本研究では,炭化した製紙スラッジ(CPS)について,化学,鉱物学的検討から原料PSの復元を行い,CPSを構成する炭素の安定性評価を行った。さらに,PSの炭化処理,灰化処理における消費エネルギー量等のインベントリ分析を行った。これらの結果をもとに,PSを構成するセルロース等から排出されるCO
2をカーボンニュートラルと解釈したうえで,CPS中の炭化物が固定しているCO
2量を“固定量”と定義し,灰化処理によるCO
2排出量と固定量の差を“削減量”と定義し,これらの具体的な試算を行った。得られた結果を,以下に示す。
(1)対象とするCPSの化学,鉱物学的検討から原料PSの復元を行うと,吸着水が115.5t含まれ,乾燥PS(DPS)が94.5t(填料45.9tとセルロース48.6t)が含まれることが明らかとなった。このうち,セルロースには73.7t―CO
2が含まれ,カルサイトには10.1t―CO
2が含まれることから,DPS1tあたりに含まれるCO
2量は887kg―CO
2/t(DPS)となった。
(2)CPSを構成する炭素は,セルロース由来の化学的に安定なヒューミンと,カルサイト由来の炭素である。これらの合計量は,CPS1tに換算すると435.6kg―CO
2/t(CPS)となる。炭化処理に伴う炭素の残存率は,セルロースで14%,カルサイトで89%である。このことは,炭化の過程でカルサイトは分解されにくいことを示している。
(3)CPSを製造する際には,外熱および排ガス処理用燃料として天然ガスと電力を使用する。これに伴うCO
2排出を考慮すると,炭化処理に伴うCO
2固定量は133.1kg―CO
2/t(CPS)に達する。また,炭化処理に伴うCO
2固定量と,灰化処理に伴うCO
2排出量を比較した場合,炭化処理では214.0kg―CO
2/t(DPS)のCO
2排出削減となる。
(4)PSをボイラー燃料等に利用するサーマルリサイクルを想定した場合,得られる発熱量を原油で代替するとすれば,DPS1tあたりに換算して358.4kg―CO
2/t(DPS)のCO
2排出削減となり,PSの処理としては最も効果的である。
(5)CPSに安定に固定された炭素が解放されない用途として,森林土壌等へ還元する用途に用いれば,PSの炭化処理は簡便で実現可能なCCS技術となりえる。
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