豚丹毒は豚丹毒菌による豚の感染症で,慢性型の発症に生ワクチンの関与が疑われている.慢性型(関節炎型及び心内膜炎型)あるいは亜急性型(蕁麻疹型)豚丹毒を発症した豚から分離された豚丹毒菌46株を解析したところ,32株がワクチン株,14株が野外株で,ワクチン株32株中5株は蕁麻疹型及び心内膜炎型から検出された.ワクチン株識別にはSNP検出PCRを用いたが,この方法は手技も簡便で判定も容易であった.また,野外株14株について,病原因子とされる菌体表層抗原SpaA遺伝子の高度可変領域432bpを解析した結果,国内で流行しているMet-203株が2株検出された.さらに,他県での分離株と共通する一塩基多型を持つ株が9株検出された.当該領域の遺伝子変異解析は,分離株間の関連性を調査するために重要である.
2014~2016年,北海道十勝管内で,牛カンピロバクター症による流産事例及びCampylobacter fetus 包皮腔内保菌牛を確認したため,疫学調査を行った.流産胎子または包皮腔内由来株と同一,あるいは類似するPFGEパターンを示すC. fetus 菌株が,流産牛及び包皮腔内保菌牛,並びに同居牛の糞便中から分離されたことから,糞便が本菌の伝播・維持に重要な役割を果たした可能性が示唆された.また,全31株が1%グリシン添加培地で発育し,亜種fetus と同定されたが,病性鑑定マニュアル第4版に記載される亜種特異的PCRでは,7株が亜種venerealis と判定された.そこで,近年報告された遺伝子診断法を試みた結果,全株が亜種fetus と判定された.
11歳,雄,体重18kgのシェットランドシープドッグが,起立困難と跛行を主訴に来院した.その後,横臥状態となり,右後肢にガス壊疽が認められた.患部の細胞診ではクロストリジウム属を疑う芽胞菌が観察され,broad-range PCRを利用した遺伝子解析にてClostridium novyi と確定した.抗菌薬投与などの治療を行うも斃死した.犬において,クロストリジウム性筋炎やガス壊疽はまれな疾患であり,またその原因菌としてClostridium perfringens とClostridium septicum などの報告はあるが,Clostridium novyi の報告はない.
長崎県内のと畜場で2018年5月及び8月にと畜解体された,異なる農場に由来する肥育豚2頭の大動脈弁に疣贅性心内膜炎が認められた.2症例はそれぞれ,5%羊血液加寒天培地での疣状物からの菌分離は陰性で,疣状物から抽出したDNAを用いたPCR法では,Mycoplasma hyorhinis が検出された.病理組織学的には,疣状物において,細胞崩壊産物を伴う化膿性壊死性炎が認められ,病変の一部には石灰化も認められた.免疫組織化学的には,病変に一致して,抗M. hyorhinis 抗体に対する陽性反応が認められた.以上のことから,これらの2症例はM. hyorhinis に起因した疣贅性心内膜炎が疑われた.