Journal of UOEH
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35 巻, 2 号
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[原著]
  • 有働 武三
    2013 年 35 巻 2 号 p. 109-117
    発行日: 2013/06/01
    公開日: 2013/06/14
    ジャーナル フリー
    結核菌Mycobacterium tuberculosisは経気道感染後に肺胞マクロファージに取り込まれたのち,そこに形成される低酸素環境の肉芽腫病巣内で非増殖性の休眠状態で数十年にわたって生き続けることが知られている.液体培地を用いて確立されたin vitro休眠モデルを通じてそのような持続感染を可能にする分子機構も明らかにされつつある.本研究は液体培地に代えて加熱凝固卵を基調とした小川培地上での抗酸菌標準菌株を中心とした低酸素環境への適応化を試みた.直接的な嫌気培養では10週の培養期間を通じて集落の形成を認めず,それを5%あるいは10%酸素分圧の微好気性環境に移すと3週以内での集落の形成がみられ,この初代嫌気培養を通じて非増殖性の休眠状態で生残することがわかった.微好気性環境での発育に適応したクローンを新鮮な培地上に継代接種し嫌気的環境で培養を続けると3週以内での集落の形成がみられ,固型培地上での抗酸菌の嫌気的発育現象が観察された.同様の嫌気的環境への適応現象(休眠化および嫌気的発育)は結核菌の臨床分離株でも確認されたことから,卵培地上で観察されたこれらの現象は結核の持続感染,再発症にいたる様式として興味深い結果である. また嫌気的条件下で発育したクローンは生化学的性状試験において耐熱性カタラーゼ活性,ナイアシン産生に陰性化がみられ,鑑別・同定上の有益な指標となった.
  • 李 云善, 宋 明芬, 葛西 宏, 河井 一明
    2013 年 35 巻 2 号 p. 119-127
    発行日: 2013/06/01
    公開日: 2013/06/14
    ジャーナル フリー
    8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OH-dG)は,酸化ストレスマーカーとしてもっとも広く分析されている.これに加え,フリーの塩基である8-ヒドロキシグアニン(8-OH-Gua)の酸化ストレスマーカーとしての有用性が最近注目され始めている.本研究では,その有用性を示す目的で,尿中ならびに血清中の8-OH-Guaレベルを,酸化ストレスの亢進が予測される動物(2型糖尿病モデルマウス db/db)を用いて測定し,代表的な酸化ストレスマーカーである尿中8-OH-dGの測定結果と比較検討した.測定は,感度・精度に優れるHPLC-ECD法で行った.db/dbマウスの尿中8-OH-Guaならびに8-OH-dG値は,非糖尿病マウス(db/m+)に比べて有意に高い値を示した.(例えば26週齢では,db/db: 8-OH-Gua 1.84 ± 1.00 mg/mg creatinine, 8-OH-dG 64.72 ± 27.69 ng/mg creatinine, db/m+: 8-OH-Gua 0.37± 0.08 mg/mg creatinine, 8-OH-dG 17.06 ± 1.11 ng/mg creatinine).また,それぞれの値は, 動物の週齢(13~26週)に伴って増加する傾向が見られ,加齢による酸化ストレスの亢進が観察された.さらに尿中の8-OH-Gua値は, 尿中8-OHdG値と良い相関を示した.8-OH-Guaは血清(26週齢, db/m+: 0.41 ± 0.15 ng/ml; db/db: 0.84 ± 0.28 ng/ml)でも測定することが可能で,その値は尿中の値と良い相関関係にあった.糖尿病,加齢に伴う酸化ストレスを感度良く測定できたことから,尿中ならびに血清中の8-OH-Guaは, 酸化ストレスのバイオマーカーとして利用が期待される.
[短報]
  • 梁 娟實, 中井 里史, 小田 しおり, 西野 廣子, 石井 美里, 横山 寛子, 松木 秀明
    2013 年 35 巻 2 号 p. 129-135
    発行日: 2013/06/01
    公開日: 2013/06/14
    ジャーナル フリー
    日本における胎便を用いた胎児期重金属曝露評価法に関して,予備的検討を行った.被験者は,2010年11月から2011年3月の間に東海大学病院に出産のため入院し,胎便採取に同意した母親の新生児である.本研究の対象物質は,鉛(Pb),カドミウム(Cd),ヒ素(As)とし,分析は,ICP-MSを用いて行った.添加回収試験などの結果から,本研究で使用した分析方法で胎便中重金属濃度測定ができることが示された.新生児102人から採取された胎便を分析したところ,PbとAsの濃度(中央値)は,それぞれ0.71 ppb,0.03 ppbであった.一方,Cd濃度の中央値は定量限界未満であった.胎児期曝露の曝露評価に用いることができるようにするためには,今後,種々の生体試料濃度を測定し,得られた濃度間の関係を調べることなどが必要となる.
  • シュアイ ジャンフィー, ヤン ウォンホー, アン ホギ, キム スンシン, イ ソクヨン, ヨーン スン ウク
    2013 年 35 巻 2 号 p. 137-145
    発行日: 2013/06/01
    公開日: 2013/06/14
    ジャーナル フリー
    二酸化窒素(NO2)の発生源は様々なものがあるが,屋内の二酸化窒素濃度は個人曝露の重要な要因である.二酸化窒素曝露は有害な健康影響を及ぼす可能性がある.本研究の目的は二酸化窒素の多重測定を用いて道路沿いの商店の屋内空気質の特徴を調べ,自動車の排気ガスのような屋外の二酸化窒素の発生源の屋内空気質への寄与を試算することである.毎日の屋内外の二酸化窒素濃度を21日間連続して道路沿いの商店(コンビニエンスストア5店,喫茶店5店,レストラン5店)で測定した.屋外二酸化窒素の発生源の屋内空気質への寄与は,物質収支モデルに基づいて,浸透因子と発生強度因子を用いて,夏と冬にそれぞれ算出した.夏でも冬でも,大多数の道路沿いの商店で屋内外の二酸化窒素濃度には有意差があった.冬期のレストランの屋内二酸化窒素濃度はコンビニエンスストアと喫茶店の2倍以上高かった.コンビニエンスストアと喫茶店では屋外二酸化窒素濃度の屋内空気質への寄与が顕著であったが,レストランでは屋内二酸化窒素濃度の寄与が大きかった.このことは,屋内二酸化窒素濃度には,自動車の排気ガスのような屋外の発生源よりも,ガスレンジや喫煙などの屋内の二酸化窒素発生源が主要に影響することによると思われる.物質収支モデルに基づく多重測定により,換気量,屋内発生速度と減衰速度の測定を行わずに屋外大気の屋内空気質への寄与の定量的試算が可能であると考えられる.
[報告]
  • 柴田 清子, 下川 宏明, 柳原 延章, 尾辻 豊, 筒井 正人
    2013 年 35 巻 2 号 p. 147-158
    発行日: 2013/06/01
    公開日: 2013/06/14
    ジャーナル フリー
    一酸化窒素(NO)合成酵素(NOS)には,神経型,誘導型,内皮型の3種類のNOSアイソフォームが存在する.ヒト心臓には,すべてのNOSsが発現している.従来,心不全におけるNOSsの役割が,NOS阻害薬を用いて研究されてきた.さらに,近年では,遺伝子改変動物が実験に使用されるようになり,ヒト心不全におけるNOSsの役割の理解に重要な示唆を与えている.我々は,NOSアイソフォームを欠損させたNOS遺伝子改変マウスを用いて,その心臓の構造と心機能を評価した.その結果,3種類のNOSアイソフォームを欠損させたtriple NOS欠損マウスにだけ,有意な求心性肥大と拡張障害があり,その病態は,ヒトの拡張期心不全に酷似していることを明らかにした.また,AT1受容体拮抗薬を負荷した結果,それらの病態が抑制されたことから,これらの機序には,AT1受容体を介していることが示唆された.triple NOS欠損マウスを用いた研究は,ヒト心不全におけるNOSsの役割の解明に,大きく寄与したものと言える.
[症例報告]
  • 隅谷 政
    2013 年 35 巻 2 号 p. 159-164
    発行日: 2013/06/01
    公開日: 2013/06/14
    ジャーナル フリー
    リハビリテーションのため入院中に自律神経過反射による脳内出血を併発した36歳男性頸髄損傷者の1症例を報告する.本患者は第6頸椎骨折による完全四肢麻痺(第6頸髄節以下で運動麻痺,第7頸髄節以下で感覚麻痺)であった.尿道カテーテルが3ヶ月間膀胱内に留置されていたため膀胱拡張能は低下していた.膀胱容量は200 ml に減少しており,膀胱充満時にはつねに頭痛を訴えていた.より円滑な尿流を得るために膀胱瘻が造設された.頭痛は一時的に治まったが程なく再発し,血圧の極端な上昇を伴って典型的な自律神経過反射の症状を呈していた.しかし,潜在的な引き金が見つからず除去できなかったことと,血圧管理ができていなかったことで,左被殻出血を併発した.手術療法が行われたにも関わらず,右上肢の筋緊張は進行的に増大し,最終的には肘屈曲拘縮を伴った凍結肩を呈するに至った.この重大な合併症をもたらした誘因は2つあげられる;第1に,膀胱瘻カテーテルのわずかな機能不全や刺激が自律神経過反射をもたらしたこと;第2に,医療スタッフが自律神経過反射に関する十分な経験と知識を持ち合わせていなかったことである.頸髄損傷患者のリハビリテーションに従事する医療スタッフにとって,自律神経過反射の引き金に関する情報を共有することと,正しい医学的管理を確実に行えるように徹底させることは極めて重要である.
[総説]
  • 加藤 明子, 上田 陽一, 鈴木 秀明
    2013 年 35 巻 2 号 p. 165-171
    発行日: 2013/06/01
    公開日: 2013/06/14
    ジャーナル フリー
    下垂体後葉ホルモンの一つであるオキシトシンは,視床下部室傍核および視索上核に局在する大細胞性神経分泌ニューロンの細胞体で産生され,下垂体後葉に投射した軸索終末から血中に分泌される.血中オキシトシンは,分娩時の子宮筋収縮や授乳時の射乳反射に関与することはよく知られている.最近,オキシトシン受容体が脳内にも豊富に存在し,親子の絆,信頼感などの高次脳機能に関与することが報告され,注目を集めている.これまで下垂体後葉ホルモンであるオキシトシンもしくはバゾプレッシンを産生するニューロンを生細胞のまま同定する方法はなかった.そこで,私たちはトランスジェニック技術を用いて蛍光タンパクによる可視化を試みた.本論では,遺伝子改変技術を用いたオキシトシンニューロンの蛍光タンパクによる可視化とその応用について概説する.
[報告]
  • 葛原 誠太, 室屋 和子, 野元 由美
    2013 年 35 巻 2 号 p. 173-182
    発行日: 2013/06/01
    公開日: 2013/06/14
    ジャーナル フリー
    老年看護学演習における視聴覚教材活用の効果について明らかにすることを目的とし,A大学看護学科2年生65名の課題レポートの自由記述内容から分析を行った.その結果,模擬患者とのコミュニケーション場面の視聴覚教材を視聴することにより,活字では表現が困難な模擬患者や看護学生の表情,お互いの言葉と言葉の間を視覚的に捉えることができ,言語以外に対象が発するメッセージを表情や反応から読み取ることができたことを表すカテゴリーが見いだされた.このことから老年看護学演習においての視聴覚教材の活用は生活機能障害を持つ高齢者などの心理に対する理解を深める効果があることが示唆された.
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