2011年9月,埼玉県内の一酪農場で成牛の下痢症が集団発生した.搾乳牛約60頭のほぼ全頭が食欲不振を呈し,うち約半数の牛が腐敗臭を伴う水様便または軟便の下痢を発症,泌乳量は顕著に低下した.病性鑑定に供した発症時の糞便12検体すべてからSalmonella Nagoya(SN)が分離され,その他の病原体検索はすべて陰性であった.本事例は牛においてSNの病原性が示された初めての報告と考えられた.今回の発生要因として,暑熱,泌乳・分娩等のストレス及び飼料給与内容の急変によるルーメン内環境の変化が考えられた.本事例分離SN株と県内で過去に分離された人,牛及びアライグマ由来株をパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)に供したところ,本事例分離株はすべて同一のPFGEパターンを示したが,人,牛及びアライグマ由来株とは異なっており,系統樹におけるこれらのクラスターとの近似度は62.8〜71.7%と低かった.
失神を主訴にミニチュア・シュナウザー(避妊雌,12歳,体重5.1kg)が来院し,聴診にて徐脈性不整脈が確認されたため,各種検査を実施した.血液検査では貧血及び中性脂肪の高値が認められ,甲状腺ホルモンも含めて他の項目に異常はなかった.腹部超音波検査にて脾臓腫瘤が確認され,心電図検査では洞性徐脈及び洞停止が確認された.そのため,失神の原因を明確にするためにアトロピン負荷試験及びホルター心電図検査を実施した.その結果,洞不全症候群による失神と診断した.第15病日に脾臓摘出術及びペースメーカー植え込み術を同時に行い,その後失神は消失した.脾臓腫瘤は術後の病理組織学的検査で血管肉腫と診断され,ドキソルビシン,シクロフォスファミドによる化学療法で維持したが,術後358病日に自宅で斃死した.
メチシリン耐性(MR)のstaphylococciが犬や猫で増加し,それに伴う人への伝播が問題になってきているが,わが国でモルモットにおける同菌の分離報告はない.今回,ペットショップで飼育されていた愛玩用モルモットが脱毛を主訴として受診した.皮膚病変からMR-Staphylococcus haemolyticus TUM14414が分離され,同菌が皮膚炎の起因菌であると考えられた.同分離菌は,フルオロキノロン系薬耐性を示したが,クロラムフェニコール,テトラサイクリン系,グリコペプチド系及びアミノグリコシド系薬には感受性を示した.同菌株の全ゲノム解析の結果では,①GyrAのキノロン耐性決定領域にS84Lの変異が認められ,②SCCmecは市中感染型のV型であった.今回,愛玩用モルモットからMR-S. haemolyticusが分離されたことから,モルモットを介した人への同菌の感染が成立する可能性が示唆された.
岡山県の牛白血病ウイルス(BLV)流行状況を明らかにするため,2009~2015年に所管と畜場で発見された県内産の牛白血病罹患牛59頭について,BLV遺伝子検出及び遺伝子型別を行った.その結果,全例がBLV陽性であり,また型別の結果,1型が45件と最も多く,次いで3型(8件),5型(2件),6型(2件)の順で,混合感染が2件認められた.1型及び3型は県内に広く分布していたのに対し,5型は県北部地域に,また6型は県北部のM町のみに分布していた.牛の品種と遺伝子型との関係では,黒毛和種で3型の検出率が有意に高かった.国内3例目の検出となる6型BLV株について,遺伝子系統解析を行ったところ,これらの株が独立したクラスターを形成すること,既知の6型株とは遺伝的に異なり,1型株または3型株に近縁であることがわかった.