水環境学会誌
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42 巻, 5 号
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研究論文
  • 原田 美冬, 高尾 祐平, 山口 緋加里, 鈴木 祐麻, 新苗 正和
    原稿種別: 研究論文
    2019 年42 巻5 号 p. 185-194
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/10
    ジャーナル フリー

    下水処理水を飲用レベルの水質まで処理する既存の下水処理水再利用システムでは, 精密ろ過膜 (MF膜) による前処理を行った後に逆浸透膜 (RO膜) による処理が行われている。しかし, MF膜を透過した溶存有機物によりRO膜がファウリングして頻繁な薬品洗浄が必要となることが指摘されている。そこで本研究ではアルミニウムを陽極とした電解凝集/浮上処理とMF膜から構成される前処理プロセスを構築して, 下水処理水に含まれる溶存有機物によるRO膜のファウリングの抑制を試みた。その結果, 電解凝集/浮上処理はバイオポリマーおよび芳香族系の有機物を選択的に除去すること, そして溶存有機物を低分子化することが分かった。また, 「電解凝集/浮上-MF膜」前処理プロセスはRO膜のファウリングの抑制に効果的であり, その抑制メカニズムは主なファウラントであるバイオポリマーおよびバイオポリマーの架橋を促進するカルシウムイオンの除去であることが示唆された。

ノート
  • 内野 宏治, 猪股 はるか, 田原 沙紀, 高巣 裕之
    原稿種別: ノート
    2019 年42 巻5 号 p. 195-200
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/10
    ジャーナル フリー

    本研究では, 有明海奥部の酸素消費への溶存態有機炭素 (DOC) 分解の寄与を明らかにすることを目的とした。2018年5月から8月にかけて, 有明海奥部の2地点において底層水を採取し, 培養実験により酸素消費速度および粒子態有機炭素 (POC) , DOC分解速度を求めた。その結果, 培養期間におけるPOCとDOCの分解量比はおよそ4:1であった。全酸素消費に対する有機物分解の寄与は, 貧酸素水塊形成前の5月は47.0-54.2%であったのに対し, その後は7.4-18.4%程度まで減少した。これらのことから, 特に貧酸素水塊形成段階において有機物分解による酸素消費が極めて重要な役割を果たしており, DOCの分解による酸素消費も貧酸素水塊形成の駆動因として無視できないことが示唆された。

  • 岩崎 雄一, 本田 大士, 西岡 亨, 石川 百合子, 山根 雅之
    原稿種別: ノート
    2019 年42 巻5 号 p. 201-206
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/10
    ジャーナル フリー

    水生生物保全を目的とした水質環境基準が設定された直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩 (LAS) の濃度が高い河川地点の特徴を評価するために, 2015年度の水質測定結果を用いて, LAS濃度が0.02 mg L-1 (淡水域の水質環境基準の最小値) を超過する河川地点 (LAS高濃度地点群) とLAS濃度が0.02 mg L-1以下の地点において, ①水面幅 (河川規模の指標) , ②周辺の土地利用, ③有機汚濁 (生物化学的酸素要求量:BOD) の程度を比較した。その結果, LAS高濃度地点群は, ①水面幅の変化が少なく小規模の河川, ②周辺に森林や農地が少なく, 住宅地や市街地が密集している都市域, ③BODが高く有機汚濁が進行した河川, に割合として多くみられることが示唆された。着目する化学物質について高濃度地点の特徴を把握することは, 水生生物の保全効果という観点から管理方策を検討する上で有用な判断材料となるだろう。

技術論文
  • 辻 盛生, 加藤 邦彦, 佐々木 理史, 菊池 福道, 家次 秀浩, 中村 道生, 小林 孝行, 後藤 久典, 辰巳 俊之, 田中 栄司
    原稿種別: 技術論文
    2019 年42 巻5 号 p. 207-218
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/10
    ジャーナル フリー

    本研究では, メタン発酵消化液処理の省エネルギー化と小面積化を目的として, 高分子凝集処理を組み合わせた伏流式人工湿地ろ過システムの水質浄化機能の評価を試みた。人工湿地処理水のBOD濃度は高分子凝集処理水から99%以上減少し, 最終処理水は全期間を通して目標とするBOD 20 mg L-1未満を下回った。T-Nは高分子凝集処理水から61.6%減少したものの, NO3-Nの残存が見られた。消化液高分子凝集処理水はC/N比が低く, 既に硝化が進んだ後段における脱窒の炭素源不足が要因と考えられた。T-Pは, 人工湿地において97.7%減少した。高分子凝集処理によって, 人工湿地への負荷は, BODとNH4-N負荷量に基づくOTR換算で3割減少し, 複数の人工湿地実施設運用事例の調査結果による試算から人工湿地の面積は約40%削減可能とされた。また, バイオガス発電施設の運用に用いる電力を差し引いた発電量の51%を残余とすることができた。

調査論文
  • 篠宮 佳樹, 横山 雄一
    原稿種別: 調査論文
    2019 年42 巻5 号 p. 219-229
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/10
    ジャーナル フリー

    高知県西部の森林流域において, 2011年7月18~19日における総降水量742 mmの“極端出水”のSS, TN, DNの流出負荷量について, 総降水量100~300 mmの“大出水”, 総降水量100 mm未満の“出水”と比較しながら調査した。試験流域 (砂岩, 73 ha, シイ・カシ林) で, 自動採水器を用いて2010~2012年にかけて6回 (総降水量44~742 mm) の出水時調査 (採水は2時間間隔) と月1回頻度の定期採水を行った。“極端出水”のDNの累加比負荷量 (1出水の単位面積あたりの流出負荷量) は“大出水”のそれとほぼ同じであった。“極端出水”のTNの累加比負荷量は国内のTNの年間負荷量の平均値に匹敵した。累加比負荷量に関してDNのTNに占める割合は“出水”の97~99%, “大出水”の77~97%に対して“極端出水”は5%と, “極端出水”時の窒素流出は懸濁態が圧倒的になることを明確に示した。

  • 橋本 旬也, 石井 裕一, 山崎 孝史, 新井 宏明, 中西 敏之, 和波 一夫
    原稿種別: 調査論文
    2019 年42 巻5 号 p. 231-237
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/10
    ジャーナル フリー

    東京の地先海域では, 夏季に発生する赤潮等の富栄養化に起因する水質悪化が課題となっている。その対策として, かつて東京の海岸線を形成し水質浄化機能があるとされている浅場・干潟の再生が有効と考えられる。本稿では, その水質浄化能力が明らかになっていない多摩川の河口域を対象区域として, 浅場・干潟等の浅い水域に多く分布する底生動物の浄化能力を定量的に評価することを目的として調査を行った。調査の結果, 多数のヤマトシジミが東京・羽田地区と川崎・大師地区を結ぶ大師橋付近の干潟に生息し, 多摩川河口域における底生動物相の大部分を占めていることが確認された。ヤマトシジミを主とする多摩川河口干潟の底生動物による粒子状有機窒素 (PON) 除去能力は, 調査期間 (2015年8~11月) において1日当たり58.6 kgNと算出され, 同期間の多摩川における窒素負荷量の0.5%に相当するPONが除去されていると推計された。

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