈壁間距離は54.5 mmであった.左総頸動脈分岐直後の弓部大動脈から下行大動脈にステントグラフトを内挿し,aRSA遠位部とKD内にコイルを充填した.順行性血流温存のため,LSAにステント留置,左椎骨動脈を左総頸動脈に転位した.術後,右上肢跛行を認めたが,重症右上肢虚血や盗血症候群,脳脊髄障害は認めなかった.術後半年で憩室の基部径は33.0 mmと縮小し,嚥下障害や右上肢跛行も消失した.術後2年で症状の再燃やKD再拡大は認めていない.

  • 髙橋 一輝, 奥田 紘子, 吉田 博希, 内田 恒
    2021 年 30 巻 2 号 p. 137-140
    発行日: 2021/04/24
    公開日: 2021/04/24
    ジャーナル オープンアクセス

    放射線治療の進歩は悪性腫瘍治療において大きな成果を挙げているが,晩期合併症として放射線性血管障害が問題となる.症例は57歳女性.9歳時に骨肉腫の疑いで左大腿遠位部に合計54 Gyの放射線治療を受け,55歳時に左浅大腿動脈から膝窩動脈の急性動脈閉塞を発症した.一時的に血管内治療により救肢されたが早期閉塞を繰り返し,左下肢安静時痛が持続するため当科へ紹介となった.左大腿下部から膝関節までの皮膚および皮下組織は高度な線維化により瘢痕化し,下腿リンパ浮腫を認めた.同側大伏在静脈を使用するin-situ法では瘢痕部での切開創が多くなり,創治癒不全や感染の発症が危惧されたため,対側の大伏在静脈を用いて浅大腿–膝下膝窩動脈バイパスを施行した.術後下肢血流は回復し経過は良好であった.放射線性血管障害による重症虚血肢に対し自家静脈バイパスで救肢し得た症例を経験したので報告する.

  • 小林 卓馬, 夫 悠, 渡辺 太治, 後藤 智行
    2021 年 30 巻 2 号 p. 163-167
    発行日: 2021/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル オープンアクセス

    大動脈十二指腸瘻(Aorto-Duodenal Fistula: ADF)は大動脈が十二指腸と交通を来す疾患であり大量の消化管出血や出血性ショックを引き起こし,未治療の場合は高率に死に至る重篤な疾患である.症例は62歳男性.前医にて吐血.上部消化管内視鏡,造影CTにてADFと診断された.前医放射線科にてIntra-Aortic Balloon Occlusion(IABO)が挿入され,当院へ転院搬送となった.緊急Endovascular Aortic Repair(EVAR)を施行,後日ステントグラフト抜去,人工血管置換術および十二指腸部分切除を施行した.ADFに対する治療は血行再建が原則となるが近年EVARによる止血例の報告も散見され,今回の症例もbridged therapyが奏功したと考えられた.

ガイドライン解説
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