近年,塗工工程において,省エネルギーや塗工紙の品質向上の観点から,塗工液の高濃度化が進められている。また,塗工用顔料としては,重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウムの利用が増加傾向にある。塗工用顔料として利用される重質炭酸カルシウムは,粗い粒子の炭酸カルシウムを高濃度で分散し,目的の粒子径まで湿式粉砕して製造される。この顔料分散―粉砕工程では,一般にポリカルボン酸タイプの分散剤が炭酸カルシウム分散液に添加される。顔料分散―粉砕処理をより円滑に進める為には,顔料の表面電位状態,顔料に対する分散剤の吸着挙動を把握することが必要である。しかし,実操業に近い高濃度分散液に関しては,十分な知見が得られていない。
本報告では,高濃度分散液中での顔料の表面電位状態,分散剤の吸着挙動を,コロイド振動電流法によるゼーター電位測定装置,全有機炭素量測定装置を用いて調査した。本報告で用いたゼーター電位測定装置は分散液濃度が10~50%の間で再現性良くゼーター電位の測定が可能であった。また,粒子径の異なる炭酸カルシウムに分散剤を添加すると,粒子径が小さい場合に吸着密度が大きくなることがわかった。
さらに,分散媒に溶存するイオンの影響についても検討を行った。2価陽イオンが存在する系においてポリカルボン酸タイプの分散剤を使用した場合,顔料分散性能が低下した。2価陽イオンが存在すると顔料表面上の分散剤吸着密度は増加するが,分散剤吸着密度の増加分に対するゼーター電位の変化量が小さくなり,2価陽イオンの影響で分散剤が十分な静電反発力を顔料粒子に付与させることが出来なかった。分散剤吸着量測定およびゼーター電位測定を行い,比較することで高濃度分散液中の分散剤の吸着挙動を推察することが可能である。
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