紙パ技協誌
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64 巻, 9 号
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総説・資料
  • 日高 勝彦, 杉 卓美, 鈴木 裕之
    2010 年 64 巻 9 号 p. 1031-1035
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル フリー
    調成工程では,内添薬品として澱粉が添加されており,歩留り向上,紙力増強,サイズ向上等,紙の生産性・品質向上において重要な役割を果たしている。紙製造工程では,これ以外にもサイズプレスにおいて澱粉が多量に利用されているため,ドライブロークの配合によって澱粉が系内に混入する。その結果,澱粉を栄養源とする微生物が系内で繁殖し,澱粉分解酵素「アミラーゼ」を生成することで内添澱粉の分解を促進し,その機能阻害が危惧される。
    我々は洋紙マシンを対象に調査をした結果,澱粉濃度の高いドライブロークを主要なアミラーゼ発生源として,全系でアミラーゼ汚染があることを明らかにした。次に,机上試験により,実機レベルのアミラーゼ活性で,内添澱粉は分解し,ろ水性・紙力・サイズ低下が引き起こされることを確認した。したがって,内添澱粉を添加しているマシンでは,ドライブロークなど微生物汚染が進行している箇所から調成工程にアミラーゼが流入し,内添澱粉が分解されることで品質・生産性の悪化が生じている可能性がある。
    そこで,我々は系内のアミラーゼ低減を目的として,弊社の無機系スライムコントロール剤「ファジサイド®」を用いた全系清浄化を実施した。具体的には,ファジサイド®を調成・抄紙系,回収系に添加していた塗工紙マシンにおいて,唯一微生物汚染の進んでいたコートブロークに追添加し,さらにORP(酸化還元電位)の連続測定によって,各系常時清浄であることを確認した。その結果,コートブロークの清浄化により全系清浄化を達成し,系全体のアミラーゼを大幅に低減することができた。以上より,ドライブロークを中心に全系の清浄化を漏らさず実施することで,内添澱粉の分解を防止し,品質・生産性向上に寄与できると考える。
  • ―韓国茂林グループ東海パルプ株式会社のMCC蒸解釜改造例―
    具 延, 安 安, 金 英穆
    2010 年 64 巻 9 号 p. 1036-1042
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル フリー
    既設蒸解釜を増産せず効率化,省エネー化を通じて収益性を高めるため,韓国東海パルプ株式会社(現Moorim P & P)では,No.2のMCC連続蒸解釜をCOMPACT COOKING™ G1蒸解プロセスに改造した。その結果,蒸解収率(約1%)とパルプ粘度が向上し,粕率と蒸気原単位が低減した。また,工場全体のパルプ生産量を変えず,No.1バッチ蒸解釜を止めNo.2連続蒸解釜をCOMPACT COOKING™ G2蒸解プロセスにさらに増産・改造すると,No.1バッチ蒸解釜とNo.2連続蒸解釜を併用した操業に比べ,パルプの収率,粘度,及び白色度が向上し粕率が低減できること,蒸気原単位が大幅に削減され,操業トラブルも減らせることが分かった。これを踏まえ,No.2連続蒸解釜をCOMPACT COOKING™ G1蒸解プロセスからCOMPACT COOKING™ G2蒸解プロセスへ改造することを決定した。同切り換え後の立上げの目標は2010年11月である。
    また,100℃以上のブロー温度で操業できるDiConnシステムにより,釜H―Heat,並びにPDWでの洗浄効率が上げられ,より多くのフラシュ蒸気を発生させ蒸気原単位を低減できること,さらに黒液中の固形分濃度が上げられエバで黒液濃縮に使用する蒸気が削減できることも分かった。
  • ―省エネからシート走行安定化まで―
    ジャン ディシャネ, クリストフ バスチャン, 廿野 秀典
    2010 年 64 巻 9 号 p. 1043-1048
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル フリー
    ドライヤーフードメーカーであるエナクイン・エア社とドレネージシステムの解析を取り扱うサーモパップ社は,両社の協同作業によるドライヤーパートの総合的調査を行い,独自に開発した解析ツールを用いて既設マシンのエネルギー収支の改善に効果をあげ,ヨーロッパに於ける小型抄紙機並びに大型抄紙機で実績がある。
    更に,サーモパップ社は抄紙機の上位システムとリンクするエネルギー・マネジメント・システム(TEMS)を開発し実用化している。このシステムは,マシン規模によらず既設マシンにも新設マシンにも適用でき,乾燥エネルギーの最適化,品質の向上が図られる。
  • 大塚 進司, D. ストローム
    2010 年 64 巻 9 号 p. 1049-1053
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル フリー
    スウェーデン,エム・クリーンペーパーテック社にて開発されたマルチジェット®は抄紙用具およびコーターのバッキングロール用の革新的なクリーナーである。1995年以降,世界ですでに200以上のシステムが稼動している。ロール上に配置される高圧水ジェット,エアドクターおよび大容量バキュームを複合するハイブリッドクリーニングテクノロジーは世界特許を取得し,操業中の完璧なクリーニングと,カンバスのライフエンドまで,カンバス本来の通気性を確保する。
    マルチジェット&ブラシ®はマルチジェット®の発展型で,クリーニングヘッドにφ150mmのブラシを組入れており,フロークリングドクターを使用する事なくコーターステーションのバッキングロールのオンラインクリーニングを行う。水分ストリークを全く出す事無く,又紙品質に影響を与える,いかなるマイナス要素を発生する事無く,完璧なクリーニングを達成する。
    今日では,これらシステムの信頼性は世界中の製紙工場で実証され,生産性の改善に貢献している。本稿において,実際の使用実例も交え報告する。
  • 前嶋 昭宏
    2010 年 64 巻 9 号 p. 1054-1057
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル フリー
    パルプ,製紙工場でのデポジットコントロールプログラムはマシンの操業性そして製品の品質にとって非常に重要である。これらのプログラムは大部分のシステムで使用されているが,パフォーマンスの管理は非常に乏しく,かつ複雑であり多大な分析作業を伴う必要がる。一般的にトラブルへの対症療法である。ここにデポジットコントロールの先行予防を可能にするオンラインまたはオフラインのモニタリングツールを紹介する。このモニタリング技術は薬剤添加プログラムの最適化やトライアルの評価,プロセスでのデポジット形成傾向を知るために使用される。片山ナルコは微生物由来,ピッチ・粘着物質由来,無機物スケール由来のデポジットをモニタリング,コントロールするためにオンラインモニタリング技術とデポジットコントロールプログラムを組み合わせ,発展させる。卓上試験や工場での実機トライアルにおいて実証された結果を元に薬剤の添加量を最適にし,プログラムのパフォーマンスを最大にし,操業効率を向上させ,最終的にはコスト削減に寄与する。
  • 松下 淳
    2010 年 64 巻 9 号 p. 1058-1061
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル フリー
    製紙・家庭紙の生産工程に於いて,製品をロールに巻き上げるリール工程は重要な役割を果たしている。昨今,リール工程におけるプライマリーからセカンダリーへのロールの受け渡し中に,駆動・操作側の非同調な動き,ニップロードの直接の計測,監視制御がなされていないことによるしわの発生,エアの噛みこみといった要因による損紙発生が報告されている。本システムは,リール工程中のニップロードを直接計測・制御し,同時に位置制御器付油圧シリンダーでアームを制御することで,全リール工程中のニップロードを常に一定にし,損紙を著しく低減するとともに,ロールの巻密度を一定に制御して,密度不一致によって発生する後工程でのロスをも低減する。
  • 正田 秀一
    2010 年 64 巻 9 号 p. 1062-1066
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル フリー
    コグネックスは欠陥検査システム「スマート・ビュー(SmartView)」をリリースして以来,その検査能力の充実とともに,欠陥情報を有効活用するシステムを開発し,生産の効率化を図るための提案を行ってきた。例えば,「AWA(アドバンスト・ワインダー・アドバイザ)」は欠陥位置でワインダ―を自動停止(停止精度±10cm内)させることで欠陥の処置時間を大幅に削減する,導入効果の大きいシステムとして高い評価を頂いている。他にも,欠陥情報を上流から下流に正確に重ね合わせていく「ライン・シンクロナイゼーション」やオンラインで地合レベルの判定を行うWQM(ウェブ・クオリティ・モニタリング)などがある。SmartViewの持つこれらの機能が,製紙プロセスの中で生産効率化にどのように寄与していくかを紹介するとともに,SmartViewが品質管理に貢献できる可能性についても述べる。
  • 花野 茂
    2010 年 64 巻 9 号 p. 1067-1071
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル フリー
    当社は,スウェーデン国コアーリンク本社とコア関連設備及び損紙ロールハンドリング設備について技術提携をしている。コアーリンク社は,過去数十年に亘りその革新的な技術で,製紙業界での生産性の向上や経費節減につながる廃棄物の削減を可能にしており,50カ国以上の国・数百以上の工場においてこれらの設備を納入し,製紙業界でその地位を確立している。今後,更なる信頼向上・ロジスティック・人間工学・環境持続性とコスト削減のため,市場の要望に応えるべく開発を行っている。
    コアー及び損紙ロールハンドリング設備に導入された新しい革新的な製品の例として,ロールカッター・クリックス・コアグルーバー・コアー再生システムを紹介する。
  • ―2010年4月18日~21日メルボルン(オーストラリア)にて開催―
    松本 雄二, 磯貝 明, 佐藤 茂, 石川 泰司, 藤代 大祐, 植松 武彦, 豊福 邦隆
    2010 年 64 巻 9 号 p. 1072-1078
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル フリー
    2010 Pan Pacific Conferenceがオーストラリアのメルボルンで64th Appita Annual Conference and Exhibitionに併設して(4月18日~21日)開催された。日本からはパルプ技術協会の長谷川理事長以下,大学,企業(現地を含めて)17名が参加した。Pan Pacific Conferenceは環太平洋の加盟8カ国の技術協会が2年に一度持ち回りで開催する会議で,2006年は韓国で,2008年はカナダ行われた。今回はAppita Annual Conferenceとの併催で,Panpacセッションとして29件(日本からは大学から3件,企業から5件の発表),Appita Annual Conferenceとして48件の発表が紙パルプの全分野で行われた。Pan Pacific Conferenceとしての概要と日本からの発表,その他興味を引いた発表について紹介する。
  • 豊福 邦隆
    2010 年 64 巻 9 号 p. 1079-1080
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル フリー
    2010年PAPTAC(カナダ紙パルプ技術協会)年次大会と展示会が2010年2月2日~4日にカナダのモントリオールで開催され,これに参加したので,概略を紹介する。2005年に参加して以来5年ぶりの参加であったが,昨今の,カナダ製紙産業の不振を象徴して,会議参加者も展示会出展社も5年前と比較すると激減し,非常にさびしものであった。会議参加後,モントリオール郊外のFPInovations(旧PAPRICAN)研究所を訪問したので併せて報告する。
研究報文
  • 岩崎 誠, 池島 和也, 木村 憲司, 岡田 清
    2010 年 64 巻 9 号 p. 1082-1092
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル フリー
    石炭やPS(ペーパースラッジ)などを燃焼した灰には,フッ素やホウ素および重金属などの土壌汚染対策防止法で定められた特定有害物質が含まれており,通常それらの溶出は薬剤を加えて抑止され,土壌用途に利用されている。この場合,薬剤を加えるので,薬剤コストが増え,また,工場から排出される廃棄物(灰)の量が増加すると言った欠点がある。
    我々は,筆者の一人である岡田の方法をベースに,二つの燃料(ここでは炭化PSまたはPS灰と石炭灰を使用)の化学的な組成を変え,また,焼成温度を変えて,焼成中に形成されるCAS(CaO,Al2O3,SiO2からなる複合酸化物)によって,燃料に含まれる特定有害物が反応もしくは取り込まれあることによって,焼成灰になった場合に,それらの特定有害物質の溶出が抑制されるかどうかを検討した。その結果,燃料の混合による方法も温度をコントロールすることでも,灰から特定有害物質の溶出を抑制できる可能性が示された。また,温度がCASの形成に大きく影響していることもわかった。
  • 中村 淳, 山根 憲吾, 菊池 結衣, 鍛治 裕夫
    2010 年 64 巻 9 号 p. 1093-1101
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル フリー
    近年,塗工工程において,省エネルギーや塗工紙の品質向上の観点から,塗工液の高濃度化が進められている。また,塗工用顔料としては,重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウムの利用が増加傾向にある。塗工用顔料として利用される重質炭酸カルシウムは,粗い粒子の炭酸カルシウムを高濃度で分散し,目的の粒子径まで湿式粉砕して製造される。この顔料分散―粉砕工程では,一般にポリカルボン酸タイプの分散剤が炭酸カルシウム分散液に添加される。顔料分散―粉砕処理をより円滑に進める為には,顔料の表面電位状態,顔料に対する分散剤の吸着挙動を把握することが必要である。しかし,実操業に近い高濃度分散液に関しては,十分な知見が得られていない。
    本報告では,高濃度分散液中での顔料の表面電位状態,分散剤の吸着挙動を,コロイド振動電流法によるゼーター電位測定装置,全有機炭素量測定装置を用いて調査した。本報告で用いたゼーター電位測定装置は分散液濃度が10~50%の間で再現性良くゼーター電位の測定が可能であった。また,粒子径の異なる炭酸カルシウムに分散剤を添加すると,粒子径が小さい場合に吸着密度が大きくなることがわかった。
    さらに,分散媒に溶存するイオンの影響についても検討を行った。2価陽イオンが存在する系においてポリカルボン酸タイプの分散剤を使用した場合,顔料分散性能が低下した。2価陽イオンが存在すると顔料表面上の分散剤吸着密度は増加するが,分散剤吸着密度の増加分に対するゼーター電位の変化量が小さくなり,2価陽イオンの影響で分散剤が十分な静電反発力を顔料粒子に付与させることが出来なかった。分散剤吸着量測定およびゼーター電位測定を行い,比較することで高濃度分散液中の分散剤の吸着挙動を推察することが可能である。
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