紙パ技協誌
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68 巻, 2 号
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総説・資料
  • 橋本 雄輝
    2014 年 68 巻 2 号 p. 111-114
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/01
    ジャーナル フリー
    現在の製紙業界はベテランスタッフが年々減っており,抄紙技術の継承が問題となっている。今まで職人の腕と勘が頼りだった製紙会社にとって,経験が浅いオペレータによる抄造を手助けするには計測制御システムの導入が急務と思われる。
    また,既に使用しているユーザにも,弊社が自信を持って提供するため是非とも検討いただきたい。
    弊社のウェブ計測システムは坪量,水分,厚みに限定することで,高性能機器でありながら低価格を実現した。さらに制御システムがシンプルになったことで,今まで懸念されていた故障を大幅に削減した。この安価で耐久性に優れたシステムを導入することで,製品の品質向上やクレームの削減が期待できる。
    坪量計測はβ線とγ線を,水分計測は赤外線を,厚み計はLED光源をそれぞれ使用する。
    これまでに弊社は坪量計6台,水分計5台,厚み計1台の納入実績があり,現在すべてが順調に稼働している。
    また導入に際して,機器の配置や通紙装置の改善などを含むエンジニアリング,据付工事および試運転調整指導,保守点検,そして緊急時の対応などのアフターサービスまで弊社が責任を持って行う。
    本システムは坪量,水分,厚み計測制御システムの更新や新規導入を検討しているユーザに対して満足して頂ける設備と考える。
  • ―BlackBelt E―
    遠藤 徹郎, サトゥ ハグフォルス
    2014 年 68 巻 2 号 p. 115-119
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/01
    ジャーナル フリー
    シリンダーモールドを用いての遠心成形法は,シュープレス用ベルトを製造する最先端の方法である。ベルトは,通常,強化ポリウレタンの直線糸又は織り基布で2重又は3重構造で作られる。溝付きベルトはニップ脱水を取得するために使用されている。溝の形状および寸法は,マシン条件や紙種に基づいて選択される。
    ベルトの摩耗は抄速,負荷,フィラー含有量,使用される洗浄剤,そしてベルトの素材としてのエラストマー及びベルトの補強などの条件によって影響される。シュープレスのニップ圧とベルトの伸縮には関係がある。ニップ圧が増すに従いベルトの伸縮も増大するが,これはポアソン効果によるものである。非圧縮性材料(ポリウレタンのような)が薄く圧縮されたとき,それは一方で他の方向に伸びることになる。ニップ下でベルトが伸びると速度差が生じ,これはベルトの摩耗を進行させる。高弾性の補強糸(高弾性糸)による補強はニップ下でのベルトの伸びを減少させる。
    高弾性糸により強化されたベルトは標準ベルトに比較して高速の板紙マシン,そして高速の洋紙マシンで十分に効力を発揮し,摩耗や亀裂に対して強い耐性を備える。
  • 阿久津 竜馬
    2014 年 68 巻 2 号 p. 120-125
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/01
    ジャーナル フリー
    近年の板紙マシンでは古紙原料の悪化などによって,短繊維・粘着異物の増加,及び,粘着異物の性質変化が見られ,これら粘着異物がドライパートのカンバスに付着し,欠点・断紙などの問題を引き起こしている。
    従来のカンバス汚れ防止剤『クリーンキーパー®』のコンセプトは,粘着異物に対する剥離性能が高い単一の中粘度シリコーンを配合した薬品により,カンバス表面やアウトロールにシリコーン皮膜を形成する考え方であった。しかし,短繊維・粘着異物の増加及び,多様なカンバス洗浄装置が導入されている状況において,上記コンセプトだけでは十分な効果を得ることができない。
    新たなコンセプトの薬品『クリーンキーパー®』は高・中・低粘度の複数のシリコーンを組み合わせ,カンバスの汚れ状況,カンバス洗浄装置の種類に応じて最適な配合としている。具体的には,高粘度シリコーンを高配合すると高圧水クリーナーとの併用においても安定した皮膜を形成して粘着異物の付着を抑制できる。一方,低粘度シリコーンを高配合すると粘着異物の粘性を不活性化してカンバス洗浄装置の粘着異物除去を促進し,且つ,後段カンバスへの粘着異物の流れ込みを防ぐことができる。
    本報告では,カンバス汚れ防止剤『クリーンキーパー®』の開発コンセプトと効果発現メカニズムについて,実機適用事例を交えて紹介する。
  • ―“コーティングユニット”のご紹介―
    二葉 勝
    2014 年 68 巻 2 号 p. 126-132
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/01
    ジャーナル フリー
    ドイツのSumet社が開発した卓上型のラボ用の塗工機は生産工程を模した塗工方法により,生産設備で塗工した場合に比べ表面性,印刷結果,バリヤー層(多層塗工の場合)等に就いて相関が高い。また,塗工後に赤外線ヒーターと熱風を用いた乾燥を行い,3m/分以上の塗工速度の場合,3秒以内で塗工後に乾燥が行われ,即ち,塗工成分がサンプルに浸透する前に乾燥が行われる。塗工速度は0~35m/分の範囲で調整可能である。
    塗工方法は標準でサイズプレス,フィルムプレス,オプションでブレード,メタリングロッド塗工を行うことができる。フィルムプレスの場合,塗工前にアプリケーションロールから余剰な塗工液を取り除くロッドも装備されている。ロッドの押し圧と,塗工用ロール間の圧力,ブレードの角度,押し圧,メタリングロッドの回転方向,回転速度,押し圧,乾燥の強弱に就いてタッチスクリーンを通して,設定を行うことができる。これらの設定を同じにすれば,塗工量など再現性にすぐれた仕上がり状態での塗工を行うことができる。
    塗工パンの容量は1ℓで最低400mlあれば塗工を行うことができ,塗工部はユニットになっており,装置本体からワンタッチで着脱を行うことができる。さらに塗工用ロールはユニットから容易に取り外しができ,洗浄が容易である。従って,多品種の塗工液を少量で多大な労力を必要とせずに評価を行うことができるのが最大の特徴である。オプションで巻き取り部,拡張乾燥部が追加されたオンライン型が用意されており,ロール状のサンプルの連続塗工が可能である。
  • ―無動力・自動洗浄濾過装置の導入用途事例―
    井上 大輔
    2014 年 68 巻 2 号 p. 133-137
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/01
    ジャーナル フリー
    生産効率を上げる一環として,製紙業界は生産に関わる使用水量の削減に力を注いできた。結果,過去に比べ使用水量は大幅に削減されている。この背景には生産設備の効率化はもちろんだが,水処理技術の向上が一役担っていると考える。例として水の再利用や工場内でのカスケードが挙げられる。膜処理などの高度処理のみならず,場面に合った適切な処理方法により,使用水量削減やランニングコストの削減を実現している。
    伊藤忠マシンテクノス(株)は,白水処理のALGASマイクロフィルターをはじめとして,節水・省エネ・省人・少音に優れた機械を御客様に提案してきた。
    今回紹介するオートマチックフィルターは駆動動力が不要な全自動フィルターで,水圧を利用し,濾過,洗浄を行う濾過装置である。
    動力を使わないため,省エネにつながり,更に濾材のような消耗品もなくランニングコストの削減にも効果的と考える。装置自体もシンプルな構造でメンテナンス頻度は少なく,方法も非常に簡単にできる。10ミクロン以上のSSが対象になり,取水をはじめ循環水の濾過や,高度処理の前処理に有効なフィルターである。
    (株)セパレーションテクノロジーは,フィルタリングに特化したユニークな水処理技術/製品を幅広い業界に提供しており,今回弊社が製紙業界に向けた紹介を行うことになった。
  • 冨田 大朗
    2014 年 68 巻 2 号 p. 138-141
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/01
    ジャーナル フリー
    理研グリーンは,製紙用薬剤のグローバルリーダーであるアシュランド・ハーキュリーズ社から日本に於いて独占的ライセンスを受け,家庭紙向け剥離・コーティング剤を中心に,抄紙プロセスに必要な全ての薬品とアプリケーション技術を提供している。
    本報では,家庭紙における最新技術として,架橋済みコーティング剤(クレプトロールシリーズ)と低AOXタイプの湿潤紙力剤及び欧州事情について紹介する。
    昨今の家庭紙での原料事情,マシン高速化及びヤンキードライヤーの材質変更に適応する為,架橋済みコーティング剤(クレプトロールシリーズ)を推奨している。これにより従来剤に比べヤンキードライヤー表面へのコーティング皮膜形成速度が上がると共に原料によるpH,湿紙のドライヤーへの持込み水分及び内添薬剤等の外的要因の影響を抑えることが可能となった。操業面では,薬剤特性である柔軟な皮膜形成によりヤンキードライヤー端部へのコーティング剤の蓄積によるドクター磨耗,カカレ,シワ等が改善され紙質と生産性の向上に貢献している。
    湿潤紙力剤に関して国内では未だ法的規制は無いが,欧州では第二,第三世代(G2,G3レベル)といった低AOXタイプである環境対応型の薬剤に移行している。特にコーヒーフィルターやティーバック等では飲用物と同時にAOX成分も抽出される為,特に厳しく規制されている。今後,国内においてもG3レベルの更なる需要が予想される。
    今後とも,当社技術及び海外での最新情報が国内製紙メーカー各位への一助となれば幸いである。
  • 大石 浩之, 但木 孝一, 春日 一孝, 藤田 幸裕
    2014 年 68 巻 2 号 p. 142-149
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/01
    ジャーナル フリー
    近年,抄紙マシンのクローズド化やパルプ原料の悪化等のため,各種内添薬剤の効果が発揮しにくい状況へ変化してきている。特に古紙や填料の高配合化で歩留り剤,紙力剤,サイズ剤等の各種ウエットエンド薬剤の添加量が増え,抄紙マシンの汚れや紙面欠陥の問題を抱えるマシンが増加している。
    弊社で開発を進めてきた「リアライザーAシリーズ」は,粘着性ピッチや紙面欠陥対策等に有効な高機能凝結剤で,パルプ原料の前処理段階に適用する特殊なカチオン性ポリマーである。また高機能歩留り剤「リアライザーRシリーズ,FXシリーズ」は低添加で高い歩留り物性が得られる様々な構造を有する高分子量特殊ポリマーとなっている。
    現在,これらの薬剤を組み合わせて添加する次世代ウエットエンド改質システムを「アクシーズシステム」と命名し,更なる抄紙マシンの操業性,生産性向上のためのテストを実施している。
    本報告では,アクシーズシステムを適用した板紙マシンや洋紙マシンでの歩留り物性の向上及び欠陥数低減や紙質向上等の例を報告する。
  • 美邉 翔
    2014 年 68 巻 2 号 p. 150-153
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/01
    ジャーナル フリー
    近年,環境保護・コスト削減の観点より用水使用量が低下,クローズド化が進んでいる。それに伴い抄紙系内のイオン性夾雑物量が増加し,電気伝導度が上昇している。このため内添薬品がパルプに定着し難くなり薬品の効果低下に繋がっている。
    当社ではイオン性夾雑物の多い高電気伝導度下においても定着率が高く紙力効果の高い内添紙力剤を開発した。この紙力剤は,ポリマー内のイオン性基を局在化することにより,高電気伝導度下においても従来品に比べ大きなイオンコンプレックス(PIC)を形成することが可能である。このため,高電気伝導度下において高い凝集性を維持できる。また,定着率も従来品対比高く,紙力効果も高い。
    さらに,高電気伝導度下において効果の高いスプレータイプ紙力剤も開発した。従来のスプレー紙力剤は湿紙中水分の電気伝導度が高いとスプレー後のPICが崩壊し,紙力剤の定着率が低下,紙力の低下が起こる。新規スプレー紙力剤は特殊な無機物を混合することによって,高電気伝導度下においてもポリマー粒子が崩壊しないことを見出した。そのため,紙への定着率は高く,紙力向上効果も高い。これら新規内添PAMと新規スプレー紙力剤を併用することで,内添PAMのみでは達成しえない紙力効果を発揮することが可能である。
  • ―インライン光学式測定によるパルプ工程制御―
    鈴木 啓次良
    2014 年 68 巻 2 号 p. 154-156
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/01
    ジャーナル フリー
    パルプ工程は,製紙プロセスのコストの中で最も大きな比率を占める部分であり,この工程での小さな変動が製紙プロセス全体の品質,コストに大きな影響を与えてしまうこともある。そのためパルプ工程に課される要求は高まる一方である。
    この高まる要求を満たすため,BTGでは“Optical Bleach Plant”という新コンセプトの下,パルプ工程制御を高効率,高精度で行う製品開発,販売を行っている。その中の一つとして,インラインでパルプの持つ総リグニン量を測定する機器を開発した。
    本文ではその有用性,設置例及び利益改善額を説明する。
    具体的には,“Optical Bleach Plant”に基づきプロセス改善を行った各社で,以下の結果を出すことに成功した。
    1)漂白コストが全体で5~7%減少
    2)パルプ1トン当たり200~600円の利益改善
    3)オンラインカッパー計設置より設置費用及びメンテナンスコストが減少
    4)プロセス内の“見える化”実現
  • ―トラブルフリーオペレーションの一環として―
    山崎 安彦
    2014 年 68 巻 2 号 p. 157-161
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/01
    ジャーナル フリー
    製紙工場内に入るとさまざまな「音」が聞こえてくる。一言では言い表せない複雑な「音」だ。工場見学などで生まれてはじめて工場内に入った人にはその「音」は騒音に聞こえる。しかし,働いている人はその騒音に似た「音」に次第に慣れ,次にその「音」が当たり前になり,「音」があるのが当然のようになる。工場の一斉メンテナンス時などの休転時に工場内に入るとその当たり前の「音」がなく,意外な静けさにびっくりする。修繕の「音」はあちらこちらで聞こえるものの操業中の「音」とはまったく違う。その「音」は工場全体には響かず断片的で,発生時間や音量も限られたものである。
    工場内での「音」は何が原因だろうか?,何が発生原因だろうか?,その「音」は必要なものなのか?,それらの「音」は必要であるために発せられた「音」ではない。紙という製品を製作するために機械を運用(運転)すると必然的に発生する。その「音」は工場内いっぱいに満ちて中にいる人間を包み込む。工場内のいたるところへ伝わり,ある部位では人の声をかき消すほどの「音」になり会話ができない場所もある。
    その必然的に発生している「音」について考えてみたいと思う。
  • ―Type 37 FS Fully Split Seal―
    林 貴裕
    2014 年 68 巻 2 号 p. 162-167
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/01
    ジャーナル フリー
    現在製紙及びパルプ業界において,各種回転機器の軸封装置としてメカニカルシールを採用されるケースが多くなってきている。
    但し,機器固有の問題として軸振れや振動が有る横軸アジテーターの軸封においては,まだまだメカニカルシールを採用している機器は少なく,大半はグランドパッキンが採用されているのが現状である。
    しかしながら,節電や節水と言った省エネルギーや安定操業,また取扱液の漏れを無くすことでの環境負荷低減,及びメンテナンスコスト削減の観点からは,メカニカルシール化を望まれているユーザーも多い。
    これら要望に応えるべくJohn Craneは,軸振れや振動にも対応できるメカニカルシールで,しかも二つ割のメカニカルシールを開発し提供してきた。
    今回の講演では,横軸アジテーター用軸封として,完全二つ割構造のゴムベローズタイプで容易な組立構造を有し,特殊摺動材質を採用したJohn Crane独自のユニークな完全二つ割メカニカルシール(Type―37FS)について,構造・原理・実績を交えながらご紹介させて頂く。
  • ―2013年6月12日~14日バンクーバー(カナダ)にて開催―
    高橋 史帆
    2014 年 68 巻 2 号 p. 168-174
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/01
    ジャーナル フリー
    2013年6月12日~14日にカナダ・バンクーバー市で,International Symposium on Wood, Fibre and Pulping Chemistry2013(第17回木材化学・繊維化学・蒸解化学国際シンポジウム)がPAPTAC(カナダ紙パルプ技術協会)主催で開催された。大会には16か国から183名が参加した。口頭発表は11分野91件行われ,103件のポスター発表が行われた。
    本大会では,蒸解・漂白に関する研究や木材リファイナリー技術に関する研究発表が中心で,特に蒸解プロセスから副産するヘミセルロースおよびリグニンから付加価値の高い化学物質の製造技術,バイオエタノール生産前処理技術およびナノセルロース製造に関する研究発表が多かった。木質バイオマスのマテリアル利用の技術開発に注目が集まっている印象を受けた。本稿では,大会および研究発表の概要を中心に紹介する。
  • ―2013年9月9日~13日Cambridge(UK)にて開催―
    木村 実
    2014 年 68 巻 2 号 p. 175-179
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/01
    ジャーナル フリー
    2013年9月9日から13日にかけて,イギリスのケンブリッジで紙物性に関する第15回オックスフォード―ケンブリッジシンポジウムが開催された。全体の参加者数は110名であり,日本からは3名が参加した。
    プログラムは9つのセッションに分けられていた。その内容とは,紙の構造,繊維間結合,製造と加工,繊維サスペンジョン,ミクロ応用流体力学,力学的性質,繊維およびミクロフィブリル化セルロース,紙および加工化学,新しい応用展開というものであり,それぞれのセッションで3~10件の発表があった。
    発表内容は非常に高度であったが,細分化されていた。したがって,質疑応答には高い専門性が求められ,参加者同士の意見交換が必ずしも十分であったとは言い切れないという印象であった。
  • 2014 年 68 巻 2 号 p. 180-186
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/01
    ジャーナル フリー
シリーズ:大学・官公庁研究機関の研究室紹介(98)
研究報文
  • ―懸垂法により求めた初期物性値と常温での劣化速度指標―
    李 壃, 稲葉 政満
    2014 年 68 巻 2 号 p. 191-197
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/01
    ジャーナル フリー
    酸性紙のような保存性の低い紙試料をより良い状態で長期間保存し,劣化を阻止するための対策を立てるためには,個々の紙の経年劣化速度を推定し,期待寿命を予測する必要がある。
    従来の紙の保存性評価において単一の温度条件による加速劣化では,紙試料間で劣化機構が異なる場合,高温と常温で評価した保存性が異なり得ることが報告されている。
    本研究では,イギリスで刊行され,130年から80年間経年劣化したJournal of the Chemical Societyの中から11種の図書資料を選択し,これをさらに60℃~90℃の4段階の温度条件(65%r. h. 一定)で加速劣化させ,比引裂強さ,比破裂強さ,重合度,そして明度の劣化速度定数に対して高い相関係数(0.97以上)のアレニウス・プロットを作成できた。これにより上記の紙の諸物性について常温での劣化速度定数と初期物性値を推定した。前報と同様に,劣化速度定数を初期値で除して新たに算出した常温での劣化速度指標は,湿熱劣化前の物性値が高い紙ほど低く,常温環境において劣化しにくい紙であることを確認した。そして,紙物性の常温での劣化速度指標と湿熱劣化前の水素イオン濃度を比較することにより,高温の単一条件での加速劣化より良い相関が得られた。
  • Kang Lee, Masamitsu Inaba
    2014 年 68 巻 2 号 p. 198-204
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/01
    ジャーナル フリー
    In order to take measures for preventing degradation of paper whose permanence is low, like acid paper, and saving them in a better state for a long time, it is preferable to estimate the natural ageing rate of various types of papers and to predict their life expectancy. Conventionally, the permanence of paper is evaluated by artificially ageing paper at a single temperature, but it has been reported that if paper deteriorates differently at different temperatures, the assumed permanence of paper at a single high temperature will differ from that at room temperature.
    Thus, in this research, 11 naturally aged books from the Journal of the Chemical Society published in Britain that had deteriorated over time for 130 to 80 years were selected and further aged artificially under 4 temperature conditions between 60 and 90°C (65% r. h. constant). It was possible to obtain the degradation rates of tear index, burst index, degree of polymerization and discolouration at room temperature by Arrhenius plots with high correlation coefficient (more than 0.97). Initial physical properties were calculated by estimated degradation rates, current physical properties and time that elapsed from the publication of the sample books. The degradation rate indicator (degradation rate constant divided by tear or burst index) were calculated as in our previous research, since the higher the physical properties, the lower the degradation rate of tear or burst index was. Better correlation was observed between the concentration of hydrogen ion before moist heat accelerated ageing and the degradation rate indicator of the physical properties of paper at room temperature than at higher temperature.
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