群馬県内の黒毛和種牛飼養農家で,86日齢の子牛が下痢を呈して死亡した.剖検では,第一胃,第二胃及び第三胃粘膜に白黄色偽膜様物の付着がみられた.組織学的に,第一胃,第二胃及び第三胃の粘膜上皮は好中球の重度浸潤,錯角化及び角化亢進により著しく肥厚していた.病変部には多数の酵母様真菌と仮性菌糸を認めた.真菌の形態,抗真菌抗体を用いた免疫組織化学的染色並びに第一胃,第二胃及び第三胃のパラフィン切片より抽出したDNAを用いた分子生物学的解析の結果より,本真菌はCandida albicansと同定され,本症例はC. albicansによる子牛の真菌性前胃炎と診断された.
馬コロナウイルス(ECoV)の血清学的調査を,1989〜2009年に北海道十勝管内で採材した馬の血清560検体について中和試験を用いて実施した結果,各年の抗体陽性率は2004年を除き84.4〜100%と高く,1989年には十勝管内の馬群にECoVが広く浸潤していたと考えられた.また,過去にECoV病の流行がみられた競馬場在厩馬6頭分18検体の血清について,2株のECoVと牛コロナウイルスを抗原に用いて中和試験を実施した結果,ECoVを抗原とした方が抗体陽性率と抗体価が高くなった.ECoVを抗原に使用した場合でもウイルス株が異なれば抗体価も異なる検体がみられたため,ECoVの株間でも抗原性は異なるものと考えられた.
本研究は,犬及び猫の歯垢を,位相差顕微鏡を用いて口腔トリコモナス原虫の存在の有無を調査し,メトロニダゾールの投与の効果を検討したものである.調査対象は犬65頭,平均年齢は7.8歳,そして猫38頭,平均年齢7歳の歯垢とした.本邦での犬及び猫の口腔トリコモナス原虫の調査は初めてであり,犬27.7%,猫10.5%に確認できた.口腔トリコモナス原虫が観察された犬と猫には,抗原虫薬メトロニダゾールを投与した.その結果,口腔トリコモナス原虫は本実験系では検出されなくなり,投薬前と比べて歯肉炎や口臭の改善が認められた.以上から,口腔トリコモナス原虫の寄生が認められた歯周炎に対しては,メトロニダゾールの投与が有効であると考えられた.
11歳,不妊済雌,バフ色のアメリカン・コッカー・スパニエルが体幹背側面にロウ様角質片が集積する脂漏症を主訴に来院した.組織検査において正常角化性角化亢進症と軽度ないし中程度の真皮浅層性皮膚炎を認めた.角質にはマラセチア様構造物が散見された.中程度の炎症巣では混合性炎症であったが,軽度の炎症巣では表皮基底層と毛包外根鞘にTリンパ球が不規則な幅で一列に観察された.症例はビタミンAの処方開始2カ月目から角質片が減少し,その後,完全に消失した.