住宅総合研究財団研究論文集
Online ISSN : 2423-9887
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33 巻
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  • 千種台団地,香里団地,千里NT,高蔵寺NTにおける特性把握を通して
    原田 陽子, 北岡 直子, 大森 直紀, 石井 清己
    2007 年 33 巻 p. 405-416
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,4つの初期大規模住宅団地(千種台団地,香里団地,千里NT,高蔵寺NT)を取り上げ,各地区の条件を整理しつつ,再生事業の内容や居住者属性について横断的視点から特性把握を行った。また,昭和40年代以降に開発され,既存住戸活用による再生事業に取り組んでいる高蔵寺NTを対象として,地区別の空き家状況と居住者特性の把握,住み替え世帯の類型化を行った。これらの結果をもとに,今後の大規模住宅団地の再生課題を整理し,その展開可能性を示した。
  • 三時点(1945年,1972-74年,2003年)の屋敷林の変化を通して
    安藤 徹哉, 小野 啓子
    2007 年 33 巻 p. 417-428
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,沖縄地方の伝統的な集落生活空間の一部として機能してきたが,近年,姿を消しつつある屋敷林について,その形態的特徴と歴史的変化に関する分析を行ったものである。まず,沖縄本島で最もまとまったフクギの屋敷林を残す本部町備瀬集落を事例として,その形態的特徴を明らかにする。次に,沖縄本島中北部の90集落について屋敷林の残存状況の変化とその理由を三時点(1945,1972-74,2003年)の空中写真の比較と現地での聞き取り調査から分析する。琉球王府時代から戦前まで,屋敷林は厳しい気象条件を緩和しつつ生活に密着した重要な役割を果たしてきたが,戦災復興を契機として生活の近代化に伴い激減したことが明らかになった。
  • 市街部の新旧住宅類型でみた高齢者の居住様態とその空間構造
    上野 勝代, 藤本 尚久, Kurata Tsutomu, サキャ ラタ
    2007 年 33 巻 p. 53-64
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究はネパールの都市部の伝統型住宅街と新型住宅街における高齢者の生活と居住空間の実態から,その変化と評価すべき点ならびに改善すべき点を明らかにし,住宅計画上の課題を明確にするものである。主な成果は以下の通りである。1)高齢者の一日は巡拝で始まり,昼は家族および孫と過ごし,夕方は近所と談話しながら過ごす。この生活は多世代との交流が豊富で孤独を感じさせない生活であり,スピリチュアルライフといえる。2)新型住宅街では伝統型が有していた住宅内の立体的空間構成や外部の広場がなくなってきており,高齢者にとっては自宅内での日常生活行為は行いやすくなっているが,自宅外で過ごす居場所がなくなるなどの生活の質が制限されてきている。
  • 洞庭王氏における都市と集落の居住環境を素材に
    箕浦 永子, 菊地 成朋, 伊藤 裕久
    2007 年 33 巻 p. 65-76
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究では,中国江南の都市蘇州を中心に,所謂「文人」と呼ばれる知識人層の居住環境形成について考察した。素材として,蘇州文化の最盛期と言える明末の文人を発端に,特に隠居にまつわる都市と集落の居住環境について,文字・地図史料の解読と現地調査結果から復原的考察によって読み解くことを試みた。その結果,1)隠居にあたり,集落(山水)環境での隠棲の他に,都市に居住し市隠と交流しながら文人的活動や社会的活動を行う場合もあること,2)都市住宅のほうで文人的特徴である花庁や園林が顕著に存在したが,集落でも文人はこれを所有すること,3)住宅は拡張と縮小,一部更新など部分刷新が行われていたこと,等が明らかとなった。
  • 碓田 智子, 西岡 陽子, 岩間 香, 増井 正哉
    2007 年 33 巻 p. 77-88
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     祭礼住文化の継承という切り口から町家や町並みの歴史的ストックの重要性を検証し,それらを活用した住まいとまちづくりを考察することが本研究の目的である。富山県の城端曳山祭の10年間の継続調査からは,道路拡幅事業による町の近代化が町家を活用した伝統的な祭礼住文化を変質させただけでなく,それが祭礼を外部に開き観光化を図るまちづくりへの契機となったことを明らかにした。一方,歴史的ストックが残る地方都市では,町家の内部にかつての屏風祭を再生し,あるいは雛飾りをして観光客に公開する観光型イベントが住民自身に歴史的ストックの魅力を認識させ,住民参加型のまちづくりにつながっていることが明らかになった。
  • 横浜市における動向を踏まえたアーバンビレッジの提案
    高見沢 実, 高橋 和也, 谷口 和豊, 和多 治, 金 冑錫, 林 真木子, 中原 由紀
    2007 年 33 巻 p. 89-98
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     アーバンビレッジは,バブル崩壊後の1980年代末期から90年初頭にかけて提起された新しい都市づくり運動で,同時期に発生した北米におけるニューアーバニズム運動と思想的・社会的・技術的に重なる部分が多い。その後10年強の実践を経て,アーバンビレッジというコンセプトは各国にひろがりをみせている。本研究ではこうした流れと実践事例を広く系統的に分析してアーバンビレッジの全体像を押さえるとともに,人口減少時代の新たな住環境ビジョンとしてわが国でもアーバンビレッジが有効であるとの認識のもと,横浜をフィールドとしてアーバンビレッジ戦略を提案するものである。
  • 日米建築交流における日本住宅の受容と理解の事例として
    田中 厚子, 内田 青蔵, 中谷 礼仁, ティズリー サラ
    2007 年 33 巻 p. 99-110
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     1900年前後に米国で建設され,現存する3件の住宅(マサチューセッツ州の松木文恭邸,ニューヨーク州の松楓殿,カリフォルニア州のハンティントン庭園ジャパニーズ・ハウス)の実測調査を通して,米国における日本建築の多様性と特質,その受容と理解を考察した。3件の住宅にはそれぞれ,様式の簡易化や折衷,独特な装飾の組み込み,格式の無視といった本来の日本建築にはない特徴がみられた。また万国博覧会の日本館が移築され上流階層の別荘となった松楓殿,美術商の自邸である松木邸,大衆的な娯楽施設としての日本庭園に建てられた家屋というように,建設過程,目的,建設主体,受容階層の違いによって,様々な様相をもつことが確認された。
  • 初期別荘地と計画的郊外住宅地の立地特性及び更新の分析から
    水沼 淑子, 加藤 仁美, 鈴木 伸治
    2007 年 33 巻 p. 111-122
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     湘南地域の住宅地景観は,海・山・川等の独自の自然環境や地形の特性を背景に立地した,明治期からの初期別荘地や戦前に開発された郊外住宅地を中心に形成されている。本研究では,これらの住宅地が一定の住環境,風致景観を維持しながら形成されていく経緯を把握,追跡することにより,重層的な広がりをもって維持・保全されてきた住宅地の景観構造の要因をさぐることを目的とした。その結果,昭和戦前期に形成された郊外住宅地の敷地規模を中心とした計画水準の高さ,初期別荘地から継承した景観要素が,現在の住宅地の景観構造に大きく寄与していることが明らかとなった。
  • 既婚女性の購買施設利用から
    陳 秉立, 藤井 さやか, 有田 智一, 大村 謙二郎
    2007 年 33 巻 p. 123-134
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     日本及び台湾では戦後の住宅不足に対処するため,近隣住区論にもとづく住宅地開発が各地で進められた。これらの住宅地では,経年による居住者像の変化や社会経済状況の変化による生活様式の変化によって,住宅地内の施設と現在の生活ニーズに乖離が生じている。そこで,本研究では,台湾の住宅地開発について,中興新村,民生コミュニティ,成功国民住宅,天母コミュニティを対象事例として,開発当時参照された計画論を再考し,近隣施設の主な利用者として想定されている既婚女性の購買施設の利用状況を中心に,近隣住区論が抱える今日的課題を明らかにし,計画的住宅地の問題点を考察しようとしている。
  • 縮小する時代の都市計画はどうあるべきか
    大野 秀敏, 鵜飼 哲矢, 日高 仁, 山崎 由美子, 大竹 槙, 田中 義之, 井上 慎也, 田口 佳樹, 松宮 綾子, 和田 夏子, 秋 ...
    2007 年 33 巻 p. 135-146
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     日本の都市は,人口減少,高齢化に伴う生産減,環境問題への対応等に直面し,縮小を余儀なくされる。近代主義の都市計画の方法は拡張と膨張を前提にしたものであり,縮小に対して有効に対処できない。本提案では,縮小に対応する新たな都市計画のパラダイムとして線から都市に介入することを特徴とするファイバーシティを提案する。ファイバーシティは4つの戦略で構成されているが,そのうち郊外に関わる「緑の指」と「緑の間仕切り」について報告する。
  • 居住形態・信仰形態を中心として
    登谷 伸宏, 岸 泰子
    2007 年 33 巻 p. 147-158
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     堂上公家久世家は近世を通して町人地に居住した。本研究では久世家の町における居住形態,信仰形態に焦点を当て,近世における公家の都市生活の実態について検討した。本研究で明らかとなった点をつぎに示す。(1)久世家は近世を通して屋敷地を集積したが,町人と同様諸役を負担するとともに,家として町運営にも参加した。(2)久世家は仏事を通して寺院社会と深く関係していたが,それと同時に,仏事に必要な商品や労働力をさまざまな商人・職人に求めていた。(3)久世家の当主は日常的に内裏周辺の特定の寺社へ参詣するとともに,定期的に洛中・洛外の決まった寺社へも参詣しており,その都市生活は信仰と密接につながったものであった。
  • 小沢 朝江, 波多野 純, 黒津 高行, 須田 英一, 野口 健治, 石丸 悠介
    2007 年 33 巻 p. 159-170
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,南関東・東海・中部地方の土蔵造町家の普及実態を明らかにするとともに,その特徴の差異や導入背景の検討により,土蔵造町家の平面・意匠と導入形態の関連を明らかにすることを目的とする。土蔵造町家は,従来「江戸型」とも呼ばれ,江戸(東京)から各地に伝播したとされるが,近代には松本(長野)等で都市防火政策による計画的な土蔵造の導入が行われる一方,下田(静岡)のように在来の町家等を母体に地元独自の工夫によって,独特の土蔵造町家が生み出された。また,江戸(東京)からの影響で普及する場合も,その導入時期により手本とすべき江戸(東京)での形式が異なるため,結果として土蔵造町家の形式に差異が生じた。
  • 鈴木 雅之, 服部 岑生, 高柳 英明, 吉岡 洋介, 陶盛 奈津子
    2007 年 33 巻 p. 171-182
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究では,DIYリフォームに関する文献調査および賃貸住宅のリフォーム経験のある居住者へのインタビューによる実態調査の分析結果を通して,公的賃貸集合住宅の改善のための条件と5つのDIYリフォームモデルを組み立てた。5つのDIYリフォームモデルを実際の住戸でDIY作業によって実験試作し,作業時間・費用のデータを収集し,合わせて各モデルの特徴に対する検証と評価を行った。その結果,作業性や費用・期間の観点から各モデルが高い実現性を示した。さらに居住者の立場から,各モデルとも古い公的賃貸住宅を個性化するという点で高い評価を得ることができた。ただし,制度変更などの社会システムの課題は今後の検討とした。
  • 家屋台帳に見る民家の諸形態とその変遷
    川本 重雄, 児島 由美子
    2007 年 33 巻 p. 183-194
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     広島県神石高原町の豊松村民俗資料館に,明治10年代後半に作成された218軒分の『家屋台帳』が残っている。本研究は,この『家屋台帳』特にそこに収められた間取り図の調査と現存する民家の実測調査を行うことにより,この地域における19世紀後半の民家平面の特徴や時代的変遷過程などを明確にしようとするものである。本報告では旧豊松村の民家が,囲炉裏のあるナカノマを中心に構成される「ナカノマ型」から床の間を持つ主室と次の間で構成される「続き間型」に変化していったこと,この変化が岡山県に接する村の東部から西部へ段階的に広がっていったことなどを明らかにした。また,「ナカノマ型」「続き間型」それぞれに理想型があり,その理想を目標に一般の民家が建てられていたと考えることで,間取り図に見られる民家平面の多様性を理解できることを述べた。
  • 辻原 万規彦, 岡本 孝美, 今村 仁美
    2007 年 33 巻 p. 195-206
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究では,まず,第二次世界大戦の終戦前の約30年間に亘って日本の統治下にあった旧南洋群島で,当時,日本人が建設した官舎と社宅の実態を,日本国内と米国で所蔵されている図面類と現地調査の結果を用いて,明らかにしようとした。次いで,同時代の旧植民地諸地域を含む日本国内の官舎や社宅に関する先行研究を網羅して比較することによって,南洋群島における官舎や社宅の特質を考察し,日本の住宅供給の歴史的な経緯の中での位置付けを行おうとした。その結果,熱帯性の気候に対処するための工夫を中心に,他の旧植民地諸地域を含む日本国内の官舎や社宅では見られない特質を指摘することができた。
  • 新潟県中越における実践的研究
    岩佐 明彦, 安武 敦子, 新海 俊一, 篠崎 正彦, 小林 健一
    2007 年 33 巻 p. 207-217
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は2004年の7.13水害,中越地震で建造された応急仮設住宅の居住環境を(1)居住者による住みこなしと(2)コミュニティの実態から明らかにするものであり,調査と並行して居住環境改善の支援を行う点に特徴がある。調査では風除室増築に注目した概況把握調査の後,仮設住宅団地6ヶ所で「仮設カフェ」を開き,住みこなしの工夫に関する情報を提供しながら,フリーインタビューを行い以下を明らかにした。(1)仮設住宅の風除室の増築形態は,元々の仮設住宅の微妙な違いによって差があり,ノウハウが流通しないため仮設団地間で地域差が見られる。(2)仮設住宅団地内の人のつながりは形成されているが,閉塞的,排他的であり,より多様な関係の構築が必要となっている。
  • ユーコート20年のレビューとこれからの展望
    森永 良丙, 小杉 学
    2007 年 33 巻 p. 219-228
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究のねらいは,住戸・共用空間の計画と居住者の主体性に特徴があり,入居後20年が経過したコーポラティブ住宅・ユーコートについて,48戸が形成する集住環境のハード・ソフトの変容の特質と,持続的な居住に向けた課題を明らかにし,今後の集合住宅・住環境計画に一定の示唆を得ることである。(1)住生活の変化に対応した住戸改造は,開放的な間取りになる傾向があり,近隣先行事例を参考にすることで空間の質を高めていたこと,(2)高齢化に対応した集住環境改善には,持続的な対話の経験と場が重要になること,(3)計画段階で親世代が希望していた子育て環境は,第二世代に概ね継承され住居観を育んでいること等がわかった。
  • 鉱山系高等教育機関の実習報文を基礎資料に
    池上 重康, 砂本 文彦, 中江 研, 角 哲
    2007 年 33 巻 p. 229-240
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,鉱山系高等教育機関の学生が国内外の鉱山へ赴き,その生産システムを学んで結果を報告した「実習報文」を通覧・整理し,近代日本における鉱業系企業社宅街の開発や計画の意図を探るための基礎資料を作成し,社宅街のハード・ソフト両面の特徴を考察したものである。実習報文の添付資料・記述から,社宅街の施設や計画についての新たな知見の発掘と,社宅街の施設改善への方向性を確認し,従来いわれてきたこととは異なる社宅街を自律的に語りうる新たな視点を得ることができた。また,従来の研究方法に加え,実習報文が有する情報を多面的に統合することで,社宅街の計画意図を経年的に把握できることも明らかにした。
  • 江戸時代の禁裏大工および禁裏絵師の活動を通した学際的研究
    植松 清志, 岩間 香
    2007 年 33 巻 p. 241-252
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究では,寛政度内裏が復古様式で設計されていく過程を,「造内裏御指図御用記」「木子文庫」「土佐派絵画資料」などを用いて考察した。その結果,復古様式による紫宸殿・清涼殿・承明門は他の施設に優先して設計されたことが判明した。立面などは中井役所の棟梁岡嶋上野掾が担当したが,由緒にこだわる公家としばしば対立した。禁裏大工の木子播磨は,公家の立場で資料を集めたり図面の確認を行い,禁裏絵師の土佐は,絵巻物から古代建築の資料を探し,分かり易く描き直して提供した。細部の検討や復古様式以外の施設の設計にも多くの問題が生じたが,担当者や大工達はそれらを解決しながらこの大事業を成し遂げた。
  • 大月 敏雄, 稲本 悦三, 安武 敦子, 高橋 純一郎, 鈴木 智香子, 阿部 晴奈, 深見 かほり
    2007 年 33 巻 p. 253-264
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,大正14年に建設された木造平屋建て棟割長屋である稲荷山下震災応急住宅の建設の背景と変容過程の解明を目的としている。結果,福祉的性格の強い仮設住宅の一種が横浜市独自の方法で2ヶ所建築されたもののうちの一つが当住宅であることが判った。また,稲荷山下住宅の平面計画と同潤会仮住宅の平面計画において,その室構成がほぼ同じであるが,稲荷山下住宅では公設バラックから小屋組みトラスを転用したことにより,平面計画,構造計画上の設計条件が生まれたであろうことが推察できた。実測調査では,減築,改築,そして梁行方向へのn戸1化といった,これまでの集合住宅研究ではあまり報告事例のない住みこなしが確認できた。
  • 住宅における環境技術のパイオニア:その思想と実践から学ぶこと
    梅宮 弘光, 矢代 眞己, 大川 三雄, 土崎 紀子, 野沢 正光, 堀越 哲美, 米山 真理子
    2007 年 33 巻 p. 265-276
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     山越邦彦は,1930年代に設計した2つの実験住宅において,次のような当時における新しい技術を導入した。1)将来の生活変化に対応可能な住宅建築のための乾式構造(トロッケンバウ),2)生理学に基づいた快適環境を実現する輻射熱暖房(床暖房),3)住人を生態系に位置づける循環型住宅諸設備(浄化槽,メタンガス発生装置等)。これらは,生活の快適性を介して人間の生命現象に密接に関係するものであり,その試みは,人間疎外につながる近代化に対してオルタナティブな近代建築像を提示しようとするものだったと考えられる。ここに,山越のアヴァンギャルドとしての姿勢をみることができよう。それはまた,今日さまざまな環境問題に直面している私たちにとって示唆に富む。
  • 旧陸・海軍省における官舎建築を中心とした一考察
    崎山 俊雄, 飯淵 康一, 永井 康雄, 安原 盛彦
    2007 年 33 巻 p. 277-288
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究では,我が国近代の官舎建築を取り上げ,供給制度の変遷と住宅平面の具体的様態とを明らかにし,その建築史的意義について検討することを試みた。官舎制度は,維新の大変革に対する新たな秩序の形成や,地方への支配制度の拡大,行政機構の拡大や精緻化といった政治的動向とも密接に関係しながら展開されてきたことが知られた。またその平面に示される職階に応じた相対的な階層構造や平面計画理念,その変遷の過程に認められる様々な試みには,官舎と近代社会との分ち難い結び付きが,また近代住宅における同時代的な多様性が見出され得ることを明確にした。
  • イタリアの「社会センター」と日本の「まちの縁側」の比較研究
    乾 亨, 延藤 安弘, 藤田 忍
    2007 年 33 巻 p. 289-300
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究の目的は,日伊比較調査により,高齢者自らの生活に「活き活きとした人生」,ウェル・ビーイングを送りうる居場所づくりの成立基盤と実践的方向性を明らかにすることにある。イタリアでは単独安心性と相互楽遊性の両方が生かされる居場所で,高齢者自らがお互いに楽しみながら生き方を高める志でつながる「志縁」型の取組みが進んでいる。日本は,伝統的な「地縁」型の地域組織があるが,居場所づくりには「志縁」との統合的バランスが大切である。地域の空間的資源と人的資源を生かし,自己とまわりとの開かれたコミュニケーション,笑い,ユーモアなど高齢者の身体の社会的資源性の潜在性を生かすことが高齢者の居場所づくりとなる。
  • 西 英子, 小池 直人
    2007 年 33 巻 p. 301-310
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     デンマークは,19世紀後半以降,社会福祉政策として住宅政策を実施してきた。そこでは「公」でも「私」でもない「非営利」のセクターが積極的に住宅を建設供給し,社会的弱者等の特定層ばかりでなく,現在では広く一般にも良質な住宅を提供している。本研究では,デンマークの住宅政策の歴史をたどりながら,北欧の中でも特徴的な非営利住宅における「テナント・デモクラシー」を取り上げる。テナント・デモクラシーは1950年代以降,労働運動などと連携した居住者(テナント)自身の組織的運動が国家を動かし確立された。これはデンマーク独自の「協議型社会」を特徴づけるものであり,生活レベルの民主主義のあり方をも提示している。
  • 遊休不動産の活用による農山村の再生を目指して
    藤原 三夫, 垂水 亜紀, 藤井 多起, 岡田 麻由
    2007 年 33 巻 p. 311-322
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,増加傾向にある耕作放棄地,施業放棄林,空き家を農山村遊休不動産と定義し,農山村への移住希望者と農山村住民間で適切な不動産需給調整が行われるための市場(仲介機能)の構築可能性を検討した。まず農山村不動産需要者である移住希望者と供給者の地元住民,更に既UIターン者への意向調査から,需給意向と需給構造を明らかにした。また不動産仲介組織の事例調査から,組織形態毎に現状と課題を分析した。その結果,多くの需給ギャップが見いだされ,農山村不動産市場構築には,都市住民に開かれ,かつ地元住民の信頼の元で地域情報と不動産活用に関する制度を確実に把握したうえで仲介機能を果たせる新たな組織の必要性を指摘した。
  • 耐震改修・高齢者向け改修を中心に
    中山 徹, 藤井 伸生, 森 裕之, 桑原 武志, くらた つとむ
    2007 年 33 巻 p. 323-334
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     要介護高齢者が在宅で暮らし続けるためには住宅改修が不可欠である。ところが日本の介護保険ではそれが不十分であり,施設入居を余儀なくされている高齢者が少なくない。本研究では,要介護高齢者が必要とする住宅改修を,金額の上限を設定せずに介護保険で実施した場合,公的な財政負担がどの程度変化するかを明らかにした。財政負担の変化をシミュレーションした結果,住宅改修を拡充することで公費負担は年間1098億円増えるが,施設入居者が減るため公費負担は1272億円減少し,トータルでは170億円程度公費負担が軽減されるとなった。住宅改修を公費で実施することは,要介護高齢者,国家財政の双方にとって望ましいといえる。
  • 山崎 福寿, 浅田 義久, 瀬下 博之, 清水 千弘
    2007 年 33 巻 p. 335-345
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究では,家計がどのような住宅を選択するかというテニュア・チョイス問題を,住宅資本コストと取引費用という概念を用いて,理論的,実証的に研究したものである。その結果,持家取得に要する固定費用と,情報の非対称性による借家契約に伴うエージェンシー・コストによって,テニュア・チョイスと住宅規模が決まることが分かった。また,実際の取引データを基に,マンション価格関数と家賃関数を推計し,持家と借家の資本コストを推計し,理論と整合的な結果を得ることが出来た。新設住宅着工に関しても資本コストによる影響があるかを検討し,税制の変化によって資本コストが大きく変化し,その影響で着工戸数が変化することも実証された。
  • 方法論の開発と適用
    吉永 淳, 柴田 康行, 米田 穣
    2007 年 33 巻 p. 347-356
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究では室内空気汚染化学物質のひとつであるアセトアルデヒドの発生源を解明するために,アセトアルデヒド分子内炭素の14C/12C測定に基づく方法を検討した。室内空気をサンプリングし,分取液体クロマトグラフィー,分取ガスクロマトグラフィーを併用して,室内空気中に存在する他の化学物質からアセトアルデヒドのみを単離精製する方法を開発した。この前処理方法を首都圏にある新築未入居住宅からサンプリングした室内空気に適用し,単離したアセトアルデヒドの14C/12C測定をおこなったところ,化石燃料起源(=人為起源)と天然起源とがほぼ半々であることが判明した。室内空気汚染低減化のための重要な基礎情報が得られた。
  • 連成数値解析・現地実測による環境評価
    早乙女 強, 細江 いずみ, 鈴木 雄介, 村上 周三, 藤井 明
    2007 年 33 巻 p. 357-368
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     ヴァナキュラー住宅には建築環境工学的にみて合理的な様々な工夫が施されており,これらの工夫の有効性の解明は環境負荷の少ないサステナブル建築の提案につながると考えられる。本研究ではヴァナキュラー住宅に施された種々の工夫が屋内環境に与える効果を,数値解析と現地実測を通して評価を行った。研究対象として,世界の特徴的な気候区分に着目し3つのヴァナキュラー住宅を選出し検討した結果,いずれの住居においても施された工夫が屋内環境の改善のために有効であることが定量的に確認された。現代建築のデザインにおいて,地域の気候を反映したヴァナキュラーな建築様式の視点に学ぶことは,パッシブ手法を施す上で有効であることが明らかになった。
  • 吉田 伸治, 大岡 龍三, 陳 宏
    2007 年 33 巻 p. 369-380
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,戸建住宅団地内の夏季暑熱環境への影響要因の把握とこれを緩和する最適設計に対する知見を得ることを目的に,CFD連成数値解析に基づく屋外温熱環境評価手法を用いた分析を行った。本論文前半では暑熱環境形成因子として敷地利用の影響を詳しく分析した。その結果,温熱快適性の良好な団地内屋外空間を形成するために「風の道」を生成するためにはオープンスペースを集中的に配置すると共に卓越風向による流れを誘引しやすい建物配置を計画する必要があること,が明らかとなった。この知見を踏まえ本論文後半では,遺伝的アルゴリズムGAと前述の屋外温熱環境CFD解析を連成した手法を用いて「風の道」の最適設計を行なった。
  • 加藤 雅久, 若木 和雄, 中村 亜弥子, 志岐 祐一
    2007 年 33 巻 p. 381-392
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     国家総動員体制となった昭和13年から,戦後の本格的な住宅建設体制が整う24年までの約12年間は,軍や工場,輸出などに資源が振り向けられ,住宅をはじめとした一般需要は,代用品から新興建設材料に至る新興建材で補おうとしていた。本研究は,これら代用建材の供給とその品質確保の変遷を,建材行政の視点から検証し,戦後復興期を支えた新興建設材料の歴史的経緯を解明した。戦後の新建材につながる新興建材の品質確保と普及活動,およびそれらを担い行政と建材産業とを結びつける仕組みは,戦中期にその骨格が形成され,戦後は戦中期の体制を継承しつつ復興をすすめていったことがわかった。
  • 左官技術を用いた自助建設型シェル構造ユニット
    山本 直彦, 小澤 雄樹, 柳沢 究, 牧 紀男, 森田 一弥, 山田 協太
    2007 年 33 巻 p. 393-404
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,伝統的な左官技術を用いて,被災者が自力によって建設可能な湿式工法による災害仮設住宅の建設技術開発を行った。仮設住宅の構造は,モルタルによるシェル構造とし,阪神大震災規模の余震を受けた場合にも,ユニットが破壊されないように力学的シミュレーションと1/3大モデルで破壊実験を行った。その上で簡便に施工を行うために,空気膜による型枠を用いた工法の可能性を追求し,実際に実験棟を建設することによってその施工性の検証を行った。さらに,シェル構造ユニットを連続させることによって,仮設住宅として成立させるための平面計画の提案を行った。特に開口部の計画を重点的に検討し,被災時の住まい方の提案を行った。
  • 住宅を中心として
    坂 真哉
    2007 年 33 巻 p. 5-20
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     わが国の建物用途規制に関する法制度について,その起源とこれまでの変遷を整理するとともに,特に,この中で住宅用途の取扱われ方に着目した。建築基準法と都市計画法が一体となって規制が行われる体系の中で,用途地域,特別用途地区,地区計画を中心とした制度の創設,変遷とその背景にある考え方を分析したものである。また,住宅用途と他用途の関係,住宅用途の新たな動向を論じ,今後の人口減少社会を視野に入れたストック時代における地域特性をふまえた用途コントロールのあり方について考察を行った。
  • 英国の事例を踏まえて
    齋藤 広子
    2007 年 33 巻 p. 21-39
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     コンバージョンはわが国のハウジングシステムの多くの矛盾や限界を提示した。それを踏まえ,今後のわが国のハウジングシステム再編に向けての課題を明らかにすることが本稿の目的である。コンバージョンとは,地域力を高めるために,建物の用途変更を通して,空間の変化を伴い,建物を再生する行為であり,都市再生 ・良好な居住空間創出手法でもある。わが国におけるコンバージョンには主に5タイプある。第1タイプは不動産所有者の家族のための部分コンバージョン,第2タイプは単身者用住宅への部分コンバージョン,第3タイプ は単身者用住宅への全体コンバージョン,第4タイプは分譲マンションへの全体コンバージョン,第5タイプは高齢者住宅への全体コンバージョンである。しかし,これらは都市再生や良好な居住空間創出につながりにくくなっている。そこで,英国の事例を踏まえて,コンバージョンが市場で成立し,上記課題にこたえるためには,ハウジングシステムの再編が必要であり,具体的には建物を長く使うための総合情報体制,地域力を生出すための地域プロパティマネジメント体制,空間量の変化に対応した所有・管理方式が必要であることを示している。
  • 松村 秀一
    2007 年 33 巻 p. 41-51
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
     「ないから建てたい」。20世紀の日本での建設行為は,基本的にこの集団的な動機に支えられてきた。この集団的な動機が旺盛な公共投 資を支え,土地担保主義による資金調達を支えてきた。しかし,ストックが充足した21世紀の日本では,最早こうした動機に支えられた居住環境への投資は見込めない。新しいタイプの集団的な動機は「あるけど何とかしたい」という類のものに変わるだろうが,豊かな居住環境へ向けて新しいタイプの投資を継続的に可能にするのは,この利用側の欲求,そしてそれに関わる構想力を導入し,戦略的に組織化するこれまでにない方法であろう。本論文では,コンバージョンを例 に,この方法の輪郭を明らかにする。
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