本研究では,臨床的に重症慢性肺炎と診断された黒毛和種牛50頭から鼻咽頭スワブ(Swab)及び気管支肺胞洗浄液(BALF)を採取し,細菌分離とともに,その薬剤感受性を調査した.Swab及びBALFからはおもにMycoplasma bovis 及びPasteurella multocida が分離されたが,同一牛において両検体から同一細菌種が分離された割合は比較的低かった.また,BALFから分離されたM. bovis 及びP. multocida は,おもにフルオロキノロン系抗菌薬に感受性であったが,Swabから分離された同2菌種の同系抗菌薬に対する薬剤感受性は低かった.以上より,重症慢性肺炎罹患牛の鼻咽頭領域及び気管支肺胞領域からは,おもにM. bovis 及びP. multocida が分離されるが,同一供試牛から分離された同一菌種の細菌であっても,薬剤感受性が異なる可能性があることから,重症慢性肺炎罹患牛においてSwabによる肺炎原因菌の推定には慎重を要すると思われた.
出生時より虚弱を呈し,起立及び歩行困難を示した1カ月齢,雌の黒毛和種子牛を,臨床的及び病理学的に検索した.単純X線では股関節に異常は認められず,剖検時の肉眼検査では第二腰髄に直径10×5mmの漿液を容れる空洞がみられ,さらに第三腰髄から尾側にわたって単一の髄膜に包まれた脊髄の重複が認められた.空洞は組織学的に上衣細胞によって内張りされていたことから,脊髄中心管が拡張したものと考えられた.
沈鬱と削瘦を示す黒毛和種雌牛に,急性赤血病(純赤芽球性白血病)が認められた.白血球数は高値ではなかったが,血液塗抹において腫瘍細胞比率が高かった.肉眼的には脾臓といくつかのリンパ節が高度に腫大していた.腫瘍細胞は脾臓,リンパ節,胸腺をほぼ完全に置換していた.この細胞にはヘモグロビン(Hb)がときどき発現していたが,その他のリンパ造血系マーカーは陰性であった.以前の報告では成熟した赤芽球系細胞が存在していたのに対し,今回の症例では大型の芽球が大部分を占めていたため,芽球型急性赤血病と診断したが,牛ではこの型の腫瘍の報告は初めてである.赤芽球系腫瘍の診断は,動物では血液または骨髄の塗抹標本を用いて行われることが多いが,今回の研究で,塗抹標本や組織切片でHbに対する免疫染色を使えば,診断はより正確になることが示唆された.