第三胃食滞または第四胃食滞と考えられる排糞量の著しい減少を呈する消化管通過障害牛に対し,電解質補正や蠕動運動亢進剤注射といった従来の治療法に加えて,ポリアクリル酸ナトリウム(PANa)10gを水道水に溶解してポリボトルないし経鼻カテーテルで経口投与する方法を試みた.従来法のみの治癒率は16.4%(10/61)であったが,本法を併用することで84.2%(16/19)となり,治癒率は有意に上昇した.PANa併用群のうち治癒した症例は,全例PANa水溶液をポリボトルで経口投与していた.処置前の血液検査結果では,高Ht値,高BUN値及び低K値並びに低Cl値が認められたが,PANa水溶液を投与後,排糞が開始された時には正常値に回復していた.以上のことから,PANa水溶液をポリボトルで経口投与する方法は,第三胃食滞または第四胃食滞が疑われる消化管通過障害の新しい治療法となる可能性が示唆された.
牛の核内コクシジウム症について,2012〜2016年に大分県にて病性鑑定に供された146農場の牛199頭の消化管材料について回顧調査を実施した.199頭中9頭(4.5%)の牛で核内コクシジウム感染が確認され,これらはすべて異なる農家の黒毛和種子牛で,慢性下痢及び発育不良を呈していた.肉眼的に小腸粘膜の肥厚(55.6%,5/9頭)と腸間膜リンパ節の腫大(77.8%,7/9頭)が認められた.組織学的に全例で小腸の腸絨毛の萎縮及び粘膜固有層における炎症細胞浸潤が認められた.また,粘膜上皮細胞の核内にさまざまなステージのコクシジウムが多数認められた.9頭中5頭(55.6%)の空腸のパラフィン切片からEimeria subspherica 特異遺伝子が検出された.以上のことから,E. subspherica が牛の核内コクシジウム症の原因として大きな割合を占めることが示唆された.
所有者不明猫140頭の3~4週齢時(初回)とその4~31週間後(2回目)に猫免疫不全ウイルス(FIV)抗体,猫白血病ウイルス(FeLV)抗原及び猫コロナウイルス(FCoV)抗体を検査した.初回FIV陽性34頭中31頭(91.2%)が2回目に陰転,初回陰性106頭は2回目もすべて陰性で,幼齢期でFIVの感染リスクが低いことが示された.FCoVでは初回陰性129頭中18頭(14.0%)が2回目に陽転し,幼齢期でもある程度の感染機会があることが示された.初回FCoV陽性11頭中9頭(81.8%)が2回目に陰転しており,早期離乳された猫の中には初回時に保有していた移行抗体が2回目に検出レベル以下に減少する例が存在していたことが示された.FeLVについては,両回とも全例陰性であった.猫のウイルス性感染症の実態を明らかにするためには,一般状態の良い猫を対象とした今回のような調査だけでなく,今後さまざまな猫の集団を対象に同様の調査を行うことが重要と考えられる.
展示飼育されている臨床的に健康な雌雄成熟アカキツネの非発情期におけるバイタルサインと,臨床検査値の基準範囲を調べた.採血は,無麻酔下で外側伏在静脈より行った.すべての項目で,雌雄差は認められなかった.犬の基準範囲に比べ,体温は高値,赤血球数と好酸球数,血清グルコース(Glu),アルブミン(Alb)及び尿素窒素濃度(UN)は高値,逆に血清ブチリルコリンエステラーゼ活性は低値を示した.これら所見は夏毛から冬毛への換毛期の影響(体温上昇),小球性赤血球(赤血球恒数MCVとMCHの低値を伴う赤血球数の高値),肉食中心の食餌(Glu,Alb及びUN濃度の高値)によると推測された.以上のアカキツネの基準範囲は,獣医療や研究現場において健康状態の把握,疾患の類症鑑別や治療あるいは予防に利用できると考えられた.
2015年2月〜2016年9月に,わが国の2カ所の野生鳥獣食肉処理施設で処理された鹿89頭を対象とし,獣体の剝皮後(洗浄前)及び洗浄後に,鹿枝肉の胸部(胸)と肛門周囲部(肛門)の衛生指標細菌数を計測した.胸,肛門の75.3%が牛の中央値(平成25年度全国調査)よりも低値を示した.大腸菌群数は胸の80.9%,肛門の78.7%,黄色ブドウ球菌数は胸の87.6%,肛門の92.1%で検出限界未満であった.洗浄前では,高度に汚染された枝肉(一般細菌数が10,000個/cm2以上となったもの)は胸の21.3%,肛門の15.7%に認められ,特に夏(胸60.0%,肛門45.0%),施設内の温度が20℃以上(胸58.5%,肛門43.9%)の条件下で多かった.電解水洗浄により,多くの枝肉で一般細菌数の減少が認められた.
胆管周囲囊胞が肥育豚3頭に認められた.大小の囊胞は症例1では外側左葉のみに,症例2及び症例3では主として外側左葉に形成され,囊胞は左葉に偏って形成されていた.3症例ともに,囊胞は漿液性の液体を貯留していた.症例3では,左右腎臓にも囊胞が認められた.3症例ともに,肝臓の病理組織学的所見は共通していた.囊胞は門脈域に主座していた.囊胞は増生した結合組織によって取り囲まれ,近傍には大型胆管が散見された.囊胞では,一層の上皮細胞で内張りされ,内分泌細胞が介在していた.3症例ともに胆管炎が観察され,このうち2症例では,リゾチーム/ムラミダーゼ陽性細胞数が増加していた.症例3の右腎臓では,囊胞間には糸球体や尿細管を含む腎実質がわずかに残存していた.症例3は胆管周囲囊胞に多発性腎囊胞を併発した最初の症例報告であった.