専門日本語教育研究
Online ISSN : 2185-7881
Print ISSN : 1345-1995
ISSN-L : 1345-1995
16 巻
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
巻頭言
特集
  • 佐藤 勢紀子, 村岡 貴子
    2014 年 16 巻 p. 2
    発行日: 2014/12/26
    公開日: 2016/11/20
    ジャーナル フリー
  • 人間同士の協働を目指す「専門日本語教育」
    宇佐美 洋
    2014 年 16 巻 p. 3-8
    発行日: 2014/12/26
    公開日: 2016/11/20
    ジャーナル フリー
    『専門日本語教育』創刊号から最新の第15号までに掲載された記事を総覧し、掲載記事の傾向がどのように変容してきたかを、第1期(1~5号)、第2期(6~10号)、第3期(11~15号)に分けて検討した。その結果、初期には特定の学問分野ごと、あるいは言語活動の特定の側面(受容または表出)ごとに、そこで用いられる言語要素のあり方を分析する研究が主流をなしていたが、時代を経るにつれて、そのような「分断」を行わず、学問分野や言語活動の各側面を統合的に扱おうとする研究が増えてきていること、またその背後には、人間同士の「協働」を重視しようとする思想が存在していることを指摘した。
  • 野田 尚史
    2014 年 16 巻 p. 9-14
    発行日: 2014/12/26
    公開日: 2016/11/20
    ジャーナル フリー
    上級日本語学習者が自分の専門分野の学術論文を読むとき、推測を中心にどのような方法を使ってその内容を理解しているかを調査した。その結果、上級日本語学習者が学術論文を読むときの問題点として、次の(a)から(c)があることが明らかになった。(a)自分の知らない語句の意味を独自の方法で推測し、不適切な理解をすることがある。(b)学術論文に出てくる複雑な文の構造がとらえられず、不適切な理解をすることがある。(c)自分の既有知識に合うような内容が書かれていると思い、不適切な理解をすることがある。このような問題点を解決するためには、次の(d)から(f)のような課題について研究を進め、その成果を読解教育に取り入れる必要がある。(d)文脈との関係を考えながら自分の知らない語句の意味を適切に推測する方法(e)「読むための文法」を使って複雑な文の構造を適切にとらえる方法(f)自分の既有知識をうまく使って論文に書かれている内容を適切に推測する方法
  • ダイバーシティの中で活躍できる人材の育成に向けて
    近藤 彩
    2014 年 16 巻 p. 15-22
    発行日: 2014/12/26
    公開日: 2016/11/20
    ジャーナル フリー
    海外の日系企業はもとより、国内の日本企業でもますます日本語非母語話者が採用されつつあり、職場が多国籍化している。このような日本語母語話者と非母語話者が働く職場では、両者の密なコミュニケーションは非常に重要となってくる。本稿では、まず、ビジネスコミュニケーションの必要性について、次に、ビジネスコミュニケーションの教育実践の一例を紹介する。当該実践は、日本人学生と留学生の双方を対象としたものであり、両者が初めて取り組む課題(SWOT分析)を達成していくまでのプロセスに焦点を絞る。共に学びあい協働で自分たちの企画を提案するこの学習活動は、日本語習得のみをゴールとするのではなく、仕事で遂行する課題を想定し、日本語を駆使してその課題を達成することに主眼が置かれている。このプロセスアプローチはもともと非母語話者を対象に実践されたてきたものだが、母語に関わらずダイバーシティの中で活躍できる人材の育成に貢献できるものであると考える。これからの日本語教育では、コミュニケーションのカウンターパートである母語話者と非母語話者が協働で多くの課題を達成する場が提供されることが重要となる。
  • 学習者による‘私の’専門語彙の抽出とリスト化
    伊藤 秀明
    2014 年 16 巻 p. 23-28
    発行日: 2014/12/26
    公開日: 2016/11/20
    ジャーナル フリー
    海外の高等教育機関もしくは日本の高等教育機関に在籍している日本語学習者数は年々増加傾向にある。そのため、日本語を用いて専門的な学習や研究を行っている日本語学習者の専門分野も広がり、日本語教師の専門分野に関する知識に頼った教師主導型の専門日本語教育では限界が見えてきている。そこで国際交流基金関西国際センターでは、2013年度文化学術専門家日本語研修でWebツールを利用した自己主導型学習による「専門語彙」の授業実践を行った。本実践の特色は、①専門語彙の学習を自己主導型学習として捉え、学習者の「必要な文献を読みたい」という直接的ニーズに応えると同時に、自身の研究に即戦力となる「今、必要な」専門語彙リストを短時間で作成することができる、②専門語彙の意味について文献内の文脈での意味理解を促し、カテゴリー分類することで専門語彙としての意味と用法への新しい気づきが生まれる、③手法に汎用性があるため、学習者にとっての自律学習能力の意識化に加えて、他機関の日本語教師にとってもすぐに応用可能なものである、という3点である。本実践を踏まえて、技術の進歩と人と人とのつながりを有効活用することで、専門日本語教育においても自己主導型学習が可能であることを述べた。
論文
  • 定量的基準と教育現場の視点の統合
    今村 和宏
    2014 年 16 巻 p. 29-36
    発行日: 2014/12/26
    公開日: 2016/11/20
    ジャーナル フリー
    科学技術分野とは異なり、社会科学分野においては、専門文献を日本語で読むことが必須要件である留学生は少なくない。その際、専門辞書などに掲載された専門用語だけであれば、専門性が高ければ高いほど、母語でその概念を知っていればそれほどむずかしくない。一方、社会科学諸分野や学術分野全般でも使われる汎用性の高い語彙は、専門辞書に載っていないことが多く、その学習には予想外の困難を伴うことを筆者は長年の教育経験の中で痛感してきた。そこで、本研究では、社会科学系5分野の基礎文献計28冊で構築した大型コーパスを用いて、社会科学の各分野別二字漢語、社会科学共通二字漢語、学術共通二字漢語を統計的に特定することを試みた。その際、分析の途中で得られた知見は積極的に教育に応用するとともに、分析手法に教育の視点を生かすことができた。
  • コミュニケーション・ブレイクダウンの観点から
    仁科 浩美
    2014 年 16 巻 p. 37-44
    発行日: 2014/12/26
    公開日: 2016/11/20
    ジャーナル フリー
    本稿は、理工系留学生による口頭発表時の質疑応答において、発表者と質問者との間にコミュニケーション・ブレイクダウン(CB)が発生した時、両者がどのように対処して会話を回復させるかを分析したものである。CBの発生は、多くの場合、発表者である留学生側から沈黙を伴って示されるが、その回復に向けては、質問者側が具体例の提示や、質問意図の再提示を行うことで主導される場合が多く、発表者がより積極的に関与する必要があると思われた。また、CBの原因としては、用語の表現や語用論的な日本語の問題に関わるものや、質問者である教員との関係性によるもの等が挙げられた。
  • 工学系専攻の大学院生による作文自己訂正から
    山路 奈保子, 因 京子, 藤木 裕行
    2014 年 16 巻 p. 45-52
    発行日: 2014/12/26
    公開日: 2016/11/20
    ジャーナル フリー
    日本語母語話者大学生の文章作成技能の獲得を支援する方法の開発を目ざし、学部後半の文章作成技能獲得状況とそれに伴う認識の変化を把握するため、工学系専攻の学部から大学院に進学した直後の学生に対し、本人が学部3年生時に書いた作文の問題点を指摘するコメントと、同一主題による作文の作成を求めた。作文から文章作成技能が向上したと判断された学生に対しては、自己評価と獲得過程についての自己認識を問うインタビューを実施した。コメントには、根拠の弱さや説明不足の指摘、冗長さの整理やより適切な語・語句への提案がみられ、思考と言語表現の両面で厳密さ・明確さへの意識が高まったことが観察された。大学院進学直後の作文では、全体構造が重層化し、それがメタ言語表現などによって明示されており、学術的文章らしい特徴を強めていた。内容も、議論や判断の前提の記述が出現し、主張に至る推論の各段階が詳細に提示されるなど、議論の過程を読者と共有するために有用な記述が増加していた。インタビュー調査では、学術的文章らしい構造や表現の使用が、単に模倣や形式遵守の意識からではなく「受け手の理解を得られる効率的な伝達の要件」として内面化されていること、受け手への配慮の重要性を認識する上で「自分の表現意図が通じない」という失敗を含む対人コミュニケーションでの経験など、学術的文章執筆以外の経験が有用に働いていることが示唆された。
  • 非専攻との比較から専攻に特化した教育開発を目指して
    立川 真紀絵
    2014 年 16 巻 p. 53-60
    発行日: 2014/12/26
    公開日: 2016/11/20
    ジャーナル フリー
    本研究では、中国の大学の日本語専攻に特化した教育開発への知見を得るための基礎研究として、日本語専攻の学習者(専攻生)のキャリア形成意識における日本語の位置づけを非専攻の学習者(非専攻生)と比較しつつ考察した。中国の4大学で、専攻生と非専攻生にアンケート調査を実施し、集計結果への見解を教員と学習者にインタビューで調査した。その結果、専攻生はビジネス関連の内容の学習や日系企業への就職の希望が非専攻生に比べ顕著で、卒業後のビジネス場面での日本語の活用志向が強かった。一方、学習状況や日本語能力への自己評価の低さから、長期的な日本語活用を希望しながらもやや消極的な学習者像が見られた。以上の調査結果から、より充実した教育開発のために、ビジネス場面でも出現し得る異文化間コミュニケーションに関する深い洞察や対応能力の育成が重要だと考えられる。また、日本語学習の意義づけ促進のため、教員から具体的な日本語活用の選択肢を示し、日本語能力発揮の可能性を広げ、キャリアに積極的に組み込む自立性の涵養が必要なことが導かれた。
報告
  • 経済学部1年生を対象に
    吉田 美登利
    2014 年 16 巻 p. 61-66
    発行日: 2014/12/26
    公開日: 2016/11/20
    ジャーナル フリー
    本研究はレポート評価が高い学生の使う方略は低い学生のものとどう違うのかを明らかにし、その結果をレポートが苦手な学生への指導法に応用することを目的とするものである。経済学部1年生8人を対象にレポートの一部(章立て、目標規定文、はじめに、参考文献)を発話思考しながら作成してもらった。その結果、4点が明らかになった。(1)評価低は、レポート産出過程が単線的であったが、評価高はそれぞれの間を行き来して精緻化しながら書いていた。(2)評価高は既有知識によりレポートのテーマを決めていたが、評価低はインターネット検索に頼りテーマを決めていた。(3)レポート産出方略(手順、時間、文献検索法など)の獲得にはレポート学習への動機づけが大きく影響を与えていた。評価高はレポート学習への動機づけが高く、評価低は低かった。(4)評価低は、レポートというジャンルについて誤ったビリーフを持っていたが、評価高は的確なビリーフを持っていた。以上の結果について、書きながら章立てや目標規定文を精緻化していくという方略は、作文には見られずレポートに特徴的なものであることを指摘した。また、既有知識をどうレポートに利用するかに加え、良いレポートとは何かを学ぶことと学習者の動機づけに働きかけることを提案した。
  • 引用の使用に関する基礎調査
    矢野 和歌子
    2014 年 16 巻 p. 67-72
    発行日: 2014/12/26
    公開日: 2016/11/20
    ジャーナル フリー
    本研究は、卒業論文の実情を踏まえた指導や教材の開発を目的とし、人文・社会学系の4大学4学部の優秀卒業論文計35編を対象に引用の形式、目的など、引用の使用実態について調査した。その結果、引用の形式としては、間接引用の使用が多いという傾向が明らかになった。また、段落単位での間接引用など、既刊の教材ではあまり扱われていない類型もみられた。留学生の論説文における引用の使用について調査した矢野1)との比較では、優秀卒業論文において、「論点を分析する観点の提示」、「解釈の提示」など幅広い目的で引用を活用していることが特徴として見られた。学部間の比較では、外国語学部、社会学部の論文全編で「論点を分析する観点の提示」を目的とした引用がなされていること、20編中17編で「解釈を提示する」目的での引用が見られる点が特筆できる。社会学部の論文では、「自己の主張の補強」を目的とした引用が全編で活用されていることも特徴である。また、商学部、経営学部の論文では、「先行研究の整理」をする目的での使用が多く、目的が限定的で引用の割合も少ないという傾向が見られた。これらの結果から、指導への示唆をまとめた。
  • 中川 健司, 斉藤 真美
    2014 年 16 巻 p. 73-78
    発行日: 2014/12/26
    公開日: 2016/11/20
    ジャーナル フリー
    EPA(経済連携協定)介護福祉士候補者が国家試験の内容を理解するにはそこで用いられる語に関する知識が不可欠である。国家試験では全体の約3分の2の問題でカタカナ語が用いられており、カタカナ語の習得度が国家試験の内容理解にも影響を与えることが推察される。そこで、本研究では、国家試験中のカタカナ語指導をする上での留意点を明らかにするという目的で、第14-25回の国家試験に出現したカタカナ語を対象にその頻度と傾向を調査した。その結果、カタカナ語は英語語源のものが多いが、医学専門用語や生活関連語には他の語源のものが少なくないこと、先行研究で選定された介護専門用語だけでなく、成分名、疾病関連語、日常生活語等、介護の周辺的な範囲の語彙が多く用いられていることが明らかになった。そのため、指導者は、学習者にとって理解しにくいカタカナ語がどのようなタイプのものであるのか理解し、指導するべきであると考えられる。
  • 野村 愛
    2014 年 16 巻 p. 79-84
    発行日: 2014/12/26
    公開日: 2016/11/20
    ジャーナル フリー
    本稿は、就労開始2年目のフィリピン人介護福祉士候補者2名に対して行った学習支援に関する実践報告である。学習目標「介護専門知識の習得」および「国家試験頻出語彙の習得」を達成させるために、日本語教育と介護分野の支援者が連携して学習支援を行った。しかし、「介護専門知識の習得」については、候補者は目標に到達せず、学習支援も計画通りに進まなかった。そこで、学習支援記録から、介護の専門学習の支援を行う上での日本語教育に関わる課題を明らかにした。本実践の課題から、効果的な学習支援のためには、介護の専門学習開始前に専門学習に必要な日本語能力を習得させること、学習難易度を踏まえて学習支援をすること、候補者の自律的学習を支援することが必要であると考察した。
feedback
Top