Journal of Traditional Medicines
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28 巻, 3 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
Incentive Award, 2010
  • Mari Endo, Tetsuro Oikawa, Tsutomu Hatori, Tsukasa Matsumoto, Toshihik ...
    2011 年 28 巻 3 号 p. 93-105
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/12
    ジャーナル フリー
    潰瘍性大腸炎の治療において,西洋医学的治療法は一般的に有効であるが,有効性が見られない症例や副作用が生じる場合も見られ,生活の質の低下を来す患者は少なくない。このような観点から,漢方薬は潰瘍性大腸炎の西洋医学的治療法の補完的治療や代替治療として効果を発揮してきたが,その有効性や作用機序の詳細についての報告は殆んどない。 そこで本論文では,潰瘍性大腸炎に良く類似した実験動物大腸炎モデルのうち病態生理解明や新しい治療薬の開発の為に最も一般的に使用されている薬剤誘発マウス大腸炎の特徴を概観した。また,実験マウス大腸炎を用いた漢方薬の抗炎症作用や投与スケジュールに関する報告について述べた。さらに,漢方薬の有効性を単一生薬や物質に帰する議論のみではなく,漢方薬の構成生薬同士の組み合わせによる作用の重要性について述べるとともに,我々のデキストラン硫酸ナトリウム誘発マウス大腸炎に対する漢方薬の効果に関する研究を紹介した。最後に,これらの基礎研究を臨床での潰瘍性大腸炎患者治療に役立てるための課題等について論じた。
Regular Article
  • Satoru Tsukagoshi, Asami Takano, Masaaki Hohjo, Fumio Ikegami, Toshihi ...
    2011 年 28 巻 3 号 p. 106-114
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/12
    ジャーナル フリー
    ニンジン(Daucus carota L.)は一般食材であるが,根に強壮・強心・健胃・鎮静作用がある。本研究では,ニンジン品種の薬膳素材適性を,官能評価と機能性成分分析により,性味という観点から評価した。F1 品種2品種と地方品種14品種を用いた官能評価から,地方品種の '博多時無五寸', '国分鮮紅大長','札幌太',および F1 品種の 'ちはま五寸' を '向陽二号'(対照品種)と,より詳細に比較することとした。'向陽二号' に比べて他の品種は,概して,酸味が強く,糖含有量が低く,灰分とカロテノイド含有量および抗酸化活性が高かった。アミノ酸含有量は,'向陽二号' に比べ '国分鮮紅大長' で約10倍,'札幌太' で約 6 倍と,顕著に高かった。主成分分析の結果,因子負荷量は小さかったものの,F1 品種は甘いが機能性成分は少なく,地方品種は複雑で強い風味を示し,機能性成分にも富むと考えられた。また,地方品種はF1 品種より多種の香気成分を含有していた。これらより,味が強くて複雑で,多くの機能性成分を含有する地方品種の存在が示され,本試験の範囲内では,'国分鮮紅大長' と '札幌太' が,薬膳素材適性が高いと考えられた。
  • Tomomi Shimizu, Rie Sawamura, Kyung-Hwan Kim, Kyung-Ho Kim, Seung-Hun ...
    2011 年 28 巻 3 号 p. 115-127
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/12
    ジャーナル フリー
    我々は,マウスのインフルエンザ感染モデルを用いて 2 種類の韓国漢方薬 (第一,第二紫香感冒液)の治療効果を評価した。インフルエンザ(A/PR/8/34)感染マウスに両漢方薬を 7 日間,1 日 2~3 回経口投与した。その結果,感染マウスの体重減少を抑制し,生存時間を延長した。第二紫香感冒液は,感染後 3 日間の気管支肺胞洗浄液中のウイルス力価を有意に減少した。また,両漢方薬は,プラーク減少法により抗ウイルス活性を有する事が示されたが,その活性濃度は生体内で有効であるとは考えられなかった。両漢方薬の投与は,気管支肺胞洗浄液中への総浸潤細胞数および β量に影響しなかったが,感染後 1 日目において IL-12およびIFN-γのレベルを増加した。さらに,感染後 2 日目において好中球の浸潤を促進し,感染後3日目においては TNF-α量を減少させた。これらの結果から,両漢方薬の投与は,インフルエンザ感染初期において肺への好中球浸潤促進と,それに伴う自然免疫の活性化を引き起こした後,TNF-α量を減少させる事により炎症を緩和する事が示唆された。以上,本研究により,第一および第二紫香感冒液は, 直接的な抗ウイルス活性よりも,むしろ宿主の初期免疫を活性化することで,インフルエンザ感染に対する治療効果を示すと考えられる。
  • Sumiko Hyuga, Masumi Shiraishi, Masashi Hyuga, Yukihiro Goda, Toshihik ...
    2011 年 28 巻 3 号 p. 128-138
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/12
    ジャーナル フリー
    私たちはこれまでに, 麻黄湯が血清により誘導されるヒト乳癌細胞 MDA-MB-231の運動能を抑制することを報告した。しかし,その分子メカニズムについては不明であった。本研究では, 血清中に存在する増殖因子のひとつで,細胞運動を誘導する肝細胞増殖因子(HGF)に注目し,HGF-c-Met シグナルに対する麻黄湯の効果について解析した。トランスウェルアッセイの結果,麻黄湯は HGF によって誘導される MDA-MB-231細胞の運動能を有意に抑制することが明らかとなった。 また, 麻黄湯の構成生薬の麻黄もこの運動能を有意に抑制したが,麻黄湯去麻黄及び対照処方の四君子湯は影響を与えなかった。麻黄湯と麻黄による HGF-c-Met シグナルに対する影響を確認するために,c-Met のリン酸化について調べた。麻黄湯および麻黄は,HGF によって誘導される c-Met のリン酸化を抑制したが,麻黄湯去麻黄及び四君子湯は抑制しなかった。さらに,麻黄は,c-Metのチロシンキナーゼ活性を直接抑制し,またc-Metの下流のシグナル分子であるAktのリン酸化も抑制した。我々は,麻黄湯および麻黄のc-Met発現に対する効果を調べた。c-Met 遺伝子及び c-Met タンパク質の発現は,麻黄湯あるいは麻黄で24時間処理することにより抑制された。これらの抑制効果は,麻黄湯から麻黄を除去すると消失することから,麻黄に由来することが示唆された。 本研究から,麻黄湯の運動能抑制機構として,麻黄湯が血清中に存在する HGF からのシグナルを抑制することで細胞運動を抑制している可能性が考えられた。また,その分子メカニズムは,麻黄湯の構成生薬の麻黄が,c-Met のチロシンキナーゼと c-Met の発現を阻害することで,HGF-c-Met-Akt シグナルを抑制し,HGF によって誘導される細胞運動を抑制していることが示唆された。
  • Hitoshi Sato, Seiji Kageyama, Hiroshi Yamamoto, Masahiko Kurokawa, Ets ...
    2011 年 28 巻 3 号 p. 139-148
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/12
    ジャーナル フリー
    グリチルリチンは細胞膜の流動性を低下させ,ヒト免疫不全ウイルス(HIV)をはじめ多くのウイルスの吸着・侵入過程を阻害すると考えられている。一方で,これらのウイルスは細胞膜上の分子と結合しアポトーシスを誘導する。本研究では,HIV・ネコ免疫不全ウイルス(FIV)誘導性のアポトーシスに対抗するグリチルリチンの活性を検証した。グリチルリチンは,HIV 産生に影響しない濃度(0.15mM)で HIV によるアポトーシスを抑制した。また,グリチルリチンの抗ウイルス複製効果を無視できる FIV 感染系で,FIV 吸着・シグナル伝達系の遮断によるアポトーシス抑制効果を確認した(0.6mM)。細胞のグリチルリチン前処理法でも,FIV によるアポトーシス抑制効果が示された(P<0.05)。グリチルリチンは,非感染細胞表面の CD4 の発現を抑制したが,Fas,CXCR4,MHC class I の発現を抑制しなかった。以上から,グリチルリチンは,CD4 の発現を抑制することで HIV スパイクと細胞表面分子である CD4 とのクロスリンクを阻害しアポトーシスを抑制していると考えられた。他方,FIV は CD4 との結合が確認されていないため,グリチルリチンは CD4 以外の分子が関与するシグナル経路に影響し,FIV によるアポトーシスを抑制していることが考えられた。
  • Hiroshi Oka, Hirozo Goto, Keiichi Koizumi, Tatsuya Nogami, Hidetoshi W ...
    2011 年 28 巻 3 号 p. 149-157
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/12
    ジャーナル フリー
    近年,腎組織における低酸素は,腎不全の末期に至る共通経路であると考えられている。我々は,八味地黄丸が低酸素誘導因子 (HIF) の関与による腎保護作用を有することを明らかにした。 本研究では,低酸素下においてラット近位尿細管上皮細胞を用い,八味地黄丸の活性成分と作用機序を検討した。八味地黄丸に含まれる 8 種類の生薬を近位尿細管上皮細胞に添加し,HIF-1α mRNA と HIF-1α 蛋白量,その標的遺伝子である血管内皮成長因子(VEGF)と 糖輸送担体-1(Glut-1) mRNA を測定した。その結果,低酸素下 6 時間の培養で,桂皮と牡丹皮に HIF-1α mRNA の増加を伴わないHIF-1α 蛋白量,VEGF と Glut-1 mRNA の増加を認めた。 さらに, 桂皮と牡丹皮の主成分であるケイヒアルデヒドとペオノールにも, 同様に HIF-1α 蛋白量,VEGF と Glut-1 mRNA の増加を認めた。以上の結果から,HIF-1α mRNA の増加を認めず HIF-1α 蛋白量の増加を認めたことから,作用機序として,HIF-1α 蛋白の分解抑制作用が示唆された。
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