本調査は志賀高原の腐植栄養湖について, プランクトンからみた特殊性を明らかにするために行なった。1976年5月, 8月, 11月の各時期に, 志賀高原の腐植栄養湖といわれている渋池, 三角池, 長池, および調和型富栄養湖といわれている木戸池において, プランクトン, 一次生産, 水質について調査した。
1理化学的水質の面では, 酸性であること, 電気伝導度が低いことが腐植栄養湖 (渋池, 三角池, 長池) において共通した現象であった。またCODは長池と渋池で高く, 調査した4湖沼とも, リン酸イオンは少ないが, 無機態窒素は少なくなかった。
2腐植栄養湖としてのプランクトンからみた大きな特徴は, 植物性プランクトン相にあった。すなわち, ベン毛藻類を主体としており他の種類は非常に少ない。
3植物性プランクトンの現存量は5月に多く8月に減少するという傾向があり, とくに, 8月に渋池と三角池で激減する。しかし, 長池をも含めると, 腐植栄養湖として共通の量的な特徴はみられなかった。
4動物性プランクトン相が季節変化や溶存酸素の垂直分布状態による影響を受けている可能性は認められたが, 腐植栄養湖に共通した動物性プランクトン相はみられなかった。
5動物性プランクトンの現存量は, 腐植栄養湖では5月に少なく, 8月, 11月に多い。また, 各時期における現存量についても3つの腐植栄養湖間で大差はみられなかった。
6植物性プランクトンの生産量は, 三角池, 長池, 木戸池において測定されたが, 5月, 8月, 11月のいずれも三角池で最も小さく, 長池で最も大きい。生産量は腐植栄養湖間でも全く異なっており, 植物性プランクトン量に大略比例していた。
7本調査における3つの腐植栄養湖は季節的変動を考慮してもなお, 植物性プランクトン量やその生産などからみて, 2つの型に分けられる。すなわち, 植物性プランクトン量およびその生産量の多い湖沼 (長池型) と少ない湖沼 (渋池型) である。なお, この2つの型は, 1974年7月下旬のプランクトンによって類別された2つの型 (安田, 1977) と矛盾しないものであった。
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