多くのシステムエンジニアはコンピュータシステム構築という過重労働に曝され, それによる健康悪化が報告されている. 本研究の目的は, 横断研究として, 過重労働をしていた部署のシステムエンジニアの健康悪化の実情を研究することである. さらに, その健康悪化に対する対策も産業保健の実務の観点から論ずる. 首都圏にある某コンピュータシステム作成企業で, 過重労働負荷のプロジェクトに従事している男性システムエンジニアの上司5名とその部下35名, および対照群として通常の業務に従事している男性従業員の上司3名とその部下18名を対象とした. 2006年7-11月に, その対象者の健康状況を把握するために, 6名の保健師により保健面接を実施し, かれらの健康度を評価した. そのプロジェクトの過重労働内容は, 時間をかけてもその遂行はかなり難儀なことが少なくなかった. 過重労働負荷のプロジェクトでは, 健康な上司の部下は不健康で, 不健康な上司の部下は健康であることが検出されたが, 対照群ではそうではなかった. 過重労働負荷のプロジェクトで, 健康度が悪化していた少数のシステムエンジニアには, とくに厳しい労働負荷がかかっていた. このことは, この種の職場では, 上司とその部下間で過重労働の負荷が均等ではなく一部の人に皺寄せされていて, そのため過重労働負荷の作業者の健康度が悪化したことを示している. この状況を改善するために, 業務処理能力の優れた作業者を必要量そのプロジェクトへ投入することのみならず, 過重労働の負荷が不均等でその負荷により少数の者の健康度が悪化していることを周知させて負荷を均等化させることが, 産業保健の実務とリスクマネージメントの観点から重要であろう.
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