水環境学会誌
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44 巻, 5 号
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総説
  • 大石 若菜, Zhu Yifan, 丸尾 知佳子, 斉藤 繭子, 北島 正章, 佐野 大輔
    原稿種別: 総説
    2021 年 44 巻 5 号 p. 125-133
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/10
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行の中, 下水疫学調査による感染流行規模の把握や変異株の早期検知が期待されている。本稿では, ウイルス感染症対策における下水疫学調査の実装に必要な要素および課題を解説した。下水疫学調査の実装のためには, 下水試料の採取方法と濃縮方法の最適化および下水中ウイルス濃度に基づく感染者数推定モデルの構築が必須である。日本国内においては, 感染症が定点把握疾患に分類される場合において, 下水処理場の流入下水の分析結果を用いて早期検知が可能である。感染者数推定モデルの構築においては, 感染症に共通の変数と感染症ごとに特有の変数が存在する。感染者のウイルス排出プロファイル等の個人差や処理区域人口の日内変動等に起因する変数の変動性や不確実性に対応可能なモデルの構築に引き続き取り組んでいく必要がある。

研究論文
  • 藤原 建紀, 鈴木 元治, 大久保 慧, 永尾 謙太郎
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 44 巻 5 号 p. 135-148
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/10
    ジャーナル フリー
    電子付録

    日本の多くの閉鎖性海域で全窒素TN, 全リンTP濃度は大きく低下した。しかし, 有機物指標である化学的酸素要求量CODは低下しない現象が多くみられ, この原因を調べた。結果: (1) 海域のTN低下によって, 海水中の有機態窒素濃度は低下するものの, 有機態炭素TOCおよびCODは低下しなかった。つまり, 海域の有機物の炭素:窒素比 (C:N比) が上昇することによって, TOCおよびCODが低下しない現象が起きていた。 (2) 同様な, 窒素欠乏に伴う植物体有機物のC:N比上昇 (有機物の窒素含量の大きな低下, 炭素含量のわずかな低下) が海藻でもみられた。 (3) この, 植物一般にみられる特性は, 海水の栄養塩濃度が湾内で作られる有機物の性質 (C:N比等) を決めていることを示唆している。 (4) CODとTOCの関係は, 場所的および経年的に変化していた。 (5) 内湾での栄養塩削減は, 有機物の量を減らすよりも, 質を変えた。

  • 片桐 誠之, 篠田 大晴, 山下 玲奈, 福地 翔哉
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 44 巻 5 号 p. 149-155
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/10
    ジャーナル フリー

    限られた期間のごくわずかな膜濾過データで求まるファウリング指標から, 濾過の全挙動を推算する手法を提案する。閉塞濾過理論に基づき, 膜閉塞特性とファウリング指標FMI (Fouling Mechanism Index) との関係を明らかにすることで, 濾過挙動の推算に必要となる閉塞特性値を求める方法を確立した。定圧条件の膜濾過における, 濾過速度および濾液量の経時変化を推算したところ, 膜の初期特性と閉塞特性に基づく計算値は実験値の挙動を概ね表していた。本手法は, 試料の濃度や分離膜の種類といった濾過条件, および膜の目詰まりやケークの形成といったファウリング機構によらず広く適用可能なことも確認された。したがって, 実際の膜処理条件に合わせて, 濾過試験を限られた時間で行い, 膜特性とFMIを求めることで, 膜洗浄や膜交換の時期の決定にも繋がる濾過挙動の推算値を得ることができる。

調査論文
  • 小室 俊輔, 北村 立実, 大内 孝雄, 増永 英治, 浅岡 大輝, 鮎川 和泰, 三上 育英, 清家 泰, 湯澤 美由紀, 福島 武彦
    原稿種別: 調査論文
    2021 年 44 巻 5 号 p. 157-164
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/10
    ジャーナル フリー

    YODA Profilerを用いて北浦の溶存酸素 (DO) 濃度を鉛直かつ広範囲に調査することで貧酸素水塊の分布状況を詳細に把握した。その結果, 北浦の貧酸素水塊は水深4 mより深い場所で広く発達し, 特に窪んだ水域では貧酸素が強く, 底泥から高い濃度のリン酸の溶出が起きていることが示唆された。また, 湖底直上10 cmのDO濃度は, 湖底直上50 cmより全体的に低くなる傾向がみられた。さらに, 貧酸素水塊を形成する下層DO濃度低下の環境条件を検討した結果, 水深の影響が大きいことが示唆され, 北浦の湖沼図を利用して貧酸素水塊が発生する水域の面積割合を推計したところ, 湖底直上10 cmでは63.2%, 湖底直上50 cmでは55.9%となり, 北浦の半分以上が貧酸素になる可能性が考えられた。

  • 辻 盛生, 鈴木 正貴
    原稿種別: 調査論文
    2021 年 44 巻 5 号 p. 165-174
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/10
    ジャーナル フリー

    排水処理水を主な水源とし, 寒冷地に存在する常時湛水型調整池において2018年3月中旬の解氷時に魚類の斃死を確認した。魚類斃死事故は通常水温が上昇する時期に多く見られるが, 本件は結氷条件下で発生した。ここでは, 通年の調査結果を基に水域の水質の実態を把握し, 斃死に至る要因の把握を試みた。水域は排水処理水に由来する栄養塩により, 過栄養状態であった。非結氷期において植物プランクトンが増殖し, それに由来する有機物が底泥として蓄積した。斃死が発生した2018年3月の解氷前の調査時において, 非結氷期に蓄積された有機物の酸化分解により底層のDO濃度はほぼ0 mg L-1, 上層でも1.2 mg L-1まで低下した。その際, 還元状態となった底泥からNH4-Nが溶出し, 25.4 mg L-1に上昇した。底層のpHは8.96に上昇し, 遊離アンモニア濃度は約3.0 mg L-1が想定された。斃死事故は結氷条件下の低DO濃度とNH4-N濃度の上昇が直接の原因と考えられた。

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