住宅建築研究所報
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  • 前野 嶤, 中村 精二, 丸尾 聡, 横山 芳一, 志村 直愛, 手嶋 尚人
    1988 年 14 巻 p. 95-104
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
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     本研究は岡山県倉敷市下津井地区及び小田郡矢掛町の伝統的町屋に関するもので,生活民俗として伝えられて来た,出産,婚礼,葬式などの通過儀礼や,正月,盆,講などの年中行事から町家の伝統的生活領域について明らかにしようとするものである。具体的には,伝統的町家67例について,建築平面の実測調査,復元調査を行ない,その図面にもとづいてその家の年長者から,伝えられ行なわれて来たり,記憶されている生活民俗を聞きとり調査した。調査の結果,次のことが明らかになった。①主な通過儀礼・年中行事は町家全体で行なわれ,そのあるものは,行なわれる場所が決まっている。②行なわれる場所から儀礼・行事を見ると,一定の関係がある。それは同じ場所で行なわれる関係,分かれて行なわれる関係である。又関係が定まらないものもある。このうち一定の相互関係を持つものとして〈出産〉〈婚礼〉〈葬式〉〈盆〉の4つが抽出された。③通過儀礼・年中行事の相互関係をまとめると,地域差,町屋の形式の差が概ね〔出産〕〔盆(法事)葬式〕〔(婚礼(講)〕の3つのグループに分かれる。これらはさらに生者の通過儀礼と,死者の通過儀礼に大別される。④座敷を持つ町家や,座敷数の多い町家程,多くの場所を使い分けて儀礼,行事が行なわれる。しかし座敷が3つ以上になっても余り変りはない。⑤1列型平面の町家のオクノマには異なった性格の使われ方がある。ひとつは座敷として盆や葬式に使われ,他のひとつは,元旦の食事や普段の食事に使われる。また両者の中間の使われ方もある。⑥2階を持つ町家の1階では死者の通過儀礼が分離されて行なわれる。一方出産,婚礼,祝いは別の場所で行なわれ,生,死の儀礼は2分されている。⑦2階を持たない町家では,2つの使われ方がある。ひとつは各場所を使い分ける場合で下津井で行なわれている。他は数室を連ねて使う場合で矢掛で行なわれている。両者の違いは,町家の発展形式や他の種類の住居形式に関係すると思われるが,今後の課題である。
  • 青木 正夫, 坂本 磐雄, 黄 世孟, 江上 徹, 中園 真人, 郭 永傑, 金澤 陽一, 村木 洋一
    1988 年 14 巻 p. 105-116
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
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     台湾では,日本と同じ平面構成を持つ官舎系住宅が多数建設された。これらは戦後取り壊されたものも多いが,台湾の人々の住居として活用され現在に至っているものも多い。本報告は,この日本式住居の増改築による空間の変容と,台湾の人々の住まい方の分析を通じ,日本と台湾の住様式の相違性を比較住居論的視点から考察したものである。主要な知見を以下に示す。①イス座の起居様式では,居室の機能は単一的で,タタミの転用性を前提とした3・4室の小規模住居では,住生活に必要な基本的居室が確保できず,増改築による室数の増加が大半の世帯で行なわれている。②客庁はアプローチに対する前面配置と一定の規模が確保されていることが原則で,こうした条件を満足しない住戸タイプでは客庁の位置は安定せず,規模確保が優先され,また改修や建具の取り外しにより客庁の規模を拡張する傾向がみられる。③主臥室では,ベッドや居間的家具が設置されるため一定の規模とプライバシー確保が必要とされる。従って既存部にこの条件を満足する居室がとれない場合には増築による解決がなされ,既存部にとられる場合にも間仕切りの改変等によりプライバシー確保が図られる。④外部空間の現状の使われ方は,台湾における前庭を中心とした構成が継承され,特に北入りの住戸では本来主庭となるべき後庭が裏庭的に使われるものが大半で,外部空間に対する考え方の相違性が明瞭に表れる。⑤住戸内の居室のとられ方では,相違性とともにバリエーションがみられる。客庁は前面配置と規模確保要求が強く,この条件を満足する平面構成の場合には客庁の位置は比較的安定するが,客庁の奥に臥室をとると便所等への居室の通り抜けが発生しやすく,これを防ぐため客庁が住居中央部にとられる場合が多い。一方で,大幅な改造やアプローチの付け替えにより客庁を前面配置させる事例も存在し,伝統性の根強さを示している。
  • 佐々木 嘉彦, 梅津 光男, 戸部 栄一, 月館 敏栄, 藤田 一枝
    1988 年 14 巻 p. 117-128
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
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     本研究の目的は,東北地方の新しい都市住宅を対象とし,住居形態及び空間構成の変容動向とその要因を明らかにすることである。このために,住文化の概念から演繹される「構え方」の概念を設定し,その継承と変容という観点からこの内容を検討した。本研究は,昭和59,60年度の助成研究「東北地方都市住居の地方性に関する研究」の継続研究にあたるものであり,本年度は青森市,秋田市,盛岡市の新築住宅(中規模以上,一戸建て,注文住宅,市街化区域内立地)について調べた。そして,つぎのような結果を得た。1.伝統的な形態の継承は,①続き間座敷・和室の基本構成,②座敷構えの構成,③伝統的な動線構成,などにみられ,その内容は,①室の洋風化,②2階建て化,③室の独立化,④居住室の南面化,⑤炊事場のDK化,⑥接客構え・座敷構えの形式化,⑦座敷構えの表現化,などにみられる。2.新しい住宅の間取りには,①和洋室構成,②個室と続き間座敷とDK等による室構成,③廊下・ホールによる室の分離・結合,④2階健て,⑤居住室とサービス空間の南北配置,⑥伝統的な動線構成(玄関‐次の間‐座敷),などの形式が成立している。3.住み方としては,①住居の社会生活機能の減少,②公私室分離を軸とする住み方ヘ,③親子関係を軸とする住み分けヘ,④家族生活(団らん)重視の住み方ヘ,⑤和風・洋風共存の住み方ヘ,⑥自己の資質の表現の場ヘ,などの変容がみられる。4.このことから新しい都市住宅の構え方は,「豊かさ指向という関心に支えられた和洋統合の構え方」とまとめられる。5.しかし,具体的な間取りは多様であり,形態及び住み方についての様々な意識がその多様性と結びつき,構え方の変容に大きな役割を果しているように思われる。
  • その2,だんらん様式の成立と居間の空間概念についての住文化論的考察
    竹下 輝和, 益田 信也, 前田 隆, 桑原 俊隆
    1988 年 14 巻 p. 129-138
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     個室化は近代住居においてさけられない現象であるが,問題は,個室とその対置的関係にある居間との適切な使い分けの行動様式を住生活において確立することにあると考えられる。そこで,本研究は,わが国における「居間」の空間概念を歴史的に考察するとともに,現在の「居間」がだんらんの空間としてどのように機能しているか,また,家族成員のそれぞれに「居間」がどのような性格を持つ空間として意識されているのか,さらに,「居間」での行為に住み手の家族関係,特に,親‐子関係がどのように反映されているかを明らかにして,今後の「居間」の在り方と問題点を住文化論的に考察したものである。「居間」の呼称の史的分析,46世帯を対象とした立体的住生活詳細調査(内8世帯でビデオ撮影)の結果,以下のことを明らかにした。①「居間」の空間慨念を,明治以降現在まで出版された国語辞典を手掛かりにして分析した結果,主体系=夫・妻の居室としての居間,総括行為系=家族のだんらんの空間としての「居間」に分かれること。次に,住宅関係の書籍にて,こうした居間の空間概念の変化を歴史的に分析した結果,夫人の居室としての居間がだんらんの空間としての「居間」に変化したこと。②現在の「居間」における住生活時間量と住生活行為種の持ち込みを分析した結果,親の比重が大きいこと。こうした傾向は主寝室の空間的な確立条件とは関係なく,「居間」が特に父親の居場所として機能していること。つまり,「居間」が家族のだんらんの空間として機能しながらも,空間概念的には親の主体系の性格を強く残していること。③この結果,子どもの住生活の中心が子ども部屋につくられることになり,この傾向が顕著になると家族コミユニティー上問題をつくること。「居間が総括行為系として機能するには主寝室を親の主体系の空間として機能させるような行動様式を確立するとともに,家族の人間関係における子ども中心主義の成立が求められること。
  • 本間 博文, 志田 正男
    1988 年 14 巻 p. 139-156
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
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     本研究は公営住宅の平面型の評価基準を作成することを目的として行なったものである。近年公営住宅は以前のような画一的な形態から抜け出し,様々なアプローチが行なわれ,水準の向上が著しい。しかし,このような変化が居住者の要求に添った居住環境を実現しているかどうか,とりわけ平面型についての充分な検討が必要である。 戦後の住宅における平面計画の流れの中で一貫して公私を分離する傾向が強く,最近の新しい公営住宅の平面型においてもこの傾向は変わらない。しかし,日本人のプライバシーに関する意識や入居世帯の年齢の低下を考慮したときにこのような平面型が,居住者の日常の生活の様々な要求に充分応えることができる平面であるかどうか疑問である。ところが,従来の研究成果をみても,公私室型住宅の平面型の住まい方をいくら詳しく調べてみても,その平面型に変わる新しい平面型を提案できるような成果は期待できない。本研究はこのような観点から,公私室型の平面型と対象的な開放型の平面型を提案し,この2つの平面型の住まい方を比較することにより,新しい平面型の評価基準を明らかにしようとするものである。比較検討した内容は,各室の使われ方の居住者の評価,室内環境の評価,設備に対する評価,各室に置かれている家具の種類と配置,各室の建具の開閉状態などである。公私室型住宅の平面型として茨城県の県営住宅を調べたが,調査の結果,各室の使われ方が固定しており,北側に配置された独立性の高い個室の室内環境に問題があり,南面する部屋で生活の大部分が行なわれ,各室が有効に使われていないことが明らかになった。それに対し,開放型の平面型は居住者の多様な生活に合わせた使われ方が行なわれている。このような,自由な使われ方ができることが居住者にとって住み易い平面型であるとは限らないが2つの平面型の間に明らかな違いが見いだされたことは,今後の公営住宅の平面計画における重要な評価項目として検討すべき課題であろう。
  • 日米比較研究の予備的研究
    北浦 かほる, Roger A. Hart, 田丸 満, Lanne G. Rivlin, Maxine Wolfe, 中野 迪代
    1988 年 14 巻 p. 157-170
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     子供の幼年期の発達は,社会と物理的環境の経験及びそれをコントロールする経験を通して,「独立した自己の存在」をつくる一方,「社会的な存在」をつくり上げることとしてとらえられる。空間の所有や行為の選択についてのプライバシーの選択は,自立に結びつくものであり,物埋的環境としての個室空間が子供の社会化過程で自立と深いかかわりを示すことが推測される。本研究は,個室の子供室が子供の自立の発達や家族生活とどのようにかかわっているかをとらえるための予備的研究であり,日米の異文化の視点でとらえることこよって,その基盤に共通する空間の影響をより把握しやすくすると考える。子供・親(家族)・空間を指標とし,子供室の実態(専有度,出入口の状態,ドアの開閉,間仕切りの状態,鍵の有無と使用)とそこでの子供の生活,すなわち持ち込まれた装備や行為と生活時間,及びそれに関与する人や物と,その管理の状態を求めた。次いで就寝分離や親子のコミュニケーション,子供の役割分担などを含む家族の生活様式と親の養育態度等の関連を明らかにし,それらが子供の精神面・生活面・経済面での社会化の達成とどのようにかかわっているか多面的に実態を究明した。セッティングとしての子供室空間の専有度は,生活行為の質的内容に影響を及ぼすほか,精神面達成数や,精神面・生活面・経済面のいくつかの項目とかかわっている。その基盤には日米とも親の管埋の影響がみられる。管理は侵入数ともかかわりをもっているほか,養育態度のいくつかの項目や,日本では役割分担の有無が重要なかぎになっていると考えられる。親とのコミュニケーション数は,一方では子供の役割分担と,他方では侵入数などとつながっており,親の子供への関心の高さを表す指標ではあるが,これだけでは関心の内容がわからず,子供の自立促進の指標とはなりにくい。これらの結果を踏まえて空間の管理と自立との関係をさらに追求することが次の課題である。
  • 西 和夫, 津田 良樹
    1988 年 14 巻 p. 171-180
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     新潟県上越市中ノ俣と愛媛県中島町二神島は,ともに過疎化の波に瀕した集落である。中ノ俣は山村,二神島は漁村で,戸数は80戸と150戸であるが,近年若者が次々に外へ出,人々は今後どうすぺきかを懸命に模索している。両集落とも,集落の空間構成,民家の平面や構造集落の歴史や人々の生活慣習など貴重な歴史的資料を伝えてきており,これらを正確に調査し分析することは,集落の史的価値を正しく認識し,過疎化の進むことを正める上に,役立つところも決して少なくないと考えられる。中ノ俣には,「くずや」と地元で呼ぶ茅葺屋根の家が60棟ほどあり,そのうち最も古いものは天明5年(1785)にまで遡る。平面は3間×3間または2.5間×3間のチャノマを中心とするほぼ共通した様相を呈している。二神島には江戸時代に遡る家7戸があり,主屋・ヘヤなどの建物がヒノラと呼ぶ中庭を囲んで建ち,いわば中庭形式とでも呼ぶべき配置をとるのが二神島の民家の特色である。両集落とも神社が1つだけあり,祭礼のとき御輿が出る。御輿が集落の中をねり歩く経路は中ノ俣は集落内をぐるっと一巡し,二神島は海沿いの道を往復するという相違を見せるが,ともに集落の空間をよく反映しており,中ノ俣の家々が散り散りに位置し,道がその間をぐるっと回ること,二神島の家々が海沿いの道の山側に密集することと深く結びつく。中ノ俣には家と家を交換する「えがえ」(家替)という慣習があり,二神島には家の中にさまざまな神を祀る慣習がある。ともに特色ある慣習で,集落の歴史と合わせて検討を進めている。調査はまだ中間段階で,今後も両集落を比較しつつ,調査研究を進める予定である。
  • 東 正則
    1988 年 14 巻 p. 181-189
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     1研究の目的と方法 農村の居住環境をみると,生活施設等については立ち遅れが目立つものの,反面,豊かな緑,広大な宅地,のどかな田園風景等,過去から受け継いだ重要なストックがあり,これを活かした整備を考える必要がある。本研究の目的は,集落住民の不断の努力によって維持形成されている優れた環境的特質を活かしつつ,より高い環境を形成してゆく手法として,他者の拘束によるのみではなく,住民自らが自分達の環境形成に関する行為を律することによって形成してゆく手法を検討しようとするものである。研究の方法としては,各地の事例をもとに,どのような内容について,どのような理由で,どのような仕組みで,この自律的方法が可能となっているかを分析した。2調査結果の分析 事例を分析してみると,自律的方法はあくまで内部的拘束にすぎないため,伝統的な自治意識や急速かつ重要な問題発生に対応すべく協定等を締結する等のように,遵守に当たっては規範意識の高さや規範の必然性が重要な働きをしていることが判った。 更に,単なる内部拘束を有効に機能させるために,自ら遵守され得るよう仕組みを考案したり,各種事業等を導入したり,許認可等の機会をとらえて公権力を援用したり等の創意工夫を行なっていることも判明した。また,これらの自律的方法を行なっている集落は伝統的な集落においてのみ可能なのではなく,都市化や過疎化等大きく揺れ動いている集落で活発に展開されており,単なる旧慣の継承ではなく,新しい社会問題に対応して行なわれていることも明らかとなった。
  • 山田 水城, 路 秉傑, 古川 修文, 薛 光弼, 出口 清孝, 魯 晨海, 大塚 信哉, 久保田 雅代
    1988 年 14 巻 p. 191-201
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     昭和61年度は沖繩と台湾の民家を実測調査したが,本年度は台湾省と対峙する位置に在る福建省の福州市,泉州市,厦門市における民家の実測調査を行なった。閩江河口に在る福州市は地形的に風は弱く,樹木も豊富で,薄い黒灰色瓦をたる木上に置いた屋根を持つ木造三合院が多い。しかし,閩南地方の泉州および厦門の民家は磚,土を用いた組積造で,屋根は素焼きの赤瓦を厚く葺いていて漆喰で固めており,家屋の形態や居住環境は・湖島・台湾南西部の民家と同じである。それは明代以降台湾への移民のほとんどが泉州人・漳州人であることから見ても当然である。一方,琉球は14世紀に入って明国との交易(進貢,冊封)が開始されてから社会的発展が急速に進んだが,その背景のひとつに1392年に来琉した閩人36姓の活躍があったと言える。36姓は泉州・漳州の出身者が40%以上を占め,当時の泉州は台湾と琉球の両方と深い繋がりを持っていた。彼らはその子孫を含めて琉球の政治・経済・文化に大きな影響を与えたと思われる。例えば建築の分野においても,ほぼ矩形の敷地を石牆で囲み,門・ヒンプン・二番座の祭壇が敷地中心軸上に並ぶ構成は,中国民家と共通するものである。二番座は三合院の祖堂に対応するものであり,祭壇上の扁額の色,形,あるいは,民家の屋根瓦の色,材質,製造法などは閩南地方のそれと酷似している。しかし一方においては屋根を寄せ棟とし,軒の出の深い開放的な木造家屋を屋敷林で囲むという日本在来の形態も有している。すなわち沖縄の民家は日本文化と閩南の文化を複合させつつ,どちらにも偏らない沖縄独自の建築を築きあげたと言える。しかしこの複合文化は17世紀初めに薩摩の支配下に変った奄美諸島では開花を見ず,民家の形態・材料・間取りも異なっている。福建から台湾西部・先島群島・沖縄諸島に至る同緯度圏に波及した閩南文化は,沖縄本島を北限として終結している。
  • 藤本 信義, 楠本 侑司, 和田 幸信, 千賀 裕太郎
    1988 年 14 巻 p. 203-217
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     この研究は,特に農村におけるストック価値の再評価とその開発保全に目が向けられつつあることに鑑みて,アメニティの確保に関し歴史的なストックを有するフランス農村の,居住環境の実態と整備改善手法とを考察することにより,我が国における居住環境の,今後のアメニティ整備に資する基礎的知見を得ることを目的としている。 研究内容は,①居住環境整備計画の前提となる土地利用計画制度を,フランスの農村整備施策の変化過程に沿ってとらえ,特に農村地域の土地利用計画の立てかたがどのように変わったかを明らかにすること,②居住環境整備計画に関する制度の把握と整備の手法を実態に即して明らかにすること,の2点である。研究成果を要約すると次のとおりである。①地方分権化以後(1981年)の地域整備施策の諸変化の中で,居住環境整備の前提となる土地利用計画は,市町村がこれを定めない限り建設許可が与えられないという強い拘束力をもつものである。②土地利用計画は,面的規制のみならず立体的な規制をも含んでいる。後者は量的規制(容積率・建物の最高高さ)と質的規制(建物外観・大きさ等)に分けられ,景観上の配慮が重視されている。③住宅環境整備計画は,新しい住宅の供給計画と古くなった住宅の改良計画に分けられる。政府施策による住宅供給の柱をなすのが低家賃住宅HLMである。農村地域では共同住宅ばかりでなく,戸建てのHLMも人口維持のために建設されている。④住宅の改良計画に関する事業は,住宅のみならず市街地の公共空地や共同施設を対象として,建物内部の改善による現代的な住要求の充足とともに,建物の外観や町並みを保存する幅広い内容である。⑤全体として,居住環境の整備手法は修復型が重視されており,準備段階の調査はマクロ・ミクロ双方から詳細な分析がなされている。
  • 宮本 雅明, 中川 等
    1988 年 14 巻 p. 219-230
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     伝統的都市の集住環境には,各々の住環境に固有の空間構成上の秩序が存在する。この種の空間秩序の存在形態を解明する試みはいくつかなされているが,その生成にかかわる具体的なメカニズムは,必ずしも明らかになっていない。本研究は,会津若松を研究対象地に選び,この空間秩序の存在形態を現地調査にもとづいて明らかにすること,またこの空間秩序が生成をみるに至ったメカニズムを探り,その成立契機を明らかにすることを目的としたものである。第1章では,研究対象を規定する条件を予め明確にするため,研究対象地である会津若松の都市構造を,主に既往研究成果に依拠して若干の考察を加えつつ概観し,合わせて現地調査の目的と方法,結果の概要を述べた。第2章では,都市住居の遺構調査の成果にもとづき,都市住居単体の空間構成の類型化を図りつつその在在形態を明らかにし,次いで個と個のかかわり方の分析を通して集住環境全体に備わる空間秩序の抽出を試み,最後に会津藩領における伝統的集住環境の存在形態を概観した。第3章では,明治期から江戸後期に遡って個々の都市住居の形成過程を,遺構調査の成果と絵画史料・文献史料を照らし合わせつつ明らかにし,次いで江戸後期の集住環境全体の空間構成とその構成原埋である空間秩序の歴史的な存在形態を明確にした。第4章では,前章で存在形態を明確にした都市集住環境に備わる空間秩序が,いかにして生成をみたかを文献史料に依拠しつつ考察し,最初に奥行方向の空間秩序の生成過程を,市立てとの関係から伝統的都市住居の成立契機を探りつつ明らかにし,次いで間口方向の空間秩序の生成過程を,「追垣」との関係から伝統的集住環境の成立契機を探りつつ明らかにし,最後に集住環境の成立契機について町割との関連から考察を加えた。
  • 八木澤 壮一, 野田 正穂, 中島 明子, 竹田 喜美子, 藤谷 陽悦, 松沢 喜美子, 山口 邦雄, 山口 邦雄, 渡辺 和代, 山根 慎 ...
    1988 年 14 巻 p. 231-246
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     「目白文化村」は,大正11年に箱根土地株式会社によって開発された,戦前における東京の典型的住宅地開発の1つである。しかし地域の3分の2が戦災により焼失し,戦後2つの幹線道路が貫通し,さらに開発後60数年を経て世代交替が行なわれ,「目自文化村」は急速に姿を消そうとしている。そこで,経済学,都市計画,建築史,住居学,文化財保護,あるいは地域の郷上史家,都市計画コンサルタントなどの立場からの総合的なアプローチにより,「文化村」の立体的な解明を試みたのが本研究の特徴である。第1章では戦前の土地会社の中での箱根土地の特質を分析している。その結果,提康次郎の事業活動の根拠地として,実際に分譲するまでに,資産の有利な保全・運用のために土地買収がされていたことなどが明らかになった。第2章では都市計画的な特徴と他の同時期の住宅地開発とを比較して,「文化村」が都市的スケールでの住宅地分譲に移る過渡期に位置づけられることが明らかにされている。第3章は「文化村」の対象地域の現況実態調査である。今日なお比較的良好な住宅地ではあるが,世帯の高齢化が進み,地域に対する愛着は一定あるものの,今後の動向については主体的判断では決められない状況が浮きぼりにされている。 第4章は戦前からの居住者に対するインタビュー調査である。戦前の「文化村」における生活を生活改善とのかかわりで分析し,当時の住宅のうち,23戸の平面を復元した。入居者は,都市の中産階級のなかでも学者・文化人が目だち,生活のさまざまな面で西欧の生活構式を取り入れている。しかし,住宅については〈中廊下式住宅〉が多く,すべて洋式の住宅であるとか〈居間中心型〉の住宅はみられなかった。
  • 小木 新造, 石田 頼房, 井上 勲, 井上 赫郎, 内田 雄造, 大串 夏身, 岡本 哲志, 奥田 道大, 加藤 貴, 川本 三郎, 佐藤 ...
    1988 年 14 巻 p. 247-265
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     今日,日本やヨーロッパ,北アメリカの諸国はもちろんのこと,いわゆる発展途上国においても都市化の進展は著しく,21世紀は世界的に「都市の時代」になると予想されている。ところで発展途上国の都市化が進む中で,ヨーロッパとは異なる都市の形成・形態・都市生活が関心を呼びつつあり,日本の大都市,特に江戸・東京はその意味で注目されつつある。一方,国内的にみれば,東京一極構造が進み,国際的には,東京はニユーヨーク・ロンドンと並ぶ「国際金融・情報センター」の地位を確立しつつある。このような状況を反映し,江戸・東京の研究は今日ブームとなっているが,本研究は江戸・東京の都市生活を生活空間・都市空間の側面から解明することを目的としている。この研究実施に当っては,①建築学,都市計画学,歴史学民俗学,経済学といったさまざまな分野からの総合的なアプローチをとること,②江戸・東京を一貫した視座で捉えること,を心がけた。具体的には,各分野で江戸・東京の生活に関心を持つ30名近い研究者から成る「江戸・東京フォーラム」を設置し,毎回の報告者を定め,10数回の研究会を行なってきた。この一連の研究会を通じ,江戸・東京の都市生活に対する各メンバーの個性的な切り口,学際的かつ自由闊達な討論の中から,共通の問題意識が形成されてきたと言えよう。研究会では,①江戸,東京の連続性と非連続性,②江戸・東京と他の都市との比較,あるいはグローバルな視点からの位置づけ,③都市生活の舞台装置としての建築や町の空間の実態,等々が議論された。このような「江戸・東京フオーラム」での展開を踏まえ,本報告では研究会における報告要旨を,①都市比較からみた江戸・東京,②近代化する東京の都市基盤,③近代東京の街と建築,④新しい視座からの江戸,⑤江戸の建築技術,の5つの分野に分類し,収録した。
  • 河辺 聡, 西村 征一郎, 鈴木 克彦, 片山 勢津子
    1988 年 14 巻 p. 267-278
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
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     近年,「住民の合意」によらない1人協定制度による建築協定が締結された分譲住宅地が増加しつつある。本研究は,こうした制度による建築協定の問題点を改善し,建築協定を有効に活用して,地区特有の住環境ストックを住民自身が管埋・育成しうるような建築制限のあり方を検討するために,建築協定制度の運用実態を明らかにするとともに,分譲住宅地での住環境管理の実態と,建築協定の運用をめぐって形成された居住者意識の形成動向を把握した上で,1人協定制度による建築協定の問題点と運用上の改善点,および住環境保全における設計計画上の役割について考察したものである。そのためにまず,建築協定の認可状況の実態と事例にみられる建築制限の内容を分析した。さらに,独立住宅地,タウンハウス団地,それぞれの住宅形式別に,住戸まわり外部空間の領域での住環境の改造形態を把握するとともに,協定運営をめぐって形成された居住者意識の実態について明らかにした。そして,住環境保全に対する住民態度の形成動向を把握した上で,建築協定の運営動向を左右する諸条件の寄与するところを分析した。これらの調査結果から,住環境のあるべき姿をあいまいにした安易な建築制限やデザインの画一化には多くの問題があり,生活感に欠けた設計計画も環境問題を複雑化していることがわかった。このため,地区住民相互の合意を形成して住環境の保全活動を円滑に機能させうるためには,体系的に整備された住環境管理手法を確立するとともに,協定運営に柔軟な対応ができるように,運営委員会の組織強化や地道な専門家の指導と援助などが大切であること,設計計画の側面では住要求の多様化に対応できるような空間構造にしていくことが必要となること等を論じた。
  • 川上 光彦, 高山 純一, 竹田 恵子, 鈴木 伸夫, 畠 茂雄, 菓子 久就, 二宮 寿男, 松井 重樹
    1988 年 14 巻 p. 279-290
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     わが国における住宅政策は,それぞれの地域における住宅事情とその需給特性に合った住宅政策の展開と,そのための住宅需給計画の方法の確立などが必要とされてきている。それには例えば,特定の住宅供給がどういうメカニズムで住宅事情の改善につながっているのかを明らかにし,それを踏まえた住宅供給計画を立案していくことや,住宅の新規供給より,これまでに形成されてきた膨大な住宅ストック全体を維持・更新するため,および,公共・民間の住宅需給動向全体に対応した地域住宅計画が,必要とされてきていることなどがあげられる。本研究は,こうした問題意識をもとに,前記の地域住宅計画の展開のために,既存モデルの適用を含み,いくつかの新しい住宅需給計画立案のための数理的モデルの開発を進め,それぞれのモデルについてその特性や限界を考察しているものであり,その際,モデルの操作性を高めるために,住調など既存の統計資料の活用をできるだけ前提としている。報告(2)で取り上げたモデルは5種類あり,それぞれ2~6章の各1章を構成している。それらは,①非集計モデルによる住居移動構造の分析,②マルコフ連鎖の応用による住居移動の分析と予測,③新規住宅供給による世帯の住み替え連関を記述するモデルの開発,④確率密度関数による住宅ストック・フローの規模の分布構造の分析と計画手法,⑤住宅ストックの維持・更新のための計画モデルの構築,である。そのうち②~⑤が報告(1)のモデルを発展させたものである。また,個々のモデルは,それぞれ計画プロセスの実態分析,将来予測,計画代替案の策定・評価の各段階に適用することを前提としている。報告(1)と(2)で当初の研究目的がすべて達成されたわけではなく,残された課題も多いが,各モデルはいずれもここで論じた範囲内で,実際の住宅需給計画策定のための基礎資料を得るために適用できると思われる。
  • 延藤 安弘, 横山 俊祐, 石原 一彦, 二上 朋来
    1988 年 14 巻 p. 291-305
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     集合住宅が,通りすぎる場から愛着を持って住みこなせる場に転換していくことが,これからの都市住宅像である。そのためには,集合住宅管埋を統制的管理と愛着的管理の統合ととらえ,かつ,それをコミュニティ形成が補完し,それら諸側面を関係づける仕掛けとしての居住者参加を促進する必要がある。本研究は,こうした仮説を実証するために,この視点が生成する典型事例を国際的に比較考察せんとしている。本年度は,日本の事例としては,公団賃貸住宅の自治会活動と公営住宅1室増築活動のケーススタディを行なった。海外については欧米の革新的努力の現れている事例を検討した。これらを通して,居住者参加型集合住宅の概念は,公共賃賃住宅管理の「ハード」と「ソフト」は統合されなければならないこと,コミュニティからの支持を受けつつ,コミュニティ形成全体に責任を持つ単一組織にフォローされなければならないことが,明らかとなった。日本では,あらゆる居住地に存在する自治会がその可能性を持っていることを示した。自治会が積極的集住体管埋の役割を担うための仕掛けとして,イギリスの「マネジメント・コーポラティブ」が示唆的である。それは従来の公営住宅管埋の画一的・官僚的水準を超えて,居住者の満足のいく管埋水準をもたらしている。いまひとつ,イギリスのACTAC(コミュニティ技術支援センター協会)は,参加型管理・改善等の居住活動を専門家集団が支援する,とりわけデザイン・プロセスヘの居住者参加を可能とするマン・パワー支援の方策として注目される。
  • 上野 淳, 木村 信之, 山崎 俊裕
    1988 年 14 巻 p. 307-319
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,住宅・都市整備公団をはじめとする公営・公社の公的集合住宅地および,公団による宅地分譲地における居住人口の構造を詳しくとらえることを目的とするものである。これらの計画住宅地における最近の居住実態を人口構造の側面から詳細に分析するとともに,筆者による既往研究の20年前のデータとの比較・検討を行うことにより,計画住宅地居住の時代的変化の実態を把握することもねらいにおいている。得られた成果の概要は以下のごとくである。(1)公団住宅を対象として,国土的スケールでみた場合の,集合住宅入居者階層の圏域による差異について論じた。(2)首都圏の公団住宅を対象として,住宅団地立地に関するクラスタ分析を行ない,立地セクターの分類を行なうとともに,重相関分析によって立地要因が入居者属性に与える影響の度合を分析した。(3)公団住宅について,住民票調査による詳細な解析を行ない,賃貸・分譲別,住戸型別の近年の入居の実態をとらえるとともに,20年前の同様のデータとの比較・検討を行なうことにより,集合住宅居住に質的な変化が起っていることを示した。(4)(3)に,公社・公営・および公団宅地分譲住宅についての調査・分析を追加し,供給条件が同じであれば入居階層もほぼ類似することを示し,かつこれらについてもこの20年間で公団と同様に入居階層の質的変化が起っていることを示した。以上,計画住宅地居住の近年の傾向を人口構造の側面から総括的に明かにすることができた。
  • 中紀地方の木造住宅の調査研究
    上杉 啓, 谷 卓郎, 八木 幸二, 安藤 邦廣, 松留 慎一郎, 中島 正夫, 渡辺 洋子, 河合 直人
    1988 年 14 巻 p. 321-331
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     日本の在来木造住宅には地域の歴史と文化の中で育まれ高度に完成した構法があり,ソフトウエアがある。その特性は今後の構法を考える上で十分に評価し受け継ぐべき価値がある。この自然,社会,文化の各面に深く関わった技術体系を多面的に掘り下げ,現代的視点で評価し直すことは緊急な課題である。本研究はその基礎的研究として,構法の成立過程と構成を計画,構造,構法,生産の各専門分野にわたる共同事例研究により明らかにする。研究は2段階に分かれる。(1)紀州全般にわたる予備調査をもとに中紀に対象地域をしぼり,構造,構法,生産,住まい方についての基本調査および,間取り,構造,各部構法による類型の抽出。(2)類型ごとに数例を選んだ詳細調査による間取り,構造,各部構法の変遷の解明,である。今回の報告内容を以下に要約する。(1)集落レベルでは集落全体での強風対策は集落外周部と内部で差異があり,層状に分かれる。囲障・建物レベルでは強風対策は相互に補完的な配置がなされている。これは集落レベルでの構法の空間構造を示す。(2)間取りは田の字型を基本とし前後対称な「振分け」型と前後非対称型とがあり,微地域性と対応している。構造の合掌梁形式・小屋梁形式もこれと対応している。いずれもマワタシ(敷梁,地棟梁)を有し,建物内部は差鴨居で固め,両妻に全面壁を配する点に共通性がある。(3)屋根葺は伝統的に本瓦葺である。これは耐風対策上の性能と施工性のよさの評価された結果であるが,都市化の影響の少ないこと,淡路島に近いこと,「京もの」「簡略」の名称にみられる住民の価値観にもよる。構法の変化は昭和28年水害時以降のセメント瓦の増加と近年における本瓦葺回帰にみられる。(4)壁構法はこのような微小な地域内においても構法差がある。外周壁構法は昭和初期と40年代に大きな変化がある。昭和初期は水害による生産体割の変化による。40年代は高度成長の経済的余裕による伝統構法の復活である。
  • 渡辺 正朋, 山川 章三, 月館 敏栄, 月永 洋一
    1988 年 14 巻 p. 333-350
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究では,屋根部位の雪被害対策の基本的枠組みを「移動・落下」及ぴ「融解・凍結」の2現象への対策とし,これらの構法的制御にかかわる実証的知見を得ることを目的としている。つまり,移動・落下および融解・凍結の現象にかかわる問題は,積雪の多少にかかわらず発生する積雪地一般の恒常的問題であり,屋根部位の耐雪化によって対応しなければならない基本的課題として特徴づけられると考えたからである。研究課題は,これら構法的対策の枝術化に必要な基礎的資料となると考えた4つの分析課題から構成し,それぞれ以下の分析を行なった。(1)屋根雪対策構法にかかわる基礎的問題住宅における雪問題の構造,屋根雪被害の実態,屋根雪の作用およびその地域性を考察し,屋根雪問題の構法的研究にかかわる基礎的条件を明らかにした。(2)屋根雪の滑動特性屋根葺材との関係から見た屋根雪の滑動特性についての実験分析であり,静的特性については屋根葺材と雪氷との静摩擦について,動的特性については滑走開始勾配による加速度並びに動摩擦の性状を明らかにした。(3)屋根雪の滑落堆積形状移動・落下による屋根雪の堆積形状に関する実測分析であり,屋根構法および雪気候要因から見た滑落雪の堆積パターン,落下速度および飛距離とこれらの関係を明らかにした。(4)屋根雪の融解・凍結現象融解・凍結現象の典型である「つらら」の発生およびその成長に関する実測分析であり,屋根面温度,小屋裏温度および自然温熱(気温,日照)の実態を把握すると共に,これらの関係から見た「つらら」の成長条件を明らかにした。
  • 美しくて強い木造住宅への指標
    飯塚 五郎蔵, 安宅 信行, 高橋 茂男, 立花 正敏, 榎本 裕人, 高橋 喜代志
    1988 年 14 巻 p. 351-365
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     〔研究の目的と計画〕木構造接合部は金物で補強するのが最良の手段とされているが,真壁作りや伝統木造のように軸組や小屋組を意匠デザインとして扱う場合には,無神経な接合金物の露出が問題となることが多い。ここでは,在来構法の「ほぞ差し」に接着剤を使用しその剛性を高め,終局耐力を確保するためにL形金物を釘打ちすることによって構造全体の剛性・耐力を向上し,筋違いなどの耐力壁に頼らずに開放的な木造建築が安全に造れることを目的とする実験を行なった。接着剤としては,可使時間が長く,建築現場の温湿度条件に大きく影響されず,硬化後もある程度の弾力性をもつウレタン樹脂系のものを選定した。母材の樹種,断面寸法,ほぞの長さ,L形金物補強効果,などが仕口の剛性,耐力,粘り強さ等に及ぼす影響を調べるために,27種類135試験体による仕口の隅角固定度を調べる実験を行なった。〔結果と考察〕(1)母材樹種…剛性,耐力共にヒノキがまざり,ベイツガは僅かに劣り,スギ材はさらに下回る。粘り強さについても同様な傾向を示している。(2)母材断面…大い材ほど剛性,耐力に優れ,その比率は断面積比に近いようである。時に短ほぞ接着仕口の場合は剛性,耐力ともに断面が大きいほど有利である。(3)ほぞの長さ…長ほぞ差しは,短ほぞ差しにくらべて剛性,耐力,粘り強さ等すべてにおいて有利であり,特に耐力では短ほぞ差しの1.5倍以上の値を示している。(4)接合方法…接着によるものはL形金物補強のみの仕口に比べて剛性,耐力共に優れており,この実験の目的はほぼ達せられた。接着とL形全物の併用効果は,剛性,耐力,粘り強さともに明らかに認められた。(5)ラーメン化の可能性…上記の結果から,上下横架材と接合された柱1本の許容水平耐力はヒノキ材では104㎏12㎝角),141㎏(13.5㎝角)と試算された。一般の木造住宅の㎡当りの柱本数は0.5~1.0本と見積もられる。これを建築基準法の壁倍率算定法に照らして判断すると,木造住宅において筋違いを省略する構造の可能性は十分に認められる。実用化への道は現場用接着剤の開発と,実物の試作である。新しい技術を躯使した「美しくて強い木造」の実現を望むものである。
  • 内田 祥哉, 山本 公也, 坂本 功, 伊藤 邦明, 入之内 瑛, 藤井 毅, 林 知行, 大橋 好光, 松留 慎一郎, 望月 一郎
    1988 年 14 巻 p. 367-380
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,同じ標題の昨年度の研究に続くものである。昨年度の研究で,各種だぼ材の基本的な性能及ぴ格子梁のたわみ性状を把握することができた。本年度は,実大で架構を製作してみることを重点とし,昨年度のデータを補足する意味で,積層梁の曲げ試験や格子梁のたわみ試験を実施した。まず,積層梁の曲げ試験は,ボルトの直径及び接着剤の効果を調べた。ボルトの直径は8㎜と12㎜を試験したが,その結果,本構法の実用範囲のたわみではボルトの直径の影響はほとんどなく,8㎜で十分であることが分かった。また,接着剤を併用することにより,剛性が約2倍になることが示された。なお,昨年度の同条件の実験結果と比較してみると,本年度の積層梁の剛性は約2倍も大きいことが示された。次に,江東区潮見の東京木材サービスセンター内の敷地に,格子3層,2階建ての実大架構を組み上げ,施工性のデータを得た。部材の加工製作は,加工機械の応用でかなり安価に製作できると予想された。一方,現場の組み立ては,長さ方向の寸法が積み重ねてみなければ定まらないという欠点があり,上下方向についても同様であった。また,積層梁は組み上がるまではサポートを必要とすることなどが分かった。次に,組み上げた架構を用いて,及び一度解体した部材を用いて鉛直加力のたわみ試験を行なった。これより,荷重の分布とたわみの関係を調べた。また,並行して,格子梁解析プログラムを用い,積層梁のデータを適用して解析した結果,等分布荷重状態の場合,ある程度条件を設定すれぱ格子梁のたわみをシミユレートできることが示された。また,この結果をもとに一般の住宅のプランにこの格子梁の適用を試みた。その結果,通常の積載荷重程度であれば,2間程度のスパンではたわみを2㎝程度に抑えることができることが分かった。
  • 神田 順, 田村 幸雄, 佐野 行雄, 藤井 邦雄, 崔 恒, 田村 哲郎, 大築 民夫
    1988 年 14 巻 p. 381-391
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本年度の研究報告は,①本研究の目的・および意義,②関連分野における既往の研究の調査結果,③実際の高層住宅における振動感覚調査,④本研究の特徴を示す振動知覚閾試験のための振動シミュレータの開発結果,⑤その装置による基礎的な振動知覚閾の試験結果,⑥今後の課題,等の基本的な成果のまとめからなる。ここ数年,超高層住宅,ホテルなどが開発されるにつれ,揺れを感じる頻度などが住居としてのグレードに深く関係してきている。これらの背景を考慮し,本研究では数秒から1秒程度の長周期振動感覚における知覚閾のばらつきを定量的に把握し,超高層住宅等の耐風設計における使用限界状態に関する客観的な指標設定の提案を行なうこととした。まず,研究着手の第1段階として,高層建物の風による振動の実際,および長周期振動の知覚閾について文献調査を行ない,既往の研究内容を把握した。実測された風による建物の振動は,水平方向の併進振動にねじれ振動が重なって現われる。いずれも一次の固有振動数成分のみが卓越していると考えて良さそうである。長周期振動の知覚閾に関する既往の報告を概観したところ,1Hz前後の振動に対する知覚閾を直接論じたものが少なく,また,個体差に基づくばらつき量の把握が未だ十分にされていないことが明らかとなった。実態調査の一環として23階建の超高層住宅(SRC造,固有振動数1.2Hz)の19階以上の住人にたいして,最大瞬間風速28m/sの強風が吹いた後で揺れについてのアンケート調査を行なったところ,風による振動を感じた経験があると回答した人は19人中1人であった。振動シミュレータについては,加振時の加速度波形が従来になく精度の高い正弦波となるものが開発された。この振動シミュレータを用いて延べ約120人の老若男女の被験者について振動知覚閾の調査を行なった。詳細な分析は今後に委ねるところであるが,知覚閾の試験結果のばらつきについては対数正規分布で表わすことができそうである。
  • 尾島 俊雄, 斎藤 忠義, 森山 正和, 西岡 哲平, 王 世燁, 佐土原 聡, 須藤 諭, 村上 公哉
    1988 年 14 巻 p. 393-403
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,住宅における室内温熱環境計測結果に基づく温熱的快適性,期間冷暖房負荷推定によるエネルギー経済性の評価を行なうとともに,関連する問題点の抽出,改善対策の検討といった一連の作業を行なうための,パソコンを中心としたシステムの開発を目的としている。主な内容は以下の通りである。①温熱的快適条件に基づく環境評価基準の作成PMV値を計算するコンピュータプログラムを作成し種々の異なる着衣量,環境条件の組み合せについてPMV値を計算した。その結果から,室内の乾球温度,MRT,湿度,気流速度の各季節における最適値及び5段階評価基準を作成提案した。②冷暖房エネルギー消費量推定法の開発標準気象データの分析から各期間負荷の代表日を抽出し,期間冷暖房負荷を数日間の計算から推定する方法を提案した。本研究では全国8都市の気象データから,上記の推定データを作成し,モデル計算によって,精算法(応答係数法)と計算精度比較を行なった所,各都市で良い負荷計算精度が得られた。③暖房時の室内温度分布の検討暖房中の室内における温度分布は室内の快適性や結露の発生に大きな影響を与える。本研究では模型実験,数値シミユューションなどによって室温分有の生成に関する検討を行なった。それらの結果にもとづいて,検討対象の住宅室内における室温,PMV値分布,結露箇所の推定を行なうプログラムを作成した。
  • 特に住宅の熱環境性能との関連について
    吉野 博, 籾山 政子, 佐藤 都喜子, 石川 善美, 佐々木 耕一, 牧田 一志
    1988 年 14 巻 p. 405-422
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     住宅の熱環境を中心とした住宅性能,居住者の社会経済要因,並ぴに自然環境要因としての気候の脳卒中発症への影響を明らかにすることを目的として,第1に,宮城県内10市町1438戸を対象としてアンケート調査を実施した。その結果,脳卒中死亡の高率地区(農村部)では,暖房設備が不十分であり,外に便所を設けている家が多く,寒い環境の中で暮らしているということが指摘できた。第2に,宮城県志波姫町並びに唐桑町を対象として,最近5ケ年間に脳卒中で死亡した人の家族及び住宅を患者群として,対照群との比較調査を実施した。その結果,社会的・経済的環境条件に関する調査(志波姫町:患者群,対照群それぞれ35人,唐桑町:それぞれ34人)によれば,健康状態と食習慣の点で患者群,対照群の間で有意差がみられ,患者群の方が高血圧の治療を受けていたり,心臓病の既往歴をもっており,又,塩辛い食品を好んで食べている傾向があった。又,住宅の構造及び熱環境の調査(志波姫:患者部・37戸,対照群43戸,唐桑町:患者群33戸,対照群47戸)によれば住宅構造及び暖房設備に関しては,患者群と対照群との差はほとんどなかった。しかし,一週間の平均値で両群を比較すると,志波姫町の寝室における団らん時を除いて,いずれの場合も脳卒中で死亡した方の住宅の方が1.3℃以下の差であるが全般的に温度が低いことが明らかとなった。例えば居間における夕食後の団らん時の平均室温の差(対照群‐患者群)は,志波姫の場合,1.12℃,唐桑の場合,0.56℃であった。しかし,この差が脳卒中死亡率にどの程度,関与しているのか否かは不明である。室温の詳細調査によれば,暖房室と寝室や便所の非暖房室の温度差は,団らん時には10℃以上になることがしばしばあり,又,血圧の連続測定によれば,温度の低い環境に移動した際に血圧が急に高くなる事例が,2名だけではあるが観察された。従って,このような住宅の中で日常使う部屋においては,室間の温度差を解消していくことが脳卒中の予防の上で重要であるといえよう。
  • 梅干野 晁, 八木 澄夫, 何 江, 木村 剛久, 浜口 典茂
    1988 年 14 巻 p. 423-436
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     住宅地の環境形成の中で,植栽は心理的効果や気候調節機能など,その果たす役割が大きいことはよく知られている。しかし,実際の設計計画においても,これらの効果を十分考慮した事例は少ないようである。本研究では,住宅地や住宅の設計計画において植栽手法を導入する場合,熱環境形成に及ぼすそれらの効果を建築環境全体の中でとらえることのできる資料を提示することを目的とする。I.並木の中や芝生の上などの植栽空間を含む建築外部空間(29地点)を対象に選び,夏季の晴天日においてそこに形成される熱環境の実態を屋外熱環境計などを用いた実測調査により把握した。一方,測定対象地点の周辺の状況を樹木,芝生,建物,天空等の形態係数によりとらえ,定量化した。II.実測結果をもとに,各地点をケースとし,日中と夕方の3中空球の球心温度,気温,風速を説明変数として主成分分析を行い,「陽あたり効果」,「再放射を感ずる度合」,及ぴ「風速」と解釈できる軸を得た。「陽あたり効果」,「再放射を感ずる度合」の2軸上にて,布置された各地区の放射熱環境の特徴と空間形態との関係を考察し,建築外部空間に形成される熱環境の中で,植栽空間の位置づけを明らかにした。すなわち,①植栽の多い空間は地下道のように日射を受けず熱容量の大きい材料で構成された場所をのぞくと,日向,日影にかかわらず冷放射を感ずる度合が高い空間であることが明らかとなり,夏の涼しい熱環境の形成に有効であることを裏付けた。②樹木に覆われた空間の熱環境は,天候の変動の影響もあまりうけず,昼間と夕方の差も小さい。III.並木の下,芝生の庭,アスファルト地面の駐車場について,屋外熱環境計の測定値から主な熱環境要素である気温,全日射量,平均放射温度,風速を求め,2で得られた知見をこれらの熱環境要素によって説明し,植栽空間の特徴を明らかにした。
  • 大都市中心地の都市社会学的分析
    奥田 道大
    1988 年 14 巻 p. 3-38
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
  • 山田 浩之
    1988 年 14 巻 p. 39-48
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
  • 成熟段階の居住様式とタウン経営
    三村 浩史
    1988 年 14 巻 p. 49-65
    発行日: 1988年
    公開日: 2018/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
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