牛はLeptospira interrogans 血清型Hardjo及びLeptospira borgpeteresentii 血清型Hardjo(L. Hardjo)の維持宿主となることが報告されている.近年,L. Hardjoの国内,特に北海道における乳用牛群への浸潤が報告されている.本研究では,北海道の1酪農場において,L. Hardjo抗体の保有状況と繁殖成績の関連性を検証した.乳汁中のL. Hardjo抗体を調べ,抗体陽性牛(n=54)と陰性牛(n=55)に分類した.分娩後125,150及び200日における受胎率は抗体陽性牛が有意に低かった.生存曲線による空胎日数の比較では抗体陽性牛群で長くなる傾向が認められた.また,妊娠中絶率は,抗体陽性牛で高い傾向が認められた.本研究の結果から,国内の酪農場におけるL. Hardjoの不顕性感染が潜在的に乳牛の生産性を低下させる1要因となり得ることが明らかとなった.
子牛の臍帯炎は出生時あるいは出生直後の臍帯感染に起因し,全身感染につながる重要な疾患である.導入した9頭の2カ月齢子牛のうち,2頭において潜在性臍静脈炎がみられたので,概要を報告する.症例1は,導入時より左手根関節が腫脹していた.症例2に,外貌の異常はみられなかった.病理解剖では症例1,2ともに臍静脈が直径2から3cmに拡大し,内腔に膿が貯留していた.症例1では肝左葉を中心に直径3cm以下の膿瘍が密発し,右肩部皮下及び大脳頭頂葉にも単在していた.一方,症例2では肝左葉の高度萎縮及び三つ組における細動脈の過形成が観察された.免疫組織化学的検査では,2症例の臍静脈にTrueperella pyogenes 抗原が検出された.症例1は臍帯炎由来の敗血症であり,症例2は線維化により拡大した臍静脈による肝内門脈の圧迫で生じた血行障害に起因する左葉の高度萎縮と考えられた.
牛血清の保存温度と保存期間がLDH総活性とアイソザイムに及ぼす影響について検討した.健康なホルスタイン種雌成牛及び黒毛和種雌成牛から得られた血清を各温度(4,−20,−80℃)で保存した.また,コントロールとしてヨークシャー種雌成豚の血清についても検討した.ホルスタイン種と黒毛和種における血清LDH総活性とアイソザイムは,−20℃保存及び−80℃保存で12カ月間,有意な変化は認められなかった.一方,豚における−20℃保存の血清総LDH活性は,1カ月後には有意に低下した(P<0.05).豚血清のLDHアイソザイムのMサブユニット比は,牛血清に比べて高かった.牛血清は豚血清とは異なり,−20℃の冷凍保存でLDH総活性及びアイソザイムが12カ月間は安定することが示唆された.
2歳齢,去勢済雄猫が,約2カ月続く頭部の脱毛と搔痒を主訴に受診した.初診時の肉眼観察において,頭頂部に厚い赤色の痂皮を伴う潰瘍性病変と,鱗屑及び毛包円柱を伴う脱毛性病変が混在性に認められた.病理検査において潰瘍性病変では表皮直下より皮下組織にかけて,おもに好酸球とマクロファージが浸潤していた.炎症巣内には,flame figureと呼ばれる好酸球浸潤を伴った膠原線維融解の所見が認められた.脱毛性病変では,軽度の表皮肥厚と正常角化性角化亢進を認め,皮脂腺周囲にはCD3陽性のT細胞とマクロファージが浸潤していた.以上から,本症例の皮膚病変を好酸球性皮膚炎及び皮脂腺炎と診断した.
平成30年6月2日に,和歌山県で鹿刺し(筋肉及び肝臓)の喫食による患者3人の食中毒事例が発生した.鹿刺しからはSarcocystis truncata が検出され,S. fayeri と同様の下痢誘発性15kDaタンパク質の発現を確認した.厚生労働省はSarcocystis 属のうちS. fayeri を食中毒病因物質と規定している.本事例はS. truncata が病因物質の可能性が非常に高いと考えられたが,公的には病因物質不明の食中毒として報告した.過去にはS. sybillensis やS. wapiti に汚染された鹿肉の喫食が原因と推察される下痢症事例の報告がある.非加熱獣肉の喫食による食中毒で下痢誘発性タンパク質を有するSarcocystis 属が検出された事例は,その種を問わず病因物質とすることが妥当だと考える.