紙パ技協誌
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71 巻, 7 号
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省エネルギー特集 II
  • 吉津 正毅
    2017 年 71 巻 7 号 p. 725-729
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
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    紙・板紙の内需は,2000年にピークを迎え,2008年のリーマン・ショック後の翌年には大きく数量を落とし,それ以降もV字回復することなく停滞・減少の傾向を示している。当時,弊社も大きな影響を受け,北海道工場勇払事業所では2009年末にコート紙を製造する抄紙機1台(勇払1M/C)を停機し生産調整を図った。この停機により原料となるKPは減産となり,それに伴いパルプ製造のエネルギー原単位は高止まりで推移し,以前の水準に戻す事が出来なかった。

    今回,減産の影響を特に大きく受け増加したKP漂白工程の蒸気原単位について,洗浄フィルターのシャワー水最適化と工程の温水バランス見直しにより蒸気量を安定させ,更に熱交換器によって工程排熱から熱回収し温水を製造する事によって,大型の設備投資なしに改善に至った。その改善内容を紹介する。

  • 藤森 純一
    2017 年 71 巻 7 号 p. 730-736
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル 認証あり

    多くのエネルギーを消費する製造プラントでは地球環境保護やエネルギーコスト削減を目的とし省エネルギー化を模索している。大型ボイラーを有するプラントでは大型のファンやポンプを駆動する電動機が大きな電力を消費している。ファンやポンプはスロットルやバルブ制御ではなく,駆動装置の回転数を変速する可変速化により供給量を制御することで大きな省エネルギーにつながることが周知の事実である。多く採用されている手法としてインバータ制御があるが,大型高圧電動機の分野ではその導入コストや交換部品コストが高額となり省エネ化が実現出来ない現状がある。そこで選択肢の一つとして可変速流体継手を使った省エネについて考察する。

    可変速流体継手は1952年以来15,000機以上納入され多くの実績を持っている。砂漠,高温多湿,寒冷地,海上等世界中のあらゆる露天環境で運用され続け堅牢な設計であると同時にシンプルな構造で故障が少なくオーバーホール間隔も長い(8年毎)ISO規格軸受を使うなど部品も安価でありトータル的なコストパフォーマンスは非常に良い。また幅広いラインアップを持ち出力100~10,000kWに対応し電動機のほか内燃機関やタービン(スチーム,ガス)にも対応する。

    本稿では実際に行われた省エネ化設備改修実例を基に可変速流体継手導入前と可変速流体継手導入後の省エネ効果を例に取り机上計算では含まれていないことが多い各機器の機械ロスを含んだ実際の電動機電力実測データからその有効性を報告する。また,可変速流体継手の作動原理や基本構造のほか特性及び長所,短所を解説し,可変速流体継手が運用条件次第で最良の選択肢の一つになりえることを解説する。

  • 京紺 正, 福島 拓馬
    2017 年 71 巻 7 号 p. 737-743
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル 認証あり

    近年,原油価格の高騰や森林伐採,温室効果ガスによる地球温暖化などが進むなか,省エネ・省資源・CO2削減に努めている。当工場においても大きな課題となっており,省エネ活動を推進している。

    当工場では省電力・省重油・節水の3項目を軸に省エネに取組んでいるが,どの項目においても年々目標の達成に苦労しているのが実情である。しかしながら,近年の省エネの取組みとして設備更新の際に設計などを見直し,高効率化を図れる新型の装置を種々の設備に導入することでドライヤーの乾燥効率改善や重油バーナーの燃料使用量低減などの成果を上げた。また,節水プロジェクトを立ち上げたことにより,従来の方法にとらわれず今までにない広い視野からフロー見直しや白水回収効率の改善に向けて取組んだ結果,2015年度に「目標達成率223%」と大きな成果を得た。

    これらの過去2年間の取組みを通し,小さい実績でも積み重なれば大きくなること,また努力を惜しまない姿勢が成果につながることを実感した。これからは,新たなシステムを最大限に活かして職場間の壁を取り払い,今までにない様々な角度から広い視野で省エネ活動に取込むことが必要だと考えている。

  • ─サーモレジンSV工法─
    若野 伸彦
    2017 年 71 巻 7 号 p. 744-749
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル 認証あり

    近年,製造業ではエネルギー消費に関する合理化やそれに伴う設備等への見直しといった保守・管理面からの省エネへの取り組みが官・民一体となって盛んに行われている。また,先般開催された気候変動枠組条約21回締約国会議(COP21)において,日本の目標値として2013年比で26%のCO2削減目標を掲げことも広く公表されている。

    また,産業界において,とりわけエネルギー消費の極めて高いのが工業炉等を含めた加熱処理施設が挙げられる。因みに,熱処理等を行う加熱施設としては,日本全国で約40,000基程度も稼働しており,日本全体のエネルギー消費量の約18%を消費しており,全産業部門の約40%も占められているなどエネルギーの大量消費分野とも言える。

    このような背景を鑑み,弊社では,これら熱損失を削減することによりエネルギー消費原単位の低減や作業環境の改善といった経済面及び環境面での有効な取り組み策として,僅か5~15μm被覆するだけで放射(ふく射)伝熱を最大80%低減できる超薄膜型の低放射遮熱塗料『サ-モレジンSV』を開発した。その効果としては,超薄膜の塗材を被覆するだけの処理仕様であるため,イニシャルコストが非常に安価となりその反面削減効果が大きいことから,費用対効果が極端に短い期間で実現することが挙げられる。具体的には,産業用の工業炉の炉壁面に被覆した場合でも同様で,ふく射伝熱が79.3%低減でき炉壁からの放射熱損失量と対流熱損失量を合わせた放散熱損失量で26.1kWから20.3kWまで削減でき,最終的には消エネ効果として消費電力量を11.2%低減できた(費用対効果:約4ヶ月未満)。

  • 新屋 勝
    2017 年 71 巻 7 号 p. 750-753
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル 認証あり

    王子製紙苫小牧工場では,古紙パルプの増使用が進むにつれ,それまで品質依存度の高かったTMPの生産条件を見直す環境が徐々に整ってきた。

    2008年燃料高騰によるオイルレス操業への移行に伴い,消費電力が高いTMPの電力原単位低減が求められたことから,2009年より段階的な省エネ対応,すなわち,⑴プレヒーティング条件の見直し,⑵スクリーン粕量の低減,⑶省エネプレートの導入,⑷リファイニングシステムの3段から2段への変更を進め,25%以上の省エネを達成することができた。さらに,リファイニング濃度の変更,電力負荷バランスの最適化,フリーネスの変更などにトライした結果,最終的に,設備変更を殆ど行なうことなく,TMPリファイナー電力原単位を当初より32%削減した。

総説・資料
  • ─プロセスパフォーマンスの向上と交換時間の短縮─
    ホセ サンティアゴ, 岸田 幸三
    2017 年 71 巻 7 号 p. 754-756
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル 認証あり

    現在の製紙業界は,今まで以上にコスト削減が求められている。しかし,コスト削減は実現しながらも製品品質は今まで以上のものを提供しなければならない。その中でクリーナーシステムは,そのメンテナンスによるマシン停止時間や次工程へのパルプ品質において,重要な役割を果たしている設備である。効率的なシャットダウンは製紙工場全体の運転に於いて極めて重要な問題であり,全ての工場はできる限り交換のコストと時間を減らそうと努力している。また同時に,除塵効率と繊維回収の要求は年々高まっており,既設のクリーナーシステムは,繊維回収を増加しつつ,同じエネルギー消費で除塵効率を上げることが求められている。

    この困難な要求に対し,我々メンテナンス製と製品品質の両方を同時に達成できるEZテクノロジーを提案したい。EZテクノロジーは,既存のクリーナーシステムを利用する為,大きな設備投資は必要なく,クリーナーコーンを従来のシャットダウンに合わせて交換していくことで,メンテナンスコストの削減と製品品質の向上を達成できる画期的な技術である。

  • ─ローレンツェン アンド ベットレー パルプテスターと事例─
    山﨑 光洋
    2017 年 71 巻 7 号 p. 757-764
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル 認証あり

    費用効率の高い生産を目指すとき,抄紙プロセスの最適化と制御には,パルプや調成原料に関連する品質パラメーターのより高頻度な監視が必要となる。これを目的として,パルプや調成原料の新しい品質管理システムを開発した。このオンラインのL&Wパルプテスターは,一連のプロセスの様々な場所から自動サンプリング可能な,完成されたウェットラボラトリーであり,測定を繰り返し・頻繁に自動で行なうことができる。リアルタイムで真の変動を監視して,製品品質の確保,時間・原料・エネルギーの節約,生産性の向上に利用することができる。L&Wパルプテスターは,既に確立されている規格にしたがって,カナダ標準フリーネス(CSF)・ショッパーリーグラー(SR)・白色度・色相・繊維長・キンク・粗度などを自動で測定するため,工場での自動品質管理・最適化システムの構築に最適である。

    オーストラリアンペーパーメアリーベール工場は,L&Wパルプテスターにより,パルプ設備とマシンチェストにおけるフリーネスの自動オンライン測定・リファイナーの閉回路制御を開始し,結果として,電気・蒸気消費量の削減とブローク発生の抑制を達成した。節約累積額は,輸出向け主要銘柄において,248,000ユーロ/年(約3,000万円,1ユーロ=120円として)にのぼった。しかも,この金額は全生産量の30%を占める一部銘柄のみに基づいて計算したものであり,全銘柄で計算するとさらに大きくなる

    本稿では,測定対象パルプからその物性までを示しながらL&Wパルプテスターについて紹介し,オーストラリアンペーパーメアリーベール工場での導入事例を共有させていただく。

  • 清水 良三
    2017 年 71 巻 7 号 p. 765-769
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル 認証あり

    Industrie 4.0に基づいた新しいコンセプト「Papermaking 4.0」は,サイバーフィジカルシステム(CPS)という次世代の概念でスマートデバイスをネットワーク化して,予測制御や予知保全を提供するビッグデータ解析を組み合わた新しいビジネスモデルである。

    スマートコントロール,スマートメンテナンス,スマートサービスという3つの製品分野から構成され,高度にデジタル化されたスマートデバイスでモジュール化したシステム同士を組み合わせたシステムを構築し,ネットワーク経由で収集・解析したビッグデータを有効活用した,予測制御・予知保全サポート・操業・保全支援サービスなどを製紙産業向けに提供する新しいトータルソリューションである。オンラインでプロセス性能やプラント条件を「見える化(Visualize)」することによって問題を把握し,プロセス変動の軽減や機器信頼性の向上によって生産性・品質の「安定化(Stabilize)」をもたらし,「最適化(Optimize)」することによって生産コスト削減を達成する。さらに状態を将来にわたって「維持(Preserve)」するためには継続的な監視・保全・最適化のサービスやサポートを提供する,VSOP の4つのステップがキーワードである。

    少子高齢化による労働力不足を解消するためにも,お客様の経験豊富なノウハウをデジタル化・標準化して自動学習をしながらカスタマイズされていくシステムは,既設設備を最大限流用しつつモジュール単位での導入が可能なので,段階的にシステムを拡張することが出来,最終的には製紙工場をスマート工場へと転換させるのに役立つ。

  • ─縦型回転機器への応用─
    戎 篤志
    2017 年 71 巻 7 号 p. 770-776
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル 認証あり

    紙パルプ業界においても回転機器の軸封として,メカニカルシール化が進んできているものの,用途としては黒液やコーティングカラー等のポンプやスクリーンと言った機器に特定されており,保全担当者の手を煩わすことの多い,軸振れや振動を伴う横型及び縦型のアジテーターでは殆どの場合グランドパッキンが使用されている。

    これらの現状を打破し,省エネやメンテナンスコスト削減,更に安全や安心を提供し安定操業を実現すべく,過去2年に渡り,ゴムローズの特性を応用した弊社独自の設計思想に基づく,横軸用の軸振れ対応型の完全二つ割メカニカルシール紹介並びに提供してきたが,今回はより過酷な条件で使用されるパルパー等の縦型機器への応用についても,豊富な実績紹介を盛り込みながら紹介させて頂き,改めて軸振れや振動を有する機器の軸封として最適な解決策を提案させて頂く。

  • 第4回 輸入チップの開発と日本型工場モデル(その1)
    飯田 清昭
    2017 年 71 巻 7 号 p. 778-785
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル 認証あり

    1960-80年代の日本は,紙の需要が,10年間で約3倍と伸び続けて,原料の供給が緊急の課題であった。当時は,海外でのパルプ生産とその輸入のプロジェクトが進んでいた。その中で,北米西海岸から針葉樹チップを輸入(1964年)することで効率的な輸送システムを確立し,次いで,世界各地からの輸入チップ(主に広葉樹)をベースに,臨海の既存工場に大型のパルププラント(その多くはKPプラント)を建設し,パルプから紙までの一貫生産工場にする方式を作り出した。例えば,王子製苫小牧,三菱製紙八戸,十條製紙石巻,北越製紙新潟,大昭和製紙鈴川,山陽国策パルプ岩国,大王製紙三島等である。

    1990年代の様子を紹介する。チップ船隻数70-80隻であった。針葉樹チップでは,使用量の約50%が輸入チップで,輸入先は北米,オーストラリア,ニュージーランド等多様化した。チップは,初期のクラフトパルプ向けから,新聞用のRGP,TMP用として使用された。

    広葉樹では,1980年頃より輸入チップ量が急増し,1990年代では約80%にまでなった。輸入先は,オーストラリヤ(ユーカリ)から始まり,アメリカ南部,チリ,南アフリカ等が続いた。LBKPとして上質・塗工紙向けであった。

    この日本型の工場モデルの経済性は次号で考察する。

総合報文
  • 安原 賢
    2017 年 71 巻 7 号 p. 786-798
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル フリー

    化学工学の分野で塗布は重要な要素技術であり,日本の産業界ではVOF 法を用いた塗布ビードの自由表面解析が盛んに行われてきた。この解析手法にて,空気同伴,リビング,リビュレット,段ムラ,塗布エッジ膜厚不均一等の各種塗布故障が解析結果として再現された。また,これら塗布故障の発生状況と塗布条件の相関を定量的に整理したコーティングウィンドウにおいても,実際の塗布試験結果と良好な一致が見られた。このように,塗布解析を活用した塗布故障発生原理の解明,未知の操業条件における塗布故障発生予測が実用化され,近年では主に電子材料分野の塗布最適設計に役立っている。現状この分野では,スロット塗布方式による単層塗布が一般的だが,多層同時塗布技術の応用も期待されている。

    他方,製紙業界の分野では,流体構造連成解析によってブレード塗工挙動を表現し,ブレードやゴムロールという弾性体にニップされつつ塗工膜を形成する挙動が再現されたが,ここでは紙基材への染み込みまでは考慮しきれていない。但し,印刷プロセス解析では,染み込みモデルによってポーラスな紙面へ液体が染み込む挙動が既に再現されており,ブレード塗工との同時考慮が今後の課題である。また,流体粒子連成解析を応用した塗工液中の固体微粒子挙動の解明,更には粒子を数珠状に軟連結した微細繊維挙動解析による抄紙工程の繊維挙動解明も期待される。

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