1. チアセタルサマイドを用い, 砒素剤の実量0.395mg/kgを1日2回, 6時間以上の間隔で静注し, 2日間連続投与し, 36時間以内に投薬を終了するという, JACKSONらの提唱した治療法を, 実験犬80頭, 外来犬218頭について追試した. 2. 実験犬80頭は, 5組に分け注射終了後, 7日, 14日, 21日, 30日, 50日にそれぞれ麻酔死させ, 成虫の殺滅効果を詳細に調査した. また死虫体の各肺葉における分布についても観察した. 3. 外来犬218頭は初診時の症状によって軽症群, 中等症群, 重症群に分けて, 注射終了後90日以上にわたって治療の効果を観察した. 4. 実験犬における成虫殺滅効果は7日で65.8%, 14日で77.6%, 21日で83.2%, 30日で94.0%. 50日ではさらに高い殺滅率を認めた. 5. 死虫体の大多数は横隔膜葉, 中間葉など後部肺葉に認められ, 右横隔膜葉に最も多くの死虫体が検出された.6. 外来犬218頭の治療成績は, 明らかな効果の認められたもの198頭 (90.82%), 効果は明らかでないが耐過したもの12頭 (5, 50%) 死亡したもの8頭 (3.67%) であった. 7. 外来犬の注射後の反応は重症群に最も多く現われたが, 第1反応は全例を通して極少数に認められたに過ぎない. 8. 重症犬の砒素療法は従来多くの危険を伴うものと考えられていたが, この治療試験における死亡例は6頭 (15.8%) で, 高い治療率, 耐過率を認めた.
以上の治療試験の結果, JACKSONらの堤唱した投薬法は, 犬糸状虫成虫殺滅による治療法としては, 治療効果が高く, 後来広く行なわれている方法に比べ優るとも劣らないことが認められた. また死亡率がとくに低いことから, 安全度の高い投薬法であると考えられた.
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