某牧場育成子牛でのウイルス動態を調べるとともに, 野外におけるウイルス感染と疾病との関係を検討するため, 1979年の11月から1980年の6月の間に, 糞便からのウイルス分離抗体検査, および臨床症状について, 長期間観察したところ, 次のような成績が得られた.
1) 1979年12月から1980年1月の間に, 試験牛10頭中5頭から牛パルボウイルスが分離された.また, 試験牛全頭に分離ウィルスに対するHI抗体価の有意上昇が認められ, 牛パルボウィルスの感染があったものと思われた.
2) 牛パルボウイルスの感染があった時期に, 牛ロタウイルス, 牛コロナウイルス, レオウイルス1型および11型の感染はいずれも認められなかった.
3) これらの試験牛はいずれも臨床的に異常はみられなかったが, 牛パルボウイルスの感染の様相が明らかにされた.
近年, 全国的に乳・肉用牛の集団飼育による畜産経営の大型化が進むにつれて, 哺育期から育成期における下痢および肺炎による死亡, 廃用および発育不良などによる損耗が著しく増大し, 畜産農家に大きな経済的損失を与えている.
いっぽう, 鹿児島県内の育成牧場でも, 下痢症による死亡事故が多発するため, 以前から下痢症に対する原因究明および防疫対策の確立が強く望まれてきた.
そこで, 著者らは, 原因究明の1つの手段として, ウィルス学的立場から, 野外におけるウイルスの動態, およびウイルス感染と疾病との関係を検討するため, 某牧場育成子牛について, 経時的に糞便からのウィルス分離と抗体検査を試みると同時に, 臨床観察を行なったところ, 牛パルボウイルスの感染例に遭遇したので, その概要について報告する.
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