紙パ技協誌
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71 巻, 1 号
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新年のごあいさつ
第59回―2016年紙パルプ技術協会年次大会特集
第44回佐々木賞受賞講演
  • 堂阪 敏夫
    2017 年 71 巻 1 号 p. 31-34
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル 認証あり

    原質工程において,パルパから粗選丸穴スクリーンをバイパスして,精選スロットスクリーンへダイレクトに送るスロットダイレクトシステムが主流になりつつある。一方,近年古紙事情はさらに悪化し,プラスチック系異物や粘着異物の混入率が増えており,ますます異物処理の重要性が高まっている。加えて丸穴テールスクリーンはプラスチック系異物除去に優れており,歩留まり向上と合わせて需要が高まっている。

    しかしながら,テール系システムを構築する上でプラスチック系異物を処理するために機器が増えては本末転スクリーン,離解,脱水の機能を併せ持った機器であり,離解とスクリーン機能を持つ1次室と離解と脱水機能を持つ2次室で構成されている。原料は1次室で1次ロータにより離解され,スクリーンプレートによりスクリーニングがおこなわれる。1次室に堆積したプラスチック系異物は,入口から供給された原料により2次室へ押し上げられ,希釈水により洗浄される。最終的にプラスチック系異物は脱水されてリジェクトへ排出される。

    このコンビソーターTMを導入することで,テール系システムを簡素化できるだけでなく,プラスチック系異物を極力微細化させずに系外へ排出することが可能となる。

  • 田中 哲明
    2017 年 71 巻 1 号 p. 35-39
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル 認証あり

    苛性化工程で重油を大量に消費するパルプ産業において,燃料費の削減は大きなテーマである。そのソリューションとして,苛性化キルンの重油専焼から石油精製時の残渣であるオイルコークスと重油の混焼への燃料転換は有効な手段である。その一方で,オイルコークスは高炭素分に由来する難燃性と難粉砕性という性質を有するため,混焼が可能な微粒子化及びキルンへの供給を安定的に行なうためには様々な配慮が必要となる。宇部興産機械㈱(UMC)は,国内外で500基を超える宇部竪型ミルの実績とセメントプラントに代表される窯業機で培った知見を組み合わせることで燃料転換設備を具体化させ,これを製紙会社殿に納入した。

    UMCの燃料転換設備は,

    1)原料受入設備

    2)粉砕設備

    3)計量・バーナ搬送設備

    の3つの部分に分けられ,そのうち粉砕設備に採用している宇部竪型ミルは,独自の構造と特許技術である「テーブル回転数制御法」により自励振動を抑制し,難粉砕物でも安定して粉砕することが出来る。原料受入設備,計量・バーナ搬送設備についても,UMCの知見に基づく工夫を施すことにより,より安定的な運転を可能にしている。

    弊社が納入した設備により,苛性化キルンの燃料を重油専焼からオイルコークスを主燃料とする混焼へと燃料転換することに成功した。これにより,苛性化キルンにおける燃料費を大幅に削減することが可能となり,パルプ製造のコスト低減に貢献することができた。

  • 加藤 雄一朗
    2017 年 71 巻 1 号 p. 40-46
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル 認証あり

    紙パルプ生産工場において,工程内に付着するデポジットは,抄紙工程において断紙,欠点の発生に伴う操業トラブルを引き起こし,生産性や製品の品質に対してしばしば多大な悪影響をもたらす。断紙,欠点を引き起こす要因となるデポジットは多種多様であり,そのため断紙,欠点問題を解決するための最適な方法も状況によって異なる。紙パルプ製造工程において,連続的あるいは間欠的に様々な方法で様々な箇所にデポジットトラブルへの化学的対策が行われているが,これはすなわち問題の発生するメカニズムが複雑で,それを解決する手段が一様でないためである。したがって,複雑な断紙,欠点問題に対しては,その根本的な原因を多面的な視点で捉える事によって最適な解決方法を導き出す事が重要である。

    弊社は60年以上,数多くの生産現場においてデポジットトラブルの原因を調査し,問題解決方法を研究開発し続け,これをデータベース化する事によって,迅速かつカスタマイズ化した最適なソリューションを提案し,安定操業の実現,すなわち“断紙欠点ゼロ”を目指している。本稿では,化学的手段による断紙,欠点問題の解決に重要な概念と,原因調査から問題解決に至るまでのプロセスについて,そのいくつかの例を紹介する。

一般講演
  • 辻 志穂
    2017 年 71 巻 1 号 p. 47-50
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル 認証あり

    日本製紙グループは,「木とともに未来を拓く」というスローガンを掲げ,木質資源を最大限に利用する総合バイオマス企業を目指している。その一環として,当社は2013年に発足した新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託事業「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発/木質バイオマスから各種化学品原料の一貫製造プロセスの開発」に参画し,化学メーカーや大学,研究機関とともに,木材を原料とした持続可能な化学品の製造を目指した技術開発に取り組んでいる。

    当社は蒸解技術の応用による成分分離技術の開発を目指して、紙利用に最適化されてきた蒸解法を三成分の化学品利用へ適した条件へ改良する研究を行なってきた。プロジェクト内では、複数の成分分離の候補技術が並行して検討されてきたが,川下の成分利用技術の開発を担う各社の品質評価やコストを含めた実現可能性などを比較の結果,当社が取り組んだ改良蒸解が一貫プロセスの前処理方法として選択された。

    今後は技術面でもコスト面でも整合性をもって一貫製造プロセスが成立するよう,川下の成分利用技術の開発を担当する各社のリクエストに真摯に向き合った技術開発を続けて,木材成分の化学品利用を事業化へと繋げていきたい。

  • 橋本 健太郎
    2017 年 71 巻 1 号 p. 51-55
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル 認証あり

    三島工場のクラフトパルプ製造設備では,抄紙機の増設・増産に対応するために増産改造を繰り返し行ってきたが,その都度不足する設備を追加する改造方法で,機器台数やパルプ移送距離の増加等によるエネルギーの増加を伴ってきた。直近では,リーマンショック以降の生産構造の変化に伴い,2011年にNKP2系列を蒸解釜,酸素脱リグニン設備と漂白設備からなる1系列に集約,LKP系列は2012~2013年に機器大型化や設備間の機器配置見直しによる省エネルギーを伴う抜本的な増産改造を行ってきた。今回さらに生産品種のシフトによるパルプ使用量増加に対応するため,遊休機器を最大限に利用して設備投資額を抑えた増産改造を行った。

    改造のコンセプトは次のとおりである。

    1)遊休設備の活用による機器大型化

    2)蒸解方法改良による連釜操業性改善

    3)洗浄/精選設備増強による薬品低減

    4)熱回収フロー変更による省エネルギー

    蒸解工程は、釜内濃度・温度を安定させる蒸解法への改善を目的にValmet社のCompact Cooking G1TMへの改良を行った。さらに精選工程の増強、および漂白工程の改造を行った。

    立ち上げ当初は連釜の操業が安定しないことに起因する品質の変動や薬品原単位の悪化等が見られたが,白液の分散添加比率の調整や液比の見直し等,操業安定に取組むことで早期に運転のやり方を掴んだ。その結果,計画以上の成果を達成することができ,日産650t/日から1,000t/日までの増産を図り,国内で最も高い生産能力を有するNKP系列とした。

  • 久次米 智文
    2017 年 71 巻 1 号 p. 56-60
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル 認証あり

    中越パルプ工業㈱高岡工場の緑液処理工程では,以前から緑液清澄槽の過負荷による緑液清澄度の悪化,及び後段のドレッグス洗浄槽の老朽化問題が顕在していた。それらの問題を解消すべく,緑液清澄設備及びドレッグス処理用途の遠心分離機を新設し2015年12月より操業を開始した。

    ドレッグス処理設備として遠心分離機を選定した理由は,主にアルカリ回収率の向上,省スペース化,オペレーターの作業軽減である。稼働当初やシャットダウン時からの立ち上げ時は,ドレッグス供給濃度が上昇するまでスクリュートルクが掛からず,脱水不良が続いたが,ボウルとスクリューの差速を調整する事で対応している。概ね安定した運転状態となった為,最適な運転条件を探る為の実機テストを実施し,その結果を以下に纏める。

    1) スクリュートルクの上昇に伴い,ドレッグス固形分濃度は上昇するが分離液中のSS濃度は上昇した。分離液中のSS 濃度を許容範囲内に抑えつつ,固形分濃度を極力高く維持する操業を実施している。

    2) 分離液のSS濃度を低く抑えるには,1,500G以上の遠心力が必要である。また,1,000G以下の遠心力では脱水不良と共に著しい機械の振動を引き起こした。

    3) ポリマーの添加率に比例して分離液中のSS濃度は低下するが,過剰なポリマーの添加は体積増による差速の増大を引き起こし,結果として脱水の悪化を招いた。

  • 河向 隆, 立花 宏泰, 上野 浩義, 土井 伸一, 田中 宏樹, 山本 浩己, 磯﨑 友史, 古川 博之, 三浦 匠悟
    2017 年 71 巻 1 号 p. 61-65
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル 認証あり

    炭素繊維やガラス繊維などの強化繊維と樹脂を複合化した複合素材は,軽量性と高弾性率,成形性,低線熱膨張係数という特長がある。特に、炭素繊維系の複合素材は軽量性と剛性に優れるため,ゴルフシャフトやラケット,自転車用フレームなどのスポーツ用品や釣竿などのレジャー用品,航空機の部材などで幅広く利用されている。

    現在、複合素材は、連続繊維を用いた熱硬化樹脂のタイプと,短繊維を用いた射出用熱可塑樹脂タイプが主流であるが、連続繊維タイプは強度特性が優れているが複雑な成形が得意でなく,射出タイプは複雑成形が可能だが強度特性に限界がある。

    強化繊維の短繊維と熱可塑性樹脂の短繊維を組合せた不織布タイプの熱可塑性複合素材は,成形性と強度のバランスに優れ,リサイクル繊維の利用も可能という点から注目されている。不織布タイプの特長は,強化繊維の近傍に必ず樹脂繊維が存在するため,熱プレス時の成形性に優れ,成形体中でのボイドが発生しにくく、安定した強度特性を示すことにある。また,薄物から厚物まで成形可能であり、他の複合素材では成形が困難な0.5mm以下の薄物の成形も可能である。

    複合素材の強度特性は強化繊維の種類、繊維長、配合量、成形条件によって左右されるため、それぞれについて最適化することで、コストパフォーマンスに優れる熱可塑性複合素材を提案できると考えられる。成形体中に空隙ができないように、強化繊維の種類や配合量、成形温度や圧力条件を決定する必要がある。また、強化繊維と樹脂との界面接着力を高めることで強度特性を向上できる。

  • 渡辺 健
    2017 年 71 巻 1 号 p. 66-69
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル 認証あり

    北越紀州製紙新潟工場の8号抄紙機はA2コート紙専抄マシンである。後工程には,JRワインダー2基が設置されている。

    A2コート紙をJRワインダーで加工するにあたり,長い間いくつかの課題を抱えながら操業を続けてきた。

    JRワインダーのサイドドラムには,加工中の随伴エアーを逃がすためのスパイラル溝が掘ってある。リール枠のプロファイルやワインダー加工速度の変動の影響を受けて,この溝跡が紙面へ転写してしまうことがあった。瞬間的な発生であるため工程内での発見および除去が難しく,そのことも事態を深刻化させる要因となっていた。

    ワインダーパートではこの溝跡の発生を防ぐために,ニップ圧の制限や加工中の加速度の制限等の対応を取ってきた。これらの対応は,溝跡の発生防止に一定の効果はあるものの,ディッシングや木口ズレ等の損紙およびワインダー処理能力の著しい低下の要因にもなっていた。

    これらの課題に対して,JRワインダーに搭載されている2本のサイドドラムを,従来のハードロールからソフトロールに更新することで改善を図ることができた。サイドドラム更新以降,溝跡の発生は確認されていない。溝跡の改善だけでなく,一連の損紙の減少やワインダー処理能力の向上およびそれに伴うマシン生産性の向上も達成することができた。国内では初となるJRワインダーサイドドラムへのソフトロール搭載により,当初の目的を達成し品質,効率および生産性の向上を実現できたことは大きな効果である。

  • 前田 孝紀
    2017 年 71 巻 1 号 p. 70-73
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル 認証あり

    近年,環境に対する企業活動の重要性が求められており,我が社でも環境への取組みを最重要課題として「エコチャレンジ020」という環境目標を策定し,2020年度までに1990年度比CO2排出量を32%削減することを目標に,継続的な活動を推進している。このような背景の中,尼崎工場では老朽化が進んでいた発電設備の更新について検討を重ね,ガスタービン発電設備の2基増設に至った。選定理由として,CO2排出量の削減,抄紙機の稼働に合わせた柔軟な運転が可能なこと,ガスタービン発電設備の運転実績があったこと,設置スペース及び発電設備におけるリスクの分散化がポイントとなった。

    設備導入前の試算では,年間のCO2排出量を約4,500t削減できる計画としていた。2016年1月末より本運転に入り,今日まで順調に稼働し,CO2排出量は5か月で約2,300t削減と試算を上回る結果となった。試算時の想定より,蒸気原単位の改善と大気放出蒸気量の削減が,燃料原単位の良化に大きく起因している。蒸気原単位の改善については,各抄紙機乾燥用に送気していた蒸気条件が変わったことで良化した。大気放出蒸気量の削減については,蒸気量を調整するシステムが変わったことと,その調整操作にシーケンスを組んだことが,大きな要因となっている。

    本稿では,ガスタービン発電設備の概要とこの操業経験に関して報告する。

総説・資料
  • 宮西 孝則
    2017 年 71 巻 1 号 p. 75-82
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル 認証あり

    クラフトパルプの残留リグニンは非フェノール性構造が大部分で,フェノール性構造が少量,そしてカルボニル構造が極少量である。塩素とオゾンはすべての構造のリグニンと反応する。二酸化塩素と酸素はフェノール性構造とカルボニル構造のリグニンと反応し,ハイポと過酸化水素はカルボニル構造と反応する。このように,リグニンとの反応性から晒薬品は3つのグループに分類できる。興味あることに,それぞれのグループにオゾン,酸素,過酸化水素があるので,理論的には無塩素漂白が可能である。一方,セルロースとの反応性からは,晒薬品は2つのグループに分けられる。1つのグループはカルボニル基を生成しない薬品であり(塩素,二酸化塩素,過酸化水素),もう一方のグループはカルボニル基を生成する薬品である(ハイポ,酸素,オゾン)。以上のメカニズムを考慮して,目的に応じて漂白シーケンスを組む。パルプの漂白では,脱リグニンを行うだけではなくセルロースの損傷をなるべく抑える必要があるので,パルプのカッパー価と粘度から適切な晒薬品を選択する。オゾン漂白段単独で白色度80%のパルプを得ようとすると,パルプ繊維表面の酸化生成物がオゾンを消費し,オゾン繊維内部への拡散を妨げて漂白反応を阻害するため,大量のオゾンを必要とし,オゾン消費率も著しく低下する。多段漂白にしてリグニンの反応中間体を除いてしまうことが肝要である。尚、パルプ粘度は強アルカリ溶液で測定するので,アルカリに不安定なカルボニル基を持つオゾン漂白パルプの粘度測定値は低くなり、パルプ強度とは必ずしも相関しない。

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