電気絶縁紙の誘電特性の改善が最初の大きなテーマであった。各種イオンの影響や水質, 酸洗浄などの研究により, イオン伝導に起因する高温部誘電正接改善の要因を把握し, さらに低温部の改善のため, ヘミセルロースやリグニンの影響などについて研究した。そして, 前加水分解法による脱ヘミセルロースパルプの製造とその抄紙技術を確立して目的を達成した。
1958年頃, 154kV OFケーブルが大量に敷設されることになったが, 最初, 乾燥状態での機械特性で予期しないトラブルに直面したが, 誘電特性改善の目的で研究して失敗した青森トドマツパルプが危機を救った。
275kVケーブル用絶縁紙は, このための専用機と純水装置を莫大な費用をかけて設置した。そして脱ヘミセルロースパルプを使用し, 低密度, 高気密度, 脱イオン水洗紙の製造に成功した。
500kV用としては, 275kV用の紙の技術をさらにおし進め, 製紙技術の粋を集めて完成させた。 しかし, 木材パルプだけの紙では, これが限度であり, これ以上の要求には半合成絶縁紙で応えた。
住友電工との共同研究で, 絶縁紙を良質のPPで押し出しラミネートする方法により, PPLPと称する半合成絶縁紙の開発に成功した。これは1,000kV用にも十分使用可能な材料である。PPに少量 PEを混入させてラミネートする技術は, 同じ頃, 英米でもケーブルのジョイント用として開発されていたが, 本絶縁を目的とし, 油浸の誘電特性の優れたPPだけを使用した半合成絶縁紙は世界で最初であり, 内外で注目されている。
電気絶縁紙の技術開発の32年問の歩みをふりかえり, 成功の要因を挙げると次のようになる。
(1) 優れた指導者との出会い (2) 良い協力者との出会い (3) 良い顧客 (会社, 公社) との出会い (4) 使命観 (5) 反骨精神と権威主義の否定 (6) 技術史観, 哲学, これによる先見性。
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