紙パ技協誌
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70 巻, 7 号
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省エネルギー特集 II
  • 西浦 弘智
    2016 年 70 巻 7 号 p. 665-670
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/01
    ジャーナル 認証あり

    大津板紙株式会社は,1955年(昭和30年)に操業を開始して以来,環境保護への取り組みを最優先と位置付け,環境に優しい板紙(段ボール原紙)の製造・販売をおこなっている。2004年1月には,それまでのC重油を燃料とした発電システムから都市ガスへ燃料転換するとともに,ガスタービンコージェネレーションシステムを導入し,大幅な環境負荷低減と省エネルギーを達成した。しかしながら,地政学的リスクと円安を背景とした燃料価格の騰勢は否めず,昨今ではエネルギーコストの上昇対策が,喫緊の経営課題として浮上している。そのような中,全社一丸となり省エネルギー活動に取り組み,2013年から2年連続エネルギー原単位4%削減を達成した。
    コスト面での経済性に重点を絞ることで,明確な省エネルギー目標を掲げることが出来,継続的かつ組織的に省エネルギー活動を展開することが可能となる。今回の講演では,省エネルギーが出来ない理由を当たり前にせず,なぜ省エネルギーを行うのかを理解し,従業員自らが取り組む体制を整えることの重要性を取り上げる。

  • 林 賢一
    2016 年 70 巻 7 号 p. 671-674
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/01
    ジャーナル 認証あり

    王子エフテックス(株)江別工場は,産業用から家庭用紙まで幅広い分野で求められる特殊紙に力を入れて生産している。年々生産品目の多様化が進み,パルプ製造,抄紙各工程で特殊紙生産対応設備が増えているため,工場総エネルギー量は増加傾向にあるが,2015年度は工場総エネルギー量の約1.2%に相当する省エネルギーをISO目標として掲げ,従業員一丸となって取り組んでいる。また,当工場敷地内に建設されたバイオマス発電所(王子グリーンエナジー江別(株)所轄)が2016年1月より営業運転に入っており,両社一体となってエネルギーの有効利用を図るべく,省エネ活動を進めているところである。
    本稿では,近年パルプ製造工程で実施した省エネ事例として,パルプ漂白に使用する二酸化塩素製造設備の操業管理値を固定概念にとらわれず大胆に見直し,設備投資ゼロで大きな省エネ効果を得た「二酸化塩素製造設備(R8)における省電力」と,パルプ蒸解工程から抽出した希黒液の濃縮用蒸気をわずかな設備投資で大きく削減した「酸素晒後洗浄フィルターシール水削減によるエバポレーター省蒸気」について紹介する。また,現在王子グリーンエナジー江別(株)と共同して取り組んでいる「バイオマス発電復水器冷却水(温水)の有効利用」について概要を述べる。

  • 森 信太郎
    2016 年 70 巻 7 号 p. 675-679
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/01
    ジャーナル 認証あり

    紙・パルプ産業は電力消費量が多く,またパルプ化工程や抄紙工程で多量の中低圧蒸気を使用している。このため,ボイラで得られる高温高圧蒸気はまず蒸気タービンでの発電に利用された後,中低圧蒸気をプロセスで利用するコージェネレーション(熱電供給)システムが導入されるなど,積極的な省エネルギー活動が一貫して取り組まれている。ボイラ水処理の観点でも,省エネルギーはもちろん,ヒドラジンを用いない等の安全性に考慮した取組みが他業種に先行して進められてきた。
    一方,低圧ボイラが主体で用いられる段ボール加工工場では,組立工程における低圧の乾燥用蒸気が工場の全エネルギーの中で,約半分と大きなウェイトを占めるため,蒸気原単位削減の要望が強く,有圧でドレン回収率が高い工場へと変化してきた。
    本稿では,これら社会情勢を受けて進化してきた最新のボイラ用水処理薬品の特徴を紹介する。水処理薬品による省エネルギーは,新たに大きな設備投資なしに直ぐに実施できる施策として有効である。ここでは,国内外500件以上で高い評価を頂いている低圧ボイラ向け多機能ポリマー:ドリームポリマー®を配合したボイラ用水処理薬品と,欧州で1,000件を越える実績があり,近年は国内外の学会で注目されている皮膜性アミン:セタミン®について紹介する。
    これらのボイラ用水処理薬品は,主力商品として国内外での省エネルギーに貢献できると考えている。

  • 高橋 幹夫
    2016 年 70 巻 7 号 p. 680-683
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/01
    ジャーナル 認証あり

    日本製紙(株)秋田工場の古紙処理設備において,高効率機器を導入しフローを簡素化することにより省エネルギーを図った事例を紹介する。
    改造ポイントは,設置後20年以上経過している横からローターが接続されたタイプのパルパーを,デトラッシュシステムを含むパルパー本体の高効率化更新により粗選機能をパルパーに負担させたことである。これによりパルパー後の粗選/精選スクリーン設備を集約できたため,機器削減による省エネルギーとなった。一方,テール処理工程は,リジェクト処理量が増加することに対応した改造を同時に実施し,離解機・ポンプ等が若干増エネルギーとなった。結果としてシステム全体では,対象機器に対して約680kW,約30%相当の省エネルギーを実績計上でき,当初計画値以上の効果を発揮している。
    これら改造工事は,ほぼスクラップアンドビルド形式により行われ,14日間の工期で全工事を完工することができた。また,改造にて設置したパルパー,スクリーン等の設備は垂直立上げができ,以降,操業上大きな問題点は無く,各機器の所定能力を計画通り発揮している。

総説・資料
  • マンネ テルバスカント, ラミ ランタネン, グレッグ フレイリック, ジュリアン ノイラウト, 山本 篤
    2016 年 70 巻 7 号 p. 684-690
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/01
    ジャーナル 認証あり

    連続蒸解釜の制御の改善は,最新の化学パルププラントにおける生産コストの削減と原材料消費量の低減にとって非常に重要である。しかし,連続蒸解釜は,プロセス段階が多いこと,滞留時間が長いこと,プロセス段階と変数との相互依存性が強いことなど課題が多く,制御が困難なプロセスである。また,原材料の特性や,プロセスラインに沿った脱リグニンの状態を含め,不可欠なプロセス変数の多くは測定が困難または不可能である。これら多くの課題により,局所フィードバック制御で設計と調整が不適切な場合,パルプラインの品質変数の分散を増加させてしまう恐れがある。
    そこで我々は,モデル予測制御(Model Predictive Control:MPC)に基づく連続蒸解APC(Advanced Process Control:高度プロセス制御)ソリューションを連続蒸解釜の制御に適用し浸透釜のチップレベル,蒸解釜の液およびチップレベル,残留アルカリ,およびブローカッパー価の制御を行った。この新規の制御ソリューションにより,すべての品質変数を大幅に安定化させることに成功した。その結果として,蒸解プロセスの安定性の向上や,カッパー価変数係数の35%以上の低減があり,カッパー価目標値の向上と大幅なコスト削減が可能になった。

  • ―製紙用サイジング剤の化学的性質と装置の最適化によるサイジング性能の向上―
    田中 光一, ウォール アレキサンダー
    2016 年 70 巻 7 号 p. 691-694
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/01
    ジャーナル 認証あり

    製紙業界におけるほとんどの製造方法に当てはまる事であるが,サイズ剤としてのアルケニル無水コハク酸(以下ASA)の性能は製品の化学的性質のみに依存するのではなく,添加剤および乳化方法に関する専門知識を十分に生かし,デメリットの最小化とメリットを最大限に発揮する為の装置も必要である。
    Kemira社は,製紙工程でのサイズに関する要求性能を満たすことを目的として,Fennosize ASシリーズのASAを設計,製造してきた。残留オレフィンとオリゴマー物質の量を最小化してASA分子を作る製法を開発し,特許を取得した。ASAサイズ剤の効果を十分に発揮する為には,より強力な高せん断乳化システムが必要であった。製紙工程におけるASAの性能に好影響や悪影響を及ぼす重要な要因も独自に評価することができた。Kemira社では,世界的に販売し,培ってきた経験と研究開発の専門知識を生かして,Fennosize ASシリーズを顧客にとって最良のサイズ処方として確立する事ができた。
    本稿では,このシリーズの化学的性質と用法に関する知識並びに技術サービスについて,詳細を記述する。

  • 行之内 幸男
    2016 年 70 巻 7 号 p. 695-698
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/01
    ジャーナル 認証あり

    2014年12月末,最新ライナーマシンがスタートアップした。本プロジェクトは建屋関係と一部薬品添加設備を除く,製紙設備の設計,調達,建設工事,調整試運転立会いを含むフルターンキーベースで,各工程,品質,納期,安全性など,これまで数多くの経験と実績のある弊社の徹底されたプロジェクトマネージメントによって管理された。
    納入機器のほとんどは国内で製造され,全設備を供給することで機械仕様の統一,各制御システムの統合化,操作性の統一など,全面的に最適な設備の構築が行われた。プラントとしての全体にわたるエンジニアリングは高効率で省エネルギー化を可能とした。設備の安全性についても徹底されており,運転中の機械へのアクセスまでもが管理されている。
    製紙機械の総合システムサプライヤとして,ライナーマシン新設工事の据付,スタートアップまでのプロジェクト概要を設備仕様と共に紹介する。

  • ―粘性封鎖による汚れの系外排出―
    室矢 知徳
    2016 年 70 巻 7 号 p. 699-705
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/01
    ジャーナル 認証あり

    ワイヤー・プレスパートにおいて,要具への汚れ付着は,断紙や欠点発生など,生産性や品質低下を招く要因である。特に,古紙回収率が高い日本では,古紙由来の粘着物(以下,粘着異物)が汚れの核として問題となることが多い。
    従来,粘着異物のマシン付着によるトラブル回避の手段として,苛性ソーダや灯油を用いた要具の汚れ除去(バッチ洗浄),外添ピッチコントロール剤等による汚れの付着防止などが行われてきたが,生産性の低下や要具劣化などを招く恐れがあった。
    そこで弊社は,粘着異物問題に対して,内添ピッチコントロール剤に求められることの多かった汚れの粘着低減効果に注目し,外添薬品『ピッチガードCN2235』を開発した。
    『ピッチガードCN2235』は,粘着異物に対して,内部,及び,外部の粘着性低減効果があり,粘着異物を「操業中適度に付着させて系外に排出すること」ができる為,弱い外力(シャワーなど)でも系外排出が可能となった。これにより,要具への物理的ダメージを最小限に抑える事が可能となる為,要具の寿命延長も期待できる。さらに,内添ピッチコントロール剤と比べて,より少量で効率よく粘着異物に作用する為,粘着異物対策におけるコスト削減等も期待できる。
    本報告では,最近のワイヤー・プレスパート粘着異物問題の深刻化に対応するため,新たに開発した『ピッチガードCN2235』に加え,多様化する汚れに対しても対処できるよう,改良・開発した『ピッチガードCN』,及び,『ピッチガードR』シリーズについて,最新の開発コンセプト,ならびに,効果発現メカニズムについて,実機適用事例を交えて紹介する。

  • ―紙力剤ポリイオンコンプレックスの可視化と開発への応用―
    油谷 謙介, 東谷 仁史
    2016 年 70 巻 7 号 p. 706-710
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/01
    ジャーナル 認証あり

    近年,原料古紙の悪化,コストダウン,環境問題への対応という流れの中で,より少量で効果を発現する製紙用薬品が求められている。このような状況下,我々は薬品の効果発現メカニズムを解明するためにパルプ繊維上の薬品定着状態を調べ,得られた知見をもとに,より高い効果を発現する新規な薬品の開発を行っている。
    今回,特殊な技術を用いてSPM(走査型プローブ顕微鏡)観察を行うことにより,ポリアクリルアミド(PAM)系紙力剤のポリイオンコンプレックス(PIC)がパルプ繊維表面に定着している様子を,より鮮明な画像で観察することに成功した。その結果,PAM系紙力剤の種類や抄紙環境の違いにより,パルプ繊維表面に定着するPICの大きさや状態が異なることを見出した。さらに,より大きなPICがパルプ繊維表面に定着すると高い紙力性能を発現することを確認した。このような知見を元に,高電気伝導度条件下においても高いPIC形成能を有し,従来品対比で高い紙力効果を発現する新規PAM系紙力剤の開発に成功した。

  • 清水 智子, 中川 明子, 松本 雄二
    2016 年 70 巻 7 号 p. 711-723
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/01
    ジャーナル 認証あり

    ISWFPC(International Symposium on Wood, Fiber and Pulping Chemistry)は,世界各国のTAPPI(あるいはそれと同趣旨の機関)が共催し開催国のTAPPIが主催する,TAPPI関連では最大規模の国際会議であり,1981年にEckman Daysとして第1回会議がストックホルムにおいて開催されて以後,2年に一度のペースで開催されている。
    他のTAPPI関連国際会議が個別課題についての応用研究・技術研究に重点を置いているのに対して,ISWFPCは木材化学,パルプ・製紙化学,繊維化学等に関する幅広い領域について基礎研究から応用研究まで扱うことから,当該分野の研究者を網羅し得る大変重要な会議となっている。
    2015年の第18回大会はウィーンで開催された。開催場所となったBOKU大学はThe University of Natural Resources and Life Sciences Viennaが正式名称(の英訳)であるが,通常はBOKU大学で通っている。開催責任者は同大学のThomas Rosenau教授であった。
    今大会では,口頭で約90件,ポスターで約130件の研究発表が行われた。本稿では,口頭発表を(1)リグニン,(2)パルプ化・漂白,(3)バイオリファイナリ,(4)セルロース・ファイバー・紙,(5)その他,の5つに分けて紹介し,続けて(6)としてポスター発表を紹介する。各発表とも最初に【 】内に日本語での記述があるが,これは,タイトルの和訳ではなく,発表内容を簡潔に示そうと試みたものである。なお,(1)から(5)のグループ分けは大会のプログラムに沿った分類ではなく,筆者らが内容に即して分類しなおしたものであること,また,紹介できるのは全研究発表の一部であることをあらかじめお断りしておく。

研究報文
  • Andri Taufick Rizaluddin, Ayyoub Salaghi, Hiroshi Ohi, Keiichi Nakamat ...
    2016 年 70 巻 7 号 p. 724-733
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/01
    [早期公開] 公開日: 2016/02/18
    ジャーナル フリー

    This study is focused on improving totally chlorine-free(TCF)and elementary chlorine-free(ECF)bleaching by using peroxymonosulfuric acid(Psa)instead of ozone(Z). Bleaching was conducted by a combination of oxygen(O)with Psa, followed by alkali extraction with hydrogen peroxide(Ep)and chlorine dioxide(D)stages in accordance with proposed sequences O-Psa-Ep-Psa-Ep and O-Psa-Ep-D. Increments in pulp consistency during the O stage and an addition of MgSO4 during the Ep stage were performed to improve pulp brightness and viscosity. The O-Psa-Ep-Psa-Ep sequence was compared with the O-Psa-Z-Ep sequence, and 87.3-88.3% ISO brightness was achieved by TCF bleaching corresponding to the O-Psa-Ep-Psa-Ep sequence. However, the viscosity obtained after the final stage of the TCF bleaching was 5.1-6.0cP, while the O-Psa-Z-Ep sequence resulted in an 83.1% ISO brightness and viscosity of 5.4cP. It was difficult to reach brightness above 88% ISO with viscosities greater than 6.2cP, which are the minimum standard levels for dissolving pulp, using the TCF bleaching sequence. Further studies with better qualities of raw materials are required to investigate this possibility. Meanwhile, brightness 88.1% ISO and viscosity 7.3cP were achieved by the ECF bleaching corresponding to the O-Psa-Ep-D sequence with only a 0.5% ClO2 dosage, which suggests a potential reduction in the usage of chlorine-containing chemicals during the ECF bleaching.

  • アンドリ タウフィック リザルディン, アヨブ サラゲイ, 大井 洋, 中俣 恵一
    2016 年 70 巻 7 号 p. 734-742
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/01
    ジャーナル フリー

    本研究は,オゾン(Z)の代わりにモノ過硫酸(Psa)を用いることにより,完全無塩素(TCF)漂白と無塩素(ECF)漂白を改良することを目的としている。酸素(O)漂白とPsa処理,続くアルカリ性過酸化水素(Ep)処理,あるいは二酸化塩素(D)処理による漂白を行い,O―Psa―Ep―Psa―EpおよびO―Psa―Ep―Dシーケンスを提案する。またパルプの白色度と粘度を改善するため,O漂白においては高濃度パルプ処理を行い,Ep処理ではMgSO4を添加した。その結果,O―Psa―Ep―Psa―EpシーケンスはO―Psa―Z―Epよりも良い結果を与え,ISO白色度は87.3―88.3%となった。しかし,粘度は5.1―6.0cPであった。なお,O―Psa―Z―EpではISO白色度が83.1%で粘度は5.4cPであった。TCF漂白シーケンスではISO白色度88%以上で粘度6.2cP以上という溶解パルプの基準を達成することは難しかった。TCF漂白の可能性については,より品質のよい原材料を用いて検討する必要がある。一方,ECF漂白のO―Psa―Ep―Dシーケンスでは,ISO白色度88.1%で粘度7.3cPのパルプが得られた。有効塩素換算のClO2添加量は少量の0.5%であり,この結果はECF漂白における塩素含有漂白剤の使用をさらに削減できる可能性を示唆している。

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