豚の萎縮性鼻炎 (AR) は幼齢時に最も感染しやすいことが知られているが, 哺乳中の感染を薬剤によって防除できれば, さらに本病の発生頻度は低下するものと考えられた. 本試験で, 5~36日齢までのAR実験感染豚に対して, スルファモノメトキシン (SMM) の筋肉内注射を行なって感染防除効果をしらべた.
供試豚は生後3日間哺乳させたSPF豚6頭で, 投薬区A, 投薬区Bおよび対照区の3区に各2頭を用い, 81日齢時に剖検した.
感染は6日齢と12日齢時に
Bordetella bronchisepticaの血液寒天24時間培養菌を生理食塩水に懸濁させて, それぞれ, 4.0×10
3/m
l, 4.4×10
8/m
lとし, 毎回, 両方の鼻腔内に0.2m
lずつ注入した. 投薬方法はA区では感染1日前からSMMを6~8日間間隔で5回筋注 (SMM実量として1.3g/頭) し, B区では感染3日後から同様に行ない, 接種菌の回収, 鼻甲介萎縮の程度, 凝集抗体ならびに豚の増体重によって薬剤の効果を判定した.
B. bronchisepticaの回収については, 初回感染後5日目 (11日齢) にA区, 2頭およびB区, 1頭の鼻腔内からは菌が回収されなかったが, 対照区の全例とB区の1頭からは検出され, 再感染以後の全頭から回収された. 剖検時 (81日齢) にはA区, 2頭の気管およびA, B両区の全例と対照区の1頭, 合計5頭の肺からの菌回収が陰性であった.
鼻甲介骨の萎縮病変は, A区の1頭が陰性 (-), 他の1頭には軽度の病変 (+) がみられ, B区では2頭ともに軽度の病変 (+) が認められたのに対し, 対照区では1頭に中程度の病変 (++) が, 他の1頭には軽度の病変 (+) が観察された. また, 81日齢時の凝集抗体は, A区の全例とB区の1頭のみが陰性であった.
80日齢までの豚の増体重については, A区で平均30.98kgと最もすぐれ, ついで, B区の26.93kgであったのに対し, 対照区では24.02kgであった.
このように, 対照区の鼻甲介骨萎縮病変にくらべて, 投薬群, とくにA区の病変が軽度な傾向がみられたことは, 投薬によって初回感染時の菌の定着が妨げられた結果と思われる.また, A区において, 凝集抗体が最後まで陰性であり, かつ, 気管および肺から菌が回収されなかったのは, 2回目の多量の菌接種により, 菌は鼻腔内に定着しえたものの, 投薬によって伝播が阻止され, 抗体産生細胞を刺激しうるに至らなかったためと思われる.
以上の結果から, 子豚の哺乳期間中にSMMを予防的に投与しておくことによってARの防除, または症状軽減の可能性が示唆された.
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