セルロースは,放射線の作用によって崩壊し易い物質であり,その放射線照射効果について,数多くの研究が行なわれている。しかし,ビスコースレーヨン工程の“老成”を,放射線による“解重合”で置き換える試みは,約10年以前に,筆者らの研究など2,3実
施されたものの,その後ほとんど進展していない。
一部の放射線化学の分野で工業化の気運が高まり,それに伴ない電子加速器やコバルト-60のような大出力の照射装置が容易に得られるようになった今日,放照線照射による低重合度パルプの製造と,それに関連する基礎的研究は,学術的のみならず工業的にも意義あることであり,このような考えに立脚してこの研究を開始した。
筆者らの研究を含めて,セルロースの放射線照射効果に関する過去の多くの研究では,放射線としてγ線が用いられているが,工業規模の照射装置としては,電子加速器が有望であると考えられるので,セルロースの放射線照射効果に対して,γ線と電子線とで差があるか否かの確認を試みた。
その結果,等量の照射量(吸収線量)では,解重合および変質基生成(カーボニルおよびカーボキシル基)とも,両放射線に差がないことが判明した。さらに,セルロースに対する放射線の作用,すなわち,励起,フリーラジカルの生成およびフリーラジカルと他反応
剤との反応からなる反応過程を考慮に入れて検討し,上記結果の妥当性を示した。
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