生体には多くの金属結合分子が存在する.生体必須金属と呼ばれるものは,これらの分子と結合し,それによって分子の正常な機能の発現に重要な役割を演じるものである。一方,一般に毒性金属は,分子内金属結合部位において必須金属と拮抗し,あるいはSH基などと反応して,不可逆的で安定な結合を形成することにより,正常な機能発現を妨げる
金属結合分子のうち,細胞内に高濃度で存在し,かっ金属親和性の高いものは,毒性金属との結合により,それ自体の作用に影響を受ける一方で,細胞内における毒性金属の有効濃度を下げることにも貢献する。これらは,そのレベルの変化が金属毒性を左右するという意味で,金属毒性を決定する細胞内防御要因とも言える
グルタチオン(GSH)は動物細胞中にmMのオーダーの比較的高濃度で存在するトリペプチドであり,DNA合成,蛋白合成,アミノ酸輸送,酵素作用,生体異物の解毒など,生体の基本的な過程に関与するといわれる[2]。GSHの生物学的役割を解明するための手段として,GSH合成欠損変異細胞の使用は有益である。実際に,ヒトで5-oxoprolineuriaと呼ばれるGSH合成欠損(GSH合成酵素欠損)症が知られている[3]。しかし,これらの患者からの細胞の入手,および定量的な実験の遂行には困難が予想される。一方,GSH合成の選択的阻害剤が知られている。即ち,L-buthionine-SR-sulfoximine(BSO)はGSH合成の律速酵素であるγ-glutamylcysteine合成酵素を選択的に阻害する[4,5]。このBSOを細胞に適用することにより,GSH枯渇細胞が得られる
メタロチオネイン(MT)は,主としてZn,Cd,Hg,Cd,Agなど金属イオンにより誘導合成される,高システイン含有,低分子量一金属結合性蛋白(分子量:約6000)であり[6],その生物学的役割は,金属毒性の軽減およびZn,Cuなど必須金属の代謝調節にあるといわれる[7,8]。
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